寒空の徹夜の末にゲットしたポール来日公演の整理券|ビートルズのことを考えない日は一日もなかったVol.57

1989年12月、ポールの来日がいよいよ現実味を帯びてきた。とはいってもネットのない時代ゆえ、逐一情報が入ってくるわけではなく、また自分はファンクラブにも入っていなかったので、真実のほどはつかむことはできない。ただファンとしての勘で、そういう空気を強く感じるようになったというだけの話。勘だけでは埒が明かないので、独自調査による聞き込みを始め、原宿のGET BACKを訪れた際などに「ポールの来日発表はそろそろですかね?」なんてわざとらしく店員に聞いてみたりすると「そろそろっていう話ですよね」と返してくれたり。確固たる根拠があるわけではなく、単に空気を共有したに過ぎないのだが、そんな緩い丁々発止を繰り返しながら、来るべきXデイに備えて、全神経を集中させていった。

現場百回の精神で日参したキョードー東京前

東芝EMI制作の小冊子

ポール来日決定の第一報を伝えたのは12月9日のサンケイスポーツ。翌週15日には具体的な詳細が記され、公演は3月3日、5日、6日、8日、11日、13日、会場は東京ドーム。主催はフジテレビ、招聘はキョードー東京と書かれていた。後日正式発表された日程は、2日、3日、5日、6日、8日、9日、11日だったので、飛ばし記事と思われるが、芸能面を大きく割いたその報は、予想をしていたとはいえ体が震えた。ついに来る……。10年夢に見たポールの公演が現実のものとなる。3月ということは、もうすぐではないか。嬉しい反面、果たしてチケットを取ることができるのかという心配が押し寄せてきた。

なにをやっていても上の空。寝付けないまま迎えた翌日、居ても立っても居られず、終業後に表参道のキョードー東京前へ向かった(当時は土曜日も仕事)。そこに行けばなにか情報を掴めるかもしれない。勘、聞き込みのあとは足が重要と考えた。現場百回。キョードー東京前に日参するようになる。すると同じような人やグループがいて、3日目に自分より年上と思しき女性グループから声をかけられた。「あなたもポールのチケットで来ているんでしょ?」。図星。聞けば10年前のウイングスのチケットも同じようにゲットしたという。「動きがあったときにすぐに連絡を取り合おう」ということになり、電話番号を教え合った。連絡先は自宅と勤務先の電話番号である。その次の日も、そのまた次の日も動きはなく、迎えた22日金曜日の夕方、会社に例の女性グループから電話がかかってきた。「来日発表は明日の朝刊。同時にキョードー東京前で整理券が配布。これからすぐに来て並んだほうがいい」。動揺を抑えながら受話器を置いた。

深夜の寒空の下、時間を追うごとに伸びる長蛇の列

東芝EMI制作の小冊子別バージョン

ついにXデイが来た。終業後すぐに表参道へ向かうと、キョードー東京ビル前から富士銀行青山支店のビルに向かう246沿いに50メートルほどの列ができており、すでに50~60人くらいの人が並んでいた。女性ファングループを見つけてお礼を言ったあと、最後尾に歩いていくと、富士銀行の手前あたりで列が途切れていた。ビルとビルの間にくぼみがあり、寒風を凌げるポジョションを確保することが出来た。ここなら徹夜できるかもと安堵。

自分は薄手のコートを着ていたが、着の身着のまま駆けつけた人、偶然付近を歩いていたら配布を知り、そのまま並んだと思しき人の中には、スーツだけの人もいた。本格的な冬の到来を告げるような寒い日だったので、薄着での徹夜はかなり堪えるのではないかと心配になった。

時計を見ると時間はまだ夜8時前。夜は長い。カバンの中にウォークマンと文庫本が一冊あり、時間をつぶすアイテムを持参してはいたが、一人では心細い。救援を頼むべく、近くの公衆電話から浅草に住む高校時代の友人兼バンド仲間のMに電話をかけてみると、二つ返事で承諾してくれ、30分後に愛車の赤いシビックで駆けつけてくれた。持つべきは友。今思えばよく駆けつけてくれた。感謝しかない。

そこから2人で並んでいたのだが、深夜はさすがに気温が下がり、空腹にもなったので、列に並ぶ前後の人に断りを入れ、クルマで青山デニーズまで行って暖を取った。30分ほどで戻ると列は富士銀行青山支店列を左に曲がった先まで伸びており、何も知らない人にしてみればはかなり異様な光景に映ったのではないだろうか。

12月23日早朝、徹夜の末入手した整理券

あとはひたすら朝を待つのみ。前後の人が途中抜けで休憩する際など協力し合いながら、眠気、寒さ、空腹と闘い、ついに夜明けを迎えた。そして、朝日で少し気温が上がりだした頃、正確な時間は覚えていないが、6時くらいだっただろうか、列が動き出し、整理券の配布が開始された。

前方から歓喜の声が聞こえてくる。整理券を得た人たちの様子は、予防接種を受けたあとの子どものようだ。無事整理券を受け取ったあと、もう一度後方から並び直してMの1枚を加えて計3枚の整理券をもらうことができた。ようやく夢にまで見たポールのライブを見られる。その興奮で眠気が一気に覚めるとともに、実感がわいてきたことは言うまでもない。

チケット発券(整理券との交換)は翌年1月7日。それまで、風邪などひかぬよう、ケガなどせぬよう、年末年始は行動を慎重にしようと心に期したのであった。

この記事を書いた人
竹部吉晃
この記事を書いた人

竹部吉晃

ビートルデイズな編集長

昭和40年男編集長。1967年、東京・下町生まれ。ビートルズの研究とコレクションを40年以上続けるビートルマニア兼、マンチェスターユナイテッドサポーター歴30年のフットボールウィークエンダーのほか、諸々のサブカル全般に興味ありの原田真二原理主義者。WEBメディア『昭和MILD(https://showamild.com/)』もよろしくお願いします。
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