ジーンズの歴史そのものに触れる究極のサービス。
そもそもあのリーバイスでビスポークできるということをご存知だろうか。始まりは2011年。米国サンフランシスコ店でビスポークサービス「ロット・ナンバー1」がスタートし、日本では2019年から原宿の旗艦店で実施されることとなった。
担当できるのは“マスター・テーラー”の肩書をもつ、二人の職人のみ。その内の一人である山本さんは、すでにカスタマイズ等を担当するテーラーとして活躍していたが、このサービスに従事するために改めて修行。英国からマスター・テーラーが来日し、“リーバイスのジーンズをビスポークする”ということの意義、精神、技術を徹底的に叩き込まれることとなった。
「お客様ごとに体型も要望もまったく異なるのが、難しくもあり面白くもあるところ」と語る山本さん。奇しくもジーンズが生まれた瞬間はビスポークにある。仕立て屋ヤコブ・デイビスが、ある顧客から“耐久性に富むズボンを”というオーダーを受け、リベットで補強するアイデアを閃いた瞬間こそが、その起源だ。
その後同社の発展とともに、ジーンズが地球人の制服となっていったのは周知の通り。マスター・テーラーと密に語らい、ともに自分だけのジーンズを仕立てるこのサービスは、ある意味その起源に立ち返る、愛好家にとって極めて有意義なサービスといえる。ここからはその手順を追う。
ジーンズの祖がビスポークのためだけに設計したマスターパターン。
担当テーラーと打ち合わせ後の工程はユーザーによって自由。だが通常の流れとしては、“マスターパターン”と呼ばれるビスポーク専用型(ミッドライズとハイライズの2種類あり)のなかから、ベースとなるサイズを選定する。これは同社が150年近くに渡って蓄積してきたデータを元に製作したもの。
このサンプルをベースにすれば様々な人にフィットするし、調整しても「リーバイスのジーンズ」と認められるとお墨付きを得た、言わば世界一正統なジーンズだ。それを試着し、ベースの型を決めたら、シルエットをミリ単位で調整していく。スリムにもワイドにも、シルエットは自在だ。
フィッティングして形を決めた後はパーツ選びに入る。ご覧の通りあらゆる部材がバリエーションに富み、自由度は極めて高い。なかでも特筆すべきは生地だ。
これはカイハラ、アム ホッド、ミクテックス、キャンディアーニという世界有数の生地メーカーが、シャトル織機を使って、このサービスのためだけに織り上げたもの。すべて縮率を3%以内にとどめた、ビスポーク専用のセルビッジデニムだ。
糸も耐久性を考慮してポリエステル芯に綿を巻きつけたコア糸を採用するなど、長く愛せるよう、部材選びには徹底的に注力されている。リベットも通常仕様か打ち抜きかを選択できるなど、細かな仕様までこだわりを反映できる。
専用のアトリエで平均約16時間かけて作成。
オーダー後は担当テーラーが全工程を手作業で行い、ジーンズを製作していく。場所は都内某所の“HAUS(ハウス)”と呼ばれる施設。
ここのアトリエにはジーンズ作りに必要なあらゆる機器が完備されている。型紙を作り、チョークで型をとり、生地を手断ちし、多様なミシンを使いわけて縫い上げ、アイロンを掛け、サイズ感を合わせられるようになった段階で、オーダー主に原宿店でフィッティングしてもらう。
この仮縫い工程を経て(省くことも可能)、最終確認したら、仕上げ工程に移り、晴れて完成となる。作業時間は計約16時間。
昨今古着熱が高まり、同社のヴィンテージも軒並み価格が高騰している。しかし歴史を振り返るだけではなく、新たな歴史の一部となることにも価値を見出す愛好家は、一様にロット・ナンバー1に頼っている。その主たる要因がマスター・テーラーの匠にあることは疑いようもない。
世界で6人しかいないマスター・テイラーがフルハンドメイドで創り上げる無二のジーンズ。
写真はキャラクターがまったく異なる2本の完成見本(左は穿き込まれたものでユーズド加工は原則未対応)。左右非対称にすることも、生地や糸などを、細かな部位ごとに個別に変更することも可能だ。納期は状況によって異なるが、オーダー後、仮縫いまで約1か月半。仕上げまで1~2週間。計約2カ月で完成となる。11万円~
【DATA】
リーバイス 原宿 フラッグシップストア
東京都渋谷区神宮前6-16-12 神宮前グリーンテラス
TEL03-6427-6107
営業/11:00~19:00
休み/不定休
※情報は取材当時のものです。現在取り扱っていない場合があります。
(出典/「2nd 2023年2月号 Vol.191」)
Photo/Koki Marueki(BOIL) Text/Masato Kurosawa
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