アイヴァンには立ち返るべき原点がある
どこぞのヴィンテージの復刻ではなく、「アイヴァン」による“セルフリプロダクト”である点こそが本プロジェクトの持つ説得力である。それもすべて、語りたい過去がある「アイヴァン」だから成せること。
これまでも「アイヴァン」では、過去のアーカイブをアイデアソースに、モダンな再解釈を加えたプロダクツを世に放ってきた。しかし、それらが照準を合わせていたのはあくまで現代。今回の“ヒストリック コレクション”は、「アイヴァン」史上初となる完全復刻を銘打つことによって、ブランドの歴史や原点を想起させるものとなっている。
逆に言えば、ここまでの歴史がなければ、本コレクションはなんの説得力も持たなかったはずだ。「着るメガネ」をキャッチコピーに、“メガネ=ファッション”という哲学を、1972年の設立から現在に至るまでブレずに貫き通してきた「アイヴァン」。その軌跡を改めて辿ることによって、“ヒストリック コレクション”の解像度を高めていただきたい。
ファーストコレクションをローンチ。コンセプトは「着るメガネ」


1972年の設立と同時に発表された第一作。上から[モンテカルロ]、[マンハッタン]、[サンジェルマン]。“メガネ=ファッション”が常識となった現代へと続く、記念すべき一歩。
セミナーという初の試みによる販売員の意識改革


“メガネ=ファッション”を提唱すべく、まずは販売員向けに「アイヴァン・ファッションセミナー」を開講。服飾評論家のくろすとしゆき氏らが講義を行った。
“メガネ=ファッション”を訴求するための徹底した広告戦略






「着るメガネ」のコンセプトを大々的に打ち出した70年代の広告ビジュアル。それまでは医療器具でしかなく、“ダサい”というイメージすら抱かれていたメガネのイメージ改革に大きく寄与した。
VANとの関係性が生んだ“アイビーリーガース”コレクション




ジャパンアイビーの祖である「ヴァン」との協業によって始動した「アイヴァン」。1977年にローンチした学生向けライン“アイビーリーガース”は、「アイヴァン」にとって紛れもない原点のひとつ
【アイヴァンの歩み】
1972 山本防塵眼鏡がアイヴァンを設立。ヴァンヂャケットとの協業により「アイヴァン」始動。
1976 メガネ販売店への啓蒙活動として「アイヴァン・ファッションセミナー」を開催。
1977 学生向けライン「アイビーリーガース」始動。ボストンとウェリントンという言葉が生まれる。
1980 山本防塵眼鏡が社名を山本光学に改称。
1985 山本光学がアイヴァンを吸収合併。鯖江市にオプテックジャパンを設立して製造にも着手する。フラッグシップモデル[0505]誕生。
1987 米・オリバーピープルズ社とライセンス契約を締結。
Late80’s 米国でセレクトショップを営んでいた「オリバーピープルズ」で販売され、海外セレブにも愛用されるように。
2003 「アイヴァン」の展開を一時休止。
2013 「アイヴァン」の意志を引き継ぐ「アイヴァン 7285」ローンチ。
2017 美しい道具をコンセプトとする「10 アイヴァン」ローンチ。スポーツシーンに最適化された「アイヴォル」ローンチ。「アイヴァン 7285」の旗艦店「アイヴァン 7285 トウキョウ」をオープン。
2018 「アイヴァン」復活。
2021 青山・骨董通りに「アイヴァン」の旗艦店「アイヴァン 東京ギャラリー」をオープン。
2022 設立より50周年を迎える。写真界の巨匠・操上和美氏とのプロジェクトの一環として、写真集『50,50 FIFTY GENTLEMEN OF EYEVAN』を発売。表参道駅の広告をジャックするなど大々的な広告戦略が目を惹いた。
2026 「アイヴァン」初の完全復刻ラインヒストリック コレクションを始動。
なぜ、今“完全復刻”なのか
これだけの長い歴史がありながら、“完全復刻”と銘打ったプロダクツはブランド初。アーカイブを徹底解析し、細部に至るまでを再現した渾身の復刻コレクション。その幕開けを見届けたい。

