中学時代手が出なかったVansonのTJ チームジャケット。「Stevenson Overall Co.」多賀谷強守さんにとってのアメリカ。

スティーブンソン・オーバーオールズのデザイナー多賀谷さんは愛知県の中学を卒業するとすぐに単身でアメリカに渡りもっとも多感な青春時代をアメリカで過ごした。波乱万丈のアメリカ生活の断片を覗かせてもらった。

中学校を卒業してすぐに、単身渡米して磨かれた感性。

愛知県豊橋市の中学生だった多賀谷少年は、アメリカ古着が好きで、地元にいくつもあった古着店に足繁く通っていた。そんな彼の夢は映画監督になること。中学を卒業するとすぐに、夢を叶えるためにアメリカへ渡る。向かった先はコネチカット州ニューヘヴン近郊にある全寮制のプレップスクール。知人もいないどころか、周囲に日本人すらいなかった。

「学校には馴染めなかった。半年でロサンジェルスの学校に転校しました。結局、そこも半年。いろいろ転々としてたどり着いたのがシアトル。なんとか高校卒業の資格を得て、一度日本に戻りました。シアトルでは高校卒業資格を得るために勉強も頑張りましたが、空手を始めたんです。さらにキックボクシングも」

当時の日本は裏原ブームの真っ最中。多賀谷さんは裏原ブランドのデザイナーと知り合い、シアトルのジムの仲間たちのためのリングパンツやコスチュームの製作を依頼する。

「格闘技とファッションの融合はアリだなって思ったんです」

徐々にファッションビジネスに気持ちは傾いていった。

「2001年にLAで会社を作って、面白そうなブランドを見つけて日本に入れる。そんなことを始めました。メルローズに店舗があったカリズマティックは良いブランドでした。ストリートとアメリカンヘリテージがバランスよく組み合わせてあったんです。ウエスタンとか、ネイティブアメリカンとか、アメリカの伝統的なスタイルをストリートスタイルに落とし込んだようなアイテムが多かった。このセンスはのちのスティーブンソン・オーバーオールズの企画でも参考にさせてもらっています」

日本とアメリカを往復する日々の中で、偶然、銀行のロビーでHTCのジップ・スティーブンソンと出逢うことになる。相手が誰だかも知らないのに、たまたま話しかけたのがジップだった。すぐにふたりは意気投合し、一緒にモノづくりをスタートさせることに。これがスティーブンソン・オーバーオールズの、なんともドラマチックなスタートだった。

「当時の日本のデニム業界は戦後のスタイルが主流だった。1950年代のリプロダクションとか。私がやりたかったのはもっと古い時代。だから、本縫いのデニムからスタートしました」

多感な青春時代をアメリカで過ごし、多くの出逢いの中で、誕生したブランド、それがスティーブンソン・オーバーオールズ。デザイナーの多賀谷さんが、アメリカで苦悩の青春時代を過ごし、アメリカをきっかけに花を咲かせた奇想天外なアメリカンドリームはまだまだ続く。

「Stevenson Overall Co.」多賀谷強守|スティーブンソン・オーバーオールズのデザイナー。映画を大学で学ぶ夢を持って15歳で単身渡米し、以降、アメリカ各地やコスタリカで暮らした。頻繁に日本とアメリカを往来しながらファッション業界に根を下ろす

VANSON TJ Team Jacket|中学生時代、アメリカ古着やアメリカンカジュアルが大好きだった多賀谷さんの憧れはVansonだった。中でもこのTJ チームジャケットは一番。当時、愛知県の豊橋からこのジャケットが欲しくて母親を連れて東京・上野にまで来たのは思い出。ただ、結局実物を見て、その価格に怖気付き、その時は買えなかったそうだ。当時のファッションへの熱は、いまも忘れられない。すっかり数が少なくなったリアルなMade in the U.S.A.プロダクツ。多賀谷さんさんにとって、アメリカの象徴は、いまも昔も、このTJ チームジャケットなのだ。

多賀谷さんのスタイルの原点はアメリカ古着。デニムやジャケットなどのワークウエアや、カウボーイスタイルなど、アメリカの伝統的なウエアは、流行に左右されない、確固とした存在感。自身のブランドのサンプルとして持つモノも多いが、単純に自分の感性とリンクする古着はコレクションとしても購入している。彼の購買記録はCLUTCH Magazineの連載『俺とモノ』で毎号公開している。

(出典/「Lightning 2025年5月号 Vol.373」)

この記事を書いた人
松島親方
この記事を書いた人

松島親方

買い物番長

『Lightning』,『2nd』,『CLUTCH Magazine』男性スタイル&カルチャー誌の統括編集長。ロンドンのセレクトショップ「CLUTCH CAFE」のプロデューサーも務める。 物欲を満たすためには海をも越え、全地球規模で買い物を楽しんでいる。
SHARE:

Pick Up おすすめ記事

【UNIVERSAL OVERALL × 2nd別注】ワークとトラッドが融合した唯一無二のカバーオール登場

  • 2025.11.25

これまでに、有名ブランドから新進気鋭ブランドまで幅広いコラボレーションアイテムを完全受注生産で世に送り出してきた「2nd別注」。今回もまた、渾身の別注が完成! >>購入はこちらから! 【UNIVERSAL OVERALL × 2nd】パッチワークマドラスカバーオール アメリカ・シカゴ発のリアルワーク...

