4ページ目 - アニメ『全修。』で注目のクリエイター・辻野芳輝に会う【アイテイマス 第2回】

アニメの世界で躍動! 『全修。』に生かされた蓄積

辻野は2000年代にはゲームの仕事の傍ら、アニメ制作にも参加している。テレコム時代のように原画をバリバリと描くというよりも、小規模作品のデザインやストーリーボード、企画書の絵などを手がけている。

──2021年の冬、辻野はアニメスタジオMAPPAで勤務するかつてのレッドカンパニーの同僚に『全修。』という企画への参加を呼びかけられた。『全修。』はアニメ制作現場で「すべて修正する、オールリセット」を意味する用語。アニメ監督・アニメーターである主人公・広瀬ナツ子は新作の制作中に意識を失い、目が覚めると子供の頃に夢中になったアニメ映画『滅びゆく物語』の世界にいた、という“異世界転生”もので、辻野はキャラクター原案・世界観設定を担当した。『全修。』は2025年1月に放送されるや、たちまちアニメファンの注目を集めた。

©全修。/MAPPA  『全修。』のキービジュアル。2025年1月〜3月放送。全12話 【公式サイト】https://zenshu-anime.com/

当初はイメージボードを描くだけ、と軽い気持ちで受けたんだけど、イメージボードのために仮に描いたキャラクターが「こういう感じでいきましょう」みたいに採用されて、だんだん仕事の量が増えていくという。世界観設定とは、キャラクターたちがどういうところにいるか、たとえば町を作るとか建物や乗り物をデザインする…“世界”を構成する要素を考えることです。

アニメーターが異世界に行く、軽いラブコメアニメかなって、自分だけでなく多分みんなが最初は考えていたと思うんだけど。プロデューサーの思いがだんだん強くなって、深い話になっていきました。

──プロデューサーをはじめとする制作陣の“思い”は、本作での演出面にあふれている。ナツ子は“描いた画が具現化する”能力を駆使して、敵・ヴォイドと闘う。その能力が発動する描写に、過去の名作アニメをオマージュした演出や表現が大胆に取り入れられていた。

企画の初期の頃から「ナツ子が描く画に今までのアニメーターがやってきた作画方法や演出を出していこう」みたいな。今は撮影技術でいろんなことをやれているけれど、かつてはアニメーターが一生懸命手描きでやっていた作画のおもしろさや、日本のアニメのエポックメイキング的な作画を見せたいということで、ああいう形になりました。

──第1話「始線。」では、『風の谷のナウシカ』の巨神兵を思わせる巨人を出現させ、目から放出したビームでヴォイドを全滅させる。

あのシーンは僕がイメージボードを描きました。ただ、「あまりにも似すぎていた」ので、石川佳代子さん(キャラクターデザイン・総作画監督)のデザインが使われています。第2話「死守。」では板野一郎さん(※6)が監修で参加してくださってうれしかったです。第3話「運命。」は自分としては『タイガーマスク』の木村圭一郎さん(※7)風のアクションをイメージしていたんですけど少し違いましたね。メメルンのミュージカル(第4話「永遠。」)であそこまで寄せるとは思わなかった。(各話)なるべくその辺の得意なアニメーターを招いてやってもらっていたみたいです。作中に登場するいろんなアニメタイトルのポスターも描いたんですけど、あのミュージカル風のポスターには「わかってないな」と言われて却下されました(笑)。キラキラしたアイドルアニメはわかんないです。金田伊功さん(※8)のアクションや光線とかも出したかったですね。

──アニメーターが主人公だけに、辻野は自身を重ねて見るようなところがあったという。特に印象的な場面はどこだろう。

第7話「初恋。」でナツ子が通い詰めた大学は自分がいた学校をモデルにしています。蒼井先輩の気持ちも「まあね、わかるよなぁ」みたいな(笑)。あとは第11話「絶望。」でヴォイドに飲み込まれたナツ子の回想は、ものを作る人間にとっては刺さる話でした。

──2025年7月16日よりDisney+(ディズニープラス)で独占配信(予定)の『BULLET/BULLET』に辻野が参加している。クレジットは“「ガッチャ」デザイン”とある。

