逗子の一軒家に「バブアー好き」が集まる理由とは? 年代に合わせたオリジナルワックスまで使うマニアックな古着店。

ほぼ100%英バブアーのワックスジャケットだけを扱う珍しいヴィンテージショップが神奈川・逗子にある。オイルが落ちてクタクタになった「バーレイ」や、80年代ならではの柔らかな色目のコーデュロイ襟が粋な「ビューフォート」なんかと出会える。

収集癖を大いに満たす、形、色、年代、ワックス。

ほのかに漂う香りが良い。コットン生地にたっぷりと塗り込まれたワックスの独特のあの香りだ。

神奈川の海に面した町・逗子の住宅街に、オーナー・山岸祐太さんの店舗兼工房はある。

その名も『British wax-jacket market(ブリティッシュ・ワックスジャケット・マーケット)』。

名前のとおり、ワックスジャケットの代名詞であるバブアーのみを扱う日本有数の専門店だ。

だから、一軒家を改装した店の扉を開けると、まずは、ふわっとあの香りを感じる。

そして「ビデイル」や「ビューフォート」といった定番はもちろん、50年代の「スリークォーターコート」や、80年代の明るめブルーの「ボーダー」などがズラリ。中には他ブランドとのダブルネームの「インターナショナル」や「ブレザー」なんかもみつかって、とにかく飽きない。

「そうなんです。形もさまざまあるし、色も時代によって変わる。ワックスと襟のコーデュロイも時々で違いますからね。コレクション好きにはたまらない」と目を輝かせつつ、山岸さんは続けた。

「子供の頃好きだったコレクション要素のあるゲーム『ロックマンエグゼ』に近い感じすらします」

渋い専門店の割にポップで若々しいゲームで例えるのが山岸さんらしさだ。何せまだ32歳。しかしバブアー歴は10年を超える。

元おじボーイが出会ったボーダーから始まる。

1993年、大船で生まれた。

子供の頃はロックマンにハマり、中学になると吹奏楽部でトランペットにハマった。次に好きになったのが「古着」だった。

「高2から下北沢の古着店に通い始めました。最初はウエスタンシャツにジレを買い、祖父のループタイを合わせたりしてましたね」

まるでおじさんみたいな格好をする若者“おじボーイ”というカテゴリーに入っていたらしい。

大学進学後はデニムブームがくるなど好みは変わったが、古着を掘る趣味は変わらなかった。

そしてバブアーと出会う。

最初の知識はゼロだった。

「下北で、普通のコートに混じって古着のボーダーが売っていたんです。長めのコートタイプのバブアーですね。ダボッとした緑のボディはワックスで独特のツヤ感があってたまらないなと思って、調べると1890年代からある歴史あるブランドで、それこそたくさんの種類があるらしいと知って」

コレクター心がうずき、なけなしのバイト代を片手に、ヴィンテージバブアーを買いはじめた。型違い、時代違い、色違い。少しずつ買い集めて、やたらと渋い大学生ができあがっていた。

「新品から育ててもいいし、誰かが大事にしてきた味を受け継ぐのもいい。ゴールなく、いろんな楽しみ方ができるのもたまらない」

一方で就職は「英語教師」を見据えていた。元々英語好きで塾講師のバイトをするほどだった。

しかし教育実習で「細かな仕事が必要な教職は向いてないかも」と知り、小さな絶望を感じる。

心身はつながっているものだ。同じころ、持病だった免疫系の病気が再発する。休養のため、大学は休学。22歳にして、ゴールもスタートも見えなくなった。

ゲストハウスで働きつつネット販売から始めた。

生活もガラリと変わった。

実家に戻り、休養がてら鎌倉のゲストハウスで働くように。インバウンド客が多いため、英語も活かせた。夜は自宅に溜まったバブアーをネット販売しはじめた。

「時間の余裕ができたし体調もよくなってきました。さらに今より円高だったのでイギリスでヴィンテージを少し仕入れ。いずれにしてもやはり英語は活きましたね」

最初はオークションサイトで。その後、ECサイトを自作し、売り始めた。サイト名は『ブリティッシュ・ワックスジャケット・マーケット』とした。今のそれだ。

いきなり大売れしたわけじゃない。それでも、たまに古着フェアやポップアップイベントに出店。すると、ある日、ポップアップストアに古着やヴィンテージを中心に扱う有名ユーチューバーがほろ酔いでふらっと訪れた。あの匂いに誘われたのかもしれない。『バブアーだけか』『高いね』『でもおもしろい』『今度取材をぜひ』。

配信されると流れが変わった。

ECサイトにアクセスが殺到。2週間のイベント出店だけで数十着が売れるようになった。利益を手に持ち、そのまま渡英。バブアーばかりあさっては、自宅でリペアして売る生活を続けた。副業のような始まり。が、気づけばオーナーとして一本立ちしていた。

コロナもあったが、むしろ勝機と大磯にショールームをつくった。着実にファンを増やしながら、2021年にコロナが明け始めると、さらにアクセルを踏む。大磯に工房をつくり、幡ヶ谷に店舗をつくった時期も。リペアと販売で正社員を3人も雇った。ややアクセルを踏みすぎた感もあった。

「夏は動きませんからね。キャッシュフローがギリギリの自転車操業。社員に苦労をかけた時期もあり、最終的に2022年に逗子の今の場所に集約を。当時の社員は辞めて、再出発したんですよ」

ただ身の丈サイズとなった今は順調だ。何度目かのバブアーブームも後押し。耐えて立ち続けていた者の勝ちだった。もはや日本で最もヴィンテージバブアーが揃う場として、誰もが逗子を目指す。

「ふんばって続けてきて良かったと、いつも感じています。お客さんに来てもらえるし、まだ出会えてない型もあるし、リペアの技も磨ききれてない。やるべきこともやりたいこともまだまだある」

ゴールの見えない旅はしばらく続く。ワックスの香りと供に。

店舗兼工房は海水浴場やマリーナで知られる海沿いの街、逗子にある。3階建ての一軒家だ。

2階は店舗スペース。右ページのようなスタンダードなジャケットを置いたスペースと、上のようにモーターサイクル系を多く置くスペースで雰囲気を変えている。当然、どちらも要チェックだ。

1階の工房スペース。クリーニング、アイロン掛け、リワックスなどの工程をココでおこなう。

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Lightning 編集部
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