美しさで知られたアップルのパッケージと変化
その昔、電子機器といえば、いかにも『梱包』といった感じの段ボールに包まれていたものだ。どの製品から美しいパッケージになったかは定かではないが、1984年の初代Macintoshはカラフルなピカソ風の絵が描かれていたことで知られているし、1998年のiMacの箱にはボンダイブルーのiMacの写真がデザインされていた。
そして、iPod、iPhoneとパッケージは進化していったが、特にiPhoneのパッケージはシンプルで美しく、『開けた時の歓び』までデザインされており、『開封の儀』という、パッケージを開けること自体を動画にしたり、写真を撮ったりして投稿する文化を生んだ。みなさんも、iPhoneのパッケージを大切に取っておいたり、外側のセロファンを丁寧に剥がしたりした記憶があると思う。
パッケージの工夫でも、温暖化を抑制できる
しかし、時代は変わり、アップルは環境へのインパクトを減らすことを重視するようになった。
特に、ジョブズが体調問題で退き、ティム・クックがCEOに就任した2011年以降、ティムは環境問題をアップルの重要なテーマに位置づけた。2013年にはオバマ政権で米環境保護庁(EPA)長官を務めたリサ・ジャクソンを環境担当の取締役に据えて、アップルの企業活動で地球環境への負荷を減らすことを目標とした。
現在、アップルはすでにアップルの企業活動で温室効果を増やさないカーボンフットプリント・ネットゼロを達成しており、2030年までに(製造を担当する)サプライヤー企業を含めてのネットゼロを達成しようとしている。

ちなみに、パリ協定でEU諸国や日本は2050年のネットゼロを目標としている。中国は2060年。アメリカの現政権にいたってはパリ協定を脱退してしまっている。EVなどの進歩、パリ協定に賛同している諸国の努力、アップルやMicrosoftなどの先進的な企業の努力によって抑制はされているが、実体としてはパリ協定の気温上昇1.5°C目標を達成できるほど楽観的な予測は少なく、「最悪のシナリオよりは抑制できるが、十分ではない(2〜4.5°C上昇)」というシナリオが予想されている。
もし世界が「もっと積極的にサステナビリティを高めなければ!」という方向に動くなら、アップルが開発しているさまざまな方法論は大きな価値を持つはずだ。
それと並行してアップルが進めているのが、今回のアメリカ取材のテーマとなったリサイクルの推進だ。地下資源を消費し続けるのには限界がある。また、コバルトなどの採掘には現地の労働環境の問題もある。アップルは現在、アルミニウム、コバルト、銅、ガラス、金、リチウム、紙、プラスチック、レアアース、鉄、タンタル、チタン、スズ、タングステン、亜鉛のリサイクルを重点目標として行っている。

たとえば、アルミニウムは鉱山からボーキサイトを掘り起こして精製するのに膨大なエネルギーを必要とする。つまり、CO2排出量を増やしてしまうのだ。アルミニウムからのリサイクルであればこのCO2排出量を抑制できる。
アップルのパッケージを一新させた秘密のラボ
そんな中、今回取材することができたのはアップルの『パッケージングラボ』という設備だ。ちなみに、パッケージングラボの取材は日本初。正確な記録がないので断言できないが、世界でも初めてなのではないかとのこと。
場所は非公開とのことだが、Apple Parkからさほど遠くないクパチーノ市街にあるオフィスビルの中にある。ちなみに、Apple Parkは約1万2000人を収容するそうだが、アップルの社員は想定を超えて増え続けており、現在およそ5万人とのこと。Apple Parkにはとても入り切らない。だから、。実はクパチーノやサニーベールには、Apple Park以外にも数多くのアップルのオフィスがある。クルマで走っていると、そこここに青いアップルマークを掲げるオフィスがを見かける。もちろん、秘密主義のアップルとあって、どこのオフィスが何をやってるかは非公開だが。
このパッケージングラボは、アップル製品のパッケージデザインの開発に取り組んでいる。
取り組みのひとつは、リサイクル性を高めるためのリデザイン。つまり、パッケージからプラスチックを廃し、すべてを紙を中心としたリサイクル性の高い素材に置き換えていく活動。これは昨年、2025年に達成された。
もうひとつは、その上でいかに製品を傷つけず、完全な状態でユーザーの元に届けるかの工夫。そのために、衝撃吸収テストや、振動テスト、高温、低温、高湿度などの状態でのテストが行われている。もちろん、アップルらしい美しさ、『開けた時の歓び』を、できる限り維持したままリサイクル性と耐久性を確保したいということだ。
もちろん、輸送時のCO2排出のことを考えると、パッケージはできるだけコンパクトな方が良い。それらの課題を達成するために、研究開発を続けているのが、このラボなのだ。
以前のパッケージと比較してみて欲しい
まずは、2009年の初代Magic Mouseのパッケージと、現行Magic Mouse(USB-C)のパッケージを見比べて欲しい。

