昭和最後の文化の日に放送された日本公演|ビートルズのことを考えない日は一日もなかった Vol.52

サディスティック・ミカ・バンド「タイムマシンにおねがい」のように、もしもどこか好きな時代、年、日時、場所に行けるとしたら……、日本の後追いビートルズファンの多くは、1966年6月30日、7月1日、2日の日本武道館を選ぶのではないだろうか。公演を観られようが観られまいが、現地であの日の空気を吸い、ビートルマニア気分を味わい、当時の感覚でビートルズを聴きたい。言わずもがな、日本のビートルズファンにとって66年のビートルズ来日公演は最重要な出来事、特別なイベントである。

友達KKくんが持っていた『ML』来日記念号

『ミュージック・ライフ ビートルズ来日特別記念号』

日本にビートルズが来たことがあると知ったのは、ファンになるきっかけとなった1980年1月、ポールの逮捕を伝えるニュースだった。成田空港で大麻所持のため現行犯逮捕という、前代未聞の事件を報道するアナウンサーの「ビートルズの来日公演以来の来日でした」という状況説明を聞いてポール・マッカートニーという人物がビートルズの元メンバーであることを知り、過去に日本にやってきていたことを認識した。中学1年、13歳のときのことだ。

その後ビートルズにはまり、レコードを聞いていくのだが、その過程において、来日公演がどういうものだったのか、写真や映像はあるのか、音源は残っているのかという、細かい点が気になっていく。が、当時は調べようにもその手立てがなく、出たばかり『ビートルズ・サウンド』という書籍に掲載された1枚の写真を見て妄想を膨らませたものであった(「ビートルズの演奏は本当に観客に聴こえていたのか」という記事を何度も読み返した)。

中2にあがってしばらくしたあと、友達になったビートルズファンのKKくんが、「『ミュージック・ライフ』来日記念号を持っている」というので、わざわざ家まで行って見せてもらったりもした。KKくんの部屋には叔父さんから譲り受けたという、60年代の『ミュージック・ライフ』が積み上げられており、それらの雑誌はまさに宝の山。その中の一冊、ボロボロの来日記念号のページをめくり、写真を一枚ずつながめては感動し、キャプションを隈なく読んでいると、とっくに終わっている14年前の来日がまるで最近のことのように、身近に感じられたものであった。余談だが、このあたりのML誌は返すのを忘れたまま今も手元にあり、時折眺めてはKKくんのことを思い出したりしている。

来日公演の海賊盤『Five Nights In A Judo Arena』を聴いたのはその直後のこと。やはりビートルズファンの同級生Nくんからレコードを借りたか、テープに録音してもらったかして、待望の日本公演疑似体験をすることが出来た。それこそ正座をして襟を正すような面持ちでプレイボタンを押した記憶がある。演奏は低調、正規のレコード音源とはまったく別物という違和感が先に立ち、興奮にうちふるえるといった感想はなかったが、ただ確認できたことだけで満足というのが第一印象であった。

『Five Nights In A Judo Arena』

82年夏のビートルズ復活祭で観た6月30日版公演

広く知られているように、ビートルズの日本公演の素材は6月30日と7月1日昼公演の2種ある。なぜ2種類あるのかというと、テレビ放映権をもつ日本テレビは初演となる6月30日の公演を収録したものの、諸事情によりブライアン・エプスタインのOKが出ず、翌7月1日昼公演を撮り直し、その日の夜に録って出しで全国放送された。

『Five Nights In A Judo Arena』は6月30日の音源をソースにした海賊盤である。テレビ放送された7月1日の音源から作られたのであれば理解できるが、お蔵入りになったはずの音源がどのような経緯で流出したのだろうか。その理由のひとつとして考えられるのは、離日の際、ブライアンは7月1日昼公演のみのマスターを持って帰国し、6月30日版は破棄されず、日本に残されたということ。

その音源は70年代の初めに『LIVE IN TOKYO』というタイトルでリリース、初盤は無地の白いジャケットだったという。その後、白地にモノクロの写真をあしらったジャケットに改められ、74年にカラー写真が鮮やかな『Five Nights In A Judo Arena』が出た。これが大ヒットしたことにより、6月30日の音源が日本公演のスタンダードとして定着していく。一方、海賊盤が出回る前に『亀渕昭信のオールナイトニッポン』でオンエアされているとの話もある。この音源はどこから流出したものなのろうか。また当時、ファンクラブ主催で開かれていたフィルムコンサートで上映されていた映像はどういう経緯だったのだろうか。謎である。

