ヨーコさんの評伝を実現させるまでは死ねない|ビートルズのことを考えない日は一日もなかった 特別対談 Vol.18 藤澤志穂子

大河ドラマのようなビートルズ物語に大きく関与したオノ・ヨーコは、日本人の我々にとってひとつの誇りであるが、さらにそれが学校の先輩だったとしたら、親近感は相当なものではないだろうか。今回の対談相手、ジャーナリストとして多くの著作をもつ藤澤志穂子さんは、ヨーコの学習院の後輩であるがゆえ、人一倍ヨーコに関心をもつのだという。過去何度か遭遇し、インタビューしたこともあるというヨーコへの興味を中心に、45年以上の長きにわたるビートルズファン歴の話を聞きました。

学習院というヨーコさんのルーツから辿った書籍を

オノ・ヨーコ「女性上位ばんざい」。再発盤

竹部:この対談はぼくのまわりのビートルズ好きの人とビートルズ話するっていう単純なコンセプトで始めたものなんですね。それで以前、けっこう前になりますが、藤澤さんが昭和40年男編集部にプロモーションの相談でいらしたときにビートルズの話をしたことを思い出しまして。

藤澤:そうでしたね。

竹部:『釣りキチ三平の夢 矢口高雄外伝』っていう書籍を出されたときだったでしょうか。そのあとに本誌で『釣りキチ三平』についての原稿を書いてもらいました。それ以降も書籍を出されるたびに連絡をいただいて。ご無沙汰な感じは全然しないんですが、お会いするのはかなり久しぶりのような気がします。

藤澤:お声がけいただきおありがとうございます。でも今までこのコーナーに出ていらした方々に比べると全然詳しくないと思うんですが。

竹部:好きであれば問題ないですので。

藤澤:強いて言えば、わたしはヨーコさんの学習院女子中・高等科、学習院大学の後輩で、同じ演劇部だったということでしょうか。

竹部:それは貴重ですね。そういう話は代々、校内や部内に伝わっているものなのでしょうか。昔、オノ・ヨーコが在籍していたよ、みたいな感じで。

藤澤:もちろん、みんな知っていますよ。

竹部:いろいろなエピソードも残っていると。

藤澤:はい。だからそれでわたしはヨーコさんの評伝を書きたいと思っているんです。学習院ルートで集めた証言を中心に構成した書籍の企画として、実は前から少しずつ進めていまして。たとえばヨーコさんの同級生で、同じ演劇部だった方が手記を寄せてくださったり、当時のヨーコさんの写真とか資料を送ってくださったり。あとは、共同通信社出身のジャーナリストで松尾文夫さんという、米国政治の研究で有名な方でもう亡くなられましたが、やはり学習院の演劇部OBでヨーコさんと米国でも親しくされていた方に、お話を聞いたりしていたっていうのがあって。演出と主演、舞台監督を一人でやっちゃうようなパワフルな女性だったそうです。

竹部:それは読んでみたいです。

藤澤:そのときにヨーコさんの日本の代理人をやられている方にもコンタクトが取れて、出版社にもアプローチはしていたんですけど、その後が進みませんでした。でも、やっぱり諦めきれなくて……。

竹部:ヨーコさんの評伝ってこれまでも何冊か出ているじゃないですか。自伝的なものも含めて。

藤澤:なので学習院というヨーコさんのルーツから辿って、ああいう環境で育ったから、オノ・ヨーコという人物が出来上がっていったっていうことをまとめたいんです。竹部さんは、去年暮れに代官山で行われた青木冨貴子さんの出版パーティーはいらっしゃっていましたか。

