「Brass Shoe Co. 」代表・松浦稔さん
2007年、シューリペアショップ「ブラス」をスタートさせ、その5年後の2012年には、ハンドソーンウェルテッド製法にこだわったシューズブランド「CLINCH」を立ち上げた。松浦さんの生み出すブーツは、美しいデザインと機能性を併せ持ち、世界中から賞賛を浴びている。
「 美しくエイジングさせたいなら定期的な修理が大切です」
「ブーツを美しくエイジングさせるには、定期的に修理することです。ブーツを履いていく上で、いちばんの問題は『歪むこと』なんです」
一見、ブーツエイジングというと、オイルを入れたりブラッシングをしたりと、とにかく革の風合いだけに目が行きがちだが、まさか「定期的な修理」という答えが最初に来るとは思わなかった。さすが、数多くの靴を修理してきた松浦さんならではのアドバイスだ。
「歩き方などでソールも不均等に減り、それでも使い続けると、アッパーが歪んでしまいます。そうなるとリラストなどが必要となり、大掛かりな修理となってしまいます。こまめなソール交換は重要ですね」
ブーツも子供と一緒で、過保護にしてしまうときちんと育たない、と松浦さんはいう。オイルの入れ過ぎなど過度のメンテは革を柔らかくし、歪みの原因となる。また、ブーツを購入する際など、革質を見極めることで、ある程度エイジングを予測できるという。
「どちらがいいという問題ではないのですが、床部分が締まっている革と、そうでない革では、エイジングの仕方も変わってきます。でも結局どんな革質であろうが、めちゃくちゃ履き込むと、すべてカッコいいんです。大切なのは、ブーツと共にストーリーを紡いでいくこと。ずっと一緒に過ごしたいと思えるブーツに出会ってほしいですね」
自分好みの革質を見極める。
「革質を見極める」と言っても、なかなか素人ではわからないのが現実。でも、見極められなくても、知識として知っておいて損はない。例えばこちらのホースバットのイエーガーブーツ。左と右で、若干皺の入り方が違うのがお分かりいただけるだろうか? 左がきめ細やかで、右は皺が大きい感じ。これは、革の床(裏面)によるもの。左の方が床の繊維質が締まっていて、右は若干ではあるが締まっていないため、銀面にその影響が出ているのだ。ただし、どちらがいい革でどちらが悪いということではない。自分の好みのエイジングに従って、選ぶのが正しい。
こちらが左側。キメの細かい皺が無数に走っている。こういう状態の場合は「床が締まっている」。
右側は左に比べ、皺が大ぶりでちょっと浮いている感じ。これが「床が締まっていない」状態。
日々のメンテが美しいエイジングを作る。
過度なメンテは、ブーツの歪みの原因となってしまうが、日頃のブラッシングは重要だと話す松浦さん。ブーツがカビにくくなり、またブーツを手に取ってブラッシングするため、修理時期に気付きやすいというメリットもある。日々、ブーツを履き終わったらブラッシングを心掛けたい。
エンジニアならストラップを外し、レースアップはシューレースを外して、馬毛のブラシで汚れを掻き出す。ストラップの間やコバの間も入念に。最後は、馬毛より柔らかいヤギ毛のブラシで仕上げていく。
手前が馬毛で、奥がヤギ毛。汚れを取るときは硬い馬毛で行うべし。松浦さんの場合、オイルアップの際にもヤギ毛ブラシを使っているので、ブラシ自体が油脂分を含んでいるという。
エイジングされたクリンチのブーツコレクション。
昔ながらのハンドソーン製法にこだわり、美しさと機能性を高次元で融合させているクリンチのブーツ使い込んだ先にある圧倒的な色気を感じろ。
Engineer Boots 9”Height
ホースバットをブラックでオーバーダイしているため、履くほどに色が抜け、下地のブラウンが出てきている。7〜8年履いているため、ほぼブラウン。
Hi-Liner
1867年創業の老舗タンナー、ウィケット&クレイグ社のラティーゴレザーを使用しており、色むらのある迫力のエイジングを見せている。絶妙な褪色もまた美しい。
Gary Boots Horsebutt
顔料仕上げのブラックのホースバットは、経年により擦れて迫力のある変化を見せる。アッパー部分の皺の入り方やトゥの沈み具合など、ヴィンテージさながらの佇まい。
【問い合わせ】
Brass Shoe Co.
東京都世田谷区代田5-8-12
TEL03-6413-1290
https://www.brass-tokyo.co.jp/
(出典/「Ligthning 2021年12月号 Vol.332」)
Text/T.Ogawa 小川高寛 Photo/S.Kai 甲斐俊一郎
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