
(機体にデカールされたACTソリューションズジャパン、BSIグループジャパン、成田国際空港、双日のロゴ。)
このJA828Jは2026年9月28日から約3カ月、ZIPAIRが運航する全路線に投入される予定。機内エンターテインメントでも、各社の環境への取り組みを紹介する特別動画が配信される。
787-8を間近に見られる!
正直に白状すると、「成田のハンガーでボーイング787-8を間近に見られる!」という下心だけで取材に行ったのだが、結果サステナビリティに関して興味深い話が聞けた。犬も歩けば棒に当たる、編集者も歩けばネタに当たるのである。
ちなみにボーイング787-8というのはシリコンバレーの取材でもよく乗る飛行機で、カーボンなどの複合材で機体の大半が作られていることで知られる。主翼もかなりしなやかで離陸するとグッと翼を上に張るが、地上にある状態では大きく主翼が垂れ下がってる感じがする。
通常のアルミ製旅客機だと腐食を防ぐために機内は乾燥した状態に保たれるが、ボーイング787-8はアルミでできてないのでその心配がなく、機内の湿度が人間にとって快適な湿度に維持されている。簡単に言うとお肌にいい飛行機なのである。西海岸まで約10時間のフライトでこの差は大きい。窓が大きくて電子調光式になっているのもボーイング787-8であることが多い(これは最近、他の機種でも採用されているけど)。
ともあれ、こんなふうにお世話になっている飛行機を間近で見られるのだからうれしいのだ。
脱炭素社会に向けて協力するZIPAIRと4社
というわけで、厳重なセキュリティチェックを受け、我々取材陣は日本航空成田Aハンガーに入った。他の取材メディアはほとんど、普段から航空機系の取材をしている人で、筆者だけがアウェイな感じ。

挨拶されたのは、左2人目から、ACTソリューションズジャパン株式会社・佐藤昌利社長、BSIグループジャパン株式会社・BSIグループジャパン・ディレクターのジェニファー・バニスター氏、株式会社ZIPAIR Tokyo・深田康裕社長、成田国際空港株式会社・玉木康彦副社長、双日株式会社・松永貴裕執行役員。
話の内容を簡単に言えば、「ZIPAIRは『脱炭素社会の実現』に向けてアクションを起こしますよ、そのためにこの4社と協力しますよ」という意思表明である。
しかし、それはまぁ、簡単な話ではない。
たとえば、自動車はEVにすることができるが、飛行機をEVにするわけにはいかない。電池で旅客機を飛ばすことは現在の技術ではできないのだ。後ろにあるボーイング787-8の総重量は228トン(我々乗客や、貨物・燃料を全部積んだ状態)。それを推力約30トンのジェットエンジンを2基使うことで前進させ、主翼に揚力を発生させて浮かび上がる。たとえば、我々が西海岸に行くために使う燃料はケロシン(灯油に近い成分)系のJet A-1を7〜8万リットル使う。つまり、航空機産業はなかなか脱炭素化しにくい性質がある。

これを代替燃料に置き換えるなどすれば、大幅に脱炭素社会の実現に向けて前進する。
実は、廃食油などから作られたSAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)はすでに技術的には実現している。しかし、従来のJet A-1から置き換えられるほど大量・安価に作ることができないのが実情だ。今のところ生産量も少なく、従来のジェット燃料の数倍の価格だそうだ。
つまり、SAFへの置き換えを推進するには、我々を含めた社会全体の理解、脱炭素社会に向けて前進する意思が必要になってくる。そして、その理解を進めるために、今回のようなアクションが行われるというわけだ。
いつかまた、温室効果ガス抑制に向けてもっと努力する時代が来る
今回、成田に行く途中にも最近の豪雨による被害を受けた地域を通った。酷暑や、ネパールの氷河崩壊なども含めて、それら気候変動も温室効果ガスが増えたことによるものだ。また、我々テック好きとしては、サーバー型AIの運用に莫大な電力が消費されていることも見逃せない。すでにAIで必要とされる電力は原発数十基分に及ぶと言われている。そして、負けることができない米中のAI開発競争において、環境を理由に電力消費を抑制できない状態になってしまっている。
温暖化対策は経済振興と逆行する側面がある。現米大統領は温暖化対策に対して積極的ではないが、政権が変わるとこれまでの揺り戻しで脱炭素に取り組む会社が大きく評価されることになるかもしれない。
我々が追い続けているアップルの脱炭素に向けての取り組みのノウハウも、政権が変わって脱炭素に向けての取り組みが再開されれば大きく評価されることだろう。ZIPAIRをはじめ、各社の取り組みもそうしたムーブメントを先取りしたアクションともいえる。いずれにしても、人類が少しでも温暖化を抑制するためには必要になるアクションなのだ。

