業界屈指のヴィンテージコレクターから学ぶ、深淵なるスウェットシャツの世界。

  • 2025.03.14

今日のアメリカンカジュアルにおいて欠かすことのできないアイテムのひとつであるスウェットシャツ。その歴史は今から100年以上にも前に遡り、時代とともに発展を遂げてきた。そんなヘリテージプロダクトの魅力を自他ともに認めるスウェット愛好家に聞いた。

「ウエアハウス 東京店」店長・浅井耕太郎さん|大学卒業後にウエアハウスに入社し、約20年のキャリアを誇る東京店の店長。中学時代に古着に傾倒し、当初はデニムを中心に興味を持っていたが、30代に入ってからスウェットに開眼。いまでは業界屈指のコレクターとして知られる存在に

スウェットとは? 旧いカタログからその変遷を読み解く。

元々はアスレチックウエアとして誕生したスウェットシャツ。汗を意味する「Sweat」を由来とするように、汗をよく吸うように開発された、いわば運動着だ。1910年代後半に登場したこのプロダクトは、時代の流れとともに発展を遂げ、現代においてはファッションアイテムとしてひとつの地位を確立したといえる。

そんなスウェットシャツの真の魅力に迫るべく話を伺ったのは、ヴィンテージの忠実な復刻を掲げ、良質なプロダクトを生み出し続け「ウエアハウス」で20年近くのキャリアを持ち、現在は東京店の店長を務める浅井耕太郎さん。業界屈指のヴィンテージコレクターとしても知られる彼がスウェットシャツに夢中になったのは今から10年ほど前だという。

「元々古着は好きで、『リーバイス』の[XX]を穿いたり、両Vのスウェットを着たりしていたのですが、本格的にのめり込んだのは30歳くらいの時ですね。ヴィンテージについて調べている時に例えばミリタリーであれば『この戦争の時にこの国の兵士が着ていた』といった歴史がはっきりとあるのですが、スウェットシャツの場合はそのような明確なものがないんです。他のジャンルと違ってまだ掘り尽くされていない感じがたまらなくて、昔のカタログを集めたり、ヴィンテージを探すようになりました。そこからがっつり沼にハマってしまいましたね(笑)」。

浅井さんの言うように、ミリタリーウエアやワークウエアのようにモデル名が細かく付けられておらず、素材も基本的にはコットン製であるスウェットシャツは、年代判別をする際に様々な要素を総合的に判断する必要があり、そのうえミリタリーやワークのように多くの情報源があるわけではない。そこで浅井さんはアメリカの旧いカタログを集め始めたのだという。

「『スポルディング』や『チャンピオン』という“アメリカのスウェットシャツといえば”なブランドから販売店のカタログまで片っ端から資料を集めましたね。見ていくと面白い発見があるんです。例えば、1910年代後半のカタログには表地はコットンで裏地がウールのスウェットが出てきます。『これは保温性を向上させるためなのかな』とか『それまでに一般的であったウールセーターからの流れかな』とか、様々な想像をすることができます。そこからコットン100%のスウェットシャツが出てくると、裏地がウールのものよりも価格が安くて、その後コットン100%の割合が増えてくると、『安いから売れて人気が出てきたのかな』とか様々な考察ができるわけです」。

このようにして得た知識を活かしつつ、数々の珍しいヴィンテージを入手してきた浅井さんのコレクションは1920〜’40年代のものがほとんど。いわゆる第二次世界大戦前の個体が多いのには、浅井さんがスウェットシャツを選ぶうえでのポイントと、時代背景が関係している。

「スウェットシャツを買う時に見るポイントは、ディテールや配色の珍しさ。フリーダムスリーブとか、ボクシンググローブポケットなどの特徴的なディテールもそうですし、肩の切り替えなどのデザインも含めて、『変わってるなあ』と思うものをつい手に取ってしまいますね。そういった珍しいものは、1910年代後半に誕生したスウェットシャツがカレッジやスポーツといったカルチャーと結びつきながら発展を遂げた1920〜’40年代がちょうど合致しているのだと思います」

アメリカの服飾文化が一気に花開いた時代。

スポーツウエアブランドのカタログを中心に、様々な資料を元にした時代考証を経て、浅井さんが最も魅力的に感じるヴィンテージスウェットの年代は1930年代なのだという。

「単なる運動着であったスウェットシャツは、徐々に学生の間ではファッションアイテムとして広がっていくのですが、1940年代はカタログやヴィンテージ市場を見てもオーダーできるデザインの幅が狭くなったり、地味なカラーのものが多い印象で、第二次世界大戦の影響からか、少し勢いを失っていく印象があります。その後は一般的なファッションアイテムとして認められ、街中でもスウェットシャツを着る人が見られるようになりますが、大量生産の流れもあり、デザインの統一化やディテールの簡素化などが見られます。このような時代を通した全体の流れを見ると、やはり1930年代がいちばん面白い時代なのではないかと思いますね。個人的にはスウェットシャツの黄金時代だと考えています」

浅井さん私物のヴィンテージスウェットを見ても、その多くが1930年代製。たしかに、オレンジとブルーのツートーンのデザインやロックフード、ダブルフェイス、セパレートポケットといったヴィンテージ好きには堪らないディテールが詰まったパーカなど、個性的なスウェットが多くラインナップしている。

「この年代は『スポルディング』と『チャンピオン』の2強ともいえるほど両ブランドのスウェットシャツには面白いデザインがたくさんあり、コットン100%のものだけでなく、ウールやレーヨンなどの異素材を使用したものも見られます。1930年代といえば、ワークウエアの代表格ともいえるカバーオールも各ブランドが競争し、様々なデザインのものが生まれた黄金期であり、アメリカの服飾文化が盛り上がりを見せていたことが伺えます」。