ガッチャってなんのことかわからないですよね(笑)。PV映像でチラッとは出てるんだけど、久しぶりに作画をしています。昔のテレコムでやってた合作っぽい作風。あの頃はこういう作品ばかりやっていたので。

──テレコム時代と言うだけに、「ガッチャ」は大塚康生の流れにあるように思える。

大塚さんがいつも言ってたんだけど、「好きなのはラフな画とかだらけたポーズ。きっちりしたポーズは嫌いです」って。今の絵ってみんなきっちりしているんじゃないですか。トレンドもありますが、みんなそういう絵しか描けなくなったというのもあるんじゃないですか。そういう絵が好きだから、アニメーターになるとかさ。僕も1枚絵ならなんとか描けるけど、それをちゃんと動かすとなると大変だなぁと思いますね。とにかくごきげんなアクションアニメ『BULLET/BULLET』をお楽しみに!

インタビューの時点では明かすことができないが、辻野は他にも新作アニメ作品に原画で参加中だ。「年も年だからね。(アニメーターの仕事は)いつまで続けられるかわからないけど」と笑うが、オリジナルマンガ作品『Doragonia Story 〜風をあつめて〜』などマイペースで創作に取り組む。アニメーターの門を叩いた時に大塚康生に言われたように、辻野は絵を描き続けている。

※6…アニメーター、アニメ演出家。立体的でアクロバティックな戦闘の演出は“板野サーカス”と呼ばれる。代表作は『伝説巨神イデオン』『超時空要塞マクロス』など。
※7…アニメーター、キャラクターデザイナー。『タイガーマスク』での大胆なアクションと力強い描線で知られる。代表作は『サイボーグ009』『ピュンピュン丸』『赤胴鈴之助』など。
※8…アニメーター。ダイナミックなアクション、迫力ある爆発シーン、独特の構図スタイルなどでアニメシーンに大きな影響を与えた。代表作は『無敵超人ザンボット3』、『銀河鉄道999』(劇場版)、『風の谷のナウシカ』など。

辻野のオリジナルマンガ『Doragonia Story 〜風をあつめて〜』より
©E&H/GAGA

『BULLET/BULLET(バレット/バレット)』

ディズニープラス「スター」で2025年7月16日より独占配信開始
●監督・原案:朴性厚 ●原作:E&H production・ギャガ
●シリーズ構成:金田一士 ●キャラクターデザイン・総作画監督:吉松孝博
●「ガッチャ」デザイン:辻野芳輝 ●コンセプト・メカニックデザイン:天神英貴
●キーアニメーター:佐野誉幸、赤井方尚、諸貫哲朗 ●美術監督:赤井文尚 ●色彩設計:鎌田千賀子 ●3D総括:菅友彦 ●カーアクションディレクター:三沢伸
●撮影監督:李周美 ●編集:柳圭介,ACE ●音響監督:藤田亜紀子 ●音響効果:中野勝博 ●音響制作:INSPIONエッジ ●音楽:堤博明 ●音楽プロデューサー:小林健樹
●製作:ギャガ ●アニメーション制作:E&H production ●公式サイト https://bullet-bullet.com/
©E&H/GAGA

この記事を書いた人
昭和50年男 編集部
この記事を書いた人

昭和50年男 編集部

昭和50年生まれの男性向け年齢限定マガジン

昭和50(1975)年生まれの男性に向けて、「ただ懐かしむだけでなく、ノスタルジックな共感や情熱を、明日を生きる活力に変える」をテーマに、同世代ならではのアレコレを振り返ります。多彩なインタビューも掲載。
SHARE:

Pick Up おすすめ記事

トラッドの相棒にドゥニームのジーンズを! ウエアハウスが1988年のクラボウデニムを再現

  • 2026.09.17

1980〜90年代に日本のセルビッジジーンズの先駆けとして一世を風靡したデニムブランド「ドゥニーム」。同ブランドの創業当時のレシピをもとに、再始動を手掛けたのが「ウエアハウス」だ。彼らの徹底的な研究・解析によって生み出された至極の1本は、まさにオーセンティックそのもの。そして、本当の意味での“良い色...

70を超えるレザーブランドが集う! 「Leathers Day TOKYO 2026」が五反田TOCビルで9月26・27日開催!

