使用用途の枠を超え、ファッション界の定番になっているアイリッシュセッター。
’70年代に米国から輸入されたユースカルチャーを経て、渋カジ、古カジといったアメカジファッションが日本で大流行。その頃から感度の高い若者たちはこぞってレッドウィングに憧れた。なかでも「アイリッシュセッター」は、旧きよきアメリカの情景を持つモデルとして人気を博す。
アイリッシュセッターのルーツは’30年代後半頃から始まるレッドウィングが展開していたハンティングブーツなどのスポーツブーツカテゴリーから。’50年にレッドウィングのスポーツブーツで「アイリッシュセッター」という名称が正式採用された。
その最初期モデル854はよく知られる犬ではなく、ハンターの肖像が刺繍された通称「ハンタータグ」が付く、文字通りのハンティングブーツとして誕生し、白く底の平らなトラクショントレッドソールは優れたクッション性で大ヒット。本来の客層であるハンターだけでなく、屋根の梁上や梯子で作業をするワーカーにその抜群の安定性が評価され、ワークブーツとしての需要も高まった。
その後、プロダクツに対する意識がヘビーデューティーへと移り変わる’60年代になると、ワークブーツの枠を超え、ファッションアイテムとして世界進出。これを機にアイリッシュセッターの名を冠するモデルが増え、今日に伝わる数々の名品番が誕生する。
アイリッシュセッターの象徴となるセッター犬の「レッドマイク」。
“アイリッシュセッター” とは狩猟犬のこと。オロラセットレザーの革色が、セッター犬の毛色に似ていることから命名されたハンティングブーツ「アイリッシュセッター」が発売された’50年当時、拠点であるレッドウィング市内に住んでいたセッター犬「レッドマイク」をモチーフに考案され、’54年にブランドロゴとして採用された
アイリッシュセッターの誕生と発展。その歴史を実物を見ながら紐解こう。
ワークブーツのオーソリティである「アイリッシュセッター」だが、その地位に登り詰めるまで様々な品番を展開してきた。今日まで伝統的に続いている875や877といった定番品番や、今日では無くなってしまったレア品番のアイリッシュセッターまで、その歴史を紐解いてみよう。
854[ Irish Setter ]|1950年代前半製|最初期のアイリッシュセッター。
’50年に登場した最初期のアイリッシュセッターである854。当時カリフォルニアのタンナーで開発されたオレンジがかった茶色のフルグレインレザーの独占使用権を得たレッドウィングは、その革で8インチ丈のハンティングブーツを製造。モカシンタイプのつま先や、靴の側面下部に縫い目がないオールアラウンドバンプ、そして当時ハンターに人気のグロコード「キングB」ソールを採用。ベロ裏にはハンターをあしらった刺繍タグを装備していた。
875 [ Irish Setter ] |1960年代前半製|永遠のベーシックモデル!
’54年に登場して以来、現在まで続くロングセラーモデルである875。そのデザインは発売当初から基本的に変わっていないが、この個体は’63〜’65年の間のみ生産されたレアモデル。その理由はつま先のモカシン縫いの方法が、前述した短期間だけ変更されており、その時期に製造されたもの。甲のU字型の部分の縫い目に革をかぶせた「かぶせモカ」と呼ばれる、防水性を狙ったデザインを持つ。
877[ Irish Setter ]|1950年代後半製|今日に続くアイリッシュセッターのルーツ。
854をベースにアッパーデザインを改良し、ソールにクッションクレープソール(今日のトラクショントレッドソール)を採用した877は、’52年に登場。’54年には猟犬をデザインした犬タグが開発され、6インチやオックスフォードなどいくつかのバリエーションが誕生した。その初期の犬タグは刺繍製で手の込んだ造りをしており、その後の’60年代に入るとプリントの犬タグに変更される。
895 [ Irish Setter ]|1960年製|’54年から’64年まで製造。
‘54年に877のバリエーションで誕生したオックスフォード(短靴)の895。甲のU字型の部分の縫い合わせ「おがみモカ」製法や、腰革にライニング無しの1枚革など、875のショートカット版ともいえるモデルだ。
#888[ Irish Setter ]|1963年製|通称“スーパーセッター”!
ハンター向けの最高級ブーツとして開発されたアイリッシュセッター888、通称「スーパーセッター」。腰革にカンガルーレザー、バンプにスコッチグレイン型押しレザー、そしてフルレザーライニングを採用。製造期間は’63年から’72年までである。
825 [ Irish Setter ]|1980 年製|これぞヘビーデューティな逸品!
