ゆかりの地巡りとUK盤で楽しむ気分はビートルズ|ビートルズのことを考えない日は一日もなかった特別対談 VOL.16 井上ジェイ

旅行会社オアシス・オフィス社長であり、フリーのカメラマン。同時にビートルズゆかりの地巡りの第一人者であり、筋金入りのUK盤コレクターとしての側面をもつ井上ジェイさん。近年は藤本国彦さんとともに「冥土の土産ツアー」と題したビートルズゆかりの地を巡るツアーを手掛けているほか、ビートルズ関係の『UKコンプリート・ガイド』著書で知られています。昨年末には『ジョン・レノン UKコンプリート・ガイド』を出したばかり。そんな井上ジェイさんのビートルズ人生、多岐にわたるビートルズの楽しみ方を聞きました。

傑作だった雑誌『ガリバー』のジョン・レノン特集号

雑誌『ガリバー』90年12月27号

竹部:ぼくが最初にジェイさんの存在を知ったのはこれなんですよ。雑誌『ガリバー』のジョン・レノン特集。

井上:90年。ジョンの没後10年の年でした。

竹部:『ガリバー』はマガジンハウスから出ていた旅行雑誌で、90年12月号でジョンとビートルズゆかりの地をロンドンとリバプールを中心に紹介していたんですよね。この特集は本当に素晴らしくて、91年に最初にリバプールに行ったとき、これを持って名所めぐりをしましたから。そのページにカメラマンとしてクレジットされていたのが井上ジェイさん。こういう人がいるんだと思って。

井上:ありがとうございます。

竹部:ここでのジェイさんの写真、すべて素晴らしいんですが、とくに扉のこの写真……。

井上:重ね取りなんですよ。自分で加工しました。

竹部:デジタルじゃない時代に。今ならこういうことすぐにできるけど、当時は簡単じゃないですよね。

井上:景色の写真はカラーだけど、右のジョンの写真はモノクロなので、うまくカラーと馴染むように、この写真を現地に持っていって、仕上がりをイメージしながら撮影しました。少しでもずれたりするとうまくはまらないので、何回も撮り直して。何枚か撮影したなかから選んだ一枚です。

竹部:素晴らしい。そもそもジェイさんはどういう経緯でこの特集に参加することになったんですか。

井上:ぼくの持ち込み企画でした。

竹部:それはどういう経緯で?

井上:あの年はジョンの没後10年だったから、『ガリバー』の編集長にジョンのゆかりの地巡りの特集を提案したら、二つ返事で企画が通った。

竹部:編集長って石川次郎さんですよね。

井上:そうそう。話すと長くなるけど、マガジンハウスの編集者に知り合いがいたんですよ。レゲエがきっかけの。83年のことなんですけど、当時ぼくは旅行会社に勤めていて、その会社がジャマイカに「レゲエ・サンスプラッシュ」を観に行くというツアーを主催したんです。79年にボブ・マーリーが来日したことがきっかけで、日本でもレゲエってなんぞやっていう動きが業界人の中に生まれて、レゲエの本場のジャマイカってどんなところだ、そこで行われるレゲエフェスを見に行こうっていうことでツアーが企画されたんです。小さい会社だったし、ジャマイカに行くツアーなんか当時はないから、知る人ぞ知るっていう感じだったけど、全部で30名ぐらい参加したのかな。そこに『平凡パンチ』の編集者が参加していたんです。

竹部:なるほど。そういう流れだったんですね。

井上:プライベートだったけど、滅多に行ける場所ではないから、ついでに取材しようということになったみたいで、添乗員として参加したぼくは多少カメラを扱うことができたので、その人から「好きに使っていいから、いっぱい撮って」と言われてコダクローム50本ぐらい渡された。

竹部:なんともむちゃぶりな(笑)。

井上:それが『平凡パンチ』のグラビアの4ページぐらいで掲載されたんですよ。ぼくの本名は井上淳(あつし)というんだけど、音読みするとジュンだからアルファベットの頭文字のJを取ってJ井上とクレジットされて、それを使っちゃおうってことで、Jをカタカナにして井上ジェイ。そこから僕の“なんちゃってカメラマン人生”がスタートしたんです。

