発売に先んじてBeats 360をお借りしたので、実際に聴いて分かったこと、そしてなぜBeatsが今、このヘッドフォンを作ったのかをレポートしよう。

Beatsといえば、低音が強いイメージだったが
筆者にとってBeatsというと、ラッパーやHip-hop系のミュージシャンが愛用しているイメージ。音のイメージも低音が強くブーストされているイメージだった。しかし、アップルに買収されてからは方向転換をしているのかもしれない。
Beats 360を最初に聴いて驚いた。思った以上に硬質で、正確な音なのだ。
すべての楽器、ボーカルの音がクッキリ分かれていて、それぞれにとても硬質な感じで正確に伝わってくるのだ。ギターの音や後ろで鳴っている小さな鈴のような音、シンバルの響きなどが、かなり細かく分離して聞こえる。ベースやドラムの低い音もしっかりと伝わってくるが、従来のBeatsのイメージのようにボワッと広がった感じではなく、低音も塊として正確に伝わってくる感じ。

いわゆる「ふわーっ」と音場が広がるタイプではなく、ひとつひとつの音の輪郭が明瞭。アタックもかなり強い。
反面、筆者は、曲によっては少々聴き疲れする感じもした。 ボカロ/VTuber系の曲のように電子音やドラム、ボーカルなどが大量に重なった曲では、すべての音が律儀に聞こえてくるので、少々「脳みそを使って聴いている」感じがする。もう少し気楽に聴かせて欲しいなぁ……と思う瞬間もあった。もっとも、筆者が年齢的にそう思うだけで、若い人はそういう「大量の情報が流れ込んでくる感じ」が楽しいのかもしれない。
ともかく昔のBeatsのイメージである「とにかく低音に迫力のあるヘッドフォン」ではない。
実際、Beats自身も360の音作りについて、パワフルな低音だけでなく、広いダイナミックレンジ、細かなディテール、全音域での低歪みを目標にしたと説明している。個々の楽器を正確に再現することも開発目標のひとつだという。なるほど。筆者が感じた「正確さ」は、まさに狙って作られたものだったというわけだ。

アクティブノイズキャンセリングの効きは最新の製品らしくかなり強め。今回は、飛行機の中など、極端にうるさいところでは使ってないが、電車の中だと十分な効きに思えた。
Hip-hopから生まれ、アップルに合流した
ここで、Beatsの歴史を簡単に振り返っておこう。
Beatsは音楽プロデューサーのJimmy Iovineと、ラッパー/プロデューサーのDr. Dre(Andre Young)によって設立され、2008年に最初の『Beats Studio』を発売した。現在のStudio Proまで続く、Beatsの原点ともいえる製品だ。今回の発表会でも、Beats自身がStudioをブランドのアイデンティティにとって非常に重要な製品だと説明していた。

初期Beatsの音は、確かに低音が強かった。初代Beats Studioのサウンドは、Dr. DreやEminemの音、つまりクラブやスタジオで鳴っているヒップホップの低域を、当時のポータブルヘッドフォンで再現しようという意図で作られた。だからBeatsのヘッドフォンのしっかりとした低音は、2008年当時としてはかなり異質だったのだ。
また、Beatsは、ヘッドフォンを『オーディオ機器』から『ファッションアイテム』に変えたブランドでもある。『b』のマークが耳元に輝くヘッドフォンがカッコいいという印象は多くの人が持っていると思う。そんなBeatsをAppleが買収したのが2014年。買収額は総額30億ドル。当時としてはApple史上最大規模の買収で、Dr. DreとJimmy IovineもAppleに加わった。

これによりBeatsはアップルのAirPods ProやAirPods Maxで培われた技術を使えるようになる。アップルとしてはアップルブランドで売るより攻めた製品や、実験的な技術を取り込んだ製品を販売するブランドを手に入れたというわけだ。
今回の発表会でBeatsは、Apple傘下となって12年が経った現在も、音楽やカルチャーとのつながりというBeatsのアイデンティティを維持しながら、Appleのデザイン、技術、エンジニアリングを取り入れてきたと説明している。
アップルで売るには、特徴的過ぎて、ファッショナブル過ぎるが、アップルの由来のテクノロジーを十全に活かしたBeats 360は、その現在地を象徴する製品なのかもしれない。

