男で音楽が好きで、ラジオがまわせてという人がなかなかいなかった

BLUE 大学の4年間、DJをやってたんですよね?
栗原 正確には高校3年からです。水泳部を引退して、少し心にポカンと隙間ができていて、思い立ったのがDJをやりたいってこと。で、その時迷い込んだのが、新宿ワシントンホテルにあったワンズハートというディスコだったんです。そこでDJをしていたのが立教の先輩。その縁でDJ見習いとして、入れてもらうんです。
BLUE その後、いすゞに就職して、仕事をしながらDJの経験を積み、1992年に当時FMヨコハマの編成マンだった押阪さん(DJ OSSHY)のすすめでFMヨコハマ(以下、Fヨコ)のオーディションに応募して、ラジオDJになるんですよね?
栗原 「DJだけで食べていきたい」と押阪さんに相談した際、「ならば、ラジオのDJをやってみれば」とアドバイスをいただいたんです。もともとラジオ好きだったから、オーディションを受けてみようと。ラッキーなことに優勝して、ラジオDJになりました。
BLUE 80年代初頭まで、関東はTOKYO FMとNHK FMしかなかったけど。85年のFM 横浜(当時)をはじめ、88年のJ-WAVEだったりとオシャレなFMが次々開局して、僕ら、若者の心をキャッチしましたよね。
栗原 当時のJ-WAVEは、空前のバイリンガルブームだったんですけど、Fヨコを受けた92年頃は、「そろそろみんなバイリンガル疲れしてるだろうな」と仮説を立てて戦略的に挑んだというのと、自分はネイティブな英語が話せないのに、無理してしゃべった後、「皆さんこんにちは」と言うのに、とても違和感を感じたという感性的な面も加味して、オーディションの際、僕は日本語だけでしゃべり続けたんです…。もしかしたら新鮮に感じてもらえたのかもしれません。
BLUE そんな計算? があったんですね(笑)。FヨコでのDJデビューが93年1月。今年でデビュー30周年(取材当時)になります。
栗原 最初に担当したのは、『ウィナーワンダーランド』という番組。オーディションで勝ったんで番組名に“ウィナー”がついて。日曜、深夜1時からやってました。
BLUE 94年からは、RADIO BERRY FM栃木でもパーソナリティを。
栗原 僕は社員ではなく、フリーなので、もちろん他局でも。当時、男性のしゃべり手って、少なかったんですよ。男で音楽が好きで、ラジオがまわせてという人がなかなかいなかった。今も若いDJの子に、「本気でやれば? 仕事あると思うよ」って言うんだけど、う〜ん、なかなか…。もったいないなと。
BLUE 栗原さんはラジオのDJであり、ディスコやクラブでDJプレイし、『PRIME TIME』の番組内にもDJミックスのコーナーを設けている。つまり、武器をもって、番組構成に活かしていますよね。
栗原 僕はそもそも実際に現地のラジオ局を訪問しまくったアメリカのラジオオタクなんです。アメリカの人気番組は、音楽ガンガンかけて、ガンガンしゃべって、DJミックスもあるという構成なんです。要は、それをずっと追いかけて、今でもやってるというわけです。
BLUE ルーツはアメリカ、そのスタイルを日本語変換すると。
栗原 そんな僕が目指すDJスタイルに突き進む道筋を作ってくれたのは、間違いなく、当時お世話になった先輩方です。特に押阪さんからは、「今日からは、絶対にラジオの前の方とか、皆さんといったセリフで呼びかけないように。必ずあなたって呼びかけるんだ。なぜなら、ラジオは一対一でやるものだから」ということを。また、ある先輩からは「絶対、カッコつけてしゃべるなよ! カッコいいDJは簡単で、いっぱいいるぞ〜。一方、笑わせるのはすげぇ難しい」ということを教わりました。本場アメリカのラジオDJをわかっていて、自分のスタイルを貫いて、ということを学ばせていただいたのは、先輩方のおかげですね、間違いなく。

経験と分析力を身につけFヨコの看板DJに!
