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「世界の工場」と言われる深圳の、Shokzの生産設備に驚いた

オープンイヤーイヤフォンの世界トップメーカーであるShokzの招待を受けて、同社の深圳の会社・工場の見学に行ってきた。 中国・深圳が世界の工場と言われ、世界中で使われているありとあらゆる製品・とりわけ電子機器を作っていることは皆さんご存知だとは思うが、その実態を知る機会があるのはデジタル機器業界でお仕事をされている方だけではないだろうか。もちろん、筆者が見てきたのは深圳のごくわずかな部分だけだとは思うが、Shokzがその「Be Open」というモットーにしたがって見せてくれた工場内部の様子をお伝えしよう。

今回の取材は、中国、アメリカを除くワールドワイド(Shokzのマーケティング部門はその3つに別れている)対象で、日本、韓国、ドイツ、イギリス、フランス、ベルギー、オーストラリアの8カ国から40〜50人のメディア、インフルエンサーが招待された『Shokz OpenTour』と銘打ったプレスツアーに基づいている。まず、Shokzが世界各国からそれだけの人を呼べるようになったということに驚いた。歴代の販売台数は、ワールドワイドで2000万台に及ぶのだという。

『世界の工場、深圳』って、どんなところ?

まず、一般論としての基礎知識から。

今回、見学した工場のある『深圳』という土地について、お話ししよう。

深圳は、中国南部、広東省の海沿いにある都市だ。2000年以上の歴史を持ち、『海のシルクロード』の起点だった広州と、1997年にイギリスから中国に返還された香港の間に位置し、なんと1980年代まではひなびた漁村だったという。わずか40年ほど前の話だ。

それが改革開放路線を採用した鄧小平の指示により深圳経済特区に指定されると爆発的な発展を遂げた。香港という自由主義経済との結節点となる土地だったのが最大のメリットだったのだろう。設備が整えば多くの人的資源が中国全土から流れ込み、資金が香港を介して流れ込む……という好循環が深圳を『世界の工場』へと押し上げた。

広州・深圳都市圏(珠江デルタ)の人口は何と約7000万人(2025年)。いかに巨大な都市なのかが良く分かる。

今回、取材できたオフィス・工場は4カ所。まずは、ヘッドオフィスとしての機能を持つ深圳市街地のオフィス、組み立て工程を担う超巨大な東莞の製造工場、Shokzの自社工場である坪山区のシリコン成形工場、そしてShokzの信頼性を裏付ける深圳郊外にある自社の検査設備、この4カ所を見ることができた。

郊外の工場に向かう車窓からの風景。ご覧のような工場と、寮、マンションなどが建ち並ぶ光景が延々と続く。

このレポートでは、東莞の製造工場と、恵州市のシリコン成形工場についてご紹介しよう。

スマホやイヤフォンを作る巨大EMS企業に組み立てを依頼

我々が深圳のヘッドオフィスで会うShokzの人々は極めて優秀で、おそらくはかなり高収入。多くは中国の北京大学や清華大学、日本の東京大学や慶應義塾大学など、各国のトップ大学出身。大学入学年次の人口が約2000万人という中国でトップ大学である北京大学に学ぶ人はどれほど狭き門なのか? まさに科挙を通った進士のような人達だといえるかもしれない。我々に対応してくれる世界市場・日本担当の方々は広東語、北京語(中国標準語)、英語、日本語を話す。英語もおぼつかない筆者としては、舌を巻くばかりだ。

経営や開発、試験などに携わる人はこうした方々だが、量産工場で流れ作業に携わる人達は中国各地から働きに来ている人達で、寮に住まい、大学は出ておらず、収入も限定的で格差は大きい。とはいえ、この工場労働者の人件費はこれでも高騰していると言われており、深圳から一部の製造業がベトナムやインドに流れる原因ともなっている。

