独特な柔らかさが生む、自由で楽しい着こなし。
小沢さん いままで僕はカルーゾについて、クラシックでちょっとモダンな要素はあるけれど、お店だといわゆるスーツ売り場に置いてある服というイメージを持っていたんです。それで、渋谷パルコで栗野さんが「自由な背広」というポップアップストアをやっているときに店頭にお邪魔したんですけど、そこで栗野さんに「小沢さんちょっと時間ありますか? 見てもらいたいものがあるんです」と言われて、タクシーで連れていかれた先がカルーゾの展示会だったんです。
栗野さん 小沢さんの「エディストリアル ストア」について詳しい話が聞きたかったのと、中尾さんと僕でやろうとしていることとにどこか接点がないかなと思って声をかけました。決して小沢さんからカルーゾの個人オーダーをもらおうと考えたわけではありません(笑)。でも、ご存じのように小沢さんは「買物魔人」なので、展示会に来て中尾さんのスタイリング提案を見た途端にそのスイッチが入っちゃった。
小沢さん 改めてプレゼンテーションを見て、いい意味でショックを受けました。「なんて楽しくて自由に着られるスーツなんだろう」って。以前もカルーゾのスーツは買ったことがあって、今日着ているのがそれなんですけど、買ったときには最初に話したとおりのイメージを持っていたので、白シャツにシルクの黒いニットタイでオーセンティックに合わせようと思っていました。
中尾さん 今、小沢さんが着ていらっしゃるのは4つボタンのダブル・ブレストでバッチ・ポケット、芯地も何も入っていないモデルですね。だからいわゆる「ジェケットスーツ」という言葉では括れないモデルです。
栗野さん 小沢さんは買物好きじゃないですか。そしてものを捨てない。これは僕と小沢さんの共通点なんです。どこかでセールになっているアイテムを見つけると「自分だったらうまく着られるんじゃないかな」と思って買ってみたりします。買物好きと言いましたが物欲じゃなくて「洋服愛」なんですよね。ものをとても大切にする。これは小沢さんもそうだし、中尾さんもそうだと思います。あと小沢さんと中尾さんの共通点は、ふたりとも「スタイリスト」であるところですね。
小沢さん カルーゾだったらたとえばシャツはサルヴァトーレ ピッコロとかそういう方向が普通だと思っていたんですが、その展示会では中尾さんの私物のロゴTとかスウェット、フレンチラコステなんかと組み合わせていて、それにショックを受けて、ドはまりしたんです。正統派で着るのはもちろんだけど、こうやってアレンジしてもカルーゾは変な逸脱の仕方をしないというのに感銘を受けました。
中尾さん 僕は仕事柄、海外の人たちと接する機会が多いんです。それで我々とはまた違った価値観を知ることができるわけなんですが、あちらの人たちはたとえば女性でもおじいちゃんから譲り受けたジャケットをロゴTとかスウェットなんかと自由に組み合わせて着ている。それぞれが自分のスタイルを身につけているんですね。そういう自由さを自分も展示会のプレゼンテーションアドで楽しんでいるというのはあります。
栗野さん そういうふうに自分のスタイル自由に組み合わせられるテーラードってあんまり見かけないんですが、カルーゾはまさにそれが可能な服なんです。僕はカルーゾのジャケットにカラーの極太のパンツを合わせることも多いのですが、そんなエクストリームな着こなしにも合ってしまう柔軟さがありますね。それはこのファクトリーが世界各国のいいブランドの生産も手がけていることと大いに関係していると思います。
中尾さん 特にフランスのブランドのウィメンズを多数やっているのは影響が大きいでしょうね。ほかのイタリアのテーラードはセクシーでぎらついた服という印象があると思うんですが、カルーゾにはまったくない。丸みがあって柔らかなんです。
栗野さん 彼らが作っているウィメンズの服はかなりデザインが施されていたとしても、デザイン負けしない作りのよさがにじみでていますよね。
小沢さん いわゆるイタリアンクラシック、昔でいうところのクラシコイタリアの文脈とは別のものという印象で、それがシンプルにいいなと思います。
もともとの優れた作りに刺激を与えた取り組み。
栗野さん カルーゾは先代の社長のウンベルト・アンジェローニの頃から「イタリアのカルチャーのなかでのカルーゾ」というような感じで、服、服、服という打ち出しではなかったんです。ただその当時は今ほどの自由さ、柔軟さはなかったように思います。そういう側面を引き出したのは中尾さんの功績じゃないですかね。
