『LOST LENNON TAPES』で知った素顔のジョン・レノン|ビートルズのことを考えない日は一日もなかった Vol.51

その昔、渋谷にLIVERPOOLというレコード屋があった。JR渋谷駅を背にして、スクランブル交差点を渡り、センター街を抜けて井の頭通りから交番横を抜けて細い路地に入ったあたり。当時オープンしたばかりのクラブクアトロの向かいの雑居ビルの2階にその店はあった。いまもそのビルは現存しており、1Fにはラーメン屋が店を構えている。中に入ったことはないが、近くを通るたびに懐かしい気持ちにさせられ、ふと2階を見上げてしまう。

渋谷LIVERPOOLで買ったビートルズのレア盤

『LOST LENNON TAPES Volume4』

通りに面した窓から陽光が差し込むため、LIVERPOOLの店内は空間全体が爽やかで、従来のレコード屋とは異なる、ちょっとおしゃれな雰囲気を醸し出していたことを思い出す。最新ヒットからクラシックロック、クラブミュージックまで幅広く網羅しつつ、新規の海賊盤を取り揃えていたのも特徴で、筑紫哲也似の店主はどのジャンルにも精通しているよう。教養のある識者という印象であった。

悪く言えば偏屈、癖がありそうにも見えるが、自分にはやさしく、いろいろな情報を教えてくれたので、それを参考にして買ったレコードも少なくない。『1967 A.K.A. Sgt. Pepper’s』『OFF WHITE』といったビートルズもの、当時話題になったプリンスの『BLACK ALBUM』も店主の勧めで購入したものだ。80年代半ばの渋谷には、タワーレコードをはじめ、CSV渋谷、レコファン、ハンター、ユニオンといったレコード屋があったが、88年に限って言えば、最も贔屓にしていたレコード屋がLIVERPOOLだった。

そのLIVERPOOLで、88年夏もしくは秋口に『LOST LENNON TAPES』というレコードを見つけた。これはなんだ? と思わずドキッとするジョンのレア写真をあしらった、海賊盤らしからぬアートワークはビジュアル的にもインパクト十分。その罠にまんまとひっかかり、すかさず手に取ってしまった。裏面に記されたクレジットを見ると既知の曲目と未知の曲目がバランスよく並んでおり、一層関心を掻き立てられた。複数枚出ていたなかから、VOL.2をジャケ買い。以降VOL.4、VOL.1、VOL.3と、定期的にLIVERPOOLに行っては『LOST LENNON TAPES』を買い求めた。その中身がアメリカのラジオ番組で組まれたジョンの特番でオンエアされたアウトテイク集であることを知ったのは、店主からの情報であったかなにかの雑誌に書かれていたのか、定かではないが、そこに収められた音源はとにかくどれも衝撃であった。

60年代のビートルズ時代に書かれた曲、たとえば初期の「イフ・アイ・フェル」、中期の「シー・セッド・シー・セッド」、後期の『ホワイト・アルバム』収録曲のデモや別ミックス(「レボリューション」「ディア・プルーデンス」)は初めて聞くものだったし、70年以降のソロ作品のデモやアウトテイク……『イマジン』に収録されたタイトル曲の完成までの各テイクや「ハウ・ドゥ・ユー・スリープ」の長尺版、ニルソンに書いた「ムーチョ・ムンゴ」のデモに驚かされた。75年から80年にかけての隠遁期のホームデモのなかにも貴重な音源は多く、『ダブル・ファンタジー』『ミルク・アンド・ハニー』の骨子となった名曲はもちろんのこと、その後ビートルズ名義でリリースされる未完曲「フリー・アズ・ア・バード」「リアル・ラヴ」を『LOST LENNON TAPES』で先に聞いていたのは我々世代ならではのビートルズ観といえるかもしれない。個人的には時折聴こえるショーンの声(おやすみなさい!)とか歌(「ウィズ・ア・リトル・フロム・マイ・フレンド」の鼻歌)や電話の音(ジョンが「ペギー・スー」を歌う後ろで鳴る)とか、そういう部分にジョンの生活が見てとれることが興味深かった。

『LOST LENNON TAPES』はハイペースでカタログを増やしていく一方、別レーベルから『Archive』というシリーズも出てきて、市場に混乱を招く。ジャケ面では絶対的に『LOST LENNON TAPES』に分があるのだが、値段は『Archive』の方が安く、数枚手を伸ばしているうちに結局どちらもフォローしきれなくなり、途中から買うことを辞めてしまった。それでも続々と『LOST LENNON TAPES』はリリースされ、最終的には35枚まで出たそう。途中からは持っていない盤を中古屋で見かけた際はジャケ買いの要領で買うようにしていた。

