いざ、元祖焼酎ハイボール発祥の地へ。
「チューハイ」はもともと「焼酎ハイボール」の略称。下町の大衆酒場では「ボール」と呼ばれ、古くから親しまれてきた飲み物である。下町のそれは特有の風味があり薄い琥珀色。その正体とは? 「元祖焼酎ハイボール」生みの親・三祐酒場を訪ねた。昭和2年に創業した本店は区画整理のためやむなく閉店、八広店で3代目店主・奥野木晋助さんがその味を受け継いでいる。
「元祖ハイが出来たのは昭和26年。当時の焼酎は原材料も粗悪で香りが強くそのままでは飲めず、ブドウや梅などの割りものを足していました」
そんなとき、晋助さんの叔父がアメリカ軍関係者向けの売店でウィスキーハイボールに出会い、「焼酎も炭酸で割れば飲みやすくなるんじゃないか?」と考えたのだという。
「よくウィスキーの代用品でしょ? と言われるけど、それは間違い。焼酎を飲みやすくするためにヒントをもらって作ったのが焼酎ハイボールなんです」
こうして、焼酎に炭酸、割りものである“素”を加えた「焼酎ハイボール」が完成。その味はたちまち人気に火が付き、下町に広まっていったという。琥珀色の正体である“素”のブレンドは門外不出の味。今も大切に守られている。
元祖下町チューハイ発祥『三祐酒場 八広店』
八広店が開業したのは昭和41年味のあるのれんをくぐるとI字カウンターがお目見え、その前には今日のお品書きがズラリと揃う。その日仕入れた食材を使った季節を感じる料理に舌鼓を打ちながら、店主が教えてくれる酒場の歴史に耳を傾けると、元祖チューハイを飲む手も止まらない。
【DATA】
東京都墨田区八広2-2-12
TEL03-3610-0793
営業/17時半~翌2時(L.O.1時半)
休み/日曜
元祖直伝! チューハイの割合。
酎ハイの素 1
焼酎 3
炭酸 6
同じ味はほかにない、さっぱりキレのある「元祖焼酎ハイボール(356円)」。黄金比の配合により氷が解けても味はブレない。
元祖が教える、下町チューハイの作り方。
1.グラスに氷をたっぷりと入れる。
「元祖」は冷蔵庫もない時代から、高級だった氷をあえて入れるようにしていたという。本物に近づきたいなら、グラスからあふれるくらいたっぷりと入れるべし。
2.炭酸をグラスの6割くらいまで入れる。
氷に滑らすように炭酸を注ぐ。下町ハイボールといえば、一般的なのは強炭酸なのだとか。「店でもガス圧が強いものを使っています。その方がキレが出るんですよ」
3.焼酎(甲類)を3割そそぐ。
ハイボールに使用する焼酎はなんといっても甲類。スッキリしているので、食事の邪魔をしない。「比重が重いものは下がっていくので、混ぜる必要もなし」
4.最後に酎ハイの“素”を1割程度加える。
下町チューハイのキモがこの“素”。「元祖の素は秘伝中の秘伝のため秘密」なので、ここでは酎ハイの素で代表的な天羽飲料製造の「天羽の梅」を使用した
5.仕上げにレモンスライスを添えて風味づけ。
仕上げはレモンスライス。チューハイに浮かべると、ぐっと風味が増してアクセントに。これで完成。飲み口が良いので、ぐんぐん飲めてしまいます。結構“効く”のでほどほどに!
酒場では常識の業務用炭酸。
1.アズ マタンサン
炭酸ガスが多く、強烈な泡が下町チューハイにむいている。味にクセがなく、焼酎の味を邪魔しない炭酸として浅草を中心に人気。
2.ドリンクニッポン
東京下町酒場で最も多く使われていると言われる炭酸。吹き零れるほどのパワーをもつ泡の強さが特徴で、焼酎が多めの場合にぴったり。
3.フジカサワー
5本の中では最も優しく、シュワシュワとした穏やかな炭酸で飲みやすい。回収と製造を繰り返した瓶には年季の入った傷跡がある。
4.トーイン
他よりも繊細な泡で口当たりがいい。ラムネも製造している会社が作っており、 マニアの間では「憧れのトーイン」と呼ばれている。
5.コダマサワー
コダマサワーと言えば「バイス」を思い浮かべる人も多いだろう。古くから焼酎の割りものとしてその地位を確立してきた伝統もの。
酎ハイの素「天羽の梅」
元祖焼酎ハイボールの素。戦後はウィスキーが高価だったため、安価な焼酎に入れる割りものとして庶民の間で広まった。商品名から梅味と勘違いする人も多いが、風味は梅ではなく限りなくウィスキーに近い。ちなみに「天羽の梅」の梅味もある。
大正5年創業の老舗。写真は三代目社長の堺由夫さんと、息子で四代目の健太さん。会社の倉庫奥に小ぢんまりとした工場があり、ここで購入することもできる。
【DATA】
東京都台東区竜泉3-37-11
TEL03-3873-5701
営業/9時~17時
休み/土・日曜・祝日
※値段など情報は取材当時のものです。現在取り扱っていない場合があります。
(出典/別冊Lightning Vol.209「TOKYOノスタルジック横丁」)
Text/ R.Suzuki 鈴木隆祐 Y.Takeuchi 竹内佑騎 Photo/ A.Kuwayama 桑山章 Y.Amino 網野貴香
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