中尾さん 日本での展開はある意味特殊と言いますか、ほかの国とはちょっと違うところが多いんです。「ZERO」という絞りのないドロップなしのアンコンモデルは日本だけですし。「ZERO」は鴨志田(康人)さん(ユナイテッドアローズ クリエイティブアドバイザー)の提案で実現したモデルです。
栗野さん 彼らにいい刺激を与えたんじゃないですか。こういうモデルも作ることができるカルーゾの懐の深さを感じますし、これをやったおかげで、それまで自分には縁がないと思っていた人たちにアプローチができたと思います。
中尾さん 全部のラインナップを見せてもらったうえで「こういうのがあったら日本のお客さんに喜んでもらえるだろうな」というものを足していく感じですね。前提として既存モデルあまりいじりたくないというのがあって、たとえばそのままだと日本人の体型に合わないものは修正してもらいます。ただ、今はあまりいろいろと触りたくない時期なんです。少し前は手直ししていたんですが。
小沢さん それは、少し前に触ったモデルがいい仕上がりだからということですよね。
中尾さん そうですね。それと今は一周して、今日栗野さんが着ているような英国の生地で少し肩パッドの入ったモデルなんかが新鮮に感じてもらえるようにも思います。それこそ古着屋で見かけるような雰囲気の。
栗野さん いろんな「走者」がいるじゃないですか。A、B、Cという走者がいたとすると、全員スタート時点が違うし一周するスピードも違う。現状、そういう人たちそれぞれが新鮮に思えるラインナップをいい具合に提供できているのではと思いますね。
小沢さん それぞれのモデルに名前がついていますよね。これはイタリアでもそうですか?
中尾さん そうです。カルーゾがあるのはイタリアのエミリアロマーニャのソラーニャという小さな町ですが、その隣町がオペラで有名な作曲家ジュゼッペ・ヴェルディの生まれた町なんです。それにちなんでオペラの演目をモデル名に採用しているんです。正確には「バラフライ」(蝶々夫人)、「ラ・ボエーム」、「ノルマ」もヴェルディ作ではありませんが。
栗野さん イタリア人らしい郷土愛、カルチャー愛を感じます。
さまざまな“顔”を楽しめるカルーゾの服。
栗野さん 2 ndは「いいもの」――伝統的なものや時代を超えて生き残ってきたもの――が好きな人が読んでいるんだと思います。アメトラだけが好きなわけではなくて。そういう方たちにカルーゾを紹介するのはとても意味があるんじゃないか。
小沢さん「エディストリアル ストア」でやった『カルーゾが分かる~ゾ』という特集では隣にある古着屋店からアイテムをリースして一緒にスタイリングしたりもしたんです。そこでもアメリカ古着との相性の良さとか懐の深さを実感しました。
中尾さん オーセンティックな顔とそうでない顔、というようにいくつかの表情を作ることができますよね。
栗野さん そこはクオリティという裏づけがあるからこそでしょう。この価格帯の既製品でフル毛芯というのは特筆すべき点です。
中尾さん わざわざ買い出しに行くのでなく、冷蔵庫を開けて目についた食材で美味しい料理を作る、そんな自由な楽しみ方がカルーゾの最大の魅力かもしれません。
個性に寄り添うカルーゾの着こなしは三者三様。
栗野さん、中尾さん、小沢さんによるカルーゾのスタイリング。このブランドの持つ自由さやポテンシャルが伝わってくるにちがいない。
栗野さんのコーディネイト
カルーゾのガンクラブチェック柄ジャケットにワンウォッシュデニムをロールアップ、足元にオールデンのコードバンを合わせた栗野さん。ダンガリーシャツはビックマックのものでなんと40年以上前に入手したのだとか。「洋服愛」と各アイテムの絶妙なバランスには唸るばかり。
中尾さんのコーディネイト
中尾さんはエルボーパッチつきでレザーのくるみボタンというカントリーライクなカルーゾのツイードジャケットを着て登場。ジャケットの柄に使われている色を拾ってグレーとネイビーでシックにまとめている。ジャケットの肩線の美しさには目を見張るものがある。
小沢さんのコーディネイト
4つボタンのダブルブレストスーツは2パッチポケットで芯地なし。スポーティとドレッシーがミックスされたこのスーツに合わせたのは、シャルべのシャツだ。スーツのニュアンスを汲み取ったベースボールキャップやベルベットのルームシューズといったチョイスもさすが。
(出典/「2nd 2023年1月号 Vol.190」)
Photo/Kenichiro Higa Text/Kenichi Aono
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