BLUE Fヨコでは、2001年から朝の番組『MORNING STEPS』を担当。2017年からは夜の番組『PRIME TIME』を担当。夜帯のフィーリングで、DJミックスがあってという『PRIME TIME』が、栗原さんの真骨頂な気がします。
栗原 業界的に言うと、朝ってすごくレーティング(聴取率)が高いんです。たとえば、神奈川県だと保土ヶ谷バイパスが渋滞している通勤時間帯にドライバーがカーステで聴いている。だから、朝は日本も、もちろんアメリカも、各局看板DJが並
ぶんです。これを業界用語で“モーニングアンカーマン”と言って。有名なのは、ハワイのKIKI-FMのカマサミ・コング。今で言うとLAのKIIS-FMのライアン・シークレスト。アメリカのFM業界では唯一、フリートークが許される存在なのが、モーニングアンカーマンで、実力主義の厳しい世界なんだよ。朝はとにかくガンガンしゃべってにぎやかにやって、目を覚まして、ヒット曲をかける。それを日本流でやってみようっていうのが、『MORNING STEPS』だったんです。
BLUE 朝の番組には、聴取率争いが。一方、夜の番組では?
栗原 夜はレーティングが多少低くはなる。なぜかというと、飲みに行ってるし、クルマ乗ってないし、野球観てるし、リスナー全体のパイが少なくなる。だから夜の番組は、この番組を聴きたいと思う人、つまり番組のファンに向けてやってるという意識が強くあって。
BLUE なるほど、リスナー層が全然違うんですね。
栗原 何かをしながら聴いてる人ではなく、『PRIME TIME』を絶対聴きたいという人を集めるわけだから、この番組でしか聴けない、といった内容重視でいく。そこで、僕が選択したのがDJミックス。聴こえ方こそすべて!
“線曲論”の真髄とは
BLUE 『PRIME TIME』は洋楽率95%で。ひょっとすると聴く人を選んでしまうのかも。でも、対象を絞っている分、“プライマー”と呼ばれるリスナーは熱く。彼らは、「他にはない番組だ!」と高らかに支持してくるとうかがっています。
栗原 “他にはない”というのは、いちばんの褒め言葉で、感謝しています。実は『PRIME』では、日本の番組ではやらない方法でやってるから、“他にはない”と聴こえてくるんじゃないかな。たとえば、実は『PRIME』って、しゃべってるようでしゃべってなくて…。
BLUE どういうことですか?
栗原 曲の最後のサビってパッと曲が展開していくところがあるでしょ、そこを聴くと、ちょっと空気が変わるんですよ。だからしゃべりを抑えて最後までかけたい。でも、日本の曲は長いから、かけるのは真ん中あたりのサビまでで、しゃべりをはさんで、次の曲をかけるというのが一般的なんです。一方、僕の番組ではミックス以外の時間帯はアメリカのRADIO EDITの(3分以内に編集し直した)曲を最初から最後までかけているんです。さらに詳しく説明すると、イントロできっちりしゃべってから曲にいくとか、アウトロからしゃべり始めて次の曲のイントロまで通してブリッジでしゃべる。そこにポーンとジングルを流してつなぐとか。たとえるなら、寿司屋の刺身と一緒で、スーパーでは売ってないような刺身を食べてもらいたいんです。家では聴けないかけ方で音楽を届けるんです。
BLUE だから、ラジオは家で聴くのと同じ曲ではあるんだけど、聴こえ方が違う!