竹部:行けなかったんですよ。藤本さんから誘われていたんですが。

藤澤:あの日は「ジョン・レノン 運命をたどる ヒーローはなぜ撃たれたのか」っている青木さんの本の出版にあわせ、ジョンの写真展が12月8日の命日に1日限りで開かれていたんですよね。私はたまたま写真展を終了時間ギリギリに見に行ったら、学習院の先輩で講談社のPR担当の方が受付をやっていたので、その後のパーティーに飛び入りで入れてもらえたんです。そこで、ヨーコさんの代理人の方に再会できたんです。この方も学習院、それも私とヨーコさんと同じ女子中・高等科の先輩です。「まだ評伝の企画はあきらめていません」ということをお話ししたんですね。「どうしても書きたいんです」って。そうしたら「企画書をいただければ、アメリカの弁護士に繋ぐことはできます」と言ってもらい、再度材料を集めて、日本語と英語で企画書を作ったんです。

竹部:本気度が伝わってきますね。

藤澤:出版社が見つからなくて、企画書を作るまで時間がかかってしまったんです。出版社未定のまま、2月に送ったらすぐにニューヨークに転送してくれて、そうしたら「これはショーンのサポートが必要ですか」という質問があって「ぜひお願いします」と返したら、「そういう本は書いてもらってもいいけど、多忙につきショーンのサポートは難しい」と。

竹部:そういえば最近、ショーンってあまり表に出てこないですよね。ポールの『マン・オン・ザ・ラン』にはコメント出演していましたけど。

藤澤:そうですよね。「母のレガシーを伝えたい」って言っていたはずなので、頼めばなんとかなると思ったんですが……。学習院つながりの縁でここまで来たので何とかならないかと。

竹部:そうでしたか。ぼく、以前ショーンに何度か取材したことありまして、そのときも「母のカタログを整理して再評価につなげたい」という話はしていました。

藤澤:それはいつ頃ですか?

竹部:2000年くらいだったと思います。ショーンがキメラというレーベルを始めたタイミングでした。詳しい内容は忘れてしまったんですが、その頃プラスティック・オノ・バンドを始めた頃でもあったので、当然ヨーコさんの話になりまして。どこかにテキストが残っていると思います。

藤澤:ショーンに話を聞きたかった。でも、周辺取材でまとめられますから。今またいろいろ出版社を当たっていて、どんなかたちでもいいから、なんとか本にしたい。

竹部:相当な決意ですね。あとはいろいろなところに残るヨーコさんのインタビューを引用して、ということですかね。

なぜあんな強い人があの時代に生まれたのか

2012年、ヨーコさんと

藤澤:以前一度、産経新聞の記者時代にヨーコさんにインタビューしたことがあるんです。2012年の12月だったかな、東日本大震災の後で、当時は毎年、ジョンの命日前後に開催していた「ジョン・レノン・スーパーライブ」のプロモーションも兼ねてで。ああ本物だ。意外に小さい。でも胸は大きい(笑)というのが第一印象。黒のパツパツの革のパンツスーツを着てやたらと胸を強調していました。実際に話をしてみたら、お金持ちの天然なお嬢様。もう少し深みのある人なのかなと思ったけど、アートだけをやってきてここまで来ましたという感じ。撮影込みで20分くらいしかなかったので、簡単に言うとですが。そのときヨーコさんが話してくれたなかで、印象的だったのは、ジョンがヨーコさんの誕生日にガーデニア(くちなし)の花を部屋いっぱい敷き詰めてくれたっていう話。朝起きたら床にガーデニアの花がひとつ置いてあったと。これ、どこから落ちてきたのかな。と思って部屋を出たらまた置いてある。階段を下りるとその花が増えてきて、下りたところは花で埋まっていた。どうしたのかと思ったらジョンが出てきて「ハッピーバースデー」って言ってくれたと言う。「ガーデニア、って日本語でなんて言うのかしら。私の一番好きな花をジョンが覚えていてくれたのよ。足りなくてテキサスからも買ってきたって。花は一瞬で消えてしまうから。コンセプトアートみたいなもの」っておっしゃっていたのが印象的でした。この話は出回っているんですかね。初めて聞いた話だったので、特別なのかなと思いました。

