Langlitz Leathersの創始者、ロス・ラングリッツの魂を受け継ぐモーターライフ。
バイクに乗らない人でも『Langlitz Leathers』と言えば、ほとんどの人はまずバイク乗りの姿を連想することだろう。ライダースジャケットを造る老舗ブランドは数あれどLanglitz Leathersほど、バイク乗りとの親和性が強固であり続けるブランドは他にない。
そのキャラクターは、創業者ロス・ラングリッツのスピリッツが現代まで受け継がれ続けていることが最大の理由である。創業から75年以上経過する今でも当時のスタンスが頑なに守り続けられるほど絶対的な存在感を示す創業者だが、Langlitz Japanの代表を務める岡本隆則氏にとってロス・ラングリッツはビジネスを超えた特別な人物なのだ。
「一言で言えばロスは自分にとってのヒーローなんですよ。本国Langlitz社との付き合いが始まった約30年前にはロスはすでに他界していたため、直接本人とお会いできなかったのですが、ファミリーと関係を深めていく中でロスを知れば知るほど惹かれていく。
バイカーであり、デザイナーであり、優れた経営者でもある。造るモノ、選ぶモノ全てに彼の無二のセンスが表れていて、そこには多大な影響を受けています」。
岡本氏は特にヴィンテージハーレーに関して全国の旧車乗りと強い繋がりを持ち、過去には’36年から’57年までの全年式のハーレーを集結させるコンテンツを名古屋のカスタムショー内で開催するなど、日本の今のシーンを築き上げたキーマンのひとりと言える。
愛車である’47年FLナックルヘッドは、ストックを基調に当時の時代感を尊重したドレスアップを施したスタイルで長年走り続けているが、実は元々乗り物はクルマ一辺倒で、Langlitz Leathersとの出会い、創業者への憧れが岡本氏をヴィンテージハーレーと引き合わせたのだ。また、偶然だが’47年はLanglitz Leathersの創業年であることも運命的なものを感じざるを得ない。
そして長く愛しているクルマはロスが生前所有し続け、後に直接ラングリッツ・ファミリーから譲り受けたPORSCHE 911L。二輪四輪を問わずスピード狂として知られるロスは、PORSCHE 356やALFA ROMEOなどのスポーツカーも所有していたが、最後まで自分の手元に残していたのがこの1台。その素性はロスを自身のヒーローと位置付け、リスペクトする岡本氏にとって何よりも価値があるヒストリーなのだ。
「ショートホイールべースのナローの中でも純正度の高さや、コンディションの良さなどから見て現存していることが奇跡と言える車両ですが、自分にとってはロスが運転していた車両であるという事実が何より重要。ロスと同じステアリングを握り、同じ視線で運転していると思うと感慨深いものがあります。また、当時のスポーツカーということもあり、誰でも簡単に操れるものではないこともこのクルマの魅力。
’40年代のハーレーを今の道路で乗ることももちろん現代車と比較すれば簡単ではないのですが、ピーキーなスポーツカーを扱うことはヴィンテージHD以上の緊張感があり、20年近く乗り続けていても100%乗りこなすことができないポテンシャルの高さを感じます。だから飽きることがない。おそらくロスが生涯手放さなかったのはそこなのかなと思います」。
’40年代のHDと’60年代のPORSCHE、ツーリングバイクとスポーツカー、時代もメーカーも、それぞれの車両が持つキャラクターも全く異なるが、岡本氏がこの2台に乗り続ける背景にはロス・ラングリッツの存在が垣間見える。単なる移動手段としての乗り物ではなく、岡本氏のライフスタイルに欠かせないピースになっているに違いない。
「ロス・ラングリッツは自分にとってのヒーローです」。
1947年にポートランドのハーレーディーラー『East Side Motorcycle Co.』とダブルネームで製作したコロンビア。East Side Motorcycle Co.のボールチェーン、ロスがプレジデントを務めたFylying Fifteen MCのバッジが残っている貴重な1着だ。
岡本氏がバイクに乗る際に最も着用頻度が高いというデスズ・ヘッド。右は戦後間もない1945年、ブランド創業以前にロスがレース仲間のために5着だけ製作したうちの1着。左はオリジナルを復刻し、岡本氏の体型に合わせてゴートスキンのDポケ付きで製作したカスタムメイドになっている。
ラングリッツ・レザーズの創業者ロス・ラングリッツ。17歳の時にバイク事故によって右足を失うが、義足でレースに参戦し、生涯47個のトロフィーを獲得するほどのスピード狂。ポートランドのバイク乗りの顔として知られ、レース仲間のギアを造ることからレザープロダクツの製作をスタート。ライフスタイル、ビジネス、センスなど、岡本氏はロスから多大な影響を受けたと語る。