浅井さんが“2強”に挙げた『チャンピオン』が洗濯時の縮みを解消するために本来縦向きに使用されていた生地を横向きに使う“リバースウィーブ製法”の特許を取得したのも1938年のこと。当時の「リバースウィーブ」は、現在のように身頃の両サイドにリブが付いた形でなく、あくまでも製法の特許であった。このような発明があったことからも、この1930年代がスウェットの歴史において重要な時代であったことがうかがえる。

「『チャンピオン』の発明もそうですし、この年代のものは派手なカラーリングのものも多い印象です。さらにフェルトレターやステンシルプリントなどによるフロントや背面に文字やロゴ、エンブレムが入った“盛り盛り”なスウェットシャツも多く出てきます。また、フロッキープリントが出てくるのも1930年代後半です。ボディとリブの色が異なる、いわゆるツートーンのデザインもこの時代に多く見られる印象があり、『こんなスウェットが存在するんだ!』と驚くようなヴィンテージが多く、この年代のスウェットシャツからは“勢い”すら感じられます(笑)」

浅井さんが所有する数々のカタログ。『スポルディング』や『ウィルソン』などのスポーツウエアブランドや米国の販売店のカタログなど、その数は30冊を優に超える。年代は旧いものだと1910年代後半から取り揃えており、時代考証に役立てているという

スウェットシャツはあくまでも着るためのもの。

浅井さんが所有するヴィンテージのスウェットシャツは、希少性の高いスーパーヴィンテージばかり。ヴィンテージ愛好家ではなくとも写真を見ればその様々なデザインや配色、そして圧巻の存在感に目を奪われるだろう。彼のヴィンテージコレクションのなかには資料として残しているものや、ダメージがあるために着用していないものもあるというが、基本的には“着るためのもの”として向き合っている。

「元々はアスレチックウエアですのでとにかく着心地も良く、動きやすいのでストレスを感じることがありません。あくまでも着用することが大前提としてあります。ファッション的な観点から見てもヴィンテージスウェットは身幅やアームホールの太さ、袖付などによるシルエットの美しさや、ボディの褪色具合などの風合いも相まって、着ればそれだけで存在感抜群です。自分はデニムパンツやミリタリーパンツなどを穿いたカジュアルなスタイルと合わせることが多いです。またハーフジップのスウェットシャツや首元が緩めのクルーネックは、中にシャツを着たりして首元のレイヤードを楽しむこともできます。アウターの中のインナーとしても重宝しますし、幅広いコーディネイトに合わせられる点もスウェットシャツの魅力だと思います」

ヴィンテージだけでなく、現代には新品でも様々なスウェットシャツが存在する。『ウエアハウス』をはじめとする国内外の様々なブランドがヴィンテージスウェットの復刻を企画・製造。一方でポリエステルなどの化学繊維を混紡することで強度を高めた“現代的”なスウェットシャツを作るブランドもあれば、その一方で生産効率は悪いものの吊り編み機を使用するなど昔ながらの製法で旧きよきクラシックスタイルを追求するブランドもある。いわば、我々消費者にとってはかなりの選択肢があるという状態だ。そんな中で日々店頭に立ち、ファッションの魅力を伝え続けている浅井さんはいまもヴィンテージスウェットに取り憑かれており、初めてスウェットシャツに興味を持った時の気持ちをいまも忘れていない。

「何もわからないところから調べていくのがとにかく楽しくて、その気持ちはいまも変わっていません。探究心を掻き立てられるといいますか、飽きることなく海外サイトを見たりしながら様々なスウェットシャツを買い漁っています(笑)。ヴィンテージに縛られなくても、当時のディテールや製法を忠実に再現した現行品は数多く存在しますし、それらが作られた背景やオリジナルが存在した当時の時勢を知ったうえで手にすることはヴィンテージの知識を得ることにもつながるのではないかと思います」

今日のアメリカンカジュアルを象徴する代表的なアイテムといえば、デニムパンツやカバーオールなどのワークウエア、フライトジャケットなどのミリタリーウエアが真っ先に思い浮かぶ。もちろんスウェットシャツもそうであるが、この“アメリカンカジュアル”という大きな枠組みの中には数多くの魅力的なプロダクトが存在する。ライトニング本誌読者の中にも「革ジャンが大好きで10着以上所有している!」という方がいれば、「夏はアロハシャツしか着ません!」という方もいるかもしれない。それぞれにお気に入りのプロダクトがあって、それを収集するというのはあって然るべきだ。それもファッションの楽しみのひとつである。それが浅井さんにとっては断然スウェットシャツなのだ。

「もちろんほかのアイテムも着ますし大好きですが、好きなのはやはりスウェットシャツです。順位をつけるなら圧倒的に一位ですね。スウェットに人生を狂わされたといっても過言ではありません(笑)」

いささか野暮ではあるが、最後に「浅井さんにとってスウェットとは?」という質問をぶつけてみた。

「難しいですね(笑)」と苦笑いしつつも、「真っ先に思い浮かんだのは、『人生を懸けて集めたいもの』ですね」との答えが。この浅井さんのスウェットに対する熱い思いに触れたあなたはもうすでに入り口に足を踏み入れているのかもしれない。深淵なるスウェットシャツの世界へようこそ!

(出典/「Lightning 2025年4月号 Vol.372」)

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