『ビー・バップ』はカッコよくないのがカッコいいの走り
ストレートな下ネタや過激なボケを得意とし、既成のお笑いやテレビ界の常識にとらわれない自由な芸風を貫く野性爆弾のくっきー!。『ビー・バップ・ハイスクール』(以下、『ビー・バップ』)の第1弾が公開された1985年末、まだ小4年生だった。その翌年、友達に観せてもらったレンタルビデオで初めて『ビー・バップ』を目にしたくっきー!は、その独特な世界観に衝撃を受けたという。
「まだ小学生なんで、ヤンキーの概念がなかったというか、よくわからなかったですね。記憶が定かではないですけど、小学校後半くらいからハマったかな。気づいたらあったという感じですね。第1作目はちょっと、どっちかと言うとドロッとしてこわかったですね。明るさはあんまりなかったというか。今日子(中山美穂)がヘビ次(小沢仁志)とネコ次に髪の毛を切られたり…髪を切られた後に新幹線乗ってる時の顔は印象に残ってますね。あんなでかいグラサンはめんのやと(笑)。あれはセンスが抜けてますね。戸塚水産の描写も強烈だったかな。屋上から〝殺〞とか〝悪〞とか書かれてるガラス板落とすのがあったでしょ。あれってどういう意味なのかなと(笑)。あれは今でも鮮明に覚えているけど、毎回観るとゾワゾワしますよね(笑)。あんなことやっていいんかと。戸塚水産はヤバいですね。あんな木村健吾(※当時、新日本プロレス所属のプロレスラー。『ビー・バップ』では他に女子プロレスラーのダイナマイト関西が出演したり、アクションシーンでプロレス技が多用された。)レベルのこわい先生がいても、あんなんあり得るんやと(笑)。相当ヤバいっすよね」
肉を叩き続けるテルはすごすぎて笑うしかない
通常の『ビー・バップ』ファンなら、「ラストのタイマン勝負がすごかった」などという感想を述べるところだが、くっきー!は目のつけどころが違った。『ビー・バップ』シリーズ第2弾は、翌86年の『高校与太郎哀歌』。ここで、シリーズ最強のインパクトを誇る城東工業の藤本輝夫(テル/白井光浩)が登場。やはりくっきー!も、その強烈キャラの洗礼を受ける。
「『哀歌』くらいから言葉のチョイスがおもろいなって感じになってきましたね。テルはやっぱりすごかったです。城東周りは名ゼリフ多いでしょ。『念力出すか?』とか(笑)。演出で笑わろたんが、トオルがボンタン狩りに遭っちゃって、精肉工場みたいなところで正座させられるんですけど、その前でテルがハンマーで肉を叩き続けるんですよ。それを見てトオルがビビり出すんですけど、演出の部分ではそれどういう意味やったのかなと。味な演出やったんでしょうけど、小学生には理解難しかったですね。ただただ肉を叩いてそこにトオルの表情がインサート。肉叩くのとトオルが本気でこわがるのがリンクしてなんか不思議なシーンやなと」
すご味がありすぎて逆に笑えてしまったというテルの演出場面。さらにくっきー!は、城東工業の番長・山田敏光(土岐光明)のニッチなおもしろさも見逃さない。
「ポセイドンって喫茶店で、敏光が電話を壊すシーンがあるんですよ。店員が通報してんのを取り上げて、一度ズッとずれてからもう1回壊しにいくんですけど、そこ撮り直しせぇへんのリアルやなと思いましたね(笑)。ワンミスをそのまま流すんやと。あと成田三樹夫さんがテルのお父さんで出てくるのが、貫禄あるなと思いましたね。テルに植木鉢放ってね。成田三樹夫さんトビ抜けてんなと思いましたね、やっぱり」
そんなくっきー!だが、中学校に上がってからは、『ビー・バップ』の影響でヤンキー生活を送ったりはしたのだろうか?
