目利きの女将が厳選した魚が味わえる。
飯田橋は法政大と東京理科大のお膝元。法政はぼくの母校だが、神楽坂の老舗には近寄り難かった。坂を上がってすぐ左に折れる、樽八のある通りには、まだしも庶民的な店が並んでいた。白秋という大衆中華屋があり、学生時も社会人となっても訪れたが、約10年前に閉店してしまった。樽八にも入りはしたが、その価値が当時の自分にはわからなかった。
もっとも、青森県大間出身の女将、佐々木洋子さんによれば、当時は焼鳥が中心の普通の店。客の要望に応えて魚メニューを増やし、周囲の店との差別化を図ってきたらしい。魚に囲まれて育ったので、目利きには自信があるとか。
定番のにしんの刺身をもらうと、歯触りよく、脂も乗って、焼酎のソーダ割にも合う。大ぶりの肉じゃがも旨い。しかし、最大のごちそうはチャキチャキとした女将との会話だろう。
半世紀にわたり暖簾を守る女将が作る料理。
毎朝のように佐々木さんが往復1時間ほど自転車を走らせて市場で購入しているという海鮮モノ。写真は仕込み中のボリューム満点のタコとホヤ貝。
姉が20代で始めた店で、上京後すぐに手伝いに入った。姉が嫁いで以降かれこれ50年、暖簾を守り続け、夫も最初は客だったそう。
【DATA】
樽八
東京都新宿区神楽坂1-11
TEL03-3260-6663
営業/17時~23時
休み/月曜・祝日
※値段など情報は取材当時のものです。現在取り扱っていない場合があります。
(出典/別冊Lightning Vol.209「TOKYOノスタルジック横丁」)
Text/ R.Suzuki 鈴木隆祐 Y.Takeuchi 竹内佑騎 Photo/ A.Kuwayama 桑山章 Y.Amino 網野貴香
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