今っぽいチノパンとは? レジェンドスタイリスト近藤昌さんの新旧トラッド考。

  • 2025.11.15

スタイリストとしてはもちろん、ブランド「ツゥールズ」を手がけるなど多方面でご活躍の近藤昌さんがゲストを迎えて対談する短期連載。第三回は吉岡レオさんとともに「今のトラッド」とは何かを考えます。 [caption id="" align="alignnone" width="1000"] スタイリスト・...

今こそマスターすべきは“重ねる”技! 「ライディングハイ」が提案するレイヤードスタイル

  • 2025.11.16

「神は細部に宿る」。細かい部分にこだわることで全体の完成度が高まるという意の格言である。糸や編み機だけでなく、綿から製作する「ライディングハイ」のプロダクトはまさにそれだ。そして、細部にまで気を配らなければならないのは、モノづくりだけではなく装いにおいても同じ。メガネと帽子を身につけることで顔周りの...

スペイン発のレザーブランドが日本初上陸! 機能性、コスパ、見た目のすべてを兼ね備えた品格漂うレザーバッグに注目だ

  • 2025.11.14

2018年にスペイン南部に位置する自然豊かな都市・ムルシアにて創業した気鋭のレザーブランド「ゾイ エスパーニャ」。彼らの創る上質なレザープロダクトは、スペインらしい軽快さとファクトリーブランドらしい質実剛健を兼ね備えている。 日々の生活に寄り添う確かなる存在感 服好きがバッグに求めるものとは何か。機...

【ORIENTAL×2nd別注】アウトドアの風味漂う万能ローファー登場!

  • 2025.11.14

これまでに、有名ブランドから新進気鋭ブランドまで幅広いコラボレーションアイテムを完全受注生産で世に送り出してきた「2nd別注」。今回もまた、渾身の別注が完成! >>購入はこちらから! 【ORIENTAL×2nd】ラフアウト アルバース 高品質な素材と日本人に合った木型を使用した高品質な革靴を提案する...

Pick Up おすすめ記事

決して真似できない新境地。18金とプラチナが交わる「合わせ金」のリング

  • 2025.11.17

本年で創業から28年を数える「市松」。創業から現在にいたるまでスタイルは変えず、一方で常に新たな手法を用いて進化を続けてきた。そしてたどり着いた新境地、「合わせ金」とは。 硬さの異なる素材を結合させるという、決して真似できない新境地 1997年の創業以来、軸となるスタイルは変えずに、様々な技術を探求...

今っぽいチノパンとは? レジェンドスタイリスト近藤昌さんの新旧トラッド考。

  • 2025.11.15

スタイリストとしてはもちろん、ブランド「ツゥールズ」を手がけるなど多方面でご活躍の近藤昌さんがゲストを迎えて対談する短期連載。第三回は吉岡レオさんとともに「今のトラッド」とは何かを考えます。 [caption id="" align="alignnone" width="1000"] スタイリスト・...

グラブレザーと、街を歩く。グラブメーカーが作るバッグブランドに注目だ

  • 2025.11.14

野球グローブのOEMメーカーでもあるバッグブランドTRION(トライオン)。グローブづくりで培った革の知見と技術を核に、バッグ業界の常識にとらわれないものづくりを貫く。定番の「PANEL」シリーズは、プロ用グラブの製造過程で生じる、耐久性と柔軟性を兼ね備えたグラブレザーの余り革をアップサイクルし、パ...

今こそマスターすべきは“重ねる”技! 「ライディングハイ」が提案するレイヤードスタイル

  • 2025.11.16

「神は細部に宿る」。細かい部分にこだわることで全体の完成度が高まるという意の格言である。糸や編み機だけでなく、綿から製作する「ライディングハイ」のプロダクトはまさにそれだ。そして、細部にまで気を配らなければならないのは、モノづくりだけではなく装いにおいても同じ。メガネと帽子を身につけることで顔周りの...

雑誌2ndがプロデュース! エディー・バウアー日本旗艦店1周年を祝うアニバーサリーイベント開催決定!

  • 2025.11.21

エディー・バウアー日本旗艦店の1周年を祝うアニバーサリーイベントを本誌がプロデュース。新作「ラブラドールコレクション」や本誌とのコラボなど、ブランドの情熱が詰まった特別な9日間を見逃すな! 来場者には限定のブランドブックを配布! 今回のイベントに合わせ、「エディー・バウアー」をもっと知ってもらうため...