竹部:おもしろい。

井上:そのときは写真家で食っていこうという気持ちはまったくなくて、ただ写真っておもしろいなという程度。

竹部:ジェイさんの写真は独学なんですよね。

井上:写真を撮ることは、今ほど簡単ではないけど、ピント合わせて絞り合わせてシャッターを押せばある程度映るじゃないですか。

竹部:とはいえ、アナログの時代の話だし、オートフォーカスもないのに。

井上:簡単ではないですよ。でも基本的なところはすぐに身につけて、あとは独学で勉強してという感じでした。

竹部:もともと器用だったんですか。

井上:それはどうかな(笑)。その頃、ぼくが関わったツアーに参加するお客さんにカメラマンがやたらいたんで、海外に行ける仕事っていいなって思ったことはあった。

竹部:その後、マガジンハウスで写真を撮るようになったということですか。

井上:仕事柄海外のわりと珍しいところに行くじゃないですか。そのたびに、おもしろい場所を探して写真を撮っていたんですよ。ジャマイカのツアーも毎年あったから、そのつど写真を撮っていたし。そういうところからレゲエシーン周辺にも関わるようになっていったんです。その頃、レゲエツアーを聞きつけた花房浩一っていう人から「グラストンベリーフェスティバル」のツアーをやらないかと持ち掛けられた。

竹部:花房さんって、当時の『宝島』を読むとよくクレジットされていますよね。

井上:うん。花房さんはフリーの編集者&ライターとしていろんなところで仕事をして、そのひとつが『宝島』でした。そのツテで『宝島』でもカメラマンとして起用されるようになったんです。

竹部:そういうつながりだったんですね。

井上:花房さんはその前から「グラストンベリー」に行っていたんだけど、ぼくは行ったことがなかった。それにもかかわらず、二つ返事で「やろう!」って言ったの。初めて行ったのは84年でした。

竹部:84年のグラストンに行っているというのがすごい。

井上:この頃はまだ規模が小さくて知る人ぞ知るみたいなローカルなフェスでしたよ。

竹部:想像がつかないですよ。そこから「フジロック」にもつながっていくわけですよね。

井上:「フジ」が始まるのは97年だけど、日高さんは視察として87年から数年来ていたんじゃなかったかな。バックステージで、「日本でもこういうフェスをやりたい」っていう話をみんなでしていた。そのなかにジョー・ストラマーもいたと思う。

竹部:それはジェイさん企画のツアーで来ていたということですか。

井上:旅行の手配はぼくがしたと思うけど、「グラストンベリー」のチケットやバックステージパスは花房さんの仕切りでした。花房さんは主催者のマイケル・イーヴィスさんとプライベートでも仲が良かったので。花房さんは本当に押しの利く、なかなか素晴らしい人物なんですよ。

85年から始めたリバプールのビートルズゆかりの地巡り

『ガリバー』ジョン・レノン特集号の扉ページ

竹部:ジェイさんは「フジロック」の写真も撮っていましたもんね。

井上:それで今度は『ロッキング・オン』とも付き合いが出来たんだけど、それは増井修さんのおかげ。あるとき編集部に行った際に「今度渋谷のヤマハでリバプール写真展」をやるんですよ、と言ったら、それを松村雄策さんに伝えてくれて、松村さんが写真展を見に来てくれた。それが初対面でした。

竹部:そうだったんですね。

井上:それで意気投合して、松村さんが取材する際に、ぼくがカメラマンとして同行することになった。オノ・ヨーコ、ジュリアン・レノン、ジョージ・マーティン、バッド・フィンガーのジョーイ・モーランド。あとジョージも撮ったかな。

竹部:それは貴重な体験。それにしてもジェイさんの人とのつながりは本当におもしろいですね。その頃はオアシスという自分の会社を作られていたわけですよね。よく『ロッキング・オン』にも広告を出していました。

井上:それで松村雄策さんと行くビートルズゆかりの地ツアーというのを企画しましたよ。

竹部:『ロッキング・オン』で見たかも……。それはこの『ガリバー』の前後あたり?