「中2ぐらいの時に先輩の影響でちょっとヤンキーになりかけたんですけど、そっから一気にバンドブームがきて、バンドの方にいっちゃったんですよね。ヤンキーみたいにちょっと剃り入れてみたけど、ほんま短くて。一応がんばってケンカとかせなとか思ってやったりしたんすけど、やっぱり慣れてないもんで。1回ケンカやってみたんすよ。それで急に動いたら貧血になって倒れた時があって、そっから『ちょっとやっぱヤンキーちゃうな』と思いましたね。でも『ビー・バップ』に教えられましたね、自分が貧血もちやと。それ以降はもっぱら『ビー・バップ』は観たり読んだりして楽しんでます」
ヤンキーの生き様が性に合っていなかったようで、それ以降は専らファンとして『ビー・バップ』を満喫してきたくっきー!。グッズを集めたり、静岡県清水市のロケ地を聖地巡礼したり、くっきー!イチ推しのキャラである菊永淳一(菊リン)役の故・石井博泰と交流したりと、ファン活動は多岐にわたる。
「菊リンと1回飲んだんですよ。新小岩かどっかの居酒屋行ったんですけど、イカしか食べないんですよ(笑)。『菊リン何食べます?』『イカ!』って(笑)。この人ほんま身体ガリガリで、正面のタッパはあるけど、横から見たらもう下敷きくらいの薄さしかなくて。いや〜おもろかったですね、めっちゃいい人やった。亡くなられてしまったのはすごく残念(泣)。酒の飲み方が悪かったのか、つまみ、イカしか食わないのは…。途中で一瞬、『だしま…、イカ』と、だし巻き玉子食おうとしてましたけど、やぱりイカと。これも思い出ですね」
そんなくっきー!に『ビー・バップ』の名場面・名ゼリフをたずねると、次から次へと出てくる。
「菊リンと郷ミノルがケンカしちゃって、なんでかわかんないすけど、ミノルが愛徳の校舎をウロチョロするんですよ。ほんで順子(宮崎ますみ)が『あ〜ら、ミノルどうしたのこんなところで?』って声かけて、『菊リンは?』って訊いたら『あんないい加減なやつ絶交した』って言うセリフがあるんですけど、それめっちゃおもしろいんすよ(笑)。この時のミノルは、普段と違ってちょっとおセンチでかわいいんすよね(笑)。そこはちょっと注目して観てほしいですね。菊リンは菊リンで、第3作高校与太郎行進曲』で鬼島刑事(地井武男)に『お前ら、何しに来たんじゃ!?』って訊かれたら菊リンが、満面の笑みで『コーマンです!』って言った時は吹きましたね(笑)。コーマンは名言ですよね。『コーマンです!』って言って鬼島に頭めちゃくちゃどつかれるんですよ。同じく菊リンの『臭うな、お前酢飲んどりゃせんか?』は名ゼリフですね。あと城東退学組の柴田と西が言う『ヒーロシくん、寝小便たれちゃやーよ!』あれもよかったですね」
『ビー・バップ』が後世に与えた影響
くっきー!は、『ビー・バップ』が後世の映画にも多大な影響を与えたと力説する。
「『行進曲』で、桜ヶ丘の大番長・腹巻鉄也(髙瀬將嗣)が愛徳に来た時に均太郎をドロップキックするんすよ。それで均太郎が校庭をブワーッと飛ばされるんですけど、あれはもうおもろかったですね。世界初のワイヤーアクションは多分『ビー・バップ』だったんちゃうんかと。小沢仁志さんに訊いたら『それ人力でやってる』って言ってましたね。『人が引っ張ってるんだ』って(笑)。その次の『高校与太郎狂騒曲』では、トオルが白馬に乗ってやって来るところ。あのCGは『ロジャー・ラビット』(88年)より1年早いですからね。アニメと足してもいいんだと。あれはポカンとしますよね。『どういう意味?』って思いました。腹巻なんてどう考えてもおっさん(※腹巻鉄也を演じる髙瀬將嗣は『ビー・バップ』シリーズの技斗監督で当時30歳。腹巻役は、急遽の代役出演だった。)ですよね(笑)。ほんまに子供心に『おっさんやん!』って思ってましたもん(笑)。正味な話、前川新吾(小沢仁志)もだいぶ歳いってんなって思いつつ、お二方ともアクションで観客をわからせる!さすがやなと。あれはおそらく『AKIRA』(88年)にも影響与えてるでしょ。顔はおっさんだけど中身は子供っていう(笑)。あと第1作ではヘビ次の鼻筋とかにシャドウみたいなメイクが入ってるんですよね。それが違和感ありますね。多分ビジュアル系バンドの走りやと思うんですよ。X-JAPANとかLUNA SEAとかは、あれの影響だと思いますね(笑)」
『ビー・バップ』以降も、名作と言われるヤンキーマンガや映画は数々誕生したが、そのなかにあっても、『ビー・バップ』ほど多くのファンに愛され、語り継がれてきた作品も珍しいのではないだろうか。最後に、くっきー!にその理由を訊いてみた。
「俺らがでけへんことをやっていたというのもあるし、俺らがガキの頃に、すごくお兄さんに見えて、やっぱり憧れの対象やったし。あとは恋愛マンガとかにはない恋愛をするじゃないですか。ラブホ行っちゃうとか、そっちのリアルがいい。あと主人公なのに普通にフラれるとか、この辺のリアルな泥くさいというかね、それはすごくよかったと思いますね。あとはケンカしても普通に負けるし、そういうのがよかったんじゃないすかね。『負けてもええんや』って思わせてくれるというか。負けの美学ですね。『カッコよくないのがカッコいい』っていうのの走りかもしれないですね。泥くさくていいですよね。ほんまにおもろすぎるヤンキー映画は『ビー・バップ』くらいじゃないすか。少年時代の自分らに、ひたすらおもしろいことを届けてくれましたよね」
(出典/「昭和50年男 2023年9月号 Vol.024」)
取材・文:山本俊輔 撮影:英里
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