『LOST LENNON TAPES』に収録された、一連のホームデモやアウトテイクはのちに『ジョン・レノン・アンソロジー』や再発盤のボーナストラック、最近のデラックスエディション盤に大量の未発表音源が収められていくことになるわけだが、ある段階からどれが初出なのかの判別がつかなくなり、食傷気味にもなってしまって、ありがたみが薄れてしまう。だが今振り返ってみても『LOST LENNON TAPES』はビートルズの『SESSIONS』『ULTRA RARE TRACKS』、ポールの『COLD CUTS』同様、80年代のビートルズ・シーンを語るうえで欠かせない海賊盤シリーズといえる。

ポールがソ連だけで発売したロックンロールカバー

『Choba B CCCP』

ちょうど同じ頃、ポールの『Choba B CCCP』というアルバムが、これまた海賊盤で出回り始めた。のちに『バック・イン・ザ・USSR』というタイトルになって公式発売されたのだが、当初はソ連のみでの発売で、そのほかの国では入手不可能であった。それゆえ、抜け目のないブート業者はすかさずコピー品を製造し、ファンの欲求に応えたのであった。わたしが入手したのは、それが正規盤と言われても信じてしまうほどの完コピ盤、たしかそれもLIVERPOOLで購入したような覚えがある。

が、期待に反してこのアルバムの聴きどころは少ない。ポールが幼少期に親しんだロックンロールのカバー集ということで、ジョンの『ロックンロール』をイメージしていたが、作り込んだアレンジで聴かせるジョンに比べ、こちらはバンドの一発どり。アレンジに凝ったところもなく、魅力に乏しい。今になってみれば、ワールドツアーに向けてのリハビリ的リハーサルとも受け取れるが、第一印象はがっかりしてしまった。

以後ターンテーブルに乗る回数は少なく、聴く機会もあまりなかったが、91年に初めて渡英した際、トテナムコートロードあたりの中古屋で正規盤(ロシア盤のセカンドプレスの13曲入り。初回は11曲入りだそう)を購入。帰国後、海賊盤は他人にあげてしまったか、中古屋に売ってしまったかで、処分してしまった。公式にCD化された際、収録曲は14に増えていた。

ジョージが若々しく見えた「ハンドル・ウィズ・ケア」

トラヴェリング・ウィルベリーズ「ハンドル・ウィズ・ケア」

ジョン、ポールに続き、ジョージの関連アルバムをこちらは正規盤で購入した。88年の秋から暮れにかけて、お店は確か新宿のアルタの中にあったシスコ。タイトルはトラヴェリング・ウィルベリーズの『VOLUME1』である。事前情報がまったくないなか、『ベストヒットUSA』で「ハンドル・ウィズ・ケア」のビデオを見たのがファースストコンタクト。1本のマイクをボブ・ディラン、トム・ペティ、ジェフ・リン、ロイ・オービソンとともに囲んで歌うジョージが妙に若々しく見えたのが印象的だった。それはジョージの顔にいつものひげがないからか、ポップで瑞々しいメロディからくるものだったのか。どちらもあるし、ヘアメイクの加減もあったのかと思うが、マイクを前にした横顔はどこか『ヘルプ!』時(映画の中の「恋のアドバイス」)を想起させるもので、とにかく多幸感に満ちたジョージの姿に癒された。

「ハンドル~」のほかに、アルバムには明らかにジョージ作と思われる「ヘディング・フォー・ザ・ライト」「エンド・オブ・ザ・ライン」があり、この2曲も秀作でファンとしては大満足。アルバム全体を通しても聴きごたえがある作品で、ジョージ完全復活を確信したのだった。

この記事を書いた人
竹部吉晃
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竹部吉晃

ビートルデイズな編集長

昭和40年男編集長。1967年、東京・下町生まれ。ビートルズの研究とコレクションを40年以上続けるビートルマニア兼、マンチェスターユナイテッドサポーター歴30年のフットボールウィークエンダーのほか、諸々のサブカル全般に興味ありの原田真二原理主義者。WEBメディア『昭和MILD(https://showamild.com/)』もよろしくお願いします。
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