21世紀ファン世代がブートで追う裏ビートルズ史【ビートルズのことを考えない日は一日もなかった特別対談VOL.4 真鍋新一氏】

  • 2024.11.08  2024.06.19

本連載、4人目のゲストは真鍋新一さん。現在、『レコード・コレクターズ』ほかで主に日本のロック、歌謡曲などを専門にしているライター・編集者です。DJとしても活躍中。そんな彼と知り合ったきっかけはサブカル同人会を通してだったのですが、話しをすればかなりのビートルズ通。『ビートルズ1』以降の若いファンなのにとにかく詳しい!熱い!! ということで、以来定期的に情報交換をしているビートルズ仲間のひとりです。以前、わたしが編集していた分冊『ビートルズ・ストーリー』では、非正規音源のアウトテイクについてのレビューを担当してもらっていたこともありました。今回はその流れで、ビートルズのブート(海賊盤)視点から見たビートルズ史というテーマでトークを展開してみました。

『ニュースステーション』で知ったビートルズ

対談時に持参してもらった真鍋さんの私物ブート

竹部:今日はビートルズのブート話をしたいと思って。真鍋くん、若いのに、いや若いからこそブート事情に詳しいでしょ。年齢差20の異なるブート観、ブート史をテーマに話したいなと思いまして。

真鍋:そう聴いていたので、ブートを持ってこようと思ったんです。でも、いまブートはレコードしか持っていなくて。

竹部:といいつつ、何枚かCD持ってきているけど……。

真鍋:貴重音源に関しては最近はデジタルトレードがメインなので、CDは年下のビートルズファンにあげてしまっているんです。でも、今日ここに来る前に偶然僕が初めて買ったブートCDが見つかって。これは持っていけということだと思って、持ってきました。

竹部:どれかな?

真鍋:『UNSURPASSED MASTERS VOL.6 N2』。『アビーロード』のアウトテイク集です。元々、YELLOW DOGから出ていたものなんですが、これはそのコピーで…。

竹部:見るからにバッタものだよね。

真鍋:昔、駅の売店とかで売っていた著作権の隙をついて作られたCDがあったじゃないですか。音源は正規だけどジャケットだけ差し替えたやつを今でも中古でよく見かけますよね。そのブート版です。

竹部:こういうCD買う人いるんだね(笑)。いつ頃買ったの?

真鍋:中1か中2の頃。20年以上前です。柏にあるバースデーというレコード屋の店主が「こんなの知ってる?」って「ハー・マジェスティ」のフルバージョンをかけてくれたんです。それに驚いて。ビートルズに夢中になりかけている頃にこんな音源を聴いたら、「なんだ、これは?」みたいな話になるじゃないですか。しかも700円。ジャケットに小さく「安くていいよ」って書いてある(笑)。沼に突き落とされたような感じでした。きっと、今日のために手放さずにいたんでしょう。

竹部:ということは、ファンになって早い段階でブートに手を出していたと。

真鍋:はい。2002年、僕が中学生の時にポールの来日公演があったんですが、東京ドーム行く前にお茶の水のディスクユニオンに寄って、ごそっとブートを買った思い出があります。実家が北関東なんで、たまにしか東京に来られなかったんです。だからついでに……。

竹部:そういう想い出は忘れられないよね。真鍋くんは世代的には『ビートルズ1』なのかな。

真鍋:そうです。『ビートルズ1』世代って多いんですよ。あのときすごく宣伝していて、CMもそうですけど、『ニュースステーション』の終わりにビートルズのプロモビデオを毎日1曲放送するということをしていたんですよ。あれを観てファンになったんです。

竹部:あった。当時はまだクリップ集も出ていなかったし、YouTubeもなかったから貴重だったよね。ブートは出回ってたけど。

真鍋:今思うと、毎日録画すべきでした。でも『1』を聞く前からビートルズっていう存在は知っていました。ジョン・レノンっていう人がいたらしいとか、チューハイのCMで「リンゴすった」とか言っている人も昔ビートルズだったらしいとか。そういう知識は一応ありました。『ニュースステーション』で映像を観たとき、びっくりしたことに全曲知っていた。初めて聴くはずの音楽なのに全部知っているってどういうわけだろうって。

竹部:それまでに音楽への興味はあったの?今真鍋くんが専門としている、邦楽のロックとか歌謡曲とか、シティポップとか。

真鍋:もちろんないです。でも、子どもの頃はテレビばっかり見ていたので音楽には敏感だったんでしょうね。ビートルズの曲もCMとか、テレビ番組のBGMとかでちょっと流れていたのがずっと耳に残っていたんだと思います。とにかくビートルズが音楽にはまった1発目でした。僕がビートルズに興味を持った頃はインターネットの黎明期で、ビートルズに関してもいくつかの有力なサイトが始まっていたんです。その個人サイトにいくつかに出入りするようになって、情報を得ていくわけです。オフ会にも参加したりして。

竹部:ブートと正規盤を同時に聴いていたということ?