「アイヴァン」は、長きにわたる歴史のなかで、国内外問わず影響を与えるほどの名品を生み出してきた。2018年の「アイヴァン」復活以降、現代の価値観に沿った形でアーカイブをモダナイズした商品はいくつか展開してきたものの、今回の「ヒストリック コレクション」のように、デザインや生地、細かなパーツに至るまで、かつての仕様を忠実に再現した“セルフオマージュ”は、ブランド初の試みとなる。
1977年に発表された「アイビーリーガース」は、学生向けのコレクションとして打ち出された。そのなかのひとつとしてラインナップされていたボストンとウェリントンは、いずれも海外の大学名に由来した“商品名”でしかなかった。それが現代では基礎用語として定着していることを考えると、いかに大きな存在であったかが理解できる。
1985年にリリースされた3ピース構造のフレーム[DB-7]は、「アイヴァン」ファンにとってはお馴染みの[E-0505]の前身となった一本だ。海外の著名ブランドにも、大きな影響を与えた。
同年に誕生した[DD-21]のテンプルにあしらわれる彫金、通称「ドラゴンテンプル」も、いまだに定番ディテールとして親しまれている。これらを含む計6本を「ヒストリック コレクション」の第一弾としてラインナップ。同コレクションは、今後も年に一度のペースで継続する予定だ。
目まぐるしい流行の変化と多様化のなかで、メガネ業界から、明解なトレンドは消えつつある。だからこそ「アイヴァン」は、唯一無二の原点に立ち返った。この回帰は、商品的な価値に留まらず、〈アイヴァン〉そのものの価値を再定義するきっかけとなる、重要な取り組みである。

(上から)
1977 元祖“ボストン”
1977 元祖“ウェリントン”
1972 新鮮だったメタルの提案
1980s 異素材ミックスの再定義
1985 いまだ継がれる定番モデル
1985 美しき“ドラゴンテンプル”
EYEVAN HISTORIC COLLECTION

(上から)
AU-5003
77年発表の「アイビーリーガース」より。いまや常識となった“ボストン”という呼称が初めて付けられた。4万7300円
AU-5004
オーバーなサイズ感も「アイビーリーガース」の特徴。カシメをフロントに用いないミニマルなデザイン。4万7300円
MA-109
当時黒セルが主流のなか、知的な細身のメタルフレームを提案。左テンプルのオリジナルロゴパーツも粋。4万7300円
COM-80
8コンビ仕様はブランドの真骨頂。セルのブロウラインは、装飾としても機能としても非常に合理的だった。6万7100円
DB-7
現在の定番モデル[E-0505]の前身となった3ピース構造のフレーム。当時同様、クリップが付属する。7万9200円
DD-21
テンプルに施される精緻な龍の彫金は、現代でも定番の仕様。合金だからこそ、力強く映える彫金が魅力。5万2800円
※直営店にて2026年7月より先行発売/8月より一般発売予定
ヒストリックコレクション復刻への道のりに迫る!
「過去のものを現代に再現すること」は、簡単に思えて、かなりの手間と労力がかかる。その実現には、やはり福井県・鯖江市の職人たちが培い、残してきた類い稀な技術が不可欠だ。“ヒストリック コレクション”が、歩む道のりに迫る。


今回のコレクションの製作には、メガネの聖地鯖江にある多くの工場が関わっている。それも、「アイヴァン」が長きにわたる歴史のなかで、関係性を築いてきた実力のある工場ばかりだ。
前述のとおり、「完全復刻」というのは単なる過去の真似事ではない。限りある現代のソースのなかで、いかに”正解”へと近づけるか。そのためには、鯖江の熟達した職人たちの力が必要だった。
今回は本コレクションの製作を担う工場のなかから4軒を訪ね、フレームの削り出しからガラ入れ、バフによる磨き、リム製作、ロウ付け、仕上げに至るまでひと通りの工程を追った。
その精緻なアイウエア製作の道のりを辿っていくなかで明らかになったのは、無茶とも言えるブランドのこだわりに全力で応える工場。そして、時代に逆行した技術や素材を要求されることに、呆れるどころかむしろ熱くなる職人たちの姿。なかには、80年代から「アイヴァン」と協業している工場もあった。うちたったひとつが欠けているだけでも、本コレクションの実現は難しかったに違いない。
“ヒストリック”という言葉には、単に「アイヴァン」の歴史だけでなく、製作に関わるすべての人々の歴史まで含まれている。単なる過去の真似事ではないことを、より強く実感したのだった。