Studio Proの後継ではない。ヒントは「スポーツシューズ」
Beatsには、Studio Proというフランクシップモデルがあるが、Beats 360はその製品とどう違うのだろうか?
360は構造もクッションもStudioとはまったく違うため、「独自のカテゴリー」が必要だと考えたという。面白いのは、開発のお手本がヘッドフォンではなくスポーツシューズだったことだ。近年、オーバーイヤーヘッドフォンを装着して、ジムでウエイトトレーニングをしたり、ランニングしたり、ハイキングしたりする人が増えている。そこでBeatsは、フィット感がよく、軽く、汗や水に強く、長時間身につけられ、しかも服装に合わせて色を選べるスポーツシューズに着目した。

まずBeatsのオーバーイヤーヘッドフォンとして初めてIPX4の耐汗耐水性能を備えた。ジムで汗だくになっても使える。 さらに、クッションを交換できる。標準装備される『Performance Knit』は36本の高強度マイクロファイバーを使ったニット素材で、柔らかく、通気性が高い。個人的意見だが、このニット素材の利用にもアップルの製造技術や部品供給ラインが活きているのではないかと思う。
それに対して、別売りの『UltraPlush』はより音質を重視してあるとのことでStudio Proに近い質感の素材だ。

本体はブラック、クラウド、スカイ、ピンクの4色。クッションとの組み合わせは32通り、イヤークッションとヘッドバンドクッションまで別々に組み合わせれば最大256通りになる。
単なる着せ替えではなく、クッション内部にセンサーがあり、Performance KnitなのかUltraPlushなのかをヘッドフォン自身が判別、ANC、外部音取り込み、イコライゼーションまで、そのクッションに合わせて自動的にチューニングする。 このあたりもアップル傘下のBeatsらしい凝り方だと思う。

左右のイヤーカップが、実は『完全ワイヤレスイヤフォン』のように動く
内部構造も面白い。一般的なヘッドフォンでは左右のイヤーカップをヘッドバンド内の配線で接続するが、Beats 360では左右それぞれにバッテリー、アンテナ、処理系を搭載。それぞれが独立したシステムとして動く、いわば巨大な完全ワイヤレスイヤフォンのような構造になっている。
そのおかげでヘッドバンドを細くでき、重量を左右のイヤーカップ側へ分散できた。総重量は294.5gで、Studio Proと大きく変わらないものの、実際に装着すると重量バランスが非常によく、フィット感は素晴らしい。
音響部分も全面的に新しい。40mmのデュアルマグネットトランスデューサー、3層ダイヤフラム、専用ハイダイナミックレンジアンプを採用。ドライバー出力はStudio Pro比で12dB向上したという。ANCも9基のマイクと新しいプロセッサーを使い、Studio Pro比で最大1.75倍に強化されている。実際に装着した瞬間、「お、静か」と思うほどノイズキャンセリングは強力だった。ANCオンでも最大32時間再生できるので、日常用途ならバッテリーで困ることも少ないだろう。
ただし、ひとつ残念なのは、Studio ProにあるUSB-C/3.5mmの有線オーディオ接続は360にはないということだろう。そのあたり、有線で高音質なロスレスを楽しむマニア層より、もっとファッションとして音楽を楽しむ層に使って欲しいという意図が見える。
高音質を、お洒落に
スポーツシューズをヒントにして、汗をかいても使えて、クッションを交換でき、服装に合わせて色を変えられる。Appleデバイスではワンタッチペアリング、iCloudペアリング、自動切り替え、「探す」、空間オーディオなどにも対応する一方、AndroidでもFast PairやFind Hub、Beatsアプリなどを利用できる。
5万9800円という価格は決して安くない。5000円値下げされたStudio Proの4万9800円より1万円高いし、音の好みもある。筆者自身、もう少し柔らかく気楽に鳴って欲しいと思う曲もあった。しかし、好みの問題はさておき、音質は正確で、しっかりしている。

音質や、ANCには妥協したくない。でも、通勤にも使いたい、ジムにも持って行きたい、ファッションとしても楽しみたいという人には、一番にお勧めできる製品だ。特にその日のファッションに合わせてイヤークッションとヘッドバンドクッションを変えられるのは、コーディネートの幅が広がって、とても楽しそうだ。
(村上タクタ)
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