電気屋生まれアマゾン育ちの、足立区にあるちょっと変わった喫茶店。

「コーヒー」と店名に付くから、かろうじてカフェだとはわかる。けれど店内を眺めれば眺めるほど「何屋だっけ?」と、戸惑う。東京の東側、足立区北千住の駅前商店街にある『エスディーコーヒー北千住』のことだ。

ラジカセとブラウン管と。ビクターの犬と富士山と。

ココには旧いテクニクスや東芝の看板、ラジカセに白黒テレビが当たり前にある。デ・ラ・ソウルのアルバムに、「元気が出るテレビ」のグッズ、さらに風呂桶や富士山の壁画まで紛れ、戸惑いが増す。

「好きなモノを揃えたっていうのはあります。もっと単純にいえば、自分のルーツみたいなものなんですよ」と、オーナーの鈴木保幸さんは言葉を続けた。

「街の電気屋で、ずっとDJをしていて、足立区と銭湯が好きでアマゾンにいたこともあって……」

内装同様、情報量が多すぎる。

北千住駅から徒歩3分ほど。学校でしかみない大きな時計と、冗談みたいなソフトクリームが目印。1980年代あたりの和洋折衷の懐かしい意匠をほどこした時空がねじれた喫茶店だ
電気屋さんと並ぶコンセプトが銭湯。SDは『銭湯大好き』の頭文字でもある。壁の富士は日本に3人のみの銭湯絵師、丸山清人氏によるもの。「銭湯以外ではほぼ描いてくれない。希少です」

ビックカメラ本店で日本一売り上げる男に。

1974年生まれの鈴木さんは静岡県富士宮市で育った。

父親が東芝系列の電気店、いわゆる街の電気屋さんを経営。ベータのビデオデッキやMSXなんかに囲まれて、幼少期を過ごした。

「勝手にテレビをバラして遊んだり、基盤にハンダづけしたりして、よく怒られていましたけどね」

家電の修理を快く引き受け、ついでにサッシや網戸の修理まで、お客さんの声に応え、直す。そんな父に影響された面もあった。

だから高校を出たあと、東芝の企業内学校に進学。足立区の電気店に修行に出たのち、実家に戻る。父の電気店を継ぐためだった。それが1997年。鈴木さんは22歳。家電を取り巻く環境は様変わりしていた。家電がデジタル化し、街の電気屋さんが修理できるような代物ではなくなった。価格だけがモノサシになり、家電量販店チェーンが急速に伸びていた。

「ようは街の電気屋は存在感をどんどん無くしていった。行く理由が薄まっていたんです。1年間は家業を手伝ってましたが」

父親に頭を下げ、もう一度、上京。スキルをそのまま活かせる場として、池袋のビックカメラで販売員として働き始めた。

すごいのが全店で売上日本一を達成することだ。メカ好きなうえ東芝で学んだ結果、家電に入っているCPUや、どこの工場で作っているまで可能な、誰よりデキる販売員になっていたからだ。

もっとも1年後にはまた別世界へ。今度は「好き」で選んだ。
「中学くらいからソウルやヒップホップを聴き、DJもやっていたんですよ。家業を継ぐ道が消えたなら、好きに振り切ってみたくて」

渋谷の老舗レコードショップ『DMR』で働きつつクラブやFMラジオで活躍するプロDJに。ただ収入はガクンと減り、北千住の風呂なしアパートへ引っ越す。銭湯好きは、このときからだ。『DMR』では途中、卸事業を担当者、米レーベルと直接やりとりするディストリビューターになる。大手CDショップや全国のレコード店が取引先に。その中のひとつにできたてのECサイトがあった。

名前を『アマゾン』といった。

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