温室効果ガス抑制の企業努力、どうやって測る?
取材していて、もうひとつ興味深い話があった。
協力する4社のうちのひとつ、BSIについてだ。
BSIと言われてもピンと来ない人も多いかもしれない。BSIはBritish Standards Institution、つまり英国規格協会である。現在のISO規格の原型になった規格を数多く作った組織というと分かりやすいだろうか? ISO(International Organization for Standardization/国際標準化機構)の創設に関わった企業のひとつであり、現在も英国を代表してISOの国際規格策定に参加している。
企業が「CO2排出量を減らしました」「カーボンニュートラルです」と言うことはできる。しかし、どこからどこまでを計算したのか? どういう方法で排出量を算定したのか? 削減できなかった分をどう扱ったのか? その数字は本当に信用できるのか? 各社が好き勝手な基準で計算していたのでは、比較も検証もできない。
そこで『規格』と『第三者による検証』が重要になってくる。ZIPAIRは2025年5月15日、BSIグループジャパンによる検証のもと、カーボンニュートラリティに関する国際規格『ISO 14068-1:2023』に準拠した認証を取得している。資料によれば、航空業界では世界初だという。BSIはこれに基づく『BSIカーボンニュートラルサービス Kitemark』をZIPAIRに授与している。要するに「我々はカーボンニュートラルです」とZIPAIR自身が宣言して終わりではなく、そのプロセスを外部の第三者が検証する仕組みがあるということだ。今回、機体にBSIとして貼り付けられているのもこの『BSIカーボンニュートラルサービス Kitemark』だ。

アップルの脱炭素の取り組みも、第三者機関が測定している
なるほど、筆者はこれまで「アップルがCO2を何万トン削減した」とか、「何ギガWを再生可能エネルギーから調達した」というような記事を書いてきたが、それはアップルが自称で発信しているのではなく、BSIのような第三者機関が計測してはじめて脱炭素の取り組みを可視化できるということなのだ(ちなみに、アップルの取り組みを計測しているのは違う組織のようだが)。
BSIは1世紀以上にわたって標準化に関わり、現在は190を超える国と地域で活動しているという。気候変動だけでなく、自動車、航空宇宙、建築、食品、医療、さらにはデジタルトランスフォーメーションまで対象は広い。飛行機を見たくて成田の格納庫まで出かけたら、その機体に貼られていた『BSI』のロゴから、思いがけずそんな世界が見えてきた。

インタビュー後、あらためて機体の周りを歩き回った。間近に飛行機を見られるのはやっぱり楽しい。

この巨大な機体が、空を飛んで、僕らを海外に連れていってくれるなんて、信じられない。人類にとって不可欠なものなのだから、なんとか脱炭素を進めて、環境にダメージ少なく飛び続けられるものであって欲しい。

取材後、すぐにシンガポールへ初フライト
取材を終えて空港で昼食を取り、展望台に上がったら、さっき取材したばかりのJA828Jがゲートに向けて移動していいるところだった。最初の任務として、16時50分にシンガポールチャンギ空港に向けて飛び立つそうだ。
このステッカーを貼ったZIPAIRを見たら、ぜひこの話を思い出して、脱炭素に向けて少し思いを馳せてみて欲しい。

(村上タクタ)
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