真鍋:申し訳ない話なんですけど、正規音源は半分くらいしか聴いていませんでした(笑)。

竹部:ワン世代ならではの傾向と言えるのかな。正規音源とブートを同時進行で聴いていく感覚ってどういうもんだろう。ブートはネタバレ的なところがあるでしょ。

真鍋:申し訳なさを感じながらだったんで、正規盤を聞いてからじゃないと、アウトテイク音源には手を出さなかったです。正規盤は98年に出た白帯の再発盤を聞いていました。

竹部:そうか。レコードではなくてCDだ。しかも音源がイギリス盤基準で統一されていた時代。

真鍋:そうです。でも先ほど言ったファンサイトで、モノとステレオのミックス違い、テイク違い、アナログの各国盤の音源違いを解説していて、それを読んで、ブート以外にもそういう世界があることは知っていたんです。それで、そういう正規盤で出ていない国別のミックス違いを集めたブートを買ったりしていました。

竹部:『Alternate Masters』。こういう盤は便利だったよね。でも初期段階でこの世界を知ってしまうとマニアにならざるを得ない。

真鍋:そうなんですよ。幸いにしてビートルズは聴き飽きないんで、いろいろあって面白いみたいな感じになっちゃうんですよ。そもそも、この時代は正規で出ていたCDの初期4枚はモノラルだから、ステレオミックス自体がすごく珍しかったんです。

竹部:おれは逆で。国旗帯時代にファンになったからほぼステレオだったんですよ。だから、82年に出た赤盤のモノは画期的だった。コンプリート・ビートルズ・ファンクラブの松本常男さんの監修のやつ。あの頃、何度かボランティアでファンクラブの事務所に通っていたんだけど、その時に松本さんが東芝の人と電話で「モノにしないと意味がない」みたいな話をしているのを覚えているんですよ。『ウィズ・ザ・ビートルズ』の「マネー」を聴いたときすごく驚いた。そういうことをファンクラブのイベントや会報で答え合わせするみたいな感じだった。

真鍋:いい話ですねぇ。僕はレコードからデジタル化したステレオ音源を聴かせてもらって、ステレオのほうがかっこいいと思っていました。

ブートで蓄えた知識で正規盤を聴く楽しみ

映画『レット・イット・ビー』の音源を丸ごと2枚のLPに収めたブート『In a Play Anyway』

竹部:やはり20年違うと結構な世代感があるな。ブートに関しては、80年代半ば以降はスタジオのアウトテイクがメインになっていくけど70年代~80年代は、ライブ音源が重視されていた気がする。最初に意識したブートは『Five Nights In A Judo Arena』でした。

真鍋:やっぱり日本公演ですよね。日本人なら持っておきたい。

竹部:そうそう。78年の放送に間に合っていないから、日本公演のレコードが欲しいと思いましたよ。そこで、世の中にはブートっていう世界があると知って、すぐに西新宿にあったKENNIEに行ったんですよ。そのときに店の壁に飾ってあった『Live From The Sam Houston Coliseum』が欲しくて。その他では『Sweet Apple Trax』が有名だった。でも最初に『Sweet Apple Trax』を聞いたとき、あまり面白いと思わなかったな。あれは「Get Back Sessions」の背景がわからないと楽しめないよね。我慢して聴いていたけど。

真鍋:今僕はこの盤に注目しているんですよ。『In a Play Anyway』。

竹部:映画『レット・イット・ビー』の音源がそのまま2枚組LPに入っているんだよね。

真鍋:なぜこのレコードが貴重なのかと言いますと、この間、映画『レット・イット・ビー』のリマスター版が配信されましたよね。あの中の音は元の映画とは結構違うんですよ。

竹部:1回観たけど気が付かなかった。

真鍋:今回の『レット・イット・ビー』は映像も音も再構築してやっていますよね。だから、オリジナルの映画を作った時に加えられた効果音が入っていないんですよ。たとえば、「マクスウェル~」のマル・エバンスの金づちの音。あれなんかは映画編集の際に後から加えた音らしくて。だからブートを聞くと、その音が入っていないんですよ。オープニングの「ドント・レット・ミー・ダウン」にもガクッときました。どうしてあんなに違ってしまったんだろう?そういう聴き比べにこれが役に立つんです。

竹部:アナログのブートレグ侮れない。そういえば『アンソロジー1』に入っている「キャント・バイ・ミー・ラヴ」のテイク2も、間奏だけテイク1に差し替えているんだよね。『Ultra Rare Trax』を聞いていないとわからないんですよ。『Ultra Rare Trax』の話は後ほど。

真鍋:同じような話だとこの『BROADCASTS』もそうでして。いわゆる『BBC』ブートの中では名盤って言われたやつですよね。たまたま聴いてみたら、音が生々しくて、びっくりしたんですよ。

竹部:正規盤CDとは違う。

真鍋:正規盤の『ライヴ・アット・ザ・BBC』は激しいノイズリダクションを施しているせいで、音が丸くなってしまっているんですね。最初は、そういうもんだと思って聞いていたんですけど、『BROADCASTS』を聴いたら、ガサガサした音だけど、すごく良い。

竹部:確かに、92年に正規で出た『アット・ザ・BBC』を聴いたとき、内容も音も物足りないなと思いました。

真鍋: BBCのアウトテイクだとこの『FROM US TO YOU』ばかり聴いていました。この音源はCDの時代になってもなぜかこのアナログブートから直接落とした音源が出回っていました。それなら大元のレコードで聴いたほうがいいじゃないかと。最近はさすがにもっと良い音で聴けるみたいですね。

竹部:これはジャケがいいし、10インチというのがおもしろいよね。

『BBC』音源から始まった新しいビートルズのブート史

BBCのアウトテイクを収めた初期のブート『FROM US TO YOU』

真鍋:CDってリマスターして音が良くなったとか言うじゃないですか。でもそれって、オリジナルのアナログテープが劣化した録音レベルをデジタルで引き上げているだけですよね。だから、原則的には録音された当時に近いレコードであればあるほど、音は生々しいはず。ブートCDも後からリマスターされたものがいろいろ出ていますけど、80年代に出たアナログブートの方が、音は良くなくても、なんとも言えない生々しさを感じるんです。

