2ページ目 - 電気屋生まれアマゾン育ちの、足立区にあるちょっと変わった喫茶店。

全国の『鈴木電気』から思いが集まる場所になる。

『うちに入らないか?』

ある日、後に巨大サイトとなるアマゾンジャパンから声がかかった。2003年、まだ本が主流だったアマゾンが、DVDや日用品などに横展開しはじめる前夜だ。

二つ返事でOKした。DJ需要からかろうじて残っていたアナログレコード市場が、PCDJの登場で急速にしぼんでいたからだ。

「レコードのそれと街の電気屋のあれを体感していましたしね」

実際、アマゾンはゲームチェンジャーになる。鈴木さんはじめ各業界から集められたデキる人間が集まって切磋琢磨。みるみる取り扱いアイテムを増やして巨大化した。自身の役職もあがり、霞が関の官僚と勉強会や事業相談を繰り返すように。住んでいるのは変わらず北千住だが、アパートはマンションに。当然、風呂もあった。

「ただ帰宅は遅くてね。いつも遅くまで打ち合わせをしてましたので。しかも役人の方々が『官庁は落ち着かない。外でやろう』といつも言う。カフェを使っていましたが『面倒だから作ろかな』と」

そう、『エスディコーヒー』はこうして、いきなり生まれた。打ち合わせ用の“隠れ家”として誕生したのだ。場所は地元の北千住。そこに四十数年のうちに“通ってきた”好きなものを詰め込んだ。よく分解したブラウン管、店先にあった電気メーカーのノベルティ、レコード、iMacの筐体——。

和洋折衷。バラバラだけど、最高になった。うまく調和させているのはDJ的手腕かもしれない。

「実家の電気屋を違う形で承継した感覚もある。だから店名を『エスディコーヒー』にした。SDって鈴木電気の頭文字なんですよ」

あまりに居心地が良くて、数カ月後にはオープンな喫茶店として開放させた。そして本業にも。ちょうど子どもが小学校にあがったタイミング。アマゾンでの仕事もやりきった感があったからだ。

「もう本当の本当に、好きなことに振り切っていい頃だなあと」

結果、「懐かしい」「おもしろい」と老若男女が押し寄せた。メディア取材も多々。それを観て、なぜか旧い家電や看板が届くようになった。各県に残る街の電気屋さん、事業承継を諦めた彼らから『お前に託す』と送られたのだ。

街の電気屋カルチャーを受け継ぎ、残す役割を託されちゃった」

開業からもう8年。先日は熊本から『初めての東京なんです』という若い女性が訪れた。『皇居とディズニーランド、そしてエスディコーヒーの3つに行きたかった』と笑顔で教えてくれたという。

バラバラだけど、最高だ。

『エスディコーヒー』の「SD」はここにあるように「鈴木電気」の略。オーナーの鈴木さんの実家で父親が経営する街の電気屋さん『鈴木電気』の名を継承した。ちなみに上の看板ロゴは、フェローズの志村さんデザイン
壁一面にレコードが収められたカウンターは、元DJだったオーナーの真骨頂のひとつ。絶妙のバランス和洋折衷が自然にたたずむ
コンセプトのひとつはルーツである「街の電気屋」。実家はもちろん日本中から集まる看板やデッドストックが揃う
ノベルティ系グラスもこんな感じで所狭しと販売中。「実家にあった」「おばあちゃんちで出てきた」と昭和の昔話に花が咲く
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