【近著】
面白かったので、ぜひ。実は私(タクタ)も、50歳代で退職してフリーランスになったので、非常に共感しました。
宇宙って、どんなところですか?
まずは、野口さんは何百回、何千回と聞かれている話だとは思うが、やはり自分で聞いてみないと気が済まない「宇宙ってどんなところですか? 怖くないんですか?」という当たり前過ぎる質問を投げ掛けてみた。
「今の時点では、ロケットに乗らないと行けないし、いわば火薬のてっぺんに乗って飛んで行くようなものですから、その危険もあります。真空の宇宙には空気もないし、温度もない。危険な宇宙線も飛んでいるし、宇宙ゴミの危険もある。危険が多いのと怖いのは、一緒じゃない。ひとつひとつの怖さの正体を見極めていけば対処方法がわかりますよね。たとえば、子供の頃、キャンプで暗闇を歩けば怖い。でも懐中電灯をもって照らして、怖さの正体に光を当てていけば、怖さは減りますよね」
リスクをひとつひとつ潰していくということでしょうか?
「危険をなくせればいいですが、潰せない危険も当然あります。たとえば、ロケットでいえば、どうしても混ぜると危険な火薬の上に我々は乗って行くので、その危険は消えないんだけど、少なくとも、その火薬がどういう仕組みで混ざらないようになっていて、爆発しない仕組みを理解することで、怖さはなくなっていくんじゃないかと思います」
EVA(船外活動)でISSから外に出る。私なんて、ダイビングでたかだか10m水の中に潜っても、パニックになりそうな恐怖を感じるのですが、EVAの時にそういう恐怖に押しつぶされそうにはならないのですか?
「宇宙船やISSの中にいればTシャツで過ごせますし、仲間の宇宙飛行士もいるし、何かあったらすぐに地上の係員もサポートしてくれます。でも、あのマシュマロマンみたいな宇宙服を着て、ハッチを開けて外に出た途端に、その服の外には確実な死があります。顔の前のスクリーンが割れても、服が破けても、ISSから大きく離れてしまっても、確実に死ぬわけです。EVAの活動の時には基本的に二人一組で出るし、お互いに命を預け合っているという感覚はすごくある。でも相手の命が危険な時は自分が助けるわけだから、そういう意味では危険はたいして減ってない」

「ただ我々は、それだけの意味があることだから船外に出て行くと。単に遊びで出て行くわけじゃないですよね。あの服を着たり準備したりするのに何時間もかかるし、出ても数時間活動する。それでも船外に出ないとできないことがあるから出て行くわけです。もちろんね、それは宇宙飛行士にとっては夢の舞台ですから、何回でもやりたいと思うし、2回より3回、3回より4回の方が楽しいに決ってます。でも、そこに危険があるから、言い方は変ですけど、一度出たらいつまでも宇宙空間にいたいという気持ちと、逆に命があるうちに早く帰りたいというアンビバレントな気持ちを持ちながら活動しています」

「ISSに戻ると、すごくホッとしますね。ハッチを閉めた瞬間の安堵感というのはすごいですね。「これで少なくとも今日の飯は美味いぞ!」と思います(笑)」
宇宙飛行士の仕事の中で一番怖いのは……
野口さんは3度宇宙に行って、3つの異なる着陸方法で帰還されている。一度はスペースシャトルでの着陸、一度はソユーズの着陸船(小さな球形の二畳間ぐらいのサイズのカプセル)で草原に着陸、もう一度はクルードラゴンの着陸船で、海上に着水。EVAも経験されている。そんな多様な経験の中で、もっとも恐怖を感じたのはいつなのだろうか? 発射時なのだろうか? それとも大気圏突入時なのだろうか?
「打ち上げの時は、アドレナリン全開状態なので、怖くはないです。もちろん、あのロケットの燃料が爆発したらおしまいだというのは分かっているのですが、それ以上に興奮が勝るので怖さはありません。だから、怖いのはやっぱり船外活動(EVA)ですね。宇宙服の外は死の世界ですからね。このヘルメットが割れたら、間違いなく死ぬ。この手袋に穴が開いても多分死ぬと。小さな世界ではありますが、宇宙船の中はやっぱり金属で守られていて、仲間もいっぱいいる『ミニ地球』なんです。対してEVAは、その外に出るので『死』を非常に実感しやすいんです」
筆者は筑波宇宙センターで、大気圏再突入用のソユーズのカプセル(の実物大模型)を見たことがあるが、あの小さいカプセルで大気圏外から落ちてくるのが一番怖いような気がするのだが……。

「大きいから安全というわけでもないですし。スペースシャトルは小型のジェット旅客機ぐらいの大きさですけど、大きいからかならずしも安全というわけではありません。残念ながらスペースシャトルは2回大きな事故……チャレンジャー号の事故と、あのコロンビア号の事故を起こしています」
「再突入カプセルは最小限の空間で、ある意味ギッチリと『おじさん詰め合わせ』みたいな感じで帰ってきますが、あれは必要なものが全部手に届く範囲にあるという、割と快適な空間です」
……あのカプセルで落ちてくるのが快適とはとても思えないのですが。
宇宙へ行く方法の、飛躍的進歩
社会としては大きな資本を投じて、個人としては命のリスクを冒して、宇宙に行くというのはどういう意味があるのだろうか?
「人類が宇宙に挑戦することで広がる世界はあると思っています。ガガーリンさん以来60年ぐらい経ってますが、先輩から我々後輩まで宇宙活動の意味というのは間違いなくある」
「個人としては、宇宙空間に身を晒して、我々のいる地球の本当の姿を見てみたい。僕の場合はそれが原動力でした」
たしかに写真や映像では我々はその姿を見ているわけだけど、『窓の外は死』『ヘルメットのバイザーの外は死』という状況で、大きな地球を肉眼で見ることに絶対的な価値はある。なにしろ、日本人では、まだ14人しか見ていない光景なのだから。
ところで、野口さんは2005年、2009〜2010年、2020〜2021年の3度、宇宙に行っている。最初はスペースシャトル(まだパソコンさえない1981年に初フライトしたシステムだ)で、最後はスペースXのクルードラゴンで飛んでいる。コンピュータシステムの違いはどれほどなのだろうか?
「昔のスペースシャトルは、目の前に約3000個のスイッチがあって、そのスイッチを全部理解した上で宇宙に行かないといけない。このスイッチが壊れたら、代わりにどういう手段があるのか? みたいな代替案も知らないといけない。当時のコンピュータでは、複雑なことはできなかったから、基本的には全部電線が走っていて動作していたわけです。あのスペースシャトルを動かしていたのは8ビットのコンピュータですからね」

「ソユーズなんかは古いって言われますけど、半年に1回新品を作っているので、新しい技術もどんどん取り込まれています。昔のままではありません。クルードラゴンは、もう液晶ディスプレイにタッチパネル。宇宙服の手袋も、スマホを触れる手袋みたいにタッチパネルを触れるタイプです。今は、船内にもWi-Fiが飛んでいて、コンピュータの動作が遅い時には、Wi-Fiで接続してこっち側で別の画面を出すというようなことも可能になっています。」

「宇宙開発は巨大なシステムだから、旧来のハードが使われがち」と聞いていたが、さすがに最近はそんなことはないらしい。
野口さんの話を聞いていると、かならずしも危険ばかり、リスクばかりの世界でもないように思えてきた。私が生きてる間に簡単に行けるようにはならないだろうが、孫の世代ぐらいには、我々民間人も、もう少し気軽に宇宙に行けるようになっているのだろうか? そんな希望が持てるお話だった。
(村上タクタ)
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