昔のパッケージはクリアのプラスチックを使っており、Magic Mouseの透明感、優しい曲線をよく表現していたが、プラスチックはリサイクルできない。現行の箱は、紙でできており、100%リサイクル可能だ。
こちらはiPhone 5の箱。ワクワクして開けた記憶がよみがえる人も多いと思うが、外側は ポリプロピレンのシュリンクラップに包まれており、ケーブルやアダプターも透明フィルムでカバーされていた。EarPodsはプラスチックのケースに入っていた。

最近買ったiPhoneのことを思い出して欲しい。これらのプラスチック系の素材はいずれも廃されている。外側のパッケージはチップ型のシールで封印されており、余って廃棄されることも多くなったイヤフォンや充電アダプターは省略され、ケーブルは紙でできたホルダーに巻かれている。

写真右側のiPhone 13 Proの時から、それらのプラスチック素材が廃され、紙ベースのパッケージになっている。ディスプレイを守るためのフィルムも紙素材だ。
EarPodsを別途購入した場合も、巻き付けられているのは紙のケースだ。

また、各国仕様の紙の印字も、初期はプリントしたステッカーが貼られていたが、現在は箱に直接印刷されている。
表面のコーティングを最初にレーザーで荒らして、印刷が乗りやすくするのがこの技術のキモだ。
発泡スチロールを使わなくなったiMacの箱
それだけではない。iMacのような大きなボックスの製品のパッケージングも工夫されている。

インテル時代のiMac 27インチの梱包材は発泡スチロールだった。

発泡スチロールは梱包材としては非常に優れているが、リサイクルできないという問題がある。
とはいえ、上方を細くして台形のパッケージにすることで、直方体の箱よりも同じ容積の場所に多く積めるという工夫はされている。

iMac Proの時代には圧縮した紙の緩衝材が使われていた。リサイクルは可能になったが、まだ『重い』という問題があった。重いと運搬時の排出CO2が増えてしまう。

最新のApple Silicon搭載iMacは段ボールを折り曲げて緩衝材にしたパッケージとなっている。もちろん、100%リサイクル可能な紙を使っている。
なお、パッケージの持ち手部分も、一見ナイロンに見えるが、実は『Woven Paper』という紙でできている。これは日本の工場で生産しているのだそうだ。
ショッピングバッグのヒモも、実は紙でできている
Apple Storeなどで使われるショッピングバックは以前はビニールだった。白い二重になったビニールバッグをご記憶の方も多いだろう。
このショッピングバックも、今は紙でできたものにリプレイスされている。

注目していただきたいのはは、握りヒモの部分だ。実はこの部分もより合わせた紙でできており、これも日本の技術だ。

何度も試作して、パッケージを作る
現在のアップルデバイスを包む複雑な紙のパッケージは、この施設で試作される。図面を入れると大きなプロッタ式のカッターが紙を切り、折り目をつけるべきところに折り線を入れてくれる。

切り抜かれた紙を折り畳むと、Apple Watchなどのパッケージができ上がる。

パッケージの制作には日本の『Origami』を参考にするという。先ほど動画でお見せしたWoven Paperの工場も日本のようだし、紙素材も日本から輸入するものが多いのだという。