Shokzの製造ラインを見せてくれたのは立讯精密(Luxshare)という電子機器組み立て企業。同社は、世界中のさまざまな企業のパソコン、スマートフォン、イヤフォンなどの製造を行っている。Wikipediaによると同社はiPhoneやAirPodsの製造ラインも持つようだ。

従業員の方は、制服を着て帽子を被っており、取材する筆者もご覧のような出で立ちで社内に案内された。

製造ラインは、長いベルトコンベアで構成されており、治具にマウントされたボディに電子部品を取り付けたり、ハンダ付けを行ったりという作業を、ステップによって機械が行ったり、人が行ったりしている。

実際に製造工程を見て驚いたのは、製造工程で使われるさまざまな治具が製品に基づいた形に作られていることだ。作業を行うためのマウントはもちろん、組み付ける部品が並ぶトレーも、その上に載せる部品をホールドするカタチになっている。

また、どのステップで部品を組み付け、ハンダ付けするかによって、それぞれの機械や、人員の配置も、製品に応じたものにしなればならない。おそらく100mにも及ぼうかというそのラインや、治具の製造、人員の教育にはさぞや手間がかかることだろうと思った。我々が『新製品』として取材するデバイスが登場するたびにこれらのラインは再構築されるということだ。

さぞや、新商品のためのラインの構築には時間と手間がかかるのだろうなぁ……と思って、「この生産ラインを作るのにどのぐらいの時間がかかるのですか?」と聞いてみたら「1カ月ほど」との回答だった。深圳おそるべし。

最初に見たのは、OpenDotsシリーズの充電ケースの製造だった。治具にボディ下部が置かれ、そこに非接触充電用のコイルが貼り付けられ、メイン基盤、バッテリーなどが組み込まれていく。コイルから伸びたケーブルの先をほぐす人がいて、先端にフラックス(ハンダ付けが馴染むようにする薬剤)を浸ける人がいて、溶融したハンダの『池』にその先端を浸ける人がいる。そして、ケーブルの先端の位置をハンダ付けする人がいて、その後、機械が所定の位置にハンダ付けする。そして、続いてはハンダ付けの状態を確認する人がいて……という状態である。

製造工程で人がやった方がいい作業と、機械がやった方がいい作業が切り分けられており、それが適切に分配されいてる。そして、必ずさまざまな方法でその仕上がり具合をチェックし、不合格であれば差し戻しをする人がいる。

その後、開閉のヒンジのピンを差し込む人がいて、ヒンジを組み付ける人がいて、バネを差し込む人がいる。老眼が始まった筆者の目では見えないほど小さな部品が着実に組み付けられていく。我々の使っているパソコン、スマホ、イヤフォン……その他ありとあらゆる電子機器がこうやって作られているのか……と驚いた。工員の方々は中国各地から集まって、毎日毎日この工場で製造に携わり、近くに建てられた寮で寝泊まりしているのだ。我々の使っているデバイスはこうして作られているのかと思うと、胸に来るものがあった。

これは別の工場に併設されていた寮。こういう寮に住んで工場で働くのが一般的なようだ。前には屋台が出ていた。

超柔らかいシリコンを作るために、子会社と工場を設立

続いて見学したのは、坪山区の韶音正向精密というShokzの子会社工場。これは、Shokzの製品で使われる、従来世の中になかったレベルで柔らかいシリコンを成形するために開発されたShokz Ultra-Soft Siliconeのために作られた工場だ。

特にイヤーフック型のイヤフォンのかけ心地は、表面素材の柔らかさに大きく依存する。オープンイヤー型イヤフォンは耳の穴を使わないため、どこかで外耳に本体を固定する必要がある。どういう方法であれ、固定するためには皮膚に接触する部分が必要になる。痛みなどの不快感を残さないためには、極力柔らかい素材が必要になる。そのためにShokzは、子会社まで設立し、Ultra-Soft Siliconeを開発したのだという。

