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物書堂廣瀬則仁と、UDトーク青木秀仁に聞く、App Storeが開発者にとって大切な理由

我々テクノロジーのことをあるていど知っている人間にとって、先の内閣官房の報告書にあった『アプリのサイドローディング義務化』、つまり『App Store』『Google Play』以外からのアプリダウンロード許容を義務化する、というのは大変危険な決定だと思える。これは、筆者が、アップルファンだからとかいう問題ではなくて、誰の目から見てもセキュリティリスクを大きく高める行為だろう。

にもかかわらず、『プラットフォーマー(アップルやGoogle)の寡占である』という理由で、『App Store』『Google Play』以外から、アプリをダウンロードできるようにしなければならない……と報告書には書かれてる。『EUで、そういう議論がなされている』『GAFAの独占許すまじ』……と言えば、賛成は得やすいのかもしれないが、これは自由競争の名の下に、我々を大きな危険にさらすことになる。

アップルは、全アプリの内容を確認しており、コードの中にウィルスやユーザーが思わない機能(たとえば、勝手にカメラを使ったり、録音したデータや、位置情報を送信したりするような)が埋め込まれていないかを確認している。このアップルの審査が面倒だという人がいるが、現在のように、老若男女、ほとんどすべての人が様々なアプリを使うようになった現在、この審査は必要不可欠だといえる。

審査を受けていないサードパーティ製アプリを、一般ユーザーがインストールできるようになると、『利用者のデータを盗む』『機器のコントロールを利用者から奪う』ことも可能になってしまう。PCの場合はサードパーティアプリのインストールも可能だが、それゆえマルウェアなどの被害は絶えない。そして、PCよりはるかにユーザーのリテラシーレベルが多様で、しかも位置情報や決済情報、ヘルスケア情報などクリティカルな情報が詰め込まれているスマホで、このようなことが可能になると大変なことになる。ちなみに同様の審査は『Google Play』も行っている。Androidではサイドローディングは可能だが、それは『どうしても必要な人だけがオンにして欲しい』という限定された機能であり、誰もが使えるものではない。また、それゆえ、Androidの方がマルウェアなどに感染するリスクが高いのはご存知のとおり。

サイドローディングを可能にしても誰も幸せにならないし、多くの人がリスクにさらされる。また、学校などでも使われるiPadも同じリスクにさらされることになり(iPhoneもiPadも基本は同じOSの上で動いている)、子供たちの使うデバイスの安全性も損なわれる。

政府の意見として「開発者は、サイドローディングの開放を望んでいる」というのがあるらしいので、今回、ベテラン開発者であるUDトークの青木秀仁さんと、物書堂の廣瀬則仁さんに、App Storeに関してお話を聞いてみた。

むしろ、中小のデベロッパーとしては感謝しかない(UDトーク・青木秀仁さん)

UDトークは、音声認識と自動翻訳を使ったコミュニケーション支援アプリ。たとえば、会議の議事録の文字起こしも可能だし、多言語間のコミュニケーションも取れる。耳の不自由な方とのコミュニケーションにも使える。最近では、ドラマ『silent』でも重要なコミュニケーションツールとして登場したので、ご覧になった方も多いのではないだろうか?

UDトーク
https://udtalk.jp/

青木秀仁さんは、iPhone登場時からiPhoneアプリの開発に携わっている。当時は会社員として、音声認識アプリを作っていたという。

「App Storeの恩恵は大きいですね。僕のような個人でやってるような会社でも、世界規模のアプリの販売網を利用できるというのは本当にありがたい。僕からしてみたら、たった30%の手数料で利用できるなんて、めちゃくちゃありがたいですね。僕は10年間ひとりで、開発から、プロモーションから全部やっていますから、App Storeなしでは無理ですよね。」

もし、アップル独占ではなく、他にアプリストアが開かれるとしたら、青木さんは利用されるだろうか?

「率直に言うと儲かればいいので、手数料が安いところがいいですよね。あとは面倒くさがりやなので、ひとつでもステップが少ない方がいいですよね。App Storeはとてもいいと思います。あと、無料のアプリを出すのにはベストですよね(UDトークは基本無料。アプリ内課金あり)。アプリを世界中に配信することができるし、簡単だし。」

同じアプリストアとして、AndroidのGoogle Playもある。アップルのApp StoreのGoogle Playに対する利点というのはあるのだろうか?

