作り手の視点から紐解く、世界4大シャツ大国それぞれの哲学

アメリカ、イギリス、フランス、イタリア。シャツ大国として挙げられる4カ国だが、それぞれの特徴とは?様々なブランドのディレクション、デザインを手掛ける有識者に聞いてみた。

「アーカイブ&スタイル」代表・坂田真彦さん|バンタンデザイン研究所を卒業後、コレクションブランドでファッション業界の実務を経験。2004年にデザインスタジオ「アーカイブ&スタイル」を設立し、国内外様々なブランドのディレクションを手掛ける

押さえておきたい各国の“シャツ哲学”

国内外様々なブランドのディレクション、デザインを手掛ける“作り手”として、はたまた古着をミックスした唯一無二のスタイルに定評のある“ウェルドレッサー”として、2nd編集部が信頼を置くアーカイブ&スタイルの坂田真彦さん。デザイナーズブランドに傾倒し始めた高校時代に「タケオキクチ」や「チューブ」のシャツを購入し、その後、各国の伝統的なシャツメーカーの名作にも袖を通してきた経験値から、各国の特徴の違いを解説してもらった。

「まずはアメリカから。ドレスをベースとしつつ、4カ国の中では最もカジュアルな印象です。オックスフォードのボタンダウンを筆頭に、洗いざらしでガンガン着ることでサマになるというのが最大の魅力だと感じます。前立ての縫製がチェーンステッチのものやポケットが付いているものが多いのも特徴で、シャツ本来の“下着”としての名残りはなく、むしろシャツを主役と捉えているようなデザインなのではないでしょうか。また、襟付けの後中心がやや下にカッティングされてるものが多く、着用時に後ろに重心がいくので、少し抜けがあるというのも特徴です。逆にヨーロッパのシャツは、首元の第一ボタンに重心があると考えます。かなりマニアックな話ですが(笑)」。

次に、ドレスの源流ともいえる英国のシャツについて。1885年創業の「ターンブル&アッサー」に代表される英国の老舗は、ビスポークをメインとしていた背景もあり、クラシックでどこか“貴族的”な側面があるのだという。

「英国のシャツは“ザ・クラシック”という印象です。現代における既成のシャツではあまり見られないロングカフス、袖の3つボタン、袖周りをグルリと一周するギャザー、しっかりと芯が入った構築的な襟、着用時に綺麗に見えるように計算されたヨークと袖の柄合わせ……。ポイントを挙げたらキリがないほどです。スーツと同様に構築的な印象ですね。4カ国の中では最もドレッシーで堅いイメージです。

英国を代表する『ターンブル&アッサー』に関しては、過去にジャーミンストリートのショップでオーダーしたこともあります。ドレスの源流というだけあって、作りは丁寧ですし、アメリカ、フランス、イタリアといった他国のシャツも英国のシャツを参考にしている部分は少なからずあると思います。シャツを語るうえでは必ず押さえておくべきですね。個人的には、シャツを着る際にジーンズと合わせることが多いのですが、各国のシャツに袖を通してきたうえで、よりドレッシーでかっちりとした英国のシャツとヤレ感のあるジーンズとのミックス感を楽しむのがいまの気分です」。

続いて、フランスとイタリアについて。ともに丁寧な縫製と洗練されたムードが魅力だが、そこには“お国柄の違い”とも言うべき大きな差異が存在する。

「フランスの『シャルべ』はマシンメイドの最高峰。無駄な装飾のないシンプルなデザインに、裾のスクエアカットが絶妙な抜けを演出しています。ノンシャランとも言われる“さりげなさ”が堪りません。対してイタリアはハンドメイドの技法が随所に見られます。また、フランスのさりげなさに対して“これ見よがし”なデザインが多く見られます。一般的なシャツは脇と袖下を一気に縫いあげるのに対し、『シャルべ』やイタリアの『ルイジボレッリ』は袖が後付けとなっています。肩から袖にかけてのラインを綺麗に見せるためのオフセットという手間のかかる技法です。この2本の縫い目を強調するかのように距離を離しているのが『ルイジボレッリ』、さりげないのが『シャルべ』です。また、イタリアのシャツは艶と厚さのある貝ボタンを使用するなど、“高級さ”を全面に押し出しています。これらが、僕が考える4カ国のシャツの哲学の違いです」。

各国の特徴を知ることでシャツ選びはもっと面白くなる

ブルックス ブラザーズのボタンダウンシャツ

古着店で購入した『ブルックス ブラザーズ』のボタンダウンシャツ。いずれもポプリン素材のストライプ柄で、洗いざらしでも着られるラフさが魅力だという。

1度は気にしたことがあるであろう6ボタンと7ボタン。6ボタン(下)の方が裾のカッティングが鋭角に内側に入る傾向があるのだとか。

アメリカとヨーロッパの襟付けの違い

米国のシャツ(上)は襟下のカッティングがやや下で曲線的、欧州のシャツ(下)は襟に沿うように直線的。着用時のシャツの“重心”に影響を及ぼす。

マーガレットハウエルのレギュラーカラーシャツ

坂田さんの英国のシャツにおけるお気に入りはひとりの職人が縫いあげた英国製の〈マーガレットハウエル〉。芯が入らない小ぶりの襟とカジュアルな風合いが、いい意味で英国的ではなく、抜け感を演出する。

ターンブル&アッサーのオーダーシャツ

ドレスの本場であるジャーミンストリートの本店でオーダー。ロングカフス、袖の3つボタン、ヨークと袖の柄合わせなど、端正かつ“貴族的”な1着。

シャルべのブロードシャツ

パリの本店で購入した1着は、坂田さん曰く「マシンメイドの最高峰」。立体的でありながら身体にもフィットする洗練されたムードが魅力。

ルイジボレッリのリネンシャツ

クラシコイタリアブームが到来する前の90年代後半に購入。当時の米国製シャツの3倍の値段だったという。襟付け、ボタンホール、アームホールなど随所にハンドステッチが見られる。

一般的なシャツは脇下から袖にかけて一直線に縫うが、高級シャツの袖は後付けが多い。ルイジボレッリ(上)は2つのステッチの間隔がわかりやすく広く、シャルベ(下)はさりげない。

坂田さんが考える4カ国のシャツの特徴

アメリカ
使い込んだ風合いがサマになるラフでカジュアルな雰囲気が魅力。

イギリス
“貴族的”なディテールを携えたドレスシャツの基本中の基本。

フランス
計算されたパターンと丁寧な縫製が生み出す洗練と抜け感の共存。

イタリア
ハンドメイドの技法を随所に取り入れた身体にフィットするパターン。

(出典/「2nd 2026年6月号 Vol.218」)

この記事を書いた人
みなみ188
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みなみ188

ヤングTRADマン

1998年生まれ、兵庫県育ちの関西人。前職はスポーツ紙記者で身長は188cm(25歳になってようやく成長が止まった)。小中高とサッカーに熱中し、私服もほぼジャージだったが、大学時代に某アメトラブランドの販売員のアルバイトを始めたことでファッションに興味を持つように。雑誌やSNS、街中でイケてるコーディネイトを見た時に喜びを感じる。元々はドレスファッションが好みだったが、編集部に入ってからは様々なスタイルに触れるなかで自分らしいスタイルを模索中。
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