サンゴ水槽にとって、取り除きたい『藻類』が増える理屈
筆者は、サンゴと海水魚の飼育の専門誌を作っていたことがあるので、海水、水槽内の環境について詳しい。
サンゴや熱帯性の海水魚を飼育している者にとって、藻類が増えるのは非常に困ったことなので、可能な限り抑制したい。単純に観賞上美しくないというだけでなく、水質が低下している証左であり、藻類に覆われてサンゴが死んでしまう可能性もある。対策としては、藻類のエサとなるものを減らすことになる。
藻類が育つには、窒素化合物、リン酸化合物、ケイ酸化合物などと、光もしくは糖などの有機物が必要になる。逆に言うと、我々熱帯魚愛好家はこれらを可能な限り減らそうと戦ってきた。窒素、リン、ケイ素は、魚を飼育する際に栄養分として必要になるのでエサとしては与えなければならない。したがって、エサを可能な限り減らす、また残餌、フンとして水槽内に対流する成分を可能な限り取り除こうと努力することになる。
したがって、そんな我々にとって、邪魔者である藻類が『うま味』になると聞くと、俄然興味深く感じる。
たしかに美味しい。でもデリケート
まずは、サンプルとしていただいた『うま藻』をいろいろなものにかけたり、食べたりしてみた。
『うま藻』はその名の通り、『うま味』が特徴だ。羅臼昆布の1.5倍のグルタミン酸、シジミの4倍のコハク酸、アスパラガスの5倍のアスパラギン酸を含有する。
したがって、振りかけると旨味が増す。化学調味料ではなく、天然の藻類を乾燥させたものなので、人体に害もない。
料理にかけて食べると、旨味が増す、コクが深くなる……という印象。単体で食べてみると、削ったカラスミのような味がする。
参考レシピとして、例示いただいた『焼き野菜』、『ボンゴレビアンコ』、『オイルマッシュルーム』などを作ってみた(正確に言うと妻に作ってもらった)が、いずれも旨味が増した感じがした。オイルマッシュルームだけは「そもそも、これは『うま藻』がなくても美味しいのでは?」と思った。
旨味が増すので、他の塩分や唐辛子成分などを抑え気味にしても美味しく感じられるのが発見だった。塩分や刺激成分を抑えることで、よりヘルシーなメニューを作ることができそうだ。
また、純粋に植物性なので、ビーガン料理、ハラルフードなどにも可能性があるのではないだろうか?
ただ、うま味成分は強いが、そもそもは『うま味』なので、料理によってはマスクされそうだし、際立つ料理、感じにくい料理はあるように思った。そのあたり、今後は使う側のセンスも問われそうだ。
サバの13倍のDHAを含有
しかも、この『うま藻』、もともと本来大型魚にDHAを供給するために開発されたものだから、魚よりはるかに多いDHAを含んでいる。
ちなみに、DHAはドコサヘキサエン酸のことで不飽和脂肪酸の一種。人間の場合、脳の灰白質や網膜、神経などに含まれており、思考力、記憶力の維持に効果がある他、中性脂肪を減らし、血小板の凝集予防にも効果があるので、血をサラサラにしたり、血圧を下げる効果まであるという。
提供いただいた資料によると、サバの13倍のDHAを含むばかりか、トマトの10倍のGABA、ニンニクの3倍のアルギニンを含むという。驚くほどさまざまな有効成分を含む食材なのだ。
本来廃棄物だった泡盛粕を、培養に利用
冒頭にも述べた通り、『うま藻』は、泡盛粕を養分にして作られる。
この藻自体は、もともと自然界ではマングローブの葉の裏に生息していたもの。自然界では落ち葉などに含まれている成分を栄養にして生息している。しかし、その藻がDHAを産み出すことがわかり、研究が進められていた。
沖縄で研究していた際に、何を養分に培養すればよいか試行錯誤が進められていた。たまたま、泡盛の製造工程で発生する泡盛粕(一部はもろみ酢として使われるが、大半は廃棄される)を与えて育てたところ、高純度のうま味成分とDHA、GABAなどを大量に含んだ『うま藻』が生まれたとのこと。言わば、偶然の産物でもあるのだ。
その後、培養技術も進められ、特殊な醗酵タンク内で、適切な泡盛粕の濃度、温度などさまざまな条件をコントールすることで、安定した品質の『うま藻』が作られるようになった。
『うま藻』の味を活かすチャレンジは続く
試食の際にレストランでいただいたムースとパン、そして『うま藻』の組み合わせは絶妙で、非常に美味しかった。
もちろん、うま味成分なので、非常にデリケートな味わいだから、どちらかというとフレンチや、和食など繊細な料理に合うような気がする。
しかし、ポテトチップスに振りかけると、ポテトチップスが非常に美味しくなったというような話もあるので、一概に高級料理だけとしか合わないというわけではなさそうだ。とはいえ、このうま味を理解してくれる人が、デリケートな味の探究に努めている人に多いということで、現在都内の高級レストランなどで利用してくれるお店を増やしているとのこと。
実は藻類というのはまだまだ未開の分野で、さまざまな藻類を探究しているスタートアップは多い(バイオ燃料を生み出す藻類を扱うスタートアップの話をお聞きになった方も多いと思う)。この『うま藻』を作るAlgaleXの高田大地さんは、「そもそもは、海産資源を守るために養殖魚用のDHA飼料として開発をを進めていました。しかし、泡盛粕を培養のエサとして供給することで、驚異的なうま味を持った藻を作ることができてしまったんです」と語る。
うま味調味料、DHAサプリ、養殖魚用飼料など、さまざまな可能性を持った『うま藻』。クラウドファンディングは終わったが、ネットで単品販売も始まっている。興味のある方は、ぜひ試してみていただきたい。
うま藻
https://umamo.jp/shop/product_categories/4
(村上タクタ)
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