このことがタクティカルシーンに与えた大きな影響値は計り知れない。軍、法執行機関の選抜部隊は各人の選べる装備の幅を拡充させ、戦地における民間軍事会社のオペレーターは「兵士」と間違えられないように、私服と戦闘服との境界線を曖昧にさせ、「個人装備」の幅を無限に広げたのだ。
そしてこの事実こそ、サバイバルゲームの人気が直近10年で世界的に高まった要因のひとつと言っても過言ではない。そう、装備における「こうでなければならない」といったルールが結果的に緩和され、サバイバルゲームをはじめるにあたっての心理的なハードルが下がったからだ。極論、5ポケットデニムにTシャツを着てチェストリグを着用すれば「っぽい」装備が成立してしまうのが今なのだ。
さて、今回紹介するのはそんな時代において自由でありながらも持ち前の知識を武器に「実際にいそうなひとり」を創造して楽しむ3名。エディター、スタイリスト、フォトグラファー、デザイナー、アパレルプレス、自衛官で構成されるサバゲチーム「MEDIA RANGERS」のメンバーだ。「知っている」からこそできる高次元の奥深いサバイバルゲームの楽しみ方をとくとご覧あれ。
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1.タクティカルトレーナーに転身した米陸軍出身のベテラン兵士をイメージ
ミリタリーやLE(法執行機関)をベースにしたスタイリングではなく、主に米国において需要が高まりつつある民間のタクティカルトレーニングシーンに着目した中澤さん。トレーナーの間で密かに流行中のアロハシャツをタクティカルデニムと合わせるアメリカンカジュアルスタイルをベースに、いかにも「シビリアン」的な装備・銃器を組む徹底ぶりにセレクトセンスが光る。無線機や各種ワッペンに元軍人を思わせるミリタリーライクな小物を忍ばせているのもニクいところ。「元々アメリカ古着が好きだったこともあり、なんとかカジュアルウエアとリアリティのある装備を両立できないかなと思っていたらこのスタイルにたどり着いたんです(笑)」
PATAGONIAからリリースされるアロハシャツ「PATALOHA」は古着ショップで発見したもの。SNAP-ONのミリとインチの六角レンチ、そしてレザーマンのマルチツールを常備している。エアソフトガンを収納しているのはペリカンの1700。ヘルメットにはダミーの暗視ゴーグルを採用。通常「SAFE」「SEMI」「AUTO」ないしは「BURST」の刻印が入るAR15だが、発射音の擬音語「PEW」をベースに表現した。実際に民間用ライフルで使用実績のある刻印であることがミソ。タクティカルシーンにおいてもよく見られるナルゲンボトルはBB弾ボトルにするこだわり。
2.「実在してもおかしくない」ラインを的確に捉えた妄想特殊部隊装備
実在するCPS(カルガリー市警)のタクティカルユニットの装備をベースに、米国FBIのHRT(人質救出チーム)のような選抜チームがCPSにも実は発足していたら、という設定でつくられた中島さんの装備。あえて最小限に抑えられた装備が短時間でミッションを遂行する隊員「らしさ」を捉えている。「アウトドア&ファッションが好きな自分にとって、ARC’TERYX LEAFのウエアとアウトドアルーツの5.11の各種装備を大好物であるグレーカラーで採用するCP
Sのタクティカルユニットはソース元としては最高で。そこからさらに自分らしい銃器やアイテムを自然に馴染ませるためにこの設定を思いついたんです」。本人の職業を考慮した「POLICE」ならぬ「PRESS」ワッペンもシャレが効いている。
プレートキャリア裏面は夏でも快適な仕様に変更済み。背面のハンドカフの仕込み方に玄人感が光る。「東京サバゲパーク」の非売品のスタッフパッチは同フィールドの古池氏より譲り受けたもの。BLACK DIAMOND製のカラビナには中島さんが新車から18年乗り、東京サバゲパークに寄贈されたカナダ仕様の Dodge Grand Caravan のキーがついている。キャップ、トップス、パンツ、ニーパッドは米国内においても取り扱い店舗が限られるARC’TERYX LEAがF製のもの。MYSTERY RANCHのバックパックには創業者デイナ・グリーソンとその息子D3のサイン入り!
3.SEALs チーム3出身でPMCを経てGRS 隊員になった架空の兵士を創作
映画『13時間 ベンガジの秘密の兵士』で一躍脚光を浴びることとなった世界に点在する米国CIA基地のセキュリティを担当するGRS。COVO田形さんがイメージしたのは、米海軍特殊部隊SEALsのチーム3(中東地域担当)を退役後、元SEALs隊員によって創設されたPMC(民間軍事会社)、BLACK WATER USAを経てGRS隊員となったオペレーターだ。装備自体は最新のものをセレクトしながらも、やや前時代的な銃器と、GRSのような民間色の強い組織にありがちな無国籍迷彩を組み合わることで、’90年代から戦闘に参加しているベテランオペレーター「っぽさ」を表現している。「想像でつくったプロフィールをパッチや小物などの細かなアイテムに投影しリアリティを付与するのが楽しいんです」
SEALsチーム3のメモリアルパッチはなんと実物。メディカルキットとCAT止血帯、エアソフトガンに装備されたSIG SAUER製ドットサイトも実物というこだわりよう。オリジナル迷彩が際立つANDFAMILYS Co.のBDUは程よくアタリが出ており無骨な表情を醸し出す。実物のMOTOROLA製XTS3000の中身をくり抜いて特小無線をビルトイン。配線を繋げ各ノブ・ボタンはライブ仕様に。BMX用のPRO TEC製ニーパッド。同社のスペードロゴを「最後の切札」のゲン担ぎとして米軍特殊部隊の一部の隊員がPROTEC製品を使用していたのは有名な話。
サバゲこと、サバイバルゲーム。ちょっと気になってたあなたも、趣味としている人も、今回ご紹介したような自由な「妄想」と共に構築する装備に興味を持っていただけたのではないでしょうか? まずはとりあえず、フィールドに出てみよう!
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※掲載情報は取材当時のものです。
(出典/「Lightning 2019年10月号」)
Text/C.Tagata コボ田形(MEDIA RANGERS) Photo/S.Sawada 澤田聖司(MEDIA RANGERS) 取材協力/ 東京サバゲパーク
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