Appleはちゃんと開発者をサポートしてくれるところがいいですね。Androidは非常に多くのOSのバージョンをサポートしなければならないのがツライです。アップルのApp Storeは、WWDCをやって、ベータ版のOSを開発者に提供して……というステップがしっかりしてますから、毎年、秋の新OSの正式公開までにちゃんと対応できます。」

今回の政府のスマホアプリのサイドローディング義務化の提言の中に、中小のアプリ開発者がアップルによって不当な競争を強いられているという論調があるが、そうなのだろうか?

「そんなことないですよ。むしろ、中小のデベロッパーは感謝しかないと思いますよ。自分たちで販売網を持つのは難しいですが、そのシステムを売上のたった30%で提供してくれるんですから。バグのチェックもしてくれるし。言語を切り替えてやってくれたりするので、他の言語だとトラブルが発生するとか、文言が足りない……というようなところも確認してくれます。これは、ありがたいです。App Storeのスタンスは『この素晴らしいアプリをもっと使って欲しいから、ここは改善した方がいい』という感じです。」

では、中小のデベロッパーが抑圧されてるというのは間違い?

「15年前にApp Storeができたというのは我々開発者にとって大きなことで、それ以前は大企業に所属していなければ、アプリを開発して販売するということができなかった。それがApp Storeのおかげで、自分で企画して作ったアプリを個人で作って売ることができるようになった。僕は、あのまま会社員としてやっていくのは向いてなかったので(笑)、今の状態はとてもありがたいです。」

ウェブのリンクを踏むとアプリがダウンロードされる……というようなのは絶対にダメ(物書堂・廣瀬則仁さん)

物書堂はご存知、辞書アプリや、MacのIMの『かわせみ』などを開発している会社。代表の廣瀬則仁さんを含めて4人で運営しており、年間3億円以上を売り上げているという。

廣瀬さんは、大学を卒業してワープロソフト『EGWORD』を作っていたエルゴソフトに就職。EGWORDやIMのegbridgeの開発に携わっていた。しかし、業績の悪化に伴い2008年にエルゴソフトは廃業。廣瀬さんは仲間とともに、当時発売されたばかりのiPhoneのアプリを開発する会社を立ち上げた。

物書堂
https://www.monokakido.jp/ja/

iPhoneの優れたグラフィック機能と美しいフォントを使って、文字を拡大縮小しつつ言葉の海を探索できる『大辞林』が、iPhone黎明期の大ヒットアプリになったのは、みなさんご存知の通りだ。以来、日本を代表するiPhone/iPadアプリ開発会社のひとつであると言えるだろう。

いわば、現状のようなApp Storeの夜明け前から、廣瀬さんはアプリを開発されきたということになる。

「私はアップルのプラットフォームでずっと開発を続けていますから、App Storeでほとんどすべて仕事が完結します。自分が作ったアプリをお客さんに届けるために、App Storeがあればよくって、他のものは必要ありません。」

では、他にアプリストアができたとしたら、どうだろうか?

「手間の問題もありますよね。ディストリビューションっていうのは、もしストアが複数あったら、ストアごとにビルドしてアップロードして、審査かなんかがあって……さらに、アップデートするたびに、それを全部やらないといけなくなります。App Storeの場合、もうワークフローが出来上がってますから、まず開発版を作って、TestFlightで公開して、メンバーにテストしてもらって、OKならそのバイナリーをサブミットすれば審査されて、そのままOKならリリースと。それが増えていくというのは、我々のような小さいデベロッパーだと、ちょっとやってられないな……と思います。」

「App Storeは長い年月かけて構築されてきて、今、非常に安定しています。最初は何もなかったんです。TestFlightもなかったし。配信の仕組みが特に素晴らしいですね。我々の辞書データのような大容量なデータも、確実にお客さんの元に配信されます。それも、アプリに関しては無料で。我々が費用を払うことなくディストリビューションをアップルさんが全部やってくれる。世界中にコンテンツデリバリーしてくれる。たとえば、10万人ユーザーさんがいて、買い切りのアプリだとする(サブスクではなく)。そこに数百MBある辞書アプリをアップデートしようとすると、ものすごいトラフィックになるんですよ。もし、App Storeがなくて、AWSなどを使って自前で配信したら、かなりの金額になると思います。アップルがこれをやってくれているというのは、めちゃくちゃ素晴らしいです。」

