時計の通をも魅了する名品中の名品|PATEK PHILIPPE/CALATRAVA

人生でこの一本があれば良い」と絶賛する腕時計ファンも多い、「パテック フィリップ」の[カラトラバ]。その始まりは1932年にリリースされた、31mmケースを擁するRef.96にある。フラットな幅広ベゼルとケースからラグに掛けて滑らかな一体感を持つラウンドケース、立体感溢れる時分針や磨き込まれたバーインデックスなど、エレガンスと実用性を極めてスマートに実現しており、その研ぎ澄まされた美観はバウハウスの理念に通じるとも評された。
ちなみに「カラトラバ」という名称は、1887年に商標登録された同社ロゴである「カラトラバ十字」に由来する。同コレクションの突き詰められたデザイン性はRef.96以降も、Ref.3796、Ref.5196、そして現行のRef.6119などへと引き継がれてゆき、その血脈を維持し、今もなお進化を続けている。写真のモデルは 1960年代製の手巻き式Ref.3509。珍しいSSケースを採用したモデルかつ薄型ドレス時計でありながらケースバックは実用性に優れるスクリューバック式だ。188万円(ファイアーキッズ 銀座ナイン店TEL03-6264-6926)
飛行家の希望から生まれた世界初のメンズ腕時計|Cartier/Santos Carree

ライト兄弟が世界初の有人動力飛行に成功したのが1903年。そしてブラジル人飛行家であるアルベルト・サントス=デュモンの依頼により、1904年に登場したのが「カルティエ」の[サントス]だ。
「飛行中に操縦桿から手を放さずに時間を確認したい」というサントス=デュモンのオーダーにより、当時はまだ懐中時計が主流であるなか、カルティエ家三代目のルイ・カルティエは、世界に先駆けレザーストラップにて手首に固定するスタイルを考案。これが実用的なメンズ腕時計の原初と言われている。
また、サントスは当初からベゼル留めのビスを露出させる革新的なデザインを採用している点も見逃せない。そして、同モデルで採用されたデフォルメさせたローマンインデックスやレイルウェイミニッツトラックは次なる伝説[タンク]に引き継がれる。写真は1980年代製の[サントス カレ LM]。1978年の初出以来、「スポーティシック」として人気を誇るステンレスとゴールド使いが特徴の名品だ。118万8000円(江口洋品店 江口時計店 松濤TEL03-5422-3070)
気品溢れる薄型ドレス時計の理想形|Vacheron Constantin/Patrimony

1755年に創業した、現存する世界最古の時計ブランドである「ヴァシュロン・コンスタンタン」。同社の時計は貴族的かつラグジュアリーなデザイン性と高機能・高品質を高い次元で融合させるところに最大の特徴がある。なかでもドレッシーな薄型モデルの展開に関しては、この老舗はスペシャリストと言える存在だ。
トピックのひとつが超薄型として世界に知られたRef.6179。1950年代当時にして世界最薄となる機械厚わずかに2.94mmのcal.1001を搭載し、極めてスマートなドレスウォッチを作り出している。そしてこのモデルが起点となって、2004年に薄型ラウンドウォッチの傑作である「パトリモニー」が登場するのである。
写真の1本は「パトリモニー」の初期型として位置付けられている1990年代製のRef.92238(「エッセンシャル」とも呼ばれる)。上品な純白のローマンダイヤルや華奢なリーフ針、金無垢ケースが格式あるエレガンスを主張する。98万円(スイートロード 川崎本店TEL044-544-8177)
ケースを反転させるという大胆な発想|JAEGER LE COULTRE/Reverso

今でこそサファイアガラスの登場により、優れた耐衝撃性を備える時計風防。しかし[レベルソ]が生まれた1930年代の時計は、一般的な窓ガラスに近い無機ガラス(もしくはアクリル)が採用されており、割れることが多かった。当然のことスポーツやアウトドアシーンでは顕著であり、その対策を各社は模索していた。そこで考案されたのが、ケース自体を反転させ風防を台座に隠してしまうという奇想天外な方式。
実業家のセザール・ド・トレーはこの大胆な設計を「ジャガー・ルクルト」に持ち込み、1931年に発表されたのが[レベルソ]だ。そのためオリジナルのケースバックはソリッド型であり、そこに家紋やイニシャルを彫り込んで愛用する好事家も多かった。その後、バリエーションを増やし、ケース両面に文字盤を持つ便利かつハイエンドな多機能モデルも登場する。
写真のモデルは原初版に近い1930年代製のソリッドバック式。ステイブライト(現在のステンレス材に近い、錆びにくい鋼材)製ケースに黒文字盤が重厚な印象。198万円(ファイアーキッズ 銀座ナイン店TEL03-6264-6926)
モノづくりの魂が宿る渾身の日本メイド|Grand Seiko/Early type