竹部:素敵な話。聞いたことがないかも。

藤澤:それで最後に「実は学習院の後輩なんです」って言ったら喜んでくれて、「じゃあ一緒に写真撮りましょうよ」って言ってくれたんです。

竹部:機嫌がよかったんですね。実はぼくもヨーコと一緒に写真撮ったことあります。藤本さんと3人で。すごく機嫌がよくて「3人で撮りましょうよ!」って言われて。ぼくはヨーコさんに3回会っていいまして。媒体は全部違うんですが。最初はオリコンのとき、2000年くらいだったでしょうか。やはり「ジョン・レノン・スーパーライブ」のタイミング。時間は少なかったんですが、やはり感動しましたよね。「踏み絵」という個展のプログラムを持参したら、「それにサインしましょうか?」と言われて、その場でサインをもらうことができた。そのあと2010年くらいに続けざまに2度取材しました。ショーンが設立したレーベルから『ビトウィーン・マイ・ヘッド・アンド・ザ・スカイ』っていうアルバムをリリースして、プラスティック・オノ・バンドで音楽活動を再開したタイミングでした。最初はCDジャーナル用に藤本さんと一緒に、次は『クッキーシーン』の編集長だった伊藤英嗣さんと一緒に。このときはそれぞれ1時間くらいもらえて、いろいろな話を聴くことが出来たんです。藤本さんとのときはさっき言ったようにすごく機嫌がよくて饒舌だったんですが、伊藤さんのときは体調が悪かったのかちょっと暗い感じで。でも話はすごく面白かった。今度そのページ送りますよ。

藤澤:ぜひ参考にさせていただきます。

竹部:あと、86年にTBSで放送された『肩書きはオノ・ヨーコ』って特番知ってます? ヨーコがコンサートで来日する予定だったんだけど、急にキャンセルになった。本来それに合わせて放送するために作られたんだろうけど、なんの関係もない深夜にひっそりと放送された番組があったんです。如月小春って人がインタビューしているんですが、これがおもしろかった。VHSがあるんでいつかデータ化したいと思っているんですが。評伝書くときにぜひ参考にしていただきたいです。

藤澤:そうだ。数年前まで、学習院の演劇部のOB、OG会が月1回、渋谷で開催されていてそこにヨーコさんが来たことがあったんです。時期は忘れましたけど。そこに私もいて、「ヨーコさんのことを書きたがっている人がいるから」みたいに紹介されて、そこで会わせてもらったんですが、あまり話せませんでした。かなり体が弱られていたようでしたね。

竹部:でも、藤澤さんが先輩という以外にヨーコさんに惹かれるのはなぜなのでしょうか。

藤澤:強烈なウーマンリブですね。なんであんな強い人があの時代に生まれたのか。すごく興味があります。それに私の母校の学習院女子中・高等科における環境が、ヨーコさんを作った部分もあるんじゃないかなと。その点も関心あります。

竹部:『ただの私』という本、あれは70年代のインタビューをメインにしていますが、ウーマンリブのことしか喋っていないですよね。そのウーマンリブの思想っていうのは、やっぱり海外で女1人前衛芸術家とやっていたから、強く生きなきゃいけないっていう意識が人一倍強かったんじゃないですかね。

藤澤:学習院出身だからというのもあると思っていて。学習院女子中・高等科は明治時代に創設された華族女学校にルーツがあって、当時は皇族・華族の花嫁学校みたいなところもあったでしょうが、家事を学ぶのではなく、気高さを学んでいたような。男子がいない分、女子が自由に責任持って活躍できる空気があったんです。卒業後は、社会に出て第一線で活躍している人もたくさんいます。あと、戦後にリベラルな学校になったっていうのもあって、その中でヨーコさんの精神が培われたんじゃないかなと思うんです。それがのちの平和運動をサポートしていた気がするんですけど。そこを知りたい。

この記事を書いた人
竹部吉晃
この記事を書いた人

竹部吉晃

ビートルデイズな編集長

昭和40年男編集長。1967年、東京・下町生まれ。ビートルズの研究とコレクションを40年以上続けるビートルマニア兼、マンチェスターユナイテッドサポーター歴30年のフットボールウィークエンダーのほか、諸々のサブカル全般に興味ありの原田真二原理主義者。WEBメディア『昭和MILD(https://showamild.com/)』もよろしくお願いします。
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