80年代後半の珠玉のビートリー・サウンド|ビートルズのことを考えない日は一日もなかった Vol.50

最初にその曲を聴いたのはTVKの夜11時半から放送していた『MUISC TOMATO』。日本人アーティストのビデオクリップを紹介する30分番組の中で流れた。ギターのコードカッティングによる強烈なイントロが自分の中のビートルズ心を鷲掴みにし、甘いメロディと巧みなコーラスワークによるサビは、60年代中期へタイムスリップしたかのような気分にさせてくれた。その曲とはBOXの「Temptation Girl」。88年5月のことだった。

BOXの名曲「Temptation Girl」

BOX『BOX POPS』

ビデオクリップの映像(モノクロ基調でカッコいい)からBOXが杉真理と松尾清憲のユニットであることはわかった。杉さんは『ナイアガラ・トライアングル2』や「バカンスはいつも雨」がヒットして以降、ビートルズ直系のポール寄りシンガーソングライターであることを認知していたし、なにより杉さんがパーソナリティを務めるラジオ番組でいろいろなビートルライクなアーティストや曲を教えてもらっていたから、自分にとっては音楽の聴き方の楽しみ方を教えてくれた恩人のような存在であった。ELO、アル・スチュアート、10cc、パイロット等々のアーティストは杉さんに教えてもらっていなければ気づくのが遅くなっていたのは間違いない。片や松尾さんは「愛しのロージー」を聞いて以降、これまたビートルライクな音楽に親近感がわき、気になる存在であった。

だが、それ以上のことはわからず、本屋で音楽誌を立ち読みしてみようか、レコード屋でCDを探してみようかと思っていたら、翌日以降も頻繁に『MUISC TOMATO』で「Temptation Girl」のビデオが流れ、それを見ているうちに購買熱が収まってしまった。「Temptation Girl」が収録されたアルバム『BOX POPS』を聴いたのは、それから少し経ったあと、近所のレンタル屋で見つけたCDを借りて済ませてしまった。

『BOX POPS』に強く惹かれた点は、中期あたりのビートルズにフォーカスしてサウンドメイクしているところにある。「風のBad Girl」こそ初期の雰囲気(「ノー・リプライ」あたりを想起)を漂わせるが、冒頭で触れた1曲目の「Temptation Girl」は『ラバー・ソウル』や『リボルバー』に入っていてもおかしくないようなギターポップだし、2曲の「魅惑の君」は『サージェント・ペッパーズ』あたりの匂いがするピアノポップ(フィーチャーされている池田昌子の声がたまらなくよい)で、最後の『2010』は『マジカル』の世界観を再現したサイケデリックポップになっている。

それまでもビートリーな音楽はたくさんあった。日本の場合はビートルズの初期にオマージュを捧げたようなもの、もしくはポール寄りのポップスが多かった印象があり、強く気持ちが惹かれるようなことはなかったのだが、BOXはトッドやELO、パイロット、XTCあたりに通じる、マジカルなポップスを志向しており、初めて聞く日本語による中期ビートルズサウンドに感銘を覚えたのだ。CDから録音したカセットテープをウォークマンに入れて毎日のように聞きまくった。

XTC版「愛こそはすべて」の「ザ・ラヴィング」

XTC『オレンジズ&レモンズ』

この時期、母国イギリスでビートルズ愛や遺伝子を現行UKポップのトレンドとバランスよく織り交ぜたサウンドで形作っていたのが、XTCである。トッド・ラングレンと組んだ『スカイラーキング』、変名のザ・デュークス・オブ・ ストラトスフィで作った『チップス・フロム・ザ・チョコレート・ファイヤーボール』と続き、89年にリリースされた『オレンジズ&レモンズ』はアンディ・パートリッジの才気が爆発した傑作である。憧憬の奥深さと職人気質が窺がえるものの、マニアックに終わらせることなく、万人に向けて門戸が開かれたポップワールドを構築しているところが本作の特徴。

シングルにもなった「メイヤー・オブ・シンプルトン」はラジオでもかなり流れ、JWAVEのTOKIO100でもランキングしていた記憶がある。ほかで特筆すべきは「ザ・ラヴィング」だろう。XTC版「愛こそはすべて」と称された(市川哲史さんがそう書いていた)この曲が同作の格調を上げ、さらにはジャケットデザインとの整合性を持たせている気がする。

そしてもう一枚、『オレンジズ&レモンズ』と同じ89年に出たビートリーなアルバムが、スクイーズの『フランク』だった。こちらもXTC同様先達から継承したマナーに加え、独自のポップセンスで芳醇な音楽性をもつ職人的バンド。ニューウェイヴの流れをくむものの、パブロック寄り。ということもあり、エルヴィス・コステロやニック・ロウと親交があると知って興味を持ち、早くから彼らのレコードを聴いていた。前作『バビロン・アンド・オン』のレコードも発売早々に日本盤で買っていた。が、それまでは本気でハマることはなかった。英国産良質ポップであることは理解したものの、一聴しただけでわかる親しみやすさは少なく、クセになるほどの捻くれた刺激もない。まだリスナーとしてのキャリアが追い付いていなかったのだろうか。聴きどころに気づくことはなく、レコード棚の肥やしになってしまっていた。

60年代ロック再評価の兆しが見えてきた

スクイーズ『フランク』

『フランク』は違った。胸ときめくスイートなメロディ、一筋縄ではいかない職人的アレンジが耳に馴染み、すぐにビートルズ心を掴まれた。このアルバムを買うきっかけとなったのは、いつものように海賊盤チェックのために出かけた西新宿の「ウッドストック」でのこと。店内に流れていた「キャン・オブ・ウォーム」が気になって、思わず店員に「これは誰ですか?」と聞いてしまった。ポールの未発表曲のような風合いの「キャン・オブ・ウォーム」目当ての購入だったが、それ以外にも「イフ・イッツ・ラヴ」「ペイトン・プレイス」「ラブ・サークル」など、佳曲が多く収録されており、このアルバムで初めて、メインのソングライターのクリス・ディフォードとグレン・ティルブルックがレノン=マッカートニーの再来と言われていたことに納得するのであった。

ほかに89年は、レニー・クラヴィッツのデビュー盤『レット・ラヴ・ルール』も話題になった。黒いジョン・レノンと前評判どおり、全編アナログ機材を用いてのサウンドはまさに『ジョンの魂』を想起させるもので、ミニマムな世界観が実に刺激的だった。最初に『ベストヒットUSA』でアルバムタイトル曲のビデオを見たときは、今の時代にこんなアーティストがいるのかと耳を疑うほど驚いた。レニー・クラヴィッツは、ここ数年の傾向であったデジタルビートからの揺り戻しであるように感じたし、CDの普及で過去の名盤の再発が始まったことも大きかったのか、徐々に60年代ロック再評価の兆しが見えてきた。

そんな背景のなか、ポールは久々のオリジナルアルバムをリリースし、待望のワールドツアーに乗り出す。

筆者がインタビューした際にもらったアンディのサイン
この記事を書いた人
竹部吉晃
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竹部吉晃

ビートルデイズな編集長

昭和40年男編集長。1967年、東京・下町生まれ。ビートルズの研究とコレクションを40年以上続けるビートルマニア兼、マンチェスターユナイテッドサポーター歴30年のフットボールウィークエンダーのほか、諸々のサブカル全般に興味ありの原田真二原理主義者。WEBメディア『昭和MILD(https://showamild.com/)』もよろしくお願いします。
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