岡本氏のバイクギア。ヘルメットは1961~’62年に生産されたBELL 500TX。デカールの跡やサインから、’60年代から’80年代に活躍したカーレーサーLARRY DICKSONが着用したモデルだと推測されるヒストリカルな逸品だ。グローブはチャーチル別注のオールシーズン用ディアスキングローブ。
1947 Harley-Davidson FL/純正度の高い47を当時のアクセサリーでドレスアップ。
約18年前に知人から譲り受け、走り続ける岡本氏のFLは、ハーレー初の市販OHV Vツインとして’36年に誕生したナックルヘッドの最終モデル。ストックの装備を基調とし、ジュエルやアクセサリーパーツによるドレスアップ、ライザー/ハンドルのフランダースセットアップなど、トラディショナルなスタイルをイメージ。
また、ナックルヘッドエンジンの造形美を際立たせるために7インチから6インチへ変更した’30sのエアクリーナーがこだわりのディテールだ。整備は愛知県の旧車専科GOODY MOTORCYCLEが担当。
今年の真夏の炎天下での走行は極力避けていたと話すが、慣れた始動儀式で鼓動を刻み、軽やかに響き渡る排気音がグッドコンディションを物語る。やれたオリジナルペイントのブラックカラーにヴィンテージジュエルが輝く佇まいに往年のアウトローのオーラが宿る。
ヘッドライトに連なるようにオプションのフォグランプを備えるクラシカルなフロントマスク。フォグランプステーのジュエルやフェンダーステーのアクセサリーなど、さりげなく主張するレアパーツも見所だ。
ハンドル周り、シート以外はほぼオリジナルの装備をキープ。ブラックの下から下地や錆が浮き上がるオリジナルペイントに積年の重みが漂っている。オリジナルの雰囲気を崩すことなく、ヴィンテージアクセサリーを用いたドレスアップや、ブラックペイントに対してアイボリーのシートカバーが生み出すコントラストがこの車両のアイデンティティと言える。
1968 Porsche 911L/ロス・ラングリッツが生涯愛したナローポルシェ。
ロス・ラングリッツが他界した後もファミリーが大切に保管し続け、2006年にファミリーから岡本氏が直接譲り受けたPORSCHE 911Lタルガトップ。言うまでもなくPORSCHEはドイツメーカーだが、911LはPORSCHEがアメリカ市場に向けて’68年に499台のみ生産した1イヤーモデルであり、タルガトップはアメリカのオープンモデルの安全基準を考慮して開発されたパッケージ。
つまり911Lタルガトップはアメリカ流儀のポルシェと言っても過言ではないだろう。さらに、’68年の911は玄人好みなショートホイールベースの最終型。クラッチ操作のないスポルトマチック車を選んだのは、右足が義足であったロス・ラングリッツらしい意匠と言える。低走行でオプションの装備やオリジナルペイントのバハマイエローが綺麗に残る奇跡的な個体である。
ロス・ラングリッツと同じステアリングを握り、世界観を共有できる岡本氏にとって唯一無二の1台なのだ。
車両をロス・ラングリッツが所有していた頃からのメインテナンスレコードやパンフレット、当時のナンバーなど様々な資料が岡本氏の手元に残っている。
タルガトップの電熱線のないリア・ラウンドウィンドーは’68年のみのオプション装備。911のタルガトップは’67年からラインナップされるが、’67-’68年は幌が採用され、’69年からはガラスウィンドーに電熱線が標準装備となった。排気量1991 ccの水平対向6気筒エンジンをリアに搭載するRRレイアウトで、当時のカタログスペックでは130馬力、最高速度131mphと表記された。
スポルトマチックとは’68年から採用されたセミオートマチックミッションで、ロスは義足のためにスペシャルオーダーによって、ブレーキペダルの左側に左足用のアクセルペダルを取り付けていた。
’68年までの911は2211㎜のホイールベースによるコンパクトなフォルムが特徴。’69年以降は安定性向上を狙って57㎜延長したため、’68年以前のモデルはショートホイールベースと呼ばれる。
【取材協力】
Langlitz Japan
TEL052-734-6918
https://langlitzjapan.com/
(出典/「CLUTCH Magazine 2024年11月号 Vol.97」)
Text by Yuta Kinpara 金原悠太 Photos by Seiji Sawada 澤田聖司
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