
熱狂的ファンの集まったEven Day
——7月17日に都内で開催されたEven Dayは非常に盛況だったようですね。1年前には、ホテルのロビーで2人きりでインタビューできましたが、もう今やウィルCEOはヒーローですね!
「会場に来て盛り上がりを見て欲しかったです。次回はぜひ。今回のイベントは私の予想をはるかに超える盛況ぶりでした。当初は70人規模の会場を予約していたのですが、エントリーの多さに驚いて、急遽大きな会場に切り換えました。最終的には300〜400人以上の申し込みをいただきました。みなさん非常に情熱的で、開催して本当によかったと感じています。日本のコミュニティとより近い距離を保つためにも、こうしたイベントはもっと頻繁に開くべきだと思っています」

10億ドルの使い道
——10億ドル(約1600億円)の資金調達で、Even Realitiesはユニコーン企業となりました。しかもすでに黒字化したと聞きます。ウィルCEOは大きな成功を収めたわけですが、実際のところ会社はどういう状況なのでしょうか?
「単にベンチャーキャピタルから大きな資金を調達しただけでなく、当社はビジネスとしてすでに黒字化しています。会社は成長段階にあり新しいスタッフも多く採用しているため、利益幅そのものは大きくありませんが、現時点で世界のスマートグラス企業のなかで実際に黒字化しているのはおそらく当社だけです。
これにより、R&Dへの投資を続けられる健全な利益率を確保できています。収益性が高まるとすぐに商品価格を下げたり、低価格モデルを用意する戦略を採ったりする企業もありますが、Even Realitiesはまだまだ技術を前進させなければなりません。我々にとっては健全な利益率を保つことが重要だと考えています。投資家の資金を燃やし続けることに常に頼ることはできません。自ら健全なキャッシュフローを生み出せてこそ、信じるものに投資し続けられる健全な事業になるのです。
——では、調達した資金は何に使うのでしょうか?
「利益は主に次の3つに投じていきます。
第1に、R&Dチームの拡大です。光学、ソフトウェア、ハードウェア、機構設計といった複数の領域で、優秀な人材を採用し続けています。
また第2に、自社の資産取得や自社工場の建設にも投資しています。当社はおそらく唯一、自社工場を持つスマートグラスブランドです。現在その広州工場の拡張に取り組んでおり、製造能力を高めると同時に、R&Dを支えるより高度なラボも工場内に併設していきます。当然その分のコストもかかります。
そういえば、先日ThunderVoltではShokzの深圳の工場を取材していましたが、広州は深圳からそう遠くありません。次回中国にお越しの際には、ぜひEven Realitiesの工場をご案内したいですね。当社の共同創業者の一人は、実は Shokz の初代デザイナーです。Shokz の最初の5世代を手がけた人物で、いま私の共同創業者になっています。Shokz は人間工学デザインで最も優れた製品のひとつですから、当社が装着感・人間工学に優れた製品づくりを得意としているのも、こうした背景があるからです。
そして、第3にマーケティングと小売展開に資金を投じています。すでにヨドバシカメラやビックカメラへの展開を始めています。今後もさらに多くのチャネルに広げていく計画で、マーケティング支出も増やしていきます」

ヨドバシの想定の4〜5倍の売れ行き
——日本では、家電量販店などでも試用できる場所を増やしていると聞きます。現在どういう状況にあるのでしょう?
「これまでのところ非常に好調です。ヨドバシでは全店ではなく一部店舗から試験的に始めましたが、最初の週から期待を大きく上回り、先方の想定の4〜5倍の売れ行きでした。お客様が行列を作るほどです。今回ヨドバシの責任者の方々ともお会いしましたが、この実績を大変喜んでくださり、より多くの店舗へ一緒に広げていきたいと前向きでした」

想像以上に活用されたEven Hub
——私が最初に買ったEven G1から、G2へとかなり大幅な進化を遂げるとともに、アプリが別ものになったり、OSとしてもかなり違うものになっています。実際に、製品を出してみて、一般ユーザーが多く使った機能について、予想外だったものはありますか?