職人も認める、あえて“合金”の魅力
“ヒストリック コレクション”のメタル素材には、おもに合金が使われている。チタンが主流の現代においては極めて異例なことだが、すべてはオリジナルの復刻のため。しかし、かつて合金を扱っていた職人たちは、チタンにはない合金の魅力をこう語る。
よりマスターに近い彫金の雰囲気が出る

レンズを囲むフレームの縁、「リム」と呼ばれるパーツの製造風景。金属を知り尽くす工場の職人はこう語る。「チタンは軽くて扱いやすい。それゆえ、25年ほど前を境として合金からチタンへと移行していきました。ですが、合金にも硬くて加工しやすいという良さがあります」。別の職人によると、「合金は、彫金を入れた時の“粘りの強さ”が違う。マスター(彫金を入れる際に押し付ける親型)の雰囲気に近く、エッジが立っているように見えますね」
ちょっと重いけど、それがいい

合金に対するチタンのメリットとして、しばしば「軽い」というワードが用いられる。しかし、なかには世間一般とは違った意見を持つ職人もいるようだ。
「確かにチタンは軽くて、合金は重い。それは揺るがないけど、それは“重厚感”とも言い換えられる。チタンはバネ性はあるけど、良くも悪くもふわふわとしてるイメージ。合金は重いけど、顔にずしっと馴染む感覚と、温もりがある。僕は合金のほうが好きですね」


合金のロウ付けができる人はごくわずか

メタルフレームの製造に欠かせない“ロウ付け”の工程。実はチタンと合金は勝手が異なるようで、合金のロウ付けができる工場は片手で数えられるほどしか残っていないという。そのうちの1軒にて職人に話を聞いた。
「チタンのロウ付けの場合、薄い板状の『ロウ材シート』を接着したい部分に貼り、それをロウとして溶かして接着することが多いのですが、合金は性質上、それが貼れないんですよ。だから必然的に、独自の技術が必要になるんです」
経年変化するメタル。それが合金だと思います

チタンにはない合金の魅力を模索していたとき、とある職人が発した言葉が印象的だった。
「チタンと合金って、質感そのものにも違いがありますよね。チタンは“キラキラした銀”というイメージ。対して合金は“いぶし銀”というイメージって言ったら伝わるかな。使い込んでいった末にたどり着く表情も違っていて、個人的にはチタンよりも合金のほうが味わい深いと思う。つまり『経年変化するメタル』ってことになるのかな」

“そこまでやるか”を徹底的にやり尽くす


最後にマニアックな話をひとつ。メガネを折りたたんだ際に見えるテンプルの断面、芯金(しんがね)も露出している「合口(あいくち)」と呼ばれる部分に注目してほしい(上の写真)。手に持っているメガネの左が“ヒストリック コレクション”、右が一般的な現行のメガネだ。次に、芯金に取り付ける蝶番のパーツを見てほしい(下の写真)。写真手前にある現行のゴールドパーツと、その隣にある旧いシルバーパーツとは、形状が異なっていることが分かる。それにより合口の見え方も変わる。旧いパーツは現在生産されていないが、「アイヴァン」はこのパーツを探し出して本コレクションに採用。一見些細に思われるディテールにこそ、強いこだわりが垣間見える。
【問い合わせ】
アイヴァン 東京ギャラリー
TEL03-3409-1972
https://eyevaneyewear.com
Photo/Akihito Mizukami(P066, P070-073), Nanako Hidaka(P068-069) Text/Shuhei Takano
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ものすごい感性とヘンタイ性(笑)「製作背景に惚れる」ってこういうことと感じるメガネ