この工場ではこういう手順でOpenFitの本体が作られている。

まず一番左が、チタニウムのワイヤー。 このワイヤーのテンションが、オープンフィットのホールド感を実現する。 次に取り付けられるのが、オープンフィットのフレーム。このフレーム内部に、バッテリーやドライバー、Bluetoothの通信チップをはじめとした回路基板などが取り付けられる。

そして、樹脂成形時に両者のフレームパーツの位置をしっかり固定するために補助的ワイヤーが取り付けられる。このワイヤーは完成後取り外される。その後シリコン成形。これによってOpenFit Proのボディが完成するというわけだ。

このパーツがOpenFitのフィット感の良さを実現しているのだ。

こちらがシリコンを流し込んで成形する機械。Shokzの子会社ということだからか、働いている人の服装は自由で、先の立讯精密のような制服もない(リュックを背負っている人物は、我々と同じような取材陣)。聞けば、さほど汚れなどが発生することもないので、制服は不要とのこと。働いている人がOpenRun Proを使っていたりするし、服装もお洒落だったので、先の工場よりはだいぶ給料も良いのだろう。

このシリコンを金型に注入する機械がたくさん並んでいて、次々と金型にシリコンを注入していた。注入後、乾燥したパーツを多くのスタッフの方が念入りにチェックしていた。

この工場には金型を切削するためのCNCも大量にあった。

ここで、Shokzのイヤフォンのボディを成形するための金型が切削で作られている。CNCはMAKINOのV33iという日本製。これに限らず工作機械は日本製が非常に多かった。

より精密な電子部品周りの金型はEDM(Electrical Discharge Machining:放電加工)という手法で作られるそうだ。

この方法で、より硬い金属を精密に工作することができるのだそうだ。

大量生産、スピード感を支える『若さ』

どちらの工場も非常に多くの人が働いているのに圧倒された。特に巨大な高付加価値EMS(Electronics Manufacturing Services)企業である立讯精密の工場では、パーツの組み付け、ハンダ付けなどを自動的に行うロボットと、人の手でやった方が早いデリケートな作業がそれぞれに分担されており、半年や1年など短期間で製品ラインが変わったとしても素早くラインを組み換えられる対応力があるとのことだった。

クルマで移動していると、このような工場が見渡す限り続いているところに深圳のすごさを感じた。我々の身の回りにある多くの製品はこの街で作られているのだ。

また、20年ほど前には海外企業の『下請け』だった企業が、自らのブランドと開発能力を持ち、オリジナリティあふれる製品を作るに至っている。HUAWEI、DJI、BYD、UGREENなどもそうやって中国独自のブランドとして成長しており、Shokzもその中のひとつだ。社内の人も、中国、欧米、日本のトップ大学で学んでおり、自由な気風を持ち、意欲に溢れていて、そして若い。平均年齢はかなり若く、今回のプレスツアーを牽引する人たちも30歳前後である。日本で、これほど若い有能な人たちが集まって意思決定を行えている会社がどれだけあるだろうか?

もちろん、急激な成長は終わって、最近は中国経済は(以前より)伸び悩んでいるとの話も聞く。しかし、実際にこの工場の数と熱気、そしてそれを率いる人たちの優秀さを目の当たりにすると、まだまだ中国企業は成長していくのだろうなと思う。

もちろん、これは14億の人を抱える中国の、ごく一部の側面でしかないと思う。とはいえ、実際にそれを見ることができて非常に勉強になった。ご招待いただいたShokzに感謝したい。

(村上タクタ)

この記事を書いた人
村上タクタ
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村上タクタ

おせっかいデジタル案内人

「ThunderVolt」編集長。IT系メディア編集歴12年。USのiPhone発表会に呼ばれる数少ない日本人プレスのひとり。趣味の雑誌ひと筋で編集し続けて30年。バイク、ラジコン飛行機、海水魚とサンゴの飼育、園芸など、作った雑誌は600冊以上。
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