現行Apple Watchのカバーもプレスされた紙で作られているが、これもまたこのラボで試作されたものだ。
このラボには世界中からさまざまな紙が集められており、特殊な用途のパッケージで使うべく日々研究が続けられている。銘柄などは極秘とのことだが、日本から送られる紙も多いという。

繊細な紙素材とその活用においては、日本に深い技術があるのかもしれない。だとすれば、その導入には昨年取材した横浜市綱島のApple YTC(横浜テクノロジーセンター)が窓口として役に立っているのかもしれない(取材時間が限られていて確認はできなかった)。
iPhoneなどのパッケージを包む緩衝材となるダンボールもここでデザインされる。

年間約2億台(売上などからの筆者推定)に及ぶiPhoneのパッケージが、わずかでも大きければ輸送コストは増すし、CO2排出量も増える。
再生可能なパッケージで、かつ輸送の際の衝撃を吸収し、世界中に安全に製品を届ける。簡単なようでいて非常に難しいことだ。十分な強度を与えたいところだが、無駄な重量、無駄なサイズはコスト増、 輸送CO2増に繋がる。

たとえば、Mac miniやMac Studioのパッケージを分解すると、段ボールを折り曲げたクッションが内蔵されていることが分かるだろう。これは、『Origami Cushion(オリガミクッション)』と呼ばれており、輸送中の振動や落下からデバイスを守る役目を果たしている。
パッケージが商品を守り切れるかのテストもここで行う
梱包は丈夫な方がいいが、前述のように、過剰な梱包はコスト増、輸送CO2増に繋がる。
そのため、どのようなパッケージが必要で、また不必要なのかをテストするのもこのラボの役割だ。

これはパッケージの落下テスト施設。耐久性ラボで、商品自体の落下テストを行っているのを取材したことがあるが、こちらではパッケージの落下テストを行っている。
落下させて高速度撮影を行い、パッケージがどのように衝撃を吸収し、また壊れるのかを観察する。
こちらは、振動テスト用の台。

飛行機、トラックなど、さまざまな輸送で発生する周波数の揺れを発生することができ、その周波数で何が壊れるかなどをテストする。たとえば、工場から南米のストアまで、飛行機で何時間、トラックで何時間運ばれるかのデータに基づいて、同等の振動を与えてパッケージの傷みを計測することができる。
ちなみに、ここでも「日本はいいんだけど、国によって荷物が投げられたりすることもあるから……」という発言があったので、そういう国によっての違いもデータ化されているようだ。
そのための仕掛けがこちら。

これはダミーパッケージで、本物のデバイスのパッケージに混ぜて各国に輸送される。中には、衝撃、振動、温度、湿度など、ありとあらゆるデータを計測し、記録するセンサーが内蔵されおり、世界各国に輸送される際に、製品がどのような条件に晒されるかを計測することができる。
40度以上の高温や、氷点下20度といった低温にさらされることも、90%以上の湿度にさらされることもあるが、そのような環境下でも接着剤が剥がれたり、段ボールが歪んだりせず、安全に製品を届ける必要がある。
上記のダミーパッケージで計測されたデータに基づいて、温度や湿度のテストをするのがこちらの施設だ。

iPhoneや、MacBook、そしてiMacやStudio Displayのような大きな製品を輸送するパッケージを、入れてテストするための設備が存在する。一番大きな設備は人が入れるほど大きい。

アップル製品のパッケージをじっくり観察して欲しい
iPhoneやMacBookを購入して、その製品が届いたら、ぜひその製品パッケージもじっくりと観察してみて欲しい。
現在のアップルデバイスのパッケージは、すべてが、リサイクル可能な紙を中心とした素材でできており、なおかつ『開けた時の歓び』に満ちており、製品をユーザーの手元まで安全に届けるべく工夫されているのだ。
また、リサイクル可能なパッケージとしては、他の多くの電子デバイスを生産する企業の手本となるべく設計されているとも思う。
この記事を見ながら、そんな工夫と努力に思いを馳せていだだけると幸いだ。
(村上タクタ)