栗原 さらには、僕は選曲でなく、線を描く方の“線曲”という考え方でやっているんです。それって、野球でいう打線を作るという考えと同じで。たとえば、1曲めにテンポの速いヒット曲をかけて、次に「試しに聴いてみて」とオススメの曲をかける。この2曲めの間はしゃべらずにじっくり聴かせて、カッコいいジングルを入れてFMヨ・コ・ハ・マ84・7♪と。で、3曲めに最高のバラードをかける。すると、一気に非日常感が生まれ、高まって、リスナーは情緒を揺さぶられるはず。これは僕のDJスタイルの絶対的な基本線です。
BLUE それって初めて明かされて言語化された、すごく貴重な話じゃないですか?
栗原 初めて話しましたけど、リスナーも含め、ほとんどの人は興味ない話だと思いますよ(笑)。
BLUE その考え方って、クラブDJ的な発想でもありますよね。
栗原 確かに。
BLUE 僕はやっぱり栗原治久の大ファンです。本当に音が好きで、よく理解しているからこそのしゃべりであったり、今話してくれた曲のかけ方だったり、リスペクトに尽きます!
栗原 僕は音楽が好きで、DJが好きで、音楽は最高の素材なので、それをどう調理するのか? に興味があって。
BLUE 素材を知り尽くして、それを本当に楽しそうに調理しているのがめちゃくちゃ伝わってくるんです。だから僕は『PRIME TIME』を聴き、イベントへ行き、クラブやディスコでのDJプレイも。さらにはトークが抜群におもしろい!
栗原 ありがとうございます。それはやっぱりラジオをやっているからでしょうね。ディスコでやる時はラジオをブレンドするし、ラジオをやる時はディスコをブレンドする。それがおもしろいと思ってもらえているんじゃないかな。あと、執着心が強くて、全部やりたいからってのもあるかも。『じゃあ、ラジオのDJって実際なんなの?』と聞かれることもあるんですよね。そんな時、キャラクターと生業のかけ合わせでできていると答えているんです。そう考えると、僕という人間は、明るくておもしろいキャラクターに、音楽を絡めてしゃべるというかけ合わせでできていると思う。で、ファンはどう思っているの? というのを考えた時、万人にウケる人気者を求めているのではなくて“ソウルメイトが欲しい”ってことだと思うんです。気の合う仲間を増やしたいと。僕自身もこれがいちばん大切だと思ったんです。思いついたことをパッとしゃべって、「おもしろいな」と感じてくれる人は、きっと同じ価値観の人なはず。だから。そういう仲間を綿あめのように増やしていけばいいんじゃないかなと。反面、内輪ウケになってしまう可能性はあるんですけど、それはそれでよいかと…。だから『PRIME TIME』ではゲストの方も知名度基準ではなく、僕が大好きな一流の職人さんたちに来ていただき、自由に振る舞ってもらい、そこに僕がどう反応するかで、きっとリスナーが集まってくれると信じているんです。
聞き手/ DJ BLUE
「大人たちが青春時代に聴いていた音楽を、今、あらためて届けたい!」というメッセージを掲げ、CD、カセット、デジタル配信、イベントなどのプロデュース、ラジオ『J-POPパラダイス90s』パーソナリティと各種活動中
FMヨコハマ『PRIME TIME』
夜の街を音楽とトークで彩るDJエンターテインメントショー。ミキサー室にマイクを置き、栗原自ら機材を操作しながら放送するワンマンDJスタイルによるテンポあるトークで最新ナンバーを多数オンエア。日替わりで名うてのクラブDJが登場し、本格的なDJ LIVE MIXを届けている。そして、脇を固める女性リポーターが街へ繰り出しリアルな横浜の夜をレポート。リスナーは、X(旧Twitter)やメールで、リアルタイムで参加でき、熱い番組ファンは“プライマー”と呼ばれ、番組を支えている。
毎週月~木曜19:00 ~21:50
総合MC:栗原治久 レギュラー陣:manatie(月)、
REMO-CON(火)、川内美月(水)、DJ帝(木)
【X】@PRIMETIME847 【FB】primetime847 【IG】@pt.847
(出典/「昭和50年男 2023年11月号 Vol.025」)
取材・文:フジジュン 撮影:鬼澤礼門