「想定どおりだった用途もあれば、まったく予想外だったものもあります。
想定どおりだったのは会話まわりの機能が好評だったことです。翻訳、会話補助、テレプロンプターなどの機能を日々の仕事に役立てている方がたいへん多いです。
予想外だったのは、Even Hubの人気です。想像以上に多くのユーザーが実に創造的な使い方をしています。自分でアプリを作り、独自の方法で活用しているのです。Even Dayでは、サードパーティ開発者による 500以上のアプリが Even Hub 上に公開されていることを発表できました。さらに驚くべきことに、公開・掲載されていない(自分専用に作られた)アプリが 4,000以上あります。AIによって誰もが素早くコードを書きモノを作れるこの時代には、『自分のために、自分専用のアプリを作る』といったことが、さらに当たり前になっていくと思います」
——Even Hubに関しては課題もあるように思います。数多くのユニークなアプリがあると聞きましたが、どれが人気で、使いやすいのか分かりません。
「ご指摘通り、想像以上に多くのアプリを公開いただいため、アプリのレコメンドやキュレーションの機能が不足してしまいました。すでに500〜600ものアプリがあり、アプリを探す人にとっては、どれを選べばよいのか非常に分かりにくい状態です。この点はEven Dayでも触れましたが、近いうちにアップデートでこの情報を改善していきます。
ちなみに私が最もよく使っているのは電子書籍(eBook)アプリです。『Books』というアプリで、多くの無料書籍が読めます。有名な小説の多くが揃っていて、とても手軽に読めます。リングを使ってスクロールしたり、ページをめくったりできます。日本語の書籍もありますから、ぜひ試してみてください」
米国と日本が最重要市場。日本はすでに世界売上の20%近い
——ウィルCEOに初めてメール経由でインタビューをした時は、ヨーロッパを中心に展開していて、アメリカで売れ始めているという状況でした。
当時は日本には明確には展開されていなかったのですが、我々のようなマニアが海外から購入していました。中国には展開されていませんでした。今はどういう状況ですか?
「まだ中国本土には本格展開しておらず、当面は 米国・欧州・日本・中東 の4地域を重点市場としています。もちろん強い需要のある韓国、シンガポール、マレーシアなど他のアジア諸国にも広げていきますが、注力するのは米国・欧州・日本・中東の4地域です。
中でも米国と日本を最重点の2市場と位置づけます。日本はすでに全世界売上のおよそ20%に迫っており、非常に好調で、さらに大きな需要と成長余地が見込めます。そのため日本にはこれまで以上に力を注いでいきます」
低価格版は、部品調達コストを下げられる2〜3年後?
——円安が強く、我々にとって海外のガジェットは非常に割高で、購買力は高くないと思います。それでも日本を重視するのはなぜですか?
「これは私自身も驚いた点です。『日本の景気が良くない』という声を多く聞くなかでも、皆さん購入してくださっています。
景気が悪くなると人は支出を切り詰めます。娯楽や趣味のための出費、たとえばゲーム機などは買わなくなるでしょう。しかしEven G2は仕事に不可欠なものです。景気が下向くと、人はより良く働いてより稼ぐ方法を見つけようとします。つまりこれは、人がより高いパフォーマンスを発揮するのを助けるデバイスなのです。
いずれは、より手の届きやすい価格帯に到達したいと考えています。ただし、それは健全な利益率を保ちながら行う必要があります。それが会社が成長を続けられる唯一の方法だからです。この技術はまだごく初期段階にあり、内部のコンポーネントの多くはコスト面で最適化されていません。数量が増え、製造が成熟すればより部品調達コストを下げることができるでしょう。私は、2〜3年ほどでそこに到達できると見ています」
カメラを付けて他人に不安を感じさせるデバイスにしたくない
——Meta Ray-Banや、Rokidなど、カメラ付きのデバイスも人気を博しています。一方、それらを装着して街に出ると、カメラが装備されていること自体が心理的抵抗(私は写真を撮る気はないのに……)を生むことがあります。
一方、AI利用においては、「今、私が見てるものについて解説して」「(読めない外国語のメニューを見ながら)この中で私が気に入りそうな食べ物は何?」というような、視覚を使った活用に便利さがあります。
現時点ではEven Realitiesは『カメラなし』の路線を選んでいますが、将来的にはどうなるのでしょうか?