竹部:なるほどね。

真鍋:アナログのテープって必ず経年劣化するっていう前提があって。だから例えば、 UKオリジナル盤が良いというのと同じ理由で、ブートも録音が良いものについてはアナログがいいということに気が付いたんです。ちょうど海賊盤のレコードが寝崩れした頃だったから、いろんなお店に過去の名盤が安く出回っていて、さっきの『BROADCASTS』や『JOHNNY AND THE MOONDOGS』とか、びっくりするぐらいいい音で。

竹部:最近聴いてないな。アナログのブート市場ってどんな感じなんですか。

真鍋:もしかしたら正規盤以上にオリジナルへのこだわりがある人が多いかもしれません。『In Concert at Whiskey Flat』みたいな有名なタイトルになると、オリジナル盤は高くて買えません。コピー盤のコピー盤くらいでも十分雰囲気は楽しめるので自分はそれで我慢しています。

竹部:『BBC』音源の話でいえば、82年にBBCがアーカイブ的な特番を放送して、そのときの音源が流出してブートになったんですよね。日本でもFM東京で放送して、テープに録音したことを覚えていますよ。特別編成で1週間毎日放送したんじゃなかったかな。サントリーの提供だった記憶。

真鍋:ラジオではダイジェストでしたが、ブートでは各出演回がほぼフルで出ましたよね。当時、すごくいい音でエアチェックしていた人がいたみたいですね。僕はこの間、やっと『At The Beeb』のVol.1から13までをコンプリートしました。

竹部:『At The Beeb』は86年くらいから出だしたのかな。便利だし、ジャケのデザインもいいんですよ。

真鍋:どのジャケットにもテーマがあってカッコいいですよね。シリーズの前半は今でも普通に見かけるんですが、Vol.10あたりから急に数が減っちゃって、探すのに苦労しました。

竹部:『BBC』の音源ってハンブルク時代の名残りがあるんですよね。パートリーもそうだし、荒々しい演奏とか。

真鍋:「トゥー・マッチ・モンキー・ビジネス」「アイム・ゴナ・シット・ライト・ダウン・アンド・クライ」。あんなリンゴのドラム、聞いたことなかった。ジョンが歌う「ハニー・ドント」もいいです。BBC音源は膨大すぎてなかなか身に付かなくて。せっかくアナログでコンプリートしたので、1回1回ちゃんとひとつの番組として聴き直していきたいなって。

竹部:司会者との掛け合いとかも面白い。『BBC』音源はアナログ時代から手を変え、品を変えたくさん出たけど、Great Daneから出た『The Complete BBC Sessions』には驚いた。リッケンバッカーのジャケの。12枚組みだったっけ?ああいうのが出ると正規盤の影が薄くなってしまうんだよね。

真鍋:『オン・エア〜ライヴ・アット・ザ・BBC Vol.2』が出て、ブートでしか聴けない曲はだいぶ減りましたね。何回も演奏している曲はその中のワンテイクしか入っていないけど、曲自体が聴けないことはほとんどなくなった。

竹部:『Vol.2』が出た時に『1』も出直って、あれで少しはマシにはなりましたよね。

真鍋:ノイズを減らすために無理に音を加工するのをやめる方針にしたのがよかったですね。

ブートのメッカだった西新宿のレコード屋街

『アビーロード』のアウトテイクが収録された『RETURN TO ABBEY ROAD』

竹部:振り返れば、『BBC』から80年代のブートレグ事情が活性していった気がする。それと同時期くらいに『アビーロード』のアウトテイクも出てきた。『RETURN TO ABBEY ROAD』『ABBEY ROAD N.W.3』『ABBEY ROAD West Minster-1』とか。同時期だったんじゃないかな。「アイ・ウォント・ユー」のポール・ボーカル・バージョンと言われているやつ。

真鍋:あれ、結局真相はわからないです。

竹部:当時、ファンクラブのイベントで松本さんが「ポールが歌った『アイ・ウォント・ユー』がある」って言っていたんですよ。それ以来信じ続けていまして。

真鍋:でも『アビー・ロード』のデラックス・エディションにも入らなかったので、違うんじゃないかと思うんですけど、じゃあ誰なの?って話で。

竹部:あと「オー・アイ・ニード・ユー」。

真鍋:ポールが「トゥ・オブ・アス」を提供したモーティマーじゃないかって言われているやつ。あれも結局謎ですね…。この音源が例のポールらしい「アイ・ウォント・ユー」と一緒にYouTubeにアップされていて、コメント欄で外国人たちが今でもこれは誰なんだって議論しています。もう何十年やっているんだよ!って話で(笑)。

竹部:いい曲なのよ。ボーカルもジョージに聴こえるんだよね。で、その後は『Sessions』。西新宿のWoodstockって店で買った記憶がある。85年くらいかな。

真鍋:僕が生まれる前の話ですね。ちなみにその『Sessions』って正規盤として出るっていう情報って入ってきていたんですか。

竹部:いきなりお店で見かけたと思う。青いジャケのやつね。西新宿界隈ではかなり盛り上がっていたと思う。当時の情報はすべてお店でしたよ。『Sessions』が正規盤で出ていたらビートルズ史も変わっていただろうね。

