実は傷になりにくく水にも強い! スエードの基礎知識教えます。

スウェードという言葉を聞いた時、どのような表情の革なのかは想像できるものの、どの部分の革を指すのか、どのような特徴があるのかは知らない人も多いはず。そこで、世界中の皮革を取り扱うニッピ・フジタの井上さんにスウェードに関する基礎知識を教えてもらった。

「ニッピ・フジタ」井上保弘さん|世界中を飛び回り、確かな審美眼の元でセレクトしたレザーやマテリアルを取り扱う革の卸売業者「ニッピ・フジタ」で30年以上のキャリアを誇る革の有識者。現在はレザー製品を作る部署の部長として活躍している。

そもそもスウェードとは……鞣した革の裏側を起毛させたもの。革の表面にある“銀面”が付いていることが条件

スウェードの正しい定義は、「鞣した革の裏側をサンドペーパーなどで磨いて毛足を起毛させたもの」である。この時に重要なのが銀面(革の表面)が付いているということ。

写真の水色の波線以下の革を漉いてそれを起毛させた場合、それはベロアという名称に変わる。実際にはベロアであってもタンナーによっては「〇〇スウェード」という名称を付ける場合があるため注意が必要だ。

「スウェード(Suede)」という名称の由来については、北欧の「スウェーデン(Sweden)」からきているという説が有力。寒さの厳しいスウェーデンで考案された、起毛されたレザーを使って作られた手袋がフランスで流行し、そこからスウェーデンを意味するフランス語「スウェード」が名称として定着したという。ただし、諸説ありなので軽く頭に入れておくだけで十分だ

スウェードとラフアウトとの違いは?

ワークブーツの素材としてよく耳にする「ラフアウト」という言葉。スウェードと少し表情が違うような気もするが、厳密な違いはあるのだろうか。

毛足の長さや国による呼称の違いで明確な違いはない!

スウェード

ラフアウト

巷にはスウェード=ラフアウトという見解もあれば、起毛させるという点は同じであるものの使用する革の部位が違うという見解も存在する。その疑問を解消すべく井上さんに聞くと、「皮革業界には“ニュアンスの違い”によって見解が異なる用語が一定数あるのですが、スウェードとラフアウトは同じ「革の裏側を起毛させたもの」という認識です。

しかし、ラフアウトという言葉の“ラフ”という言葉から“荒々しい”というニュアンスを感じるため、より毛足が長いものがイメージされます。また、レッドウイングやダナーといったアメリカブランドは『ラフアウト』という言葉を使い、逆にヨーロッパのタンナーは『スウェード』という言葉を使う印象です」。

写真は井上さん私物のラフアウトのトレッキングシューズ。

スウェードのメリット3選

ブーツやジャケットを筆頭に、多くのプロダクトにスウェードが採用される理由とは。ここでは、知っておくべきスウェードの3つの利点を紹介する。

【メリット①】撥水性に優れる!

スウェードが「銀面の裏側をサンドペーパーなどで起毛させたもの」だということは先述の通り。起毛させることで表面が毛羽立ち、表面の毛が水分を水滴のように弾くという効果がある。表面に凹凸がある分、表面積が広くなり、水分が革の表面に対して垂直に落ちていくのを防ぐというわけだ。

逆に水分に弱いと言われているコードバン(馬の臀部の層を削り出した革)は繊維が革の表面に対して垂直に走っているため、水分がダイレクトに浸透してしまうのである。ただでさえ水分に強いスウェードは防水スプレーを吹きかけることで、水の侵入をほとんど許さないほどになる。したがって、雨の日用のシューズとしてスウェード素材のブーツを選ぶファッション業界人も多い。

【メリット②】傷が目立ちにくい!

ツルっとしたスムースレザー(表革)は、表面の毛足が均一でかつ光沢があることで、傷が入るとかなり目立ってしまうのが難点だ。それに対してスウェードは毛足が立っている分、傷が目立ちにくいのもポイント。傷と同様にシミも目立ちにくい。起毛させたスウェードには毛足があるため、仮に傷がついた場合もブラッシングをして毛足を整えることでかなり目立ちにくくすることができる。

スウェードの悩みのひとつとして挙げられる黒ずみに関しても、消しゴムで擦ったり、ヤスリで削ったり、ライターなどで炙るなどの様々な方法で対処することが可能だ。

長年使い込んでもキズやシミが気にならない!