「現時点で当社は、スマートグラスにカメラを載せることに対して、かなり明確に反対の立場をとっています。もちろんカメラが有用な場面があることは理解しています。しかし同時に、人々の間に不信を持ち込みもします。
『自分は誰かに撮影されているのではないか』という不安。すでに、公共の場でグラスのカメラを非常に不適切に使う事例も出ています。だからこそ、いまスマートグラスにカメラを載せるのは責任ある姿勢ではないと感じています。このカテゴリーはまだ黎明期であり、世間がこのカテゴリーを信頼できるかどうかがとても重要です。
スマートグラスを見て不快に思う人が出れば、『スマートグラスを着けている人自体が嫌だ』となりかねません。『スマートグラスは他人の権利を軽んじる道具ではなく、自分自身を助けるためのデバイスなのだ』と受け止めてもらいたいのです。これも、いまカメラ搭載に強く反対している理由です。
将来的にはEven Realitiesのスマートグラスにカメラを搭載する可能性もありますが、それは、適切な規制やルールが十分に整い、プライバシーがきちんと守られると人々が安心できるようになってからのことです。
毎日着けるものだからこそ、使うときに心理的な負担を感じさせたくありません。ある場所で急に『自分も、周りの人も心地よくない』と感じるような事態は避けたい。だから少なくともここ数年は、カメラを装備しない方が望ましいと強く考えています。もちろんカメラ付きグラスがあってもよいのですが、それは通常のグラスのように毎日着けるものではなく、適切な場面――子どもと外出して楽しむとき、犬の散歩のときなど――に限られるでしょう。日常の仕事のためのものではありません」
最大の競合はMeta、そして近い将来のアップル
——今、スマートグラスが非常に大きな注目を浴びています。Even G2は非常に人気ですが、ライバルだと捉えている他社のスマートグラスはありますか?
「現時点で最大の競合はMetaです。ただし方向性の異なるグラスを作っています。とはいえ同じカテゴリーにいて、『カテゴリーの定義』をめぐって競争していると言えます。当社としては、スマートグラスといえば反射的に『Meta Ray-Ban のこと、つまりカメラとスピーカーが付いていて写真を撮るもの』と連想されるようになって欲しくありません。
『Meta Ray-Banだけではない、別の方向性もある』と知ってもらいたい。日常の生産性を高めるために作られ、プライバシーをより重視した方向性です。Meta は当社に最も近い競合の一つで、彼らもディスプレイ付きスマートグラスに取り組んでいます。ただ、リリースされたディスプレイ版はあまり成功しておらず、重すぎて実用的とは言えません。とはいえ、より軽量なバージョンも準備中だと聞いており、今後、両社の競争はますます激しくなるでしょう。
そして将来、当社にとって最大の競合になるのはやはりアップルだと考えています。アップルはまだ製品を持っていませんが、開発を進めています。来年、おそらくMeta Ray-Banに近い、カメラとスピーカーを備えディスプレイを持たない製品を出すでしょう。さらにディスプレイ付きのバージョンにも取り組んでおり、こちらは2〜3年ほど先になるとみています。その時には、アップルも当社の直接の競合になります」
Even G3に相当するモデルは、まだしばらく出ない
——Even Dayで、次期モデル、つまり『Even G3』についてウィルさんが語ったと聞きました。あたらめて、G3の仕様、発売想定次期について教えて下さい。
「Even Day で同じ質問を受け、少しだけ触れたところ、報道各社が一斉に『CEOがG3について語った』と書いてしまいました。これは当社のお客様にとって、あまり良いことではありません。まだ次期モデルはそのような名称になるかどうかも分かりませんし、発売時期はそれほど近い未来ではありません。