真鍋:この時期だとあの『File Under』もありました。生写真がジャケにクリップされてるやつ。

竹部:『Sessions』の少し前かな。覚えているけど、ジャケが地味で、触手が伸びなかった。貴重な音源が入っているとは知っていたんだけど。この頃はひとりでファンをやっていたんで、横のつながりがなかったんですよ。あと、『THE BEATLES ABBEY ROAD Show』もあった。これは買った。

真鍋:1983年にアビイ・ロード・スタジオ内に招待客を招いて限定公開されたドキュメンタリーが流出した音源ですよね。

竹部:そしてポールの『COLD CUTS』も思い出深い。ここに入っている曲は後に細々と正規でリリースされたわけだけど、当時は驚いた。この頃から『サージェント』とか『ホワイト・アルバム』のアウトテイクが出始めたような。ブートシーンが賑わってきて、ジャケットも洗練されてきて、いかがわしいイメージがなくなっていった。

真鍋:これはどうですか。『Not Guilty』 。

竹部:これはジャケ買いだった。

真鍋:B面に『Around The Beatles』が全部入っているのはありがたかったけど、A面はもうどうしようもない(笑)。「レイン」はバックトラックのように聴こえるけど、片方のチャンネルを消してカラオケにしているだけ。

竹部:そうなんだ。昔は疑似レア音源って多かったのかな。ウイングスの「Penny O´Dell」。真鍋くんに教えてもらうまでずっとウイングスのアウトテイクだと思って聴いていたし。

真鍋:あれは別人の曲をビートルズの海賊盤に入れちゃったパターンですね。

竹部:あの曲いいんだよね。デニーが歌っているように聴こえるし。でもじゃあ、誰なんだという話で。

真鍋:ケニー・オデルっていう人の「ホームカミング・クイーン」という曲だと判明したんです。その人のアルバムも今では配信で聴けるというすごい時代になりました。

竹部:教えてくれて感謝ですよ。それで、80年代半ばから西新宿にブートビデオ屋が出始めたんですよ。BlueMoonとか。ビートルズの貴重映像もいろいろ買いましたよ。正規でVHSが出ていた『ハード・デイズ・ナイト』のコピーまで売っていた。西新宿ブート史は洋楽マーケットの裏歴史、長いし濃いし深いよね。

真鍋:高田馬場のGET BACKはいかがですか。

竹部:GET BACKは行ってないんですよ。西新宿とファンクラブのフィルムコンサートの物販で足りていたからかな。高田馬場に行く用事も他になかったし。GET BACKに行くようになったのは原宿に移転してから。80年代後半。それこそ、『Ultra Rare Trax』はGET BACKで買った。その頃、よく行っていたレコード屋は、渋谷センター街の兆楽の裏側あたり、クアトロの向い前のビルにあたLIVERPOOLっていう店。一見輸入盤屋なんだけど、ブートの品ぞろえが充実していたの。『Lost Lennon Tapes』はそこで買っていた。筑紫哲也みたいな顔した店主でね。

真鍋:店の名前からしてビートルズに強そうですね。うらやましい。

マニアを驚かせた『ULTRA RARE TRAX』のアウトテイク

ビートルズ・ブート史を変えた名盤『ULTRA RARE TRAX』のVOL.1とVOL.2

竹部:そしていよいよ『Ultra Rare Trax』となるわけですよ。88年くらいかな。

真鍋:昔からレア音源を追いかけていた人に言わせると、最初のオレンジ色の『1』と緑の『2』がインパクトがすごかったそうですね。僕は後で『1』と『2』がツーインワンになっているCDで聴きましたが、最初のやつがいちばん音はいいということになっているみたいです。

竹部:あそこからブート新時代が始まったと言っていいでしょうね。

真鍋:いきなり「アイ・ソウ・ハー・スタンディング・ゼア」のテイク2ですからね。「アイム・ルッキング・スルー・ユー」のテイク1とか。VOL,2の1曲目はコーラス付きの「キャント・バイ・ミー・ラヴ」でした。

竹部:すべてに驚いた。こんな音源があるのかと。もうひとつ驚いたのは、正規のレコードよりも音がいいこと。正規盤はコンプレッションをかけているけど、『Ultra Rare Trax』はそのままの音ですごく生々しく感じた。どういうこと?って思った。

真鍋:スタジオから直接コピーしてきたような生々しさですもんね。OKテイクのフェイドアウトされてないバージョンも好きです。「デイ・トリッパー」とか「ペイパーバック・ライター」とか。

竹部:『Ultra Rare Trax』はレコードとCD両方出ていたけど。メインはCDっていう印象だった。そして『Unsurpassed Masters』が出て、わけがわからなくなっていく。

真鍋:僕は最初に『Unsurpassed Masters』のバッタものを聞いて、その前にもっとすごいのがあったらしいぞってことをネットで知ったんです。だからずっと聞きたくて探していました。

竹部:『March 5, 1963 Plus The Decca Tape』もあった。これも驚いた。

真鍋:「フロム・ミー・トゥ・ユー」「サンキュー・ガール」「ワン・アフター・909」を録音した日ですね。

竹部:「サンキュー・ガール」のドラムのオーバーダビングとか、エンジニアに怒られるビートルズとか貴重な音源が多く入っていますよね。『March 5~』には『デッカ・オーディション』の音源も入っているけど、82年に日本でも正規で出ましたよね。『シルヴァー・ビートルズ』ってタイトルで。

真鍋:あれはオリジナル曲の3曲はカットしているんですよ。しかも「ラブ・オブ・ザ・ラブド」は『アンソロジー1』に入らなかったから、その1曲が聴きたくて、ブートを探しましたよ。