【メリット③】強度が高い!

スウェードやラフアウトがワークブーツやマウンテンシューズなどに多くみられる理由は強度に優れているから。革のなかで最も強度が高いと言われているのが銀面(表革)であり、その裏側であるスウェードは同じく強度が高く、毛足があることでひび割れが起きにくいという点もポイントだ。

アッパーがスウェードやラフアウトのシューズが多く存在するのは言わずもがな、スムースレザーを採用しているシューズにおいても、ヒールや履き口の補強パーツとしてスウェードが貼られているようなプロダクトも多数存在する。やや厚みのあるスウェードは写真のように両側から全力で引っ張っても破れる気配がまるでなく、普通のハサミではきることができないほどの強度を誇る。

スウェードの名門「チャールズ・F・ステッド」とは?

世界各国に存在する有名タンナー・「〇〇レザーといえばあそこ」という位置付けのタンナーが存在するなかで、スウェードに関していえば、英国の老舗「チャールズ・F・ステッド」を押さえておけば十分である。

1904年に英国・リーズにて創業したチャールズ・F・ステッド。100年以上の歴史を誇り、世界各国の有名ブランドがこのタンナーの製造した革を採用してプロダクトを作っている。第二次世界大戦中には軍用の衣服や靴などの供給を担った経歴を持ち、その過程のなかで高品質なスウェードの製造技術を獲得していき、現在では、「スウェードといえばチャールズ・F・ステッド」という評価を獲得している。

有名な例を挙げると、同じ英国の老舗シューメーカー・クラークスは70年以上にわたって同社のスウェードを使用。クロケットアンドジョーンズやトリッカーズといった英国の革靴の聖地・ノーザンプトンの歴史あるシューメーカーも同社の作るハイクオリティなスウェードを信頼し、採用している。なかでも毛足が長く、落ち着いた色使いと手触りの良さが特徴的なスーパーバックが同社のスウェードの最高峰のひとつとして知られる。

写真はチャールズ・F・ステッドのヤヌスカーフと呼ばれる素材。毛足の長いスーパーバックに対して、長すぎず短すぎずの程よい毛足の長さで、ベルベットのようなしなやかさを誇り、耐久性にも優れる。同社を代表するスウェードのひとつであり、こちらもクロケットアンドジョーンズをはじめとする高級紳士靴メーカーが採用している。同じ茶スウェードでも、ミディアムからダークまで幅広いカラーを揃えている点も特徴だ。

【編集後記】スウェードがどの部分を指すのかを正確に知ることができた!

井上さんへの取材の数日前、編集部内では「スウェードとラフアウトの違い」について2時間近くにわたる議論が展開された。スウェードが銀面の裏側であるのは共通認識として、「銀面を削り取って、その面を起毛させたのがラフアウトだ」とか、「スウェードの毛足が長い版がラフアウトだ」とかあーだーこーだ言っていた。今回の取材でふたつに明確な違いはないことがわかり、さらには床面を起毛させたものがベロア、銀面を起毛させたものがヌバックと、他の起毛したレザーについても改めて知ることができた。

井上さんが取材中に書いてくれた簡単な革の組織図。

(出典/「Lightning 2026年3月号 Vol.383」)

この記事を書いた人
みなみ188
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みなみ188

ヤングTRADマン

1998年生まれ、兵庫県育ちの関西人。前職はスポーツ紙記者で身長は188cm(25歳になってようやく成長が止まった)。小中高とサッカーに熱中し、私服もほぼジャージだったが、大学時代に某アメトラブランドの販売員のアルバイトを始めたことでファッションに興味を持つように。雑誌やSNS、街中でイケてるコーディネイトを見た時に喜びを感じる。元々はドレスファッションが好みだったが、編集部に入ってからは様々なスタイルに触れるなかで自分らしいスタイルを模索中。
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