3ページ目 - アニメ『全修。』で注目のクリエイター・辻野芳輝に会う【アイテイマス 第2回】

自分のやりたいことができる!ゲーム業界への挑戦

──その後の辻野は『ルパン三世 風魔一族の陰謀』に原画で参加をしているものの、相変わらず合作の制作が中心だった。『リトル・ニモ』が暗礁に乗り上げ、テレコムでの作品に光を見いだせずにいた。

ずっと合作ばっかりやってて、自分たちが作りたいようなアニメは全然できないのが辛かったので、仲間と一緒に企画書を書いて東京ムービー新社の友人に渡したんですよね。社内で実現はしなかったけれど、彼が企画書を持ち回りしてくれて、それがハドソンとかレッドカンパニーの目に止まったんです。86年頃だったと思います。

──拾う神が現れた! ハドソンは80年代にファミリーコンピュータソフト『ロードランナー』や『忍者ハットリくん』『スターソルジャー』などの大人気ゲームを次々と生み出したゲームメーカー。そしてレッドカンパニーは、広井王子(※5)が設立した企画・プロデュースを生業とし、菓子や玩具のデザイン企画を手がけていた。広井はロッテの「ジョイントロボ」やトミー(現・タカラトミー)の「ゾイド」のストーリー作りにも関わっている。両社が辻野に興味を示した1986年頃は、ファミコンに他業種のクリエイターの参加が目立ち始めた時期に当たる。

企画の内容は、鬼が出てきたりする幻想的ファンタジーなアクション時代劇。その絵を広井さんたちが見て「これを主人公にしよう」みたいになって、自来也(『天外魔境ZIRIA』の主人公)の原型になりました。そして広井さんから「ハドソンと一緒にゲームの企画をやりませんか?」って話になるんですよ。

──ハドソンは日本電気ホームエレクトロニクス(NEC-HE)と共同で、PCエンジンの開発に取り組んでいた。その性能はファミコンを遥かに凌ぐものだった。

「アニメ映画が丸々一本入る」というのが広井さんのセールストークでした。それを生かすためのゲームをレッドカンパニーに考えてほしいと(ハドソンが)話を持ちかけたみたい。また、ハドソンはテレビアニメ『Bugってハニー』(86年/日本テレビ系)を制作していた東京ムービー新社と仲がよかったこともあって、この三社でアニメを入れたゲームをやりましょうと。そこで僕はテレコムから東京ムービー新社に出向して、そこからレッドカンパニーに移ってゲームの企画に参加しました。

──この企画こそ、89年にPCエンジンCD-ROM₂用ソフト『天外魔境ZIRIA』(以下、天外魔境)である。当時の最新メディアであるCD-ROMを利用し、ボイス入りのアニメーションとCD音源の音楽といった新次元の演出を実現した。「アニメ映画が丸々一本入る」とは流石にいかないものの、これまでの家庭用ゲーム機にはない、未知の領域への挑戦だった。

ゲーム開発のための仕事の流れといったシステムが何もできていませんでした。初めはキャラクターデザインとして入ったのに、東京ムービー新社に『天外魔境』を作るためのチームがなかったので、アニメパートは全般的に担当することに。やっていくうちに「背景とかも必要だよね」となり、僕がレイアウトを描いてアニメの美術に渡して描いてもらう。色をつけて描いてもらったのをスキャナーで取り込んで、それを元にドット絵に起こす。他の人も巻き込んでやりたかったんだけどね…少人数で少しずつやるしかないような状況だったからすごく時間もかかって。

──『天外魔境』は高い評価を受けてシリーズ化し、『天外魔境II 卍MARU』(92年)、『天外魔境ZERO』(95年)、『天外魔境 第四の黙示録』(97年)などが作られていく。さらに広井が原作を務めた『サクラ大戦3〜巴里は燃えているか〜』(2001年)など、ゲームの仕事が増えていった。

3作で終わるつもりだったのですけど「いろんなハード向けに『天外魔境』を出したい」という話がハドソンの方から出てきて。スーパーファミコン、サターンだのそういうのが一気に来てちょっと大変な時期がありましたね。

レッドカンパニーはそもそもゲームの会社じゃなく、テレビや映画、おもちゃなどの企画をやる会社。そういうのをやりたくて入ったのに、ゲームばかり、『天外魔境』ばかりで、「ちょっと思ってたのと違うぞ」みたいな。実写映画の企画にも関わりもしたんですが、実現しませんでした。そうはいっても仕事的にできたことはたくさんあって。特に、世界を作れるというのがおもしろかった。

※5…マンガ、アニメ、テレビゲームの原作や舞台演出などを手がけるマルチクリエイター。代表作にアニメは『魔神英雄伝ワタル』、ゲームでは『天外魔境』シリーズや『サクラ大戦』シリーズなどがある。

『昭和50年男』vol.32「本格アニメーションが照らしたテレビゲームの世界『天外魔境』シリーズ」より。レトロゲーム愛好家のMCUと『天外魔境』シリーズについて対談した
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昭和50(1975)年生まれの男性に向けて、「ただ懐かしむだけでなく、ノスタルジックな共感や情熱を、明日を生きる活力に変える」をテーマに、同世代ならではのアレコレを振り返ります。多彩なインタビューも掲載。
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