竹部:そんな中学生怖いよ(笑)。まぁ自分も変わらないけど。

真鍋:だってどんな曲か知りたいじゃないですか(笑)。まだYouTubeもありませんでしたし。中学生の頃といえば、音楽室の掃除当番になったとき、どうしても音楽室の立派なステレオを使ってみたくて、勝手に「シーズ・ア・ウーマン」のテイク7を再生してみたんですよ。最高でしたね。目を閉じてセッションの様子を想像したりして、人が来たら慌てて消していました。

竹部:いいエピソード(笑)。でもビートルズって免罪符になるんじゃないか気持ちはなかった? 教科書にも載っていたし。おれも教室の壁にビートルズのポスター貼っても先生に怒られなかった。あと、ビートルズのインタビューレコードをカセットに入れて学校に持って行って、英語の先生に「訳してくれ」とお願いしたこともあった。というのも、KENNIEで買ったブートがインタビューレコードで。せっかく買ったのに……。

真鍋:メチャクチャ悔しかったと思いますけど、それもいい話ですね。僕の頃はネットで情報があったからあまりそういう変なものは掴まされなかったかな。

竹部:失敗はなかったんだね。

真鍋:その辺は手際よくやっていました。あと当時、入手して聞いた音源の解説をノートに書いていたんです。自分が聞いた感想とネットで調べたことを総合して、「ノーウェジアン・ウッド」でくしゃみしているのはシタールと同じチャンネルから聴こえるから犯人はジョージだとか、みたいなこと。

竹部:おれもビートルズノート付けていたな。真鍋くん、ブートに関してはスタジオ音源派でした?

真鍋:断然スタジオ派でした。ライブ音源も一通り聞きましたが、演奏も録音も素晴らしいものって限られるじゃないですか。そういう意味では1964年のメルボルン公演です。

ブート視点で聴く最新デラックス・エディション音源

1977年にリリースされた『ビートルズ・アット・ザ・ハリウッドボウル』。未CD化

竹部:ロックしているよね。ここで『ハリウッドボウル』の話をしたいんだけど。おれ、77年に出た『ハリウッドボウル』大好きなんですよ。あれがCDになっていないのは絶対におかしい。2016年に出た『ハリウッドボウル』は、ちょっとがっかりだったんですよ。77年と2016年の『ハリウッドボウル』では「チケット・トゥ・ライト」の歌い出しが違っていて、77年のジョージ・マーティン版はジョンの歌い出しがちゃんと聞こえるのに、ジャイルズ版は聴こえないんですね。ジョージ・マーティンは1965年8月29日と30日2つのテイクをミックスさせて完成させているんだけど、ジャイルズは1テイクのみを使用。

真鍋:ジョージ・マーティンはちゃんと歌を立てるミックスしていたってことですか?

竹部:ジャイルズはオリジナル音源を尊重したのかもしれないけど、別にそうする必要ないと思うんですよ。別にコンプリート版として出したわけではないんだし。なんで直さなかったのかが疑問で。だからハリウッドボウルは77年の正規盤をブート化したCDばかり聴いてます。

真鍋:マイクの調子が悪かった日のテイクをわざわざ選んだ。

竹部:どうなんですかね。あと、映画『ハード・デイズ・ナイト』でも明らかにミスっていうのがあった。

真鍋:ジャイルズのツメの甘さはよく指摘されますよね。僕が言いたいのは「ジョンとヨーコのバラード」ですね。途中で一度ブレイクするとき、ピアノの音を消し忘れているんです。ジョンが「Think!」と言ったあとにピアノの音が残っちゃっている。2015年の『ビートルズ1』からそうなっていて、今回の青盤で直るかと思ったらそのまま。もちろん、オリジナルではピアノの音は聴こえません。リミックスしたときのミスがそのままになっているという。

竹部:そうなんですか。

真鍋:あれはちょっといただけないですね。

竹部:今回の『青盤』の「アイム・ザ・ウォルラス」の最後とか。ちょっと驚いた。

真鍋:明らかなミスじゃなければ、ジャイルズは「そういう風にしたいんだろうな」ってことで許していますけど。

竹部:『ホワイト・アルバム』も気になるところ多くて。「バースデー」のリフとか。今までそんなに目立ってない2本目のギターがやたら聴こえる。

真鍋:あれも印象変わっちゃいましたね。『ホワイト・アルバム』は割と雑多なアルバムだから、ミックスの出来のバラつきがありますよね。でも僕は『デラックス・エディション』の中では『ホワイト・アルバム』がいちばん面白かったです。

竹部:確かにイーシャー・デモも全部ステレオで出したし、あれがいちばん音いいものね。昔は『OFF WHITE』っていうブートがあったんだ。

真鍋:細かいこと言うと『ホワイト』の『デラックス・エディション』に入っている「サワー・ミルク・シー」はブートで出回っていたものとテイク違うんですよ。「サワー・ミルク・シー」のデモは1テイクしか残ってないと思われていたんですけど、どうやら2テイクある。いや2テイク以上あるみたいで、今回はブートで出ていなかったテイクが入りました。元のやつ出してよと思ったけど、これはこれで聴いたことないから嬉しい、みたいな。

竹部:『リボルバー』は良かったかな。

真鍋:『アンド・ザ・ビートルズ』にもレビューを書いたんですけど、『リボルバー』は今ジャイルズができることのすべてをやっている感じがして、好感もてました。「シー・セッド・シー・セッド」はちょっとギターの音を振りすぎだなとは思ったけど。