わたしが初めて日本公演の映像を観たのは82年夏のビートルズ復活祭でのこと。上映後に司会の浜田哲生氏が「公演中ポールは何度マイクを触ったでしょうか? 分かる人いますか? 数えた人がいます」と話していたことを覚えているので、6月30日版で間違いない。その3カ月後、今度は日本テレビの『ザ・ビートルズ!あなたが選ぶ不滅のベストヒット20』で放送。ゴールデンの生放送特番の中で、6月30日の数曲に加えて「ミスター・ムーンライト」から始まる来日ドキュメント、前座の様子がオンエアされている。曲は細切れで、ところどころ司会の福留アナと徳光アナのトークが被さるところが不満だったが、貴重な映像であることには違いなく、ビデオに録画した映像を何度も見直した。

復活祭で購入したソノシート

翌84年9月、ついにVHSが公式に発売(映像は6月1日版)されるも、1万8800円という高額ゆえ手が出ず。発売日近辺に宣伝として「イエスタデイ」の歌唱シーンがテレビで流れていた記憶がある。その年末にはNHKで放送された『ビートルズのすべて』で7月1日の映像が流れた。『ビートルズのすべて』は2年前に出た『コンプリート・ビートルズ』というVHSを日本語吹き替えにしたものだが、構成が素晴らしく、『アンソロジー』以前の評伝映像として広く見られた作品であった。日本公演の「イエスタデイ」と「ひとりぼっちのあいつ」は、ひどく色褪せ白飛びした画質ではあったが、鑑賞には耐えられるもので、これには大いに感激した。

7月1日版を最初にフルで観たのはそれからさらに2年が経過した86年夏の「復活祭」にて、来日20周年記念として上映された。こちらも白みがかった画質だが、なによりマイクトラブルがないのがうれしい。そのせいもあってか4人の士気が高く、覇気のある演奏で、サウンド自体もシャープに感じられたのだが、6月30日はチューニングを1音落として演奏していたことを知らなかった。カメラワークも7月1日のほうが断然カッコよく思えた。

イマジカの最新技術を用いてのリマスター

「イエロー・サブマリン」日本盤シングル

ずいぶん前段が長くなってしまったが、これからが本稿の本題、88年11月3日に放送されたビートルズの日本公演について触れたい。昭和最後の文化の日の昼間、日本テレビ開局35記念年を記念して放送された『また逢えてよかった!! 今蘇るビートルズ プレスリー マイケル・ジャクソン 世紀の熱狂ライヴ!!』という特別番組の中で6月30日版が流れた。

1978年10月に「たった一度の再放送」として組まれた特番からちょうど10年、どういう権利関係を処理したのか、待望の再放送が実現した。ちなみに66年の放送は7月1日版だったので、78年は再放送ではない。初公開だったのだ。それゆえ「たった一度の再放送」の謳い文句には偽りがあり、88年こそ再放送となる。

ともあれ、10年前の放送には間に合わなかった身としてはうれしく、満を持して待機。録画準備をしてその瞬間を待った。タイトルからわかるように、この番組は日本テレビがかつて放送したビートルズ、エルヴィス(73年にハワイ公演)、マイケル(87年のBADツアー)のライブ映像を一気に紹介し、日テレが日本のエンタメ界に果たした貢献度をあらためてアピールしようとする意図を感じさせた。司会は当時『CNN』のキャスターで人気のあった山口美江、スポンサーは原ヘルスという並びはいかにもバブル絶頂期らしい。

このときの放送の最大の売りはハイクオリティの画質であった。イマジカが最新技術を用いてリマスターにあたったとのことで、従来の画質との比較する映像が流されるなどの解説がなされた。イマジカという社名が広く伝搬したという意味でもその効果は絶大だったと思われる。だが、個人的にはそれ以前のフィルムコンサートで劣悪なフィルム画質ばかり観て、それがあまりに馴染み過ぎていたため、確かにクリアにはなったように思ったものの、そこまでの感動はなかった。それよりも、途中で挟み込まれた当時を検証するドキュメントに好感をもったことを覚えている。

それとともに忘れられないのが、原ヘルスがこの放送のために作ったオリジナルCMである。64年ビートルズが初渡米の際に宿泊したプラザホテルのバスルームに同社の最新機種を装置し、その効果を試すと言うものであったが、こじつけでしかない演出に思わず失笑。その無駄こそが80年代バブル期を表しており、その時代その時代のビートルズが感じられ貴重な証拠といえる。現時点において、ビートルズの日本公演が公共放送に乗ったのはこれが最後。その放送はイマジカと原ヘルスという社名とともにビートルズファンの脳裏に色濃く刻まれた。

