GREEN FUNDING『Vocci』クラウドファンディングページ
https://greenfunding.jp/focal/projects/9034

Never forget again——もう、忘れない
先行して使わせていただいていたのだが、Vocciの立ち位置は最近非常に増えている『AI文字起こしデバイス』とちょっと違うように感じた。公開されているウェブサイトを見ていると気付きにくいのだが、筆者はVocciの真価は「5秒の短いメモ」にあると思う。
もちろん、2時間の会議を録音することもできるのだが(バッテリーライフ的には最大約8時間)、指にある録音デバイスだからこそ、小さなメモを無数に集めることができる。
「明日、○○さんにメールする」
「この製品、こういう切り口で記事にしたら面白そう」
「次の取材でこれを聞く」
こんなことを思いついても、iPhoneを取り出してメモするのは面倒。しかし、「覚えておこう」と思って、だいたい忘れる(笑)。Vocciなら指のボタンを押して数秒しゃべればいい。そうすれば、あとから「昨日Vocciに入れたToDoって何だっけ?」とChatGPTやClaudeに聞くことができる。
以前なら細切れの5秒の録音があっても困ったが、今は生成AIにまとめておいてもらえばいい。

翌朝、
「今日の ToDo、まとめて教えて?」
「今日の追加のスケジュールってある?」
「新しい特集の企画で、思いついてたのをまとめて」
と、ChatGPTやClaudeに頼めばいいのだ。
昔から、いい記事のアイデアは車を運転している時や、風呂に入っている時に降ってきたものだが、Vocciがあればそのキラ星のようなアイデアを逃すことはない(捕まえてみると、たいしたアイデアではなかったという可能性もあるが)。
(なお、IP67防水なので、シャワーはOKとのことだったが、風呂や温泉は、温度や酸性・アルカリ性などの性質もあってNG。「次作以降の課題にさせて欲しい」とのこと。)
5秒のメモこそVocciに向いている
この筆者の使い方についての感想を、9月25日に開催されたVocciの発表会で、Gyges Labs(ジャイジス・ラボ)共同創業者兼COOのドミンゴ・デン(Domingo Deng)氏に直接聞いてみた。「5秒程度のToDoや、ちょっとしたアイデアをたくさん入れておき、翌日にAIへ『昨日のToDoは?』と聞くのが一番便利だと思うのだが、そういう使い方は想定しているのか?」と質問すると、ドミンゴ氏は「You are right」と即答。「まさに非常に有用なユースケース」であり、リングというフォームファクターがそこに適していると答えてくれた。

普通のボイスレコーダーで同じことをすると、5秒、10秒の音声ファイルが大量にできてしまう。あとからそれを探すのは現実的ではない。しかしVocciなら文字起こしされ、AIが扱える情報として蓄積される。公式サイトでも、会話からToDoを抽出し、ChatGPTやClaudeから過去の記録を参照できるとしている。つまり短い録音が単なる「音声ファイル」ではなく、自分自身の検索可能な記憶になっていくわけだ。
AIに足りない「リアルワールドのコンテキスト」
この使い方は、Gyges LabsがVocciでやろうとしていることにもかなり近い。ドミンゴ氏は発表会で、「AIはPCやチャットボットの中だけに存在するべきではない。日常生活のリアルなコンテキストを理解し、必要な時に助けてくれる存在であるべきだ」と説明した。そのためにウェアラブルAIを、AIエージェントに欠けていた「コンテキストレイヤー」として位置付けているという。

ドミンゴ氏自身もVocciを使う前後で何が変わったのかという質問に、以前はメールやPC、スマートフォンに残っている情報しか拾えなかったが、Vocciを使うようになって、歩いている時やネットにつながっていない飛行機の中で思いついたことなど、「リアルライフのコンテキスト」を拾えるようになったと答えている。これはまさに筆者が5秒メモで感じたことと通底している。
AIは世界中の膨大な情報を知っている。しかし、今日筆者が廊下で誰と会い、何を頼まれ、どんな記事を思いついたのかは知らない。VocciはAIそのものを賢くするのではなく、現実世界で起きたことをAIへ渡すためのデバイスなのだ。この発想は、単なるAIレコーダーよりずっと面白い。
社名の由来は、プラトン『国家』の「ギュゲスの指輪」
ここでVocciを開発するGyges Labsについて触れておこう。社名の「Gyges」は、なんとプラトンの『国家』に登場する「ギュゲスの指輪(The Ring of Gyges)」に由来する。身につけると透明になれるという指輪の寓話である。Gyges Labsはそこから「人間の能力を拡張する」という着想を得ており、「すべての人をスーパーヒーローにする」をミッションとして掲げている。