竹部:ジャイルズなりに試行錯誤して慣れてきた感じある。

真鍋:細かいミスはあれど、かなり慎重に作業している感じがします。でも、その時代時代の音があると思うので、50年くらいしたらまた作られるでしょうし。

竹部:そうね、お店の有線で流れるビートルズって、右と左のスピーカーでボーカルとカラオケで別れていることがあるけど、ああいうことが少なくなるならいいのかな。

真鍋:ずっと「どこが違う、あれが違う」っていうことを気にしてきたファンからすれば、リミックスによってバージョン違いが生まれるっていうのは素直に心をくすぐられますね。絶対にUKオリジナル音源しか許さないという一時期のアップルの姿勢が緩和されたことだけでもうれしいです。

竹部:そうね、いろんなバージョンが聴けるって嬉しいよね。アップルもどこかからスイッチが変わったよね。全部出しちゃおうみたいな。

真鍋:2004年の『The Capitol Albums, Volume 1』あたりからですかね。アメリカ盤の疑似ステレオ・バージョンが良い音で聴けてうれしかったです。13枚組CDボックス『THE U.S. BOX』は世界統一音源だったんですけど。

ビートルズ最大の深淵部『ゲット・バック・セッションズ』

ゲット・バック・セッションズ絡みの名ブート『Get Back Journals』

竹部:あそこで、『ハード・デイズ・ナイト』や『ビートルズ・ストーリー』がCD化されたことはうれしかったな。でも、そのあとに日本盤編集ボックスも出たけど、それも世界統一音源で。それにしても、ブート基準でビートルズのリリース史を観ていくといろいろわかっておもしろい。そういう意味ではその最高峰が『レット・イット・ビー』関連の音源なり映像になるのかな。今回の『レット・イット・ビー』の配信は特別な思いが去来しましたよ。

真鍋:ぼくもファンになった頃から、どうやら『レット・イット・ビー』の前に『ゲット・バック』っていうプロトタイプがあるらしいってことを知って。

竹部:『ゲット・バック』関連の音源はきりがないじゃないですか。雲をつかむような話で。

真鍋:だから自分で整理するのが大変。でもインターネットにその全音源をリストにしている人がいたから、面白そうな音源だけをつまんで聞いていました。当時の決定版はVIGOTONEの『Thirty Days』で、あれだけ聴けばいいやっていう人はたくさんいたと思います。

竹部:『ゲット・バック』関連の音源、映像はいくつ買ったかわからないな。グリン・ジョンズ・ミックスの『GET BACK』はもちろんのこと、『GET BACK JOURNALS』『Twickenham Sessions』『The Complete 2CD Rooftop Concert』……。でも『Day By Day』はハードル高くて行けなかった。

真鍋:『Day By Day』までくるとテープのロールごとにトラック分けがされていて、聴くだけで大変だったでしょうね。

竹部:ビートルズブートの中で『GET BACK Sessions』のブートは数が多いし、『Day By Day』を全部聞くのはつらいけど、藤本さんの『ゲット・バック・ネイキッド』で読んでセッションを理解した。

真鍋: 1日ごとにその日の出来事をまとめるっていう。図らずも『ザ・ビートルズ: Get Back』と同じ編集方針で。

竹部:『ゲット・バック・ネイキッド』は力作ですよね。

真鍋:そんな折、ブート関係者が逮捕される事件が起こったんですよ。その音源をアップルが回収して、「今後は正規で出す」みたいなニュースを見たんだけど、そのあと、『レット・イット・ビー・ネイキッド』が出て、そこにおまけのCDとして「フライ・オン・ザ・ウォール」が付いた。会話と曲の断片集で、あれがやっぱり当時の限界でしたよね。出ただけでもうれしかったですけど。

竹部:『レット・イット・ビー・ネイキッド』はどうでした?

真鍋:歓喜しましたよ。ファンとしては。『レット・イット・ビー』は本当の姿ではないという思いをずっと抱えていたので。グリン・ジョンズの『ゲット・バック』は聴いていたんですが、それが正規で出るのは大ニュースだと思いましたよ。

竹部:でも、違った。

真鍋:あたかもグリン・ジョンズの『ゲット・バッグ』が正規で出るようなミスリードな報道をしていましたよね。期待していたので残念だったけど、それはそれでいいと思って聴いていました。でも、バージョン違いやテイク違いをいろいろ聴いていたので、『ネイキッド』に入っている「レット・イット・ビー」は許せなかった。「レット・イット・ビー」の完成版の元って、レコードになったテイク27Aと映画で使われたテイク27Bがあって、大きな違いは歌詞が違うんですよね。そのテイク27AとBがちょこちょこ切り替わるんです。

竹部:レコードは「Speaking Words Of Wisdom」で、映画は「There Will Be No Sorrow」。

真鍋:そうです。『ネイキッド』では27Bを基本にして映画版のムードなのに「~Sorrow」のところだけ27Aに差し替えていて、フランケンシュタインみたいなツギハギの「レット・イット・ビー」なんですよ。そもそも『ネイキッド』っていうくらいだから音源修正していないという前提なのに。あれだけは聴いていて気持ち悪かったです。

竹部:今回の映画『レット・イット・ビー』のエンディングに違和感があったな。ポールのアドリブで歌う「ゲット・バック」で終わっていく感じがいいのにね。

真鍋:よく解釈すれば、そのおかげでオリジナル版がなくならずに済んだ。だからさっきの『In a Play Anyway』はサウンドトラックとして価値が残るわけです。

竹部:話を戻しますが、例のブートレガーの逮捕以降、ブートシーンに変化はあったの?

