2ページ目 - 『超時空要塞マクロス』のキャラクターデザイン&作画監督 美樹本晴彦トークショー「自分を作ってくれた『マクロス』」

『マクロス』がなかったら今の美樹本晴彦はいない

美樹本 河森(正治)君と細野(不二彦)君はスタジオぬえ(※4)に通っていて、ぬえは大学から僕が帰る近い方向にあったので、河森君について遊びに行ってたんですよ。河森君はもう仕事をしてたんじゃないかな。細野くんはマンガを描き始めていました。

そんななかで、ぬえにオリジナルの企画が2本(※5)あって、一本は細野君がキャラクターのラフを書いて、もう一本は僕が、ということなんですが、細野君は当時から上手かった。キャラクターのラフがちゃんと描けるわけです。でも僕の方はそこまで形にする能力がまだなかったので、スケッチブックみたいなものにラフを書いて、それを年中見ていただいていろいろダメ出しをされてっていう。それが『マクロス』の前段階の企画です。

ところが、途中から当て馬企画だったマクロスの方が通ってしまって。実際に通ったから具体的に描かなきゃいけなくなってしまう。練習では済まないわけです。それで慌ててアニメスタジオの方にも仕事を覚えなきゃということでアルバイトに通って、それをやりながら、キャラクターを描きつつ…、形になるまで半年か一年ぐらいかかってるんじゃないですかね。アニメーションの仕事は全然知らなかったので。もちろんアニメーターっていう存在はわかってましたけど。アニメーターは消しゴムも使わないで一発でさらさら描いてるものだと思い込んでいて、だから「とても自分じゃできねえよ」って思ってましたね。でも、スタジオで見たらみんな普通に消しゴムを使っていて、ハードルがちょっと下がったかなと思ったんです。ただ、一つの芝居をつけるのに、同じような絵を何枚も描かなきゃいけないわけですよ。芝居をつけるのが好きな方は絵を多く入れたりして自分の思うような芝居をさせているわけですけれども、私は同じような絵を描くの嫌いなんですよ(笑)、面倒くさいじゃないですか。だから苦手で。

アニメの作画監督の仕事をやらせていただくようになっても、僕はアニメーターの練習期間だから、基本的にはキャラ修正。本来の作画監督っていうのはアニメーターのキャリアを積んで、仕事とか能力が認められた人がやる。要は作画監督って本来、絵を直すだけじゃなくて、芝居も直したりレイアウトをチェックしたりとか、作画を全般的に面倒を見なければいけない仕事です。キャラクターは自分の描いたものだから、責任をもって自分の絵に統一はするけれども、芝居を直すとかレイアウトをどうこうっていうのは僕では無理だから、それ相応の肩書きにしてくれないかっていう話をしたんです。当時、板野(一郎)さんが“メカ作監”、僕は“キャラ作監”っていう形でしたが「分けるだけでも初めてのことなのに、それ以上変わったことなんかできないよ」という話をされてキャラ作監ということですけど。現場では板野さんとかも気を使ってくれて「お芝居とか周りの演出をちゃんと見るから、お前は絵を直せ」って言っていただいて。だから近い方に守っていただくような形で参加したんですよね。

今の世の中、アニメやイラスト関係もCGが普及したことで、ものすごく絵のうまい方が増えているので、この時代に生まれなくてよかったなって思っていますけどね。僕らの頃はまだまだアニメーターがイラストを描くということ自体があまりない状況でしたので。そんななかだからこそ、ほとんどアマチュアで、ろくに色を塗ったこともないような自分が仕事をいただくことができたんですけれども。声をかけてくださったスタジオぬえは本当にありがたいと思います。それが『マクロス』でそれなりに世に認めていただいてっていうのは、本当に幸運だったと思いますよね。『マクロス』という作品に勢いがあったからこそ、キャラクターの全身もロクに描けない人間がデザインをやらせていただいて。それでイラストも書かせていただいてっていうのは、今ではとても考えられることではないので本当に運が良かったですね。河森くんにしても板野さんにしても、同じ世代でもそれなりにキャリア積んで力もある方がそろっていましたので、それに助けられたということもあります。なんにせよ、これがなかったら今の自分は多分いなかったろうと思います。そういった意味ではターニングポイントどころじゃないですよね。これがなかったらどうなっていたんだろうと思いますね。