とはいえ、全体としてより良い体験づくりに取り組んでいるのは間違いありません。そのひとつが、グラスとのやり取りをさらに簡単にすることです。現状でも十分に使えますが、完全なシームレスとは言えない場面が多くあります。たとえば翻訳機能を使っているとき、ちゃんと動いているのか分からず、結局スマートフォンを確認してオンにする、といった具合です。今のところ、Even G2の動作の細部はまだ完璧ではないと考えて改善に努めています。
『本当に使いやすい』と感じられるよう、この点の解決に強く注力していきます。あなたのご両親など、高齢の方に渡しても、すぐに使い方が分かる――そこを重視して最適化していきます。
次期モデルはそれほど早くは出しません。今のところG2で十分に良いからです。私たちはプライバシーを最優先し、本当に信頼できるスマートグラスづくりに専念していきます。ブランドを信頼でき、製品を信頼でき、そして周囲の人も『Even Realitiesのグラスを着けている人』を信頼できる――そこを目指して取り組んでいきます」
このインタビューを可能とした、かなり実用的な翻訳機能
冒頭に述べたように、このインタビューはEven G2の翻訳機能を使って行なった。つまり、多くの人がEven G2を使うようになれば、言語間の敷居は大きく下がるということだ。通訳の方の助けを借りたりして、数多くのインタビューを行なってきたが、デバイスの機能だけで完全にインタビューが成立したのは初めての体験だ。
音声を使う翻訳デバイスだと、相手のライブの声が聞こえなくなるし、スマホの文字翻訳だとスマホを見なければならなくなる。それらの方法では、目線やうなずきやジェスチャーなど非言語のコミュニケーションができなくなってしまう。対して、Even G2はデバイスによる翻訳と非言語コミュニケーションを併用できるのが大きい。
もちろん、ウィルCEOと、筆者の両方がEven G2の翻訳機能を使い慣れているというのもある。言語の通じない相手と話しながら、目の前に浮かぶ緑色の文字を読むのは簡単な作業ではない。また、互いに翻訳されやすい文体で話し、翻訳が表示される間を取る……というようなコツもあると思う。
しかしながら、筆者にとってデバイスの翻訳だけで行なった初めてのインタビューではある。おそらくい相手が協力的でさえあれば、フランス語や、スペイン語、中国語など、筆者の全然理解していない言語でもインタビューは可能だと思う。多くの人が、Even G2のようなデバイスを使いこなす世界になるといいなと思う。
ぜひ、試してみて欲しい
一方、インタビュー中でウィルCEOが語ったように、まだ完全でない部分もあって、取材中に私のEven G2の動画が重くなり、翻訳のタイミングが遅れ気味になったので再起動したりもした。ウィルCEOが相手だから、「申し訳ないけど、再起動するまで待って」と言えるが、通常のインタビューだとそうもいかない。つまりは、ウィルCEOの言う通り、もう少しの洗練が必要ではある。
ともあれ、現時点では、Even G2はもっとも実用的なスマートグラスだと筆者は思う。翻訳、テレプロンプト(プレゼンなどで話す時のカンペ)、Even AIを呼び出して質問する……などの用途については非常に実用的である。また、Even Hubでリリースされている機能で、自分の用途に合うものがあれが、それも実用的に使えるだろう。ちょっとしたポモドーロタイマーや、ウィルCEOの話していたBooksなどのアプリも実用的だ。探してみればもっと自分の使い方にフィットする使い方があるかもしれない。
試用出来る店舗も少しずつ増えつつあるので、ご興味のある方はぜひお試しいただきたい。
(村上タクタ)
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