会社は2022年創業で、シンガポールに本社を置き、シリコンバレーにAIとソフトウェアの開発部隊を持つ。共同創業者は4人。CEOのJY氏とCPTOのフェリックス氏はスタンフォード大学で博士号を取得し、フェリックス氏はアップルでVision Proの開発にも携わったという。チーフサイエンティストのシユアン氏はUCLAでコンピューターサイエンスの博士号を取得し、GoogleでAI研究に携わっていた。ドミンゴ氏はコンシューマーエレクトロニクスのグローバルオペレーションやサプライチェーンに約20年の経験を持つという。
創業者の経歴からも分かる通り、同社は光学系デバイスについての造詣も深い。今後はスマートグラス、スマートウォッチ、ペンダントなど、用途に応じて異なるフォームファクターのAIハードウェアを展開していく考えだという。
3〜5gの指輪に8時間録音、最大5mの収音性能
ではVocciそのものを見ていこう。重量はサイズによってわずか3〜5g。航空宇宙グレードのチタンを採用し、IP67の防塵防水性能を持つ。高性能MEMSマイクを1基搭載し、収音範囲は最大5m。本体に64MBのストレージを備えるので、スマートフォンがなくても単体で最大8時間程度録音できる。充電ケースから最大3回充電でき、Bluetooth 5.4、iOSとAndroidの両方に対応する。

操作もシンプルだ。ダブルクリックで録音開始/終了、録音中のシングルクリックで重要な部分を「ハイライト」としてマークし、長押しでVocci AIを呼び出す。録音開始時にはバイブレーションでも知らせてくれる。
文字起こしは100以上の言語に対応し、日本語と英語、中国語などが混在する会話も扱える。AIは「概要」「キーポイント」「決定事項」「未解決事項」「ToDo」「チャプター」などに自動整理し、過去のメモを踏まえた分析も行う。文字起こしデータはテキストやMarkdownで、音声はWAV、M4A、MP3で書き出せる。さらにMCPを介してChatGPT、Claude、Googleカレンダー、Notion、Evernoteなどとの連携も想定されている。
無料でも5時間。サブスクは3段階
気になる料金体系についても質疑応答で詳細が明らかになった。Vocciは有料サブスクリプションに入らなくても利用でき、無料のStarterプランでは月300分(5時間)まで文字起こしが可能。クラウドストレージは2GB。有料のPlusは月額3000円、年額2万2000円、Proは月額6000円、年額4万5000円で、プランによって文字起こし時間、Vocci AIとの会話回数、クラウドストレージ容量が異なる。Plusは10GB、Proは20GBとなる。

また、複数の録音を横断して検索できるのかという質問には「もちろん対応している」と回答。Vocci AIについては独自AIと説明され、複数言語が混在した会話でも、主要言語を判断して要約するという。実際、フォーカルポイント田中さんによると、日本語、英語、中国語やタイ語などを混ぜたテストでも文字起こし可能だったとのこと。
9月30日11時、2万9990円からGREEN FUNDING開始
Vocciの希望小売価格は4万9990円。日本ではフォーカルポイントがパートナーとなり、2026年9月30日11時からGREEN FUNDINGでクラウドファンディングを開始する。発表会で示された最安プランは2万9990円で、Vocci本体に事前送付されるサイジングキットと、通常6000円のPro Plan 1カ月分が付属し、これらを含めると「実質最大43%OFF」としている。
GREEN FUNDING『Vocci』クラウドファンディングページ
https://greenfunding.jp/focal/projects/9034
筆者としては、1時間の会議を丸ごと文字起こしすることより、やはり5秒、10秒の録音を1日に何度も残す使い方に魅力を感じる。
生成AIがこれだけ賢くなった今、次に必要なのは、さらに賢いAIではなく、「AIに自分の世界をどう伝えるか」なのかもしれない。 Gyges Labsが言う「Real World Context Layer」という少々大仰にも聞こえる言葉も、5秒の音声メモを毎日使っていると、なるほど、そういうことかと思えてくるのである。
(村上タクタ)
関連する記事
-
- 2026.08.31
Shokzはイヤフォンに留まらない──Shokz深圳で聞いた「次のウェアラブル」戦略
-
- 2026.08.31
耳に負担なく高音質、OpenDots 2、OpenDots Air発売