’60年代後半から米国で大流行したトレッキングブーム。スポーツブーツカテゴリーのアイリッシュセッターもそうしたトレンドを受けて、’73年から’84年の期間でトレッキングブーツを開発し販売していた歴史があった。
▼こちらの記事も合わせて読むと歴史がもっとわかります。
アイリッシュセッターの中古市場相場を知る! ブーツ専門店「ホープスモア」で聞きました。
半世紀以上もの歴史を紡ぐレッドウィングの「アイリッシュセッター」。本来のハンティング・ワーク用途からファッションアイテムとして認知され、世界各地にコレクターがいる。ここではヴィンテージブーツ市場に詳しいブーツ専門店「ホープスモア」の協力を経て、現在の市場価格を調査。もちろんデッドストックやユーズドといったコンディション、サイズなどで値段が変動することをお忘れなく。
8150 [ 6”MOC-TOE ] 異色モデルで現在はレアな存在に。
875の意匠を受け継ぐが「アイリッシュセッター」ではなく「6インチモックトゥ」と呼ばれる8150は2003年に製造されたリアルツリー柄のモデル。その異色な柄展開は当時不評で生産数は少なく、故に近年はコレクタブルモデルとして人気。デッドストックなら10万円以上、ユーズドでも5万円前後の値が付く。販売は日本とヨーロッパ市場で行われた。
875[ Irish Setter ] ひと目で分かるオールド・セッター!
’80年代に使われていた旧犬タグが付く875。’80年代中盤に入ると消滅するアッパーのカンヌキ部のスクエアステッチと、赤身が強くなる前の茶色に近いオロラセットレザーが特徴だ。デッドストックだと10万円以上、ユーズドでも6〜7万円台が相場だそう。
875 [ Irish Setter ] アラフォー世代にとってのアイリッシュセッターと言えばコレ。
‘95年に製造されたアイリッシュセッター875。’90年代後半に日本のストリートシーンで盛り上がりをみせた時期を知る人にとって、この赤味の強いオロラセットレザーと半円犬タグは懐かしい存在である。市場ではデッドストックで7万円前後、ユーズドでも状態によって2〜4万円前後のプライスがつけられる。
875 [ Irish Setter ] ヴィンテージの革色へ原点回帰。
’95年〜’96年にかけてアイリッシュセッターで使用される革が変更となる。’50〜’60年代に使われていたオレンジがかった茶色の色味を再現した「オロイジナルレザー」を採用しサイドアッパーに犬刻印が入れられる。デッドストックで5〜6万円台、ユーズドで1〜3万円ほどの相場観だ。
8179 [ Irish Setter ] ’90年代後半のRWブーム立役者。
’90年代後半のストリートシーンを席巻したレッドウィングブーム。その時のブームを牽引したのが黒いアイリッシュセッター8179だ。芯通しを行なっていないブラッククロームレザーなので、履き込む程に味わい深い経年変化をみせる。デッドストックの相場は4〜6万円、ユーズドはピンキリだ。
1954[ Irish Setter ] 旧きよき時代を彷彿させるクラシックな装いを持つ。
アイリッシュセッターの生誕50周年を記念して、2000年に登場した希少モデルで、足を包み込むような、何層かに分けられたバンプ構造が特徴だ。デッドストックは枯渇状態で、ホープスモアでは8万円代(税込)のプライスが付けられる。ユーズドでも2万〜4万円程の相場観だ。
【豆知識】アイリッシュセッタータグが付く別モデル。
レッドウィングがスポーツブーツに分類したカテゴリーから誕生した「アイリッシュセッター」。それ故に#875 と異なる意匠のモデルも存在。人と差を付けるなら狙い目だ。
866[ Irish Setter ]
‘50年代からレッドウィングが米国市場へ投入していたペコスブーツ。ヒール付きコルクソールが一般的だが、トラクショントレッドソールを装着し、アイリッシュセッターの名を冠した866も市場に展開されていた。
899[ Irish Setter ]
’92年の11月に製造された8インチハイトのアイリッシュセッター899。ハイト上段はハトメではなくフックを採用し、ビブラム社製ラグソールを装備。’93年当時のカタログではスポーツブーツの枠で掲載されている。
今回取材協力いただいたのは・・・ブーツ専門店「ホープスモア」
ブーツ専門店として知られる東京・三宿のホープスモア。そこにはレッドウィングの往年の名モデルが並び、日本のみならず、世界中から多くのレッドウィングファンが訪れる名店。ユーズドブーツから箱付きデッドストックまで様々なコンディションのモデルをラインナップする。
【DATA】
HOPES MORE
東京都世田谷区三宿1-1-19 梓ビル1F
営業/11:00〜20:00
休み/月曜
(買取)http://hopesmore.net
(販売)http://hopesmore.com
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※情報は取材当時のものです。現在取り扱っていない場合があります。
(出典/「Lightning Vol.293」)
Text/A.Shirasawa 白澤亜動 Photo/S.Fujita 藤田慎一郎 撮影協力/レッド・ウィング・ジャパン TEL03-5791-3280 http://165 www.redwingshoe.co.jp
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