1960年代までは高級時計と言えばスイスメイドが世界基準。そこで「世界最高峰の日本製腕時計を」という決意のもと、グランドセイコーの歴史が始まった。
当初は諏訪精工舎(現セイコーエプソン)が製造を担当し、名機クラウンベースのcal.3180は、日本初、スイスのクロノメーター優秀級に準拠する精度を誇り、歩度証明書を付けて発売。その後も進化は続き、1969年にはV.F.A.(超特別精度調整)であるRef. 6185や4580を、80年代後半からはcal.95GSや9Fクオーツなど高精度のクオーツ機械をリリース。また、本家クロノメーター規格を上回る「新GS規格」を設けるなど、厳格な精度管理体制を確立させた。そして1999年、独自の革新的機械「スプリングドライブ」により、世界最高峰の開発力と技術力を強く世界に示した。
写真は1964年製、GS 2ndモデルの初期型となるRef.43999。cal.430を搭載しGSではなく、“Grand Seiko”と表記された文字盤など、初期モデルの中でも極わずかな期間のみ製造された希少品だ。45万8000円(スイートロード 川崎本店TEL 044-544-8177)
唯一月面に降り立ったクロノグラフの殿堂|OMEGA/Speedmaster

「月に行ったクロノグラフ」として人気の[スピードマスター]。1965年に米国NASAの過酷なテストをクリアし、アポロ計画の公式装備品に認定された。
同モデルの初出は1957年であり、世界で初めてタキメーターを文字盤ではなくベゼルに配した画期的デザインで知られる。3つのインダイヤルとタキメーターベゼルを備えたレイアウトは、“完成形”として半世紀以上大きく変わっていない。ただし1968年からのムーブメントであるCal.861では、合理的なカム式に変更し、振動数も上げつつ耐衝撃を強めた。その後のCal.1861 では、錆に強いロジウムメッキにてさらに耐久性を向上。2021年から導入されたCal.3861では、コーアクシャル脱進機を組み込み、メンテナンス間隔の延長と驚異的な精度まで実現した。
写真は1970年製のCal.861搭載機。同年秋に生産された個体のみに存在するベゼルを搭載したスイスの宝飾店「MEISTER」とのWネームにして、タキメーター目盛りの「200」が製造ミスにより「220」となった希少品だ。159万8000円(ジャックロードTEL03-3386-9399)
堂々と使える突き詰められた“普通”|IWC/Hand-wound Three Hands

決して高額すぎず、“突き詰められた普通”と言いたいプロダクトが世界にはある。「BMW」のM50型2Lエンジンや「オールデン」の[990]がそうだろうか。誰もがスグ目を止めるものではないが、心地よく無意識に楽しんで日々使用できるもの。
時計で言えば「IWC」のcal.89搭載機がそれに当たる。この手巻きムーブメントは1946年から約30年間製造された「オールドインター」を代表する傑作機械。天才時計技師であるアルベール・ペラトンにより設計され、その耐久性、精度、メンテナンス性の高さはつとに知られていた。開発当時は薄型化競争が熾烈であったものの、「IWC」は肉厚の鋼材を厳選し、当初からセンターセコンド型を設計。また、大きめの香箱や無理のない輪列配置から強度と安定感を持ち合わせ、複数回のオーバーホールを経ても精度を維持し、確実に稼働し続ける。
写真のモデルは1969年製の金無垢ケースを奢った上級品。ハレの日にも“普通”が楽しめるワンランク上の1本だ。79万8000円(ファイアーキッズ 銀座ナイン店TEL03-6264-6926)
(出典/「2nd 2026年7月号 Vol.219」)
Photo/Norihito Suzuki,Nanako Hidaka.Shiho Akimoto Text/Tsuyoshi Hasegawa
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