※4…主にSF作品に総合的に関わるクリエイター集団。イラスト、小説、アニメのメカデザイン、世界観設定等を担い、日本の特撮&アニメの黎明期に大きな影響を与えた。
※5…「ジェノサイダス」と「バトルシティー メガロード」。「ジェノサイダス」は手足のついた飛行機“ガウォーク”を登場させるつもりだったが、当て馬だった「メガロード」の企画が通り『マクロス』へと発展する。

©1982,1984 BIGWEST 『美樹本晴彦画集「MACROSS」』収録作品の一部。河森正治とスタジオぬえのメンバーが美樹本のノートに落書きしていたチャイナ服の女の子を気に入って採用し、リン・ミンメイが生まれたという

記録集ではなく、あくまで2025年に出す美樹本晴彦の作品集

美樹本 見て楽しいってタイプの絵ではないんだろうなと思いますけども(笑)。修正する部分が結構あるんですよ。ただ、加筆修正については編集さんといろいろ相談して、やっぱり意見が割れるところがあって、当時のままの方がいいんじゃないかという意見もありますし。ただ、僕としては記録集ではなくあくまで2025年に出す作品集として考えていました。当時の絵柄を変えようとは思っていません。その当時じゃなかったら描けない勢いみたいなものは未熟ながらもありますので、それを変えてしまおうという気持ちはなかったんです。それを説明してもよくなかなかわかってもらえなくて。加筆修正というと絵を変えちゃうんだろうみたいな感じで意識される方が多くて。

わかりやすく言うと、目(のバランスや位置)があちこち行っちゃってるものをおかしくない場所に戻しましょうと。そういう誰が見ても変でしょうっていうところは直させてほしいっていう話です。だから、当時の絵を見ていた方でも、今回の画集をパッと見て「あれ? これは変わってるぞ」って気がつく方は割と少ないと思うんです。それが何か所ぐらいあるか探してみるのも面白いんじゃないかな(笑)。ただ、裏を返すと、その見て気づかないぐらいの修正やって意味があるのかっていうね。それは描き手の方のわがままということでお許しいただければと。

『愛・おぼえてますか』(4K ULTRA HD ver.)は、残念ながら拝見しておりません。ただ、河森くんから背景の今まで潰れて暗くなって見えないようなところも「あ、こんなに描いてあったんだ」というところまで見えるという話は聞いてます。(画質の)手直しが入ってても、キャラクターそのものを直せるわけではないので。自分としては当時のクセ、当時のすべてを否定はしませんけれども、は直したかったというようなものはあるので。そういうリテイクをさせてくれたらいいのにと思います(笑)。

©1982,1984 BIGWEST 画集に収録された作品。『マクロス』シリーズのヒロインが集結している
この記事を書いた人
昭和50年男 編集部
この記事を書いた人

昭和50年男 編集部

昭和50年生まれの男性向け年齢限定マガジン

昭和50(1975)年生まれの男性に向けて、「ただ懐かしむだけでなく、ノスタルジックな共感や情熱を、明日を生きる活力に変える」をテーマに、同世代ならではのアレコレを振り返ります。多彩なインタビューも掲載。
SHARE:

Pick Up おすすめ記事

2ndとEDWIN両チームの世代の異なる4人が集結! EDWINと考えるトラッド学

  • 2026.09.15

本誌でも何度も紹介してきたEDWINのコンセプトショップ限定アイテムは、普遍的なデザインとそのクオリティの高さから2ndが理想とするトラッドスタイルともばっちりハマる。今回は初の試みとして、2ndとEDWIN両チームの世代の異なる4名で“EDWINで作るトラッド”を考えてみた。 20代らしくアクティ...