井上:そうだと思います。この頃は旅行業をやりながら、二足の草鞋というか、副業として写真も撮っていたんですよ。

竹部:ぼくが入社する前のオリコンでも仕事をしていたそうで。

井上:そうそう。アイドルの写真をたくさん撮っていますよ。

竹部:そうなんですね。『ガリバー』に話を戻したいのですが。

井上:ジョン・レノン特集号の前にジャマイカ特集号があったんですよ。それもぼくが石川次郎さんに「ジャマイカって素晴らしい、美しいとこだから」って言って提案したものだったんです。石川次郎さんは二つ返事で「すぐやって」って言って特集を組んでくれて、写真も全部ぼくに撮らせてくれた。その縁があったんで、次に「こういうネタもありますよ」って言ったのがジョン・レノン特集。そうしたらまた「すぐやりましょう」って言って、ライターと編集者つけてくれた。それがこれですね。

竹部:なるほど。当時のビートルズの名所って、『ビートルズ・イングランド』っていう本があったくらいで、それほどまだ研究が進んでいませんでしたよね。

井上:80年代はビートルズが不毛時代っていうか、いちばん話題がない時期だったし。

竹部:そのなかで、どうやって情報を集めたんですか。

井上:ぼくが初めてイギリスに行ったのは84年なんだけど、翌年リバプールに自力で行ったんですよ。そこでリバプールが素晴らしい街だと思った。ビートルズだけじゃなくて、街自体の雰囲気がね。それで好きになって、イギリスに行く用事があったら、必ず電車で日帰りか1泊ででもリバプールに行くようにしていたんです。通っているうちに、ビートルズのゆかりの地を巡るためのガイドが出た。これをもとに広げていきました。

竹部:ありました。ぼくも当時小冊子を買ったけど……

井上:小冊子じゃなくて、最初はもっと簡易的なもので、観光客でも簡単に手に入れることができたたやつがあったんです。そこに載っていない場所は本を読んだりして調べていると、そこに住所や通りの名前が書いてあったんですよ。誰がここに何年から何年まで住んでいて、そこからどこに引っ越して、みたいに。それだけわかれば十分。行きたい場所の名称を見つけたあとは、『AtoZ』を見ながら全部自分の足で歩いて調べた。ほら、そこは旅行のプロだから、路線バスの定着駅さえわかれば、何分くらい歩けば着くかっていうのは大体目星が付く。

竹部:探偵に近い。そこまでマニアックな人はそうそういないですよ。

井上:いるかもしれないけど、ぼくのようにそれを仕事としてやっている人は少ないかもしれないですね。いつかそういうゆかりの地ガイド本を作りたい。

竹部:いいですね。マニアックな本を。このときはどのくらいイギリスに行っていたんですか。編集後記を読むと先陣を切ってジェイさんがイギリスに行ったと書いてあります。

井上:2回行ったと思う。90年3月と、その次が9月。徐々に思い出してきた。

竹部:ジェイさんのほかにスティーブン・エリソンってカメラマンも参加していて、その人はジョンが住んでいたアスコットのティッティンハーストの写真を撮っているんですよ。それも驚くんだけど、ジェイさんはサリー州ウェイブリッジのジョンの家に行っている。

井上:ウェイブリッジはロンドンから電車で1時間ぐらいのところにあって、駅で拾ったタクシーの運転手に「この住所に行きたい」と言ったら連れて行ってくれた。連れてきてくれたのはいいけど、ぼくを降ろしたらすぐに帰ってしまって……。仕方ないので周辺を歩き回っていたら、本で見たことのある風景が目の前に広がってきて、いろいろ写真を撮りましたよ。うろうろしていたら、そこは私有地だったらしくて、住人に追い払われてしまいました(笑)。知らないって恐ろしいよね。

竹部:だから写真のサイズが小さかったのか。ウェイブリッジの写真ってあまり見たことないですものね。

井上:近所にリンゴの家もあるんですよ。

竹部:サニーハウスですね。

井上:ウェイブリッジから歩いて15分ぐらいのところにあって、ジョンの家と同じくらいの大きさなんだけど、こちらは人が住んでいなかったのか、無防備な感じで、自由に写真撮って帰ってきました。

竹部:素晴らしい。仕事とはいえその情熱ってなんなんですかね。

井上:ただの追っかけに近いですが、きっと若かったからできたんですよ。あとはビートルズのことをいろいろ知りたいなという気持ちだけ。ビートルズを身近に感じたいみたいなところですかね。

この記事を書いた人
竹部吉晃
この記事を書いた人

竹部吉晃

ビートルデイズな編集長

昭和40年男編集長。1967年、東京・下町生まれ。ビートルズの研究とコレクションを40年以上続けるビートルマニア兼、マンチェスターユナイテッドサポーター歴30年のフットボールウィークエンダーのほか、諸々のサブカル全般に興味ありの原田真二原理主義者。WEBメディア『昭和MILD(https://showamild.com/)』もよろしくお願いします。
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