ジャック・ダニエル氏の魂は、今も息づいている。

ジャックダニエルの蒸溜所内には、1887に建てられたという創業者ジャック・ダニエル氏のオフィスが、今も変わらずに保存されている。今でこそ世界中で愛されるジャックダニエルだが、ジャック氏のビジネスがすべて順風満帆だったわけではない。その理由が禁酒法だ。
これは酒類の製造販売を禁止、規制する法律で、テネシー州は連邦議会の制定より10年早い1910年から始まり、廃止される1930年代まで、酒の製造が禁じられたという。禁酒運動の期間も含め、ジャック氏と蒸溜所はさぞ頭を抱えたに違いない。ジャック氏は身長158㎝と小柄だったが、非常に精神の強い、芯のある人物と知られていた。南北戦争中も蒸溜を学んでいたという逸話も残っている。そんな彼と蒸溜所だからこそ、禁酒法にも耐え抜き、ジャックダニエルのブランドを守り抜けたに違いない。禁酒法が廃止された後、それ以前と全く変わらない製法で、生産を再開した。
ジャック氏は、チャコール・メローイングに強いこだわりを持っていたと言われている。ジャックダニエルの原料は、コーン・モルト・ライ麦。高品質なこれらの原料にケーヴ・スプリングの水を合わせて発酵させ、蒸溜し、原酒を作る。ここまでが通常のバーボンの工程だ。ここから、度数70%の原酒を、細かく砕いたサトウカエデの炭を敷き詰めた濾過槽で、一滴一滴上から垂らし、数日かけて磨いていく。これがチャコール・メローイング。このチャコール・メローイングを行うことで、雑味やベタつきがなくなり、ジャックダニエルの深い味わいが作られるのだ。
だがジャックダニエルのこだわりは、まだまだそんなものでない。味わいに大きく寄与する樽はアメリカンオークの新樽で、その内側を弱火で時間をかけてじっくり焼き、オークの成分を引き出す。その後強火で焦がすことでカラメル化していく。この2段階処理した樽で熟成するからこそ、ジャックダニエルの美しい色と香りが生み出されるというわけだ。
このこだわり抜かれたジャックダニエルを愛する有名人も数多い。歌手や俳優として知られるフランク・シナトラは、ニューヨークのバーでジャックダニエルを知り、以降ジャックダニエルの大ファンとなる。彼のパーティではいつもジャックダニエルが提供され、その宣伝効果もあり、ジャックダニエルの知名度が格段に上がったという逸話も残っている。ブルース発祥の地として知られるテネシーで生まれたジャックダニエルは、やはり音楽との関係も深い。それはジャックダニエルの変わらない姿勢、強いこだわり、禁酒法や大戦にも倒れなかった不屈の精神が、ミュージシャン達の魂と共鳴しあうのかもしれない。
ジャックダニエルは、もはやアメリカ文化の一端を担う存在と言っても過言ではない。この先も未来永劫、アメリカのアイコンとして、世界中の人々に愛されていくに違いない。






250万樽以上もの熟成樽が、静かに完成の時を待つバレルハウス。
リンチバーグに点在するバレルハウス(熟成庫)。アルコール度数60%の原酒を樽に詰め、熟成させる。熟成に大切なのは四季。季節による寒暖の差で樽も膨張や伸縮を繰り返し、熟成を促進させる。
蒸溜所ではジャックダニエル各種の試飲も可能。飲み比べることで、それぞれの風味の違いがわかって非常に興味深い。左からOLD No7、ジェントルマンジャック、シングルバレル、シングルバレルライ、テネシーファイヤー、テネシーハニー。
アテンドしてくれたアンジェロさん。冷凍庫で冷やしたテネシーハニーをミルクと混ぜ、バターを少しだけ加えて飲むのがお気に入り。
関連する記事
-
- 2025.02.26
原料のすべてを北海道産にこだわったシングルブレンデッドジャパニーズウイスキー「冬至」発売
-
- 2024.04.09
JACK DANIEL’S。俺たちが憧れるアメリカがこの1本にある