ビートルズ日本公演パンフレット(レプリカ)
この記事を書いた人
竹部吉晃
この記事を書いた人

竹部吉晃

ビートルデイズな編集長

昭和40年男編集長。1967年、東京・下町生まれ。ビートルズの研究とコレクションを40年以上続けるビートルマニア兼、マンチェスターユナイテッドサポーター歴30年のフットボールウィークエンダーのほか、諸々のサブカル全般に興味ありの原田真二原理主義者。WEBメディア『昭和MILD(https://showamild.com/)』もよろしくお願いします。
SHARE:

Pick Up おすすめ記事

革とデニムの境界線を越える! デニムのように見えるけど実はコレ、革なんです。

  • 2026.07.02

前号でもお伝えしたが、天神ワークスの開発していた新しい革「リジットレザー」が完成し、この度、遂にレザージャケットとなって登場した。まずはこの写真を見てほしい。これは、天神ワークス代表の髙木さんが1カ月着込んだもの。このエイジング、まさにデニムじゃね? でも、レザーらしいエイジングも見え隠れする、唯一...

夏のアメカジがもっと楽しくなる「HEATH」のオリジナルプリントT !!

  • 2026.06.30

横浜を拠点に“大人のアメカジ”を提案する「ヒース」。セレクトショップでありながらハイクオリティなオリジナルプロダクツに定評があり、遊び心のあるアイテムや限定モデルも多く展開している。その筆頭が7.4オンスの肉厚Tシャツシリーズだろう。 [caption id="" align="alignnone"...

時とエイジングを刻む。VAGUE WATCH&Co. × CONSIGLIERE THE 1ST SPECIAL WATCH

  • 2026.07.02

時計は時間を刻むもの。本来の目的はそれで十分だが、「エイジングするものに囲まれて暮らしたい」という自称革ジャンの伝道師・モヒカン小川はベルトにもこだわる。そんな彼が愛用するヴァーグウォッチとシルバージュエリーブランド「コンシリエーレ」のコラボウォッチには毎日身につけた分のエイジングが刻まれている。 ...

初夏は、泥と大戦で。「STUDIO D’ARTISAN」2026SSの新作を紹介!

  • 2026.07.03

選ぶのは「泥染の開襟シャツ」か、「大戦モデル」か──。この初夏、気になるのは対照的な表情を持つ二つの新作だ。そのどちらにもステュディオ・ダ・ルチザンならではの、丁寧な作りと遊び心が息づいている。 奄美大島の伝統技法が生む、泥染ならではの深い表情に注目 奄美大島に古くから伝わる泥染は、テーチ木(シャリ...

Pick Up おすすめ記事

上品に纏うちょうどいい季節。大人の夏にちょうどいい「ORGUEIL」のシャツ

  • 2026.06.30

気温の上昇とともに、装いは軽く簡素になる。だからこそ求めたいのは、肩肘張らない大人の品格だ。クラシックをモダンに再構築したORGUEILのシャツが、大人の夏にちょうどいい存在感を放ってくれるはずだ。 Shawl Collar Denim Work Shirt 1930 年代に現存したアメリカンワーク...

王道のデニムセットアップはボトムスで差をつけろ!

  • 2026.06.30

昨今のアメカジブームのなかで、注目度が高まっている“デニムオンデニム”のセットアップスタイル。王道ももちろん良いが、一歩先を行きたいアメカジラバーはボトムスで差を付けてみるのはいかがだろうか。気鋭のブランド「アンバースレッズ」が展開するデニムセットアップはそんな望みを叶えてくれるに違いない。 Amb...

【連載】ビートルズのことを考えない日は一日もなかった

  • 2024.02.05

80年代、私的ビートルズ物語。 ビートルズ研究と収集に勤しむビートルデイズを始めて早44年(Since1980)。 なにをするにもビートルズが基準だった『昭和40年男』編集長のビートルズ史を、 当時の出来事とともに振り返ります。

「ファーストアローズ」創業30周年記念! 「JELADO」「RE-BUILT」とのコラボによる銀で彩った、贅沢なデニム。

  • 2026.06.29

日本屈指のシルバーアクセサリーブランド「ファーストアローズ」が創業30周年を記念して、これまでの集大成かつファンへの感謝の気持ちを込めて、「JELADO」と「RE-BUILT」とコラボしたスペシャルなデニムを制作。限定100本。節目の年に相応しいこだわりに満ちたデニムの詳細を大解剖! First A...

初夏は、泥と大戦で。「STUDIO D’ARTISAN」2026SSの新作を紹介!

  • 2026.07.03

選ぶのは「泥染の開襟シャツ」か、「大戦モデル」か──。この初夏、気になるのは対照的な表情を持つ二つの新作だ。そのどちらにもステュディオ・ダ・ルチザンならではの、丁寧な作りと遊び心が息づいている。 奄美大島の伝統技法が生む、泥染ならではの深い表情に注目 奄美大島に古くから伝わる泥染は、テーチ木(シャリ...