真鍋:その前からすでにゲット・バック関連以外のレア音源はほぼ出そろっていた感じでしたが、逮捕のせいでいよいよ新音源が出てこなくなりました。そのせいか、Silent SeaとかSecret Traxというレーベルが出していた総集編が多かったですね。散発的に聞けた音源がまとめて聞けるようになり便利になったというのはあります。

いちばん好きなブートは『Singing the Blues』

日本公演の名盤といえば『Five Nights in a Judo arena』

竹部:Secret Traxは全部集めたよ。オリジナルアルバムごとにミックス違いもアウトテイクも全部入っているという意味で重宝しました。ジャケもよかったし。でも2枚組5600円とかで、高かった。

真鍋:僕の頃になると、そのあたりのCDも安くなっていて、中古で1000円くらい。海賊版業者が逮捕される直前に盛り上がっていた音源がドカッと中古市場に降りてきた。あとでわかったんですが、現実の海賊盤シーンと、当時中古CDを買い漁る中高生だった自分の感覚とでは4~5年のズレがあります。だから、最先端のマニアにとっては厳しい期間だったかもしれないけど、自分にとっては初めて聴く音源ばかりで大喜びっていう……(笑)。特にSecret Traxが出していた『Down in Havana』っていうタイトルが好きでした。「アイ・ウィル」のセッションの様子と「ヘイ・ジュード」のテイク違いとバージョン違いをあるだけ全部詰め込んだ盤です。それも実はUnicornっていうレーベルが出したもののコピー盤なんですが、これは今までと系列が違う音源が出てきたぞって感じで、それがいわゆるジョン・バレット・テープスなんですよ。

竹部:ジョン・バレット……、ブート界隈の有名人だよね。

真鍋:EMIのエンジニアで、ビートルズのアウトテイクを発掘してくれた方です。

竹部:流出させた人でもある?

真鍋:どうなんでしょうね。Yellow dogに関しては、ロジャー・スコットっていうビートルズのラジオドキュメンタリーを作った人が、ジョン・バレットから借りたテープを流したっていうことになっているんですけど、それとはまた別系統で、ジョン・バレットの音源がまとめて出ちゃったんですって。

竹部:21世紀以降だとMisterclaudel、TMOQは信頼できるよね。いろいろな音源を出している。

真鍋:そこも含めていくつか目立ったレーベルがいまだに新音源を発掘し合ってますよね。最近はネットの情報だけで満足してしまって、CDを買うことはまったくしていないのですが……。

竹部:あと、日本公演も良質なものが出るようになった。音源も映像も。前座が全部入ったやつとか驚いたよ。

真鍋:近年でいちばん驚いたのは確かに日本公演の前座がフルで観られるようになったことですね。、もはやビートルズじゃなくて、グループ・サウンズとか歌謡曲的な興味なんですが(笑)。

竹部:確かに。裕也さんの雄姿。で、21世紀以降のビートルズファンって、音楽を聴いていくうえで参考にする書物とか評論家っていたの?

真鍋:基本情報は全部ネットですからね。時々買う『レココレ』のバックナンバーで、この人はこういうことを書いているのか、みたいな確認をしていました。あ、でも東京FM出版から出ていた『地球音楽ライブラリー ビートルズ』にはすごくお世話になりました。ディスコグラフィーにUS盤と日本盤の選曲の違いとか、ソロのことも書いてありましたから。

竹部:藤本さんが変名で書いているやつ。

真鍋:ブートを一通り聴き終わったあとにソロを聞き始めるんですけど、あの時はリンゴとジョージのCDが廃盤で、 めちゃくちゃプレミアついたんですよ。でもレコードでならすぐ買えましたから。そのせいでレコードプレーヤーを買ったようなものです。昔の音楽が好きなら、CDを買うよりレコードを探したほうが安くたくさん手に入る。それで今の感じになってきたっていう。

竹部:話を聞いていると、本当にビートルズ人生なわけだね。

真鍋:人生の半分以上そんな感じじゃないですか。改めて言われると「わっ! やめてください!」と言いたくなります。

竹部:はまるのが早かったから仕方ないよ。

真鍋:こんな僕ですら、もう四半世紀近くビートルズを聴いているのかと思ったらおそろしくて……いろんな先輩方と話をするたびに「昔みたいに海賊盤まで追いかけてないよ!」って言われましたからね。いまそれと同じことを下の世代のビートルズ・マニアに言う側になりつつあります。以前、藤本さんのイベントで『ビートルズ海賊盤事典』の松本常男さんにお会いする機会があって、初対面で開口一番「いちばん好きなブートは『Singing the Blues』です」って自己紹介したんですよ。それを受けて「あれ、いいよねぇ!」と即返す松本さんもすごかった。あれは完全にやばい人しかいない現場でしたね(笑)。

マニアの必携本『ビートルズ海賊盤事典』(松本常男著)

竹部:ファンにとって松本さんの著作『ビートルズ海賊盤事典』はバイブルですからね。僕の『ビートルズ海賊盤事典』は、松本さんのサイン入りなんで。ではブートと正規盤を一通り聞いて、ソロのレコードを安価で集めたあとにいよいよビートルズのレコードに行くわけ?