イタリア・パルマで誕生。世界屈指のベルト「Anderson’s」、その生まれる場所へ

  • 2026.09.17

1966年、イタリア北部に位置する美食の街・パルマで創業したベルトメーカー「アンダーソンズ」。装いを完成させる“名脇役的存在”のベルトをメインとする稀有な存在にして、世界的な評価を獲得する某ブランドのプロダクトはどのように生まれるのか。その魂が宿る自社工場に足を運んだ。 イタリア・パルマの地に宿る6...

70を超えるレザーブランドが集う! 「Leathers Day TOKYO 2026」が五反田TOCビルで9月26・27日開催!

  • 2026.08.30

雑誌『Lightning』と兄弟誌『2nd』『CLUTCH Magazine』の3誌による、レザー好きのための大規模イベント。4度目を迎える今年は、初の東京会場での開催が決定! 普段なかなか手に取って実物を見ることができないブランドや、このイベントでしか手に入らないアイテムが揃う特別な2日間。さらに...

トラッドの相棒にドゥニームのジーンズを! ウエアハウスが1988年のクラボウデニムを再現

  • 2026.09.17

1980〜90年代に日本のセルビッジジーンズの先駆けとして一世を風靡したデニムブランド「ドゥニーム」。同ブランドの創業当時のレシピをもとに、再始動を手掛けたのが「ウエアハウス」だ。彼らの徹底的な研究・解析によって生み出された至極の1本は、まさにオーセンティックそのもの。そして、本当の意味での“良い色...

Pick Up おすすめ記事

2ndとEDWIN両チームの世代の異なる4人が集結! EDWINと考えるトラッド学

  • 2026.09.15

本誌でも何度も紹介してきたEDWINのコンセプトショップ限定アイテムは、普遍的なデザインとそのクオリティの高さから2ndが理想とするトラッドスタイルともばっちりハマる。今回は初の試みとして、2ndとEDWIN両チームの世代の異なる4名で“EDWINで作るトラッド”を考えてみた。 20代らしくアクティ...

毎日に、最良の定番。B.V.D.の「GOLD」は昔ながらの良さと、いま欲しいバランスを兼ね備えたTシャツ

  • 2026.09.16

長く愛されてきた定番には、変わらない理由がある。B.V.D.の「GOLD」もそのひとつ。肌着として培ってきた心地よさをそのままに、今の気分で一枚でも着られるリラックスフィットが加わった。昔ながらの良さと、いま欲しいバランス。その両方を備えた、新しい定番のかたちを見ていこう。 変わらない着心地にゆとり...

イタリア・パルマで誕生。世界屈指のベルト「Anderson’s」、その生まれる場所へ

  • 2026.09.17

1966年、イタリア北部に位置する美食の街・パルマで創業したベルトメーカー「アンダーソンズ」。装いを完成させる“名脇役的存在”のベルトをメインとする稀有な存在にして、世界的な評価を獲得する某ブランドのプロダクトはどのように生まれるのか。その魂が宿る自社工場に足を運んだ。 イタリア・パルマの地に宿る6...

トラッドの相棒にドゥニームのジーンズを! ウエアハウスが1988年のクラボウデニムを再現

  • 2026.09.17

1980〜90年代に日本のセルビッジジーンズの先駆けとして一世を風靡したデニムブランド「ドゥニーム」。同ブランドの創業当時のレシピをもとに、再始動を手掛けたのが「ウエアハウス」だ。彼らの徹底的な研究・解析によって生み出された至極の1本は、まさにオーセンティックそのもの。そして、本当の意味での“良い色...

70を超えるレザーブランドが集う! 「Leathers Day TOKYO 2026」が五反田TOCビルで9月26・27日開催!

  • 2026.08.30

雑誌『Lightning』と兄弟誌『2nd』『CLUTCH Magazine』の3誌による、レザー好きのための大規模イベント。4度目を迎える今年は、初の東京会場での開催が決定! 普段なかなか手に取って実物を見ることができないブランドや、このイベントでしか手に入らないアイテムが揃う特別な2日間。さらに...