「商品」と「作品」の違いをはっきり意識
「『日本一うまい美容師になる』
そんな熱い気持ちで北海道から上京して『ミンクス』に入り、日々サロンワークや練習、撮影などで忙しく過ごしていました。当時は朝から晩までウィッグで練習し、レッスン以外にも自主練をしていましたが、今振り返ってもそれを大変だった、苦労した、とは感じていません。
その努力の甲斐もあって途中で先輩を売上げで追い抜くことができたのですが、その瞬間は若干、気まずい空気になったことも……。でも、若かったからこそのエネルギーで乗り越えられた気がしています。当然、僕も生意気だった部分もあったと思いますから、まわりの方たちに育てていただき、とても感謝しています。
僕はもともとクリエイティブに挑戦したい気持ちがあり、JHA(Japan Hairdressing Awards)で賞を獲りたいという思いを抱いていました。モードなスタイルが好きで、お客さまにもモードなスタイルを提案したい欲が強かったのですが、スタイリストになって3〜4年目の頃、時流もあり、それが実はお客さまにはあまりピンときていないかもしれないと感じるようになって。そこから僕は「売れる作品」=「商品」と、「作品」の違いをはっきり意識するようになったんです。
自分がいいと思うものをお客さまが喜んでくれるかどうかは別の話であり、僕らはビジネスとしてやっている以上、自分のつくるものを買っていただけないと意味がありません。ある意味、スタイルに対しての感性をシフトするようになりました。その後、僕は一般誌の編集部に何度も営業に行きながら、売れるスタイルを追求し続けました。」
美容師は「一生勉強」脳を常にアップデート
「2007年に独立して『ティエラ』を立ち上げ、表参道という日本の美容の中心の街でやっていく以上、一流の美容師を育てたいと考えていました。僕はオーナーになりつつも『ティエラ』の認知度を上げるためにプレイヤーとして集中することに必死でしたが、何年か経つと離職する人もいたりして、他の経営者の方たちからアドバイスをいただく中で改めて、労働環境を整えることの大切さを感じました。
アフターコロナの今、これまで以上に働きやすい労働環境を追求するための努力が必要だと感じているのですが、今の時代はより価値の高いものでないとお客さまは満足してくれません。となると練習や勉強も大事で、きちんと休みを取りながらレベルを上げていく、このバランスを取るセンスみたいなモノがとても大事です。最近は営業時間中でも個室を使って練習できるようにするなど工夫を凝らしています。
僕は美容師は『一生勉強』だと思うんです。違う価値観を持っている人の話を聞くことで自分の感性も進化しますし、若い人と 話をするだけでも刺激を受けます。そうやって自分の脳を常にアップデートすることがお客さまにもよい影響を及ぼし、教育にも生かされるのではないでしょうか。」
目には見えない夢、目標、情熱を大切に。すべては「愛」から派生する
「今の若い人は本当に頭がよく、知識が豊富だなと思いますが、美容師という仕事を本気で好きになること、お客さまに喜んでもらいたいという熱い思いを持つこと、そんな目には見えない「愛」がもっと必要なのかなと。お客さまに、デザインに、仲間に、それらすべてに愛を持ち、夢や目標を持って情熱のある美容師になってほしいですね。稼ぐことばかり考えても長続きしません。美容師としてどうありたいかが大事です。」
「Tierra」代表・三笠竜哉さんのヒストリー
1977年 北海道出身
1997年 北海道理容美容専門学校卒業後、上京し、『ミンクス』に入社
2007年 中村康弘氏と共に『ティエラ』を設立
2008年 『ティエラ』を拡張移転
2012年 『恋が叶う「愛されヘア」の習慣』(講談社刊)を出版
2013年 「トレンドビジョン」(主催/ウエラ)でヘアショーに出演
「東京ブレンド」立ち上げメンバーとなる
2015年 東日本大震災復興支援カットイベント参加 「ドリームプラス」(主催/ナプラ)でヘアショーに出演
2016年 「イルミナ ビジョン スーパーライブ」(主催/ウエラ)でヘアショーに出演
2020年 上海、北京、四川、南京、他、中国国内でセミナーを行う(主催/ミルボン)
2020年 「カミカリスマ」カット部門1つ星受賞
2021年 「カミカリスマ」カット部門1つ星受賞
2022年 「カミカリスマ」カット部門1つ星受賞
2023年 「カミカリスマ」グレイティーインフィニティ カット部門受賞
(出典:「PREPPY 2024年1月号」)
photo:Naomi Kono text:Yasue Morinaga
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