真鍋:さんざん回り道をしたうえで、最終的に「正規盤が一番」という当たり前の考えになりまして……。例の柏のレコード屋のご主人が言うには、「ビートルズはアナログ時代の音楽なんだから、アナログで聞かないと本物ではない」と。逆に言えば「デジタルレコーディング以降のものはCDがいい」と言うわけで。それは納得いく話で、ビートルズもアナログで全部聞けばまた違って聞こえてくる。その通りだったんですね。それで、まずはビートルズのアルバムを全部まずレコードで揃える。UK盤は高いんで、日本盤からでしたが。国旗帯はありふれすぎてて面白みを感じなかった、ひとつ前のフォーエバーって書いてある緑帯のやつを全部。あ、でも帯にもこだわってないですよ。ほとんど帯なしです。ただ、ジャケットの裏に「東芝音楽工業」って書いてある時期のものにはこだわっていました。

竹部:最近はEP盤の研究もしているよね。

真鍋:「当時の日本ではどういう音でビートルズが聴かれていたのか?」のを実感したくて。音が良かろうと、悪かろうと、これが当時の音だったんだ、ということですね。「イエロー・サブマリン/エリナー・リグビー」とか、ジャケットのデザインはいいんですけど、中身はステレオ・バージョンのモノラル落としで、ひどいなぁと思いつつ、でもこれが当時の日本で聴かれたビートルズだったんだと。

竹部:そうそう。正規盤なのにこの音?みたいなのってあるよね。昔の『イエロー・サブマリン』とかもそうだった。ところで、真鍋くんの今の本業である日本のロック、ポップミュージックはどこで出て来るの?

真鍋:柏のレコード屋で大滝詠一さんの『ロング・バケーション』を聞かせてもらってからですね。すでにユーミンやサザン、達郎はリアルタイムのアーティストとして認知していたんですよ。みんなヒット曲を出していたから。それらのアーティストを聞いていて、どうも自分はベテランのアーティストが好きらしいみたいな気づきが感覚としてあって。だったら彼らの若い頃を辿っていたら絶対面白いはずって気づいたんです。ビートルズもこんな面白いんだし。だから、ワイルドワンズの加瀬邦彦さんが『ビートルズのおかげです』って本を出されてますけど、気持ちとしてはそれに近いです。すべてビートルズのおかげ。ビートルズで音楽の聴き方の基礎っていうか、その仕組みも含めてわかったから、あとはその公式にいろんなものを当てはめるだけでいいわけじゃないですか。

竹部:いちばん面白いバンドだからね。

真鍋:ブートを通してアンダーグラウンドを知ったうえで聞いているから、アップルがどういう判断で何を出して何を出さなかったのかっていうところもいろいろ想像ができたりもして。

竹部:『デラックス・エディション』も積み残しあるもんね。

真鍋:例えば『アビーロード』のデラックス・エディションでは昔から海賊盤で有名だったテイクはほとんど避けられてんですよ。

竹部:「サムシング」の延々ピアノが続くやつとか。

真鍋:ないですよ。実際あれが正規で出たとして、聴いていてつまらないだろうなとか、そういうことを想像するのも面白いなと。

竹部:なんでいつまでもビートルズなのかな。

真鍋:ビートルズが終わってないからですよ。いまだに新しい事実も出てくるし、話題に終わりがないですよね。新曲出したり、まだポールが歌っていてくれたり。ビートルズ自身が回転し続けている限り、終わらないんだと思います。

竹部:だからこそ「ナウ・アンド・ゼン」や『ゲット・バック』『レット・イット・ビー』については思うところは多いですよ。自分は聴けたり、観たりできたら幸せですけど、間に合わずに亡くなってしまったファンも人もたくさんいて。

真鍋:いろんな人の果たされなかった思いの後に、ビートルズの新しいリリースがあるから、ファンとしてはやっぱりちゃんとしか聞いていかないとなって思いますよ。僕は「フリー・アズ・ア・バード」と「リアル・ラヴ」は間に合っていないんで。「ナウ・アンド・ゼン」は初めてのビートルズの新曲だから、ファンをやってきてよかった、ビートルズを聴いてきてよかったっていう気持ちはすごくある。最後を見届けるのもこの時代に生まれた使命だと思うので。

竹部:出ないより出た方がいい。

真鍋:ドキュメンタリーの『ゲット・バック』にしてもそうですよ。こんなに出してくれてありがとう、じゃないですか。まだ5周ぐらいしかしていないですけど、見るたびに発見がありますし。まずはこの先数年かけて『デラックス・エディション』を『プリーズ・プリーズ・ミー』まで完結していただいて、それが出たうえで、ブートで得た知識をもとに頭から振り返り直したい。

竹部:『ビートルズ・ストーリー』も作り直したい。

真鍋:そうそう嬉しいのが、竹部さんに書かせてもらった『ビートルズ・ストーリー』のアウトテイクレビュー、若いマニアから読んでいましたって言われるんですよ。

竹部:今ならあれをさらに充実したものが書けそうだよね。

真鍋:今日持ってきたアナログブートははっきり言えば無用の長物かもしれないんですけど、こういうレコードそのものや、世に出てマニアにどう聴かれてきたかというところにも歴史がありますから、そういうことを伝えていけたらいいですね。

真鍋新一さんがパーソナリティを務めるラジオ番組がオンエア中です!
「Cafe Groovin’ Records」
毎週土曜日23時~(隔週で最新回を放送中)
埼玉県鴻巣市のコミュニティFMフラワーラジオにて
https://fm767.com/
かかる楽曲はすべてレコードの音でお届け
これまでの放送履歴・最新情報などはこちら
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