歴史上の“もしも”を斬新なアイデアで描いた映画『お隣さんはヒトラー?』

  • 2024.11.19  2024.07.23

アドルフ・ヒトラーの南米逃亡説をモチーフに、ホロコーストを生き延びた老人の隣家にヒトラーそっくりな男が越してきたことから起こる騒動を描いた映画『お隣さんはヒトラー?』。隣人をヒトラーと疑うポルスキーをテレビドラマ『ロンドン警視庁犯罪ファイル』のデビッド・ヘイマン、ヒトラーだと疑われるヘルツォークを『スワンソング』のウド・キアが演じ、これが長編第2作となるレオン・プルドフスキー監督がメガホンをとった話題作だ。

7月26日(金)より新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほかで全国公開

<公開情報>
『お隣さんはヒトラー?』
7月26日(金)より、新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国公開
配給:STAR CHANNEL MOVIES
©2022 All rights resrved to 2-Team Productions (2004) Ltd and Film Produkcja

映画の中のヒトラーが投げかけるいびつなユーモアと微妙な緊張感

アドルフ・ヒトラーの南米逃亡説をモチーフに、ホロコーストを生き延びた老人の隣家にヒトラーそっくりな男が越してきたことから起こる騒動を描いたドラマ。隣人をヒトラーと疑うポルスキーをテレビドラマ『ロンドン警視庁犯罪ファイル』のデビッド・ヘイマン、ヒトラーだと疑われるヘルツォークを『スワンソング』のウド・キアが演じ、これが長編第2作となるレオン・プルドフスキー監督がメガホンをとった。

“新しい戦前”という言葉が世間に広まり、不穏な時代に突入しつつあることが、共通認識になってしまった日本。とはいえ、ウクライナやガザ地区のように戦火にさらされた地域や、その近辺諸国と比べれば、まだまだ危機意識に欠けると言われても反論は難しい。

今回紹介する映画『お隣さんはヒトラー?』についても、戦争を肌身に感じている国とそうでない国とでは捉え方が違ってくるのは当然だろう。1960年、ホロコーストで家族を失いながらも生き延びた男が、南米コロンビアのへき地でひとり寂しく暮らしていた。そんな彼の隣家に、ヒトラーに酷似したドイツ人が越してくる。ユダヤ人団体に訴えるも信じてもらえない男は、自らの手で証拠をつかむべく動向をうかがうなか、いつしかお互いの家を行き来するようになり、チェスを指したり肖像画を描いてもらったりと交流を深めていく。隣人をヒトラーと疑うポルスキーをデビッド・ヘイマン、疑われる男を名優ウド・キアが演じた。監督はこれが長編第2作となるレオン・プルドフスキー。

ユーモラスなシーンはいくつかあるものの、緊張感の走る場面も随所に見られ、一概にコメディと言い切れない巧みなコントラストが、映画全体を包み込んでいる。これまでもヒトラーの登場する映画は数多く制作されてきたが、度合いは違っていても大半の作品になぜかユーモア要素が含まれていた気がする。代表的なものは、1940年に公開されたチャップリンの『独裁者』だろうが、その7年前の33年には、マルクス兄弟の最高傑作『吾輩はカモである』が制作されている。迷演説を駆使して、国家を戦争へと導く政治家をグルーチョが怪演。奇しくもヒトラーが独首相に就任した年だった。

戦後もヒトラーを扱った映画はいくつも見られるが、なぜか印象に残る作品はコメディが多い。喜劇映画界の重鎮、メル・ブルックスなどは、監督作の大半にヒトラーを忍ばせるという執拗さ。ブロードウェイでの舞台化も大ヒットした『プロデューサーズ』には、劇中劇『ヒトラーの春』を挟み込み、爆笑を勝ち取った。新しいところでは、タイカ・ワイティティ監督が2020年公開の映画『ジョジョ・ラビット』で、監督みずからヒトラー(の幻影)役を大はしゃぎで好演している。

映画史上最も似ていないヒトラー

一方、日本にもヒトラーが登場する作品は散見される。比較的最近のものでは、2019年のNHK大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』で、ベルリン五輪の回にヒトラーが登場している。何でも、ドイツのヒトラー役者をオーディションして起用したらしいが、制帽を深くかぶっていたためか、ヒトラー味が薄かったと記憶している。逆に強く印象に残ってるのが、太平洋戦争下の日本を描いた映画『帝都大戦』(89年)。前年公開された大作映画『帝都物語』の続編にあたるが、予算が大幅に削られたためか、ヒトラー役の俳優がどう見ても別人にしか思えず、呆然とした。これなら、同作に近衛文麿役で出演していた日下武史にチョビひげを付けた方が遥かにマシだと思ったほど。“映画史上もっとも似ていないヒトラー”として、深く記憶に留めたい。

コメディに登場する滑稽なヒトラーは、いわゆる“炭鉱のカナリヤ”のようなものだと思っている。賑やかにさえずっている姿が映画界からいつしかフェイドアウトしてしまったなら、マジで“存亡の危機”を憂慮しなければならない……。(広川峯啓)

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