アップルの手数料が30%だというのはどうだろうか? 『手数料が高止まりしている』と政府の報告書には書かれているが。

「もちろん、手数料は安ければ安い方がいいので、他に安い配信元ができるというならうれしいですが、今のApp Storeは非常に素晴らしい仕組みで、我々開発者が開発に専念できるという意味で本当に良くできています。自分たちの製品だけにフォーカスできる。他のサービスが参入してきても同じようにできるとは思えません。」

では、サイドローディングができるようにする必要はない?

「サイドローディングにもいろいろ定義があると思います。ウェブから直接ダウンロードできるっていうのは、もう(笑)一番ヤバいやつですが。別のストアがマルウェアなどをすべてチェックできるのであれば、問題ないとは思います。でも、別のところが第3のアプリストアをやるとしても、その規模のことをできるのって、結局GAFAのどこかでしかないじゃないですか。参入するのは技術的に非常にハードルが高いと思います。」

提言には、ブラウザから直接ダウンロードできるようにするという提案もあるが?

「サイドローディングといっても、ウェブのリンク踏むとヒョイとアプリがダウンロードされる……というようなものは絶対にダメだと思います。」

アップルがアプリ配信市場を独占し、デベロッパーを抑圧してるということはない?

「物書堂は、最初は、ウィズダム、大辞林、プチロワイヤル……と辞書ごとにアプリを作っていたんです。それを、App Storeに『アプリが多すぎるからひとつにまとめろ』と言われたことがあります。最初は不満だったのですが、説得されて『辞書 by 物書堂』というひとつのアプリにまとめたんです。そしてアプリ内課金として辞書を購入するようにしました。すると、急激に売上が伸びたんです。1.5倍ぐらいになりました。つまり、アップルさんの提案って、いろいろ指示してくることって、ビジネス上、そうした方がいいよっていうことなんです。デベロッパーを損させるようなことは言わないですね。」

そもそも、総務省の情報セキュリティ対策に逆行

まとめると、お二人ともApp Storeは非常によくできた仕組みで、開発者は抑圧されてはいない。むしろ、(安い方がいいにしても)30%という手数料は、行われていることを考えると安価だし、感謝はあっても不満はないということだ。

政府の提言にあるような、ブラウザからアプリを直接ダウンロードできるようにするというのは非常に危険だし、論外。サードパーティがストアを立ち上げるとしても、今のアップルのApp Storeがやっているレベルのことをやろうとすると莫大なコストがかかるので、結局GAFAクラスの巨大企業しかできないし、そうでなければ、一般ユーザーが使えるような安全性は担保されない。

内閣官房の報告書は『サイドローディングを義務化すべき』としているので、その点について開発者の方に聞いてみようとしたのだが、そもそも我々メディアも、開発者の方も『サイドローディングを義務化すべきではない』と思ってるので、インタビューとしては少々ちぐはぐなものになってしまった。

結局のところ、内閣官房の『モバイル・エコシステムに関する競争評価中間報告概要』は、『アップルやGoogleが利益を独占している』という結論ありきだが、提言にあるようなサイドローディングが可能になったら、誰もが持っているスマホのセキュリティを担保することが不可能になる。そもそも開発者が不満に思っていないことを『公正性、透明性がない』とする報告書自体、なにか別の意図があるのではないかとしか思えない。

総務省は情報セキュリティ対策として、『OS提供事業者や携帯電話会社などが安全性の審査を行っているアプリケーション提供サイトを利用するようにしましょう』と言ってるのに、内閣官房が逆向きの提案を出すというのも不可思議だ。いったい、どういうことなのだろうか?

(村上タクタ)

この記事を書いた人
村上タクタ
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村上タクタ

おせっかいデジタル案内人

「ThunderVolt」編集長。IT系メディア編集歴12年。USのiPhone発表会に呼ばれる数少ない日本人プレスのひとり。趣味の雑誌ひと筋で編集し続けて30年。バイク、ラジコン飛行機、海水魚とサンゴの飼育、園芸など、作った雑誌は600冊以上。
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