8月17日、銀座・テアトル東京で観た『ロックショウ』
公開前からテレビの情報番組のいくつか(『TVジョッキー』での福田一郎のコーナーなど)で映像の断片(主に「イエスタデイ」の演奏シーン)が紹介されたり、試写会に多くの有名人が来たとかいうスポーツ新聞での紹介記事もあったり、洋楽アーティストのコンサート映画のわりには、大々的に宣伝されていていたような気がする。例の来日逮捕事件からそれほど時間が経っていないというタイミング、加えてジョンの事件でビートルズに注目が集まっていたからだろうか、『ロックショウ』はそれなりの話題作であった。
私が『ロックショウ』を観たのは8月17日である。なぜ覚えているのかというと、映画館内に設置されていた日付入りの記念スタンプを押した証拠が残っているから。また帰宅後に夏の甲子園の「都城商対岡谷工」の試合をテレビで観たことも覚えている。月曜日に行くことになったのは、公開週の土日は混んでいるとの判断だったのだろうか。と、曖昧なのは『ロックショウ』鑑賞は自分が発起人ではなかったから。前売りを買ってきてくれた学校のビートルズ仲間に「一緒に行こう」と誘われたのだ。仲間とは前年7月に千代田公会堂で初めて動くビートルズを観たときのメンバー。その気遣いに感動したし、前売りに付いていた特典ポスターとバッヂを受け取ったときは心から感謝したものだ。
昭和の中学生は早起きである。始発で出かけ、会場一番乗りした前年同様、今回も早朝から出かけて初回を観ようということになり、葛西駅から7時台の電車に乗って銀座に向かった。真夏の暑い日差しが照り付けるなか、京橋近くのテアトル東京まで歩いていくと、映画館の前には開場を待つポールファンが見えてきた。だが、映画館自体が大きかったのでそれほど並ぶこともなく、場内に入ることができ、自分たちの席を確保。パンフレットを買ったあとは、先述のスタンプを押しまくっていた。今振り返れば、このあとすぐに閉館してしまったテアトル東京の内観を隅々まで楽しめばよかった、と思う。
ほどなく上映開始。フィルムコンサートでは何度かポールの映像を観てきたが、ロードショーでポールの映像を観るのは初めてのこと。公会堂ではなく、映画館という雰囲気に心が高鳴った。しかしながら当時はウイングスの曲は『グレイテスト』を通じてのヒット曲くらいしか知らず、この映画のサントラ的役割の3枚組ライブアルバム『ウイングス・オーバー・アメリカ』はまだ聴いたことがなかった。したがって目当てはビートルズの曲。『カンボジア難民救済コンサート』で聴いた「レット・イット・ビー」のような新鮮なアレンジのビートルズナンバーが聞けるのかも、という期待が大きかった。『ロックショウ』で演奏されたビートルズナンバーは5曲。「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」「夢の人」など、目新しいアレンジもあったが、実際にはウイングスの曲が響いた。ポップでありロックであり、ショウであるというアレンジ、演奏、演出に興奮し、ポールのルックスやしぐさ、シャウトに感動させられた。いつか、ポールのコンサートを見たいと思ったのは言うまでもない。
日本のみ特別編集の完全版で上映
このとき上映された『ロックショウ』はアメリカやイギリスで上映されたものよりも30分も長い日本だけ特別編集版、いわば完全版であった。理由は前年の来日逮捕のお詫びとのことだったが、最初に完全版を見たせいか、のちにVHSやレーザーディスクで『ロックショウ』を見ても物足りずあまり感情移入できなかった。やはり『ロックショウ』は2時間20分すべてを観ることに感動があるということで、完全版のブートレグを買ってしまったこともあった。2013年にようやくオフィシャルで完全版が出たときの感動と言ったらなかった。
あまりに感動したので、もう一回観たくなり仲間に提案してみた。当時の映画館は完全入れ替え制ではなく、観ようと思えば一日中映画館内にいることができたのだ。しかし皆一様に「帰りたい。お腹すいた」との反応。ならば、「途中の『イエスタデイ』までは?」という必死の懇願が受け入れられ、次回上映の「イエスタデイ」まで観ることができた。そんなことをしたのは『ロックショウ』が初めて。という意味でも思い入れの強い映画である。
銀座山野楽器で『マッカートニー』を購入
帰り道、皆で銀座山野楽器本店に立ち寄り、レコードを物色。私はそこで『マッカートニー』を購入した。本当は興奮の余韻の残る『ロックショウ』のサントラ的なアルバム『ウイングス・オーバー・アメリカ』が欲しかったけれども、LP3枚組5,400円の高価レコードだったため断念。いちからポールを聴いていこうということで『マッカートニー』を選んだ。が、家に帰って困惑。『ウイングス・グレイテスト』や『ウイングス・オーバー・アメリカ』を期待していたのに、ワンマンレコーディングの実験的な内容に聴きどころを探せず、また映画で歌っていた「メイビ・アイム・アメイズド」も全く違うアレンジでがっかりしてしまった。またビートルズ的要素を感じることも出来ず、購入を後悔したのだが、その感覚は1年前に『マッカートニーⅡ』を聴いたときの動揺にも似ていた。
そんななかでも収穫はあった。「ジャンク」と「シンガロング・ジャンク」である。絶望はこの2曲に救われたといっていい。昨年末に見た少年ドラマシリーズ『家族天気図』の主題歌をここで初めて聴くことができたからだ。あの印象的なメロディはここに収められていたのかと初めて知った。のちに『マッカートニー』は大好きなアルバムになるのだが、初心者ファンにとってはなんともほろ苦いマッカートニーデビューとなってしまった。
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