  • 2026.08.30

雑誌『Lightning』と兄弟誌『2nd』『CLUTCH Magazine』の3誌による、レザー好きのための大規模イベント。4度目を迎える今年は、初の東京会場での開催が決定! 普段なかなか手に取って実物を見ることができないブランドや、このイベントでしか手に入らないアイテムが揃う特別な2日間。さらに...

2ndとEDWIN両チームの世代の異なる4人が集結! EDWINと考えるトラッド学

  • 2026.09.15

本誌でも何度も紹介してきたEDWINのコンセプトショップ限定アイテムは、普遍的なデザインとそのクオリティの高さから2ndが理想とするトラッドスタイルともばっちりハマる。今回は初の試みとして、2ndとEDWIN両チームの世代の異なる4名で“EDWINで作るトラッド”を考えてみた。 20代らしくアクティ...

ニューヨーク・ブルックリン発! 作業服由来のデイリーウエアはこう着こなす。

  • 2026.09.16

創業1904年、高層ビルの建設が相次ぐ当時のニューヨークでリアルワーカーに向けて、作業服を提供していた「ブルックリンオーバーオール」。そんな確固たる出自に由来する男服は、カジュアルウエアとして現代にDNAを継ぐ。 旧きよきデザインと生地づくりで飽きのこない王道のワークスタイル 40年代の個体をベース...

イタリア・パルマで誕生。世界屈指のベルト「Anderson’s」、その生まれる場所へ

  • 2026.09.17

1966年、イタリア北部に位置する美食の街・パルマで創業したベルトメーカー「アンダーソンズ」。装いを完成させる“名脇役的存在”のベルトをメインとする稀有な存在にして、世界的な評価を獲得する某ブランドのプロダクトはどのように生まれるのか。その魂が宿る自社工場に足を運んだ。 イタリア・パルマの地に宿る6...

Pick Up おすすめ記事

毎日に、最良の定番。B.V.D.の「GOLD」は昔ながらの良さと、いま欲しいバランスを兼ね備えたTシャツ

  • 2026.09.16

長く愛されてきた定番には、変わらない理由がある。B.V.D.の「GOLD」もそのひとつ。肌着として培ってきた心地よさをそのままに、今の気分で一枚でも着られるリラックスフィットが加わった。昔ながらの良さと、いま欲しいバランス。その両方を備えた、新しい定番のかたちを見ていこう。 変わらない着心地にゆとり...

70を超えるレザーブランドが集う! 「Leathers Day TOKYO 2026」が五反田TOCビルで9月26・27日開催!

  • 2026.08.30

雑誌『Lightning』と兄弟誌『2nd』『CLUTCH Magazine』の3誌による、レザー好きのための大規模イベント。4度目を迎える今年は、初の東京会場での開催が決定! 普段なかなか手に取って実物を見ることができないブランドや、このイベントでしか手に入らないアイテムが揃う特別な2日間。さらに...

【連載】ビートルズのことを考えない日は一日もなかった

  • 2024.02.05

80年代、私的ビートルズ物語。 ビートルズ研究と収集に勤しむビートルデイズを始めて早44年(Since1980)。 なにをするにもビートルズが基準だった『昭和40年男』編集長のビートルズ史を、 当時の出来事とともに振り返ります。

イタリア・パルマで誕生。世界屈指のベルト「Anderson’s」、その生まれる場所へ

  • 2026.09.17

1966年、イタリア北部に位置する美食の街・パルマで創業したベルトメーカー「アンダーソンズ」。装いを完成させる“名脇役的存在”のベルトをメインとする稀有な存在にして、世界的な評価を獲得する某ブランドのプロダクトはどのように生まれるのか。その魂が宿る自社工場に足を運んだ。 イタリア・パルマの地に宿る6...

Why Banana Republic? 2nd編集部イチ押し「バナナ・リパブリック」アイテムと、ブランドの魅力を徹底解説

  • 2026.09.16

1978年にアメリカ・カリフォルニア州で創業したバナナ・リパブリック。クラシックとモダンが共存する唯一無二のスタイルや歴史を紐解くことで、我々が彼らのプロダクトを手に取るべき“理由”が見えてくる。(記事をご覧いただいた方への特典を最後に紹介しています) [caption id="attachment...