「旧いもの」そして「アメリカ」それが僕の原点だった。
「革という素材の魅力はね、温かさ、そして触った時の感触にあるんですよ。本来、捨てられる部分ですからね、革は。もともと生きていたものが死んで、また再び生き返らせる。僕の作品の前で、見た人がみんないろいろ語るわけです。僕は、それが“生きている“ということだと思うんです」
本池秀夫さんは鳥取県米子に生まれた。近くにアメリカ軍の基地もあり、進駐軍やGIが闊歩していた街。ハーレーダビッドソンWLAのサイドカーにメールバッグを積んだ兵隊を見たこともしばしばだった。憧れと畏れ。本池少年はそんな日常を、ポケットに入れた革の端切れを握りながら見つめていた。革を触ると、なぜか安心できたという。本池秀夫さんの「旧いモノ好き」「アメリカ好き」は、この街の風景が出発点だったかもしれない。
そんな彼が上京するのは18歳の時。東京の青山セントラルビルに、住居兼アトリエを構えた。そこには、後に日本を代表することとなるアーティストやデザイナーなどが集まっていた。中でも印象的だったのは、後のゴローズの創業者、高橋吾郎氏だったという。
「吾郎さんが僕に言うんだよ、『ハーレー、すごく面白いからお前も買え!』って。吾郎さんがその場でバイク屋に電話して、買うことになった(笑)」
初めて買ったハーレーは、’85年式のFLH。これが、後に本池さん生涯の趣味となるバイクとの出会いだった。そんな仲間との触れ合いの中で刺激を受けながら、1971年、革を作る会社としてMOTOを創設する。本池さんが20歳の時だった。
その後、寝袋ひとつ持って、ヨーロッパ放浪に出かけたという本池さん。見るもの全てが新鮮で刺激的だった。スペイン、南仏、イタリア……ローマでふと立ち寄った骨董品屋で、本池さんは運命の出会いを果たす。それは、人形作家が作った磁器の人形だった。
「佇まいが生きてるみたいでね、素晴らしかった。これを革で作ったら面白いんじゃないかと」
革人形作家、本池秀夫の誕生だった。とはいえ、世界中に革で人形を作る人間は一人もいない。全ては手探りのスタートだった。もともと、ノーマン・ロックウェルの世界観が好きだったということもあり、旧きよきアメリカの日常を、革人形で切り取った。当時の衣服や靴、バイクなど、全てヴィンテージを参考にしながら作り上げていく。彼の作品が、よりリアルで精緻なのは、こうした背景があるからなのだ。そして、これこそが、現在のMOTOへと続く原動力ともなっている。
2021年、アート活動50年の集大成として、故郷である鳥取県米子に「本池美術館」を開館させた。彼の作品が並ぶ、世界で唯一無二の「レザーアート」のミュージアムだ。それと同時にクラフト活動も本格的に再開させた。それがMOTORのネイティブシリーズ。本池さんがシルバー彫金を行い、彼の世界観を表現している。
世界で類い稀なるレザーアーティスト、本池秀夫。そして、彼が作ったMOTO。これからの未来が、楽しみで仕方がない。
MOTO、その先の未来へ。
現在、MOTO、そしてMOTORは、本池秀夫さん、次男の作人さん、三男の良太さんが携わっている。ちなみにMOTORは、MOTOのROOTSを意味し、本池秀夫さんの趣味であるモーターサイクルカルチャーや、モノ作りに影響を受けたミリタリーやネイティブアメリカンをテーマにした、ウエアを中心としたライン。創業から50余年を迎え、本池秀夫さんの哲学を受け継ぎつつも、新たなる挑戦を続けていくMOTO、そしてMOTOR。革の可能性を広げる実験的なアイテムや、エキゾチックレザーなどを使ったもの、シルバージュエリーなど、その未来から、目が離せない。
【問い合わせ】
MOTO
http://www.motostyle.jp
(出典/「Lightning 2025年1月号 Vol.369」)
Text/T.Ogawa 小川高寛 Photo/S.Kai 甲斐俊一郎
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