アーカイブを真実と呼べるほど忠実に復刻した製品を作ろう。
キング・オブ・スウェットシャツとも称されるチャンピオンのリバースウィーブ。誰もが知る不動の定番だが、じつはこの傑作に関して正確な知識を有している人は、その知名度に比べると案外少ないのかもしれない。
理由はその少し複雑な成り立ちにある。考案したのはアメリカの老舗紳士服店“ヒッキーフリーマン”でカッターとして働いていた経験を持つ、営業マンのサム・フリードランド氏。顧客から洗濯による縮みを指摘され、それを解決するため同氏が1934年に考案したのが、縦向きだった生地を横向きに使うリバースウィーブ製法”だった。
しかし1938年に特許を取得したものの、さらなる運動性の向上や、横方向の縮みを解消するため、身頃の両脇にエクスパンションガゼットというリブ状のパーツを備える手法を再考案。1952年にリバースウィーブ製法の特許を再取得することとなる。
つまりリバースウィーブには、“ファーストパテント”と“セカンドパテント”以降の、2つの製品が存在しているのだ。この2つの歴史的名品をチャンピオン自らの手で完全復刻しているのが、2019年に誕生した“トゥルートゥーアーカイブス”というライン。
「チャンピオンが創業したのは1919年。2019年は創業100周年の節目の年でした。それならば何か特別な製品を作りたい。そう考えて“ならアーカイブを真実と呼べるほど忠実に復刻した製品を作ろう”と思い立ったんです。
このラインはすべて日本製というわけではありません。ただ基軸に据えたファーストパテントとセカンドパテントの2つのリバースウィーブ製品は、どうしても日本製にせざるを得なかったんです。
というのも、オリジナルのヴィンテージとまったく同じ生地感を再現するためには、糸の紡績段階から特別にオーダーしなければならなかったし、一発で完成するはずもなく、何度かトライ&エラーを繰り返す可能性も極めて高かった。それならばやはり細かなニュアンスまでやり取りできる日本の工場と一緒に物作りしたいな、と」
かくして国内工場とタッグを組み、オリジナルの糸から開発することになった立浪さん。
「当時のカタログを見ると、“シルバーグレー”という色名が記載されているんですが、入手したオリジナルはシルバーというよりは、むしろほんのり生成りがかっていて、グレーの杢感も荒々しかった。糸に紡ぐ前のワタの状態にも、紡績にも趣向を凝らす必要がありました」
さらに編み立てにも相応の工夫が。
「生地を編み立てる際も特別な編み機を使用しています。おかげでオリジナルの生地と遜色ない、ふっくら嵩高(かさだか)な生地感とタフなハリ感を両立させることに成功しました」
詳細は下に譲るが、この糸や生地のほか、細かなディテールや独特なパターンまでオリジナルを踏襲することで、名前通りアーカイブの真の姿に肉薄。愛好家にも響くヴィンテージの佇まいを見事なまでに再現している。
「アメリカ本国で企画&製作される製品はやがてヘリテージになる。日本サイドが発信する製品で同じように歴史の一部になろうとすると、質に徹底的にこだわる他ない。そうなると日本での物作りが最も効率的なのかもしれません。現にこの2つの製品はアメリカサイドからも大変好評を博しています」
いつか時を経て、この日本で作られた2つのリバースウィーブが、チャンピオンの真のアーカイブとして認知される時が来るかもしれない。そうなれば同じ日本人として、これほど誇らしいことはない。
H2:オリジナルとトゥルートゥーアーカイブスを比較!
再現度の高さは写真の通り。上写真を見てオリジナルと復刻版を瞬時に判別するのは、極めて難しいはずだ。正解は右の2着がオリジナルで左の2着が復刻版。タグや生地の風合い、きつめの袖リブ、シームレスショルダー、筒状のスウェットからパターンを起こす独自製法等々、細部まで徹底分析して完全再現している。ちなみに右はすべてファーストパテントのディテール比較だが、セカンドパテントの方も、すべてオリジナルを忠実復刻している。
【オリジナル】
【トゥルートゥーアーカイブス】
【問い合わせ】
ヘインズブランズ ジャパン カスタマーセンター
TEL0120-456-042
※情報は取材当時のものです。
(出典/「2nd 2023年5月号 Vol.194」)
Photo/Yuta Okuyama Text/Masato Kurosawa
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