「走るアート」は己の価値観でオリジナリティを追求した結果。
日本のモーターサイクルカスタムシーンの黎明期にその名を広め、今では世界のトップビルダーとして君臨する木村信也さん。当時は愛知県の岡崎市で『ゼロ・エンジニアリング』の代表として数々のカスタムバイクを世に送り出し、海外でもその独創的なスタイルを「ゼロスタイル」と形容する言葉が生まれるほどにシーンにムーブメントを巻き起こした。
そして、日本にいながらアメリカの名誉あるカスタムショーのベストアワードを獲得するなど、世界にその名を轟かせたさなか、2006年に拠点をLA郊外のアズサに移し、『チャボエンジニアリング』をスタートさせた。
木村さんはいまも、アズサの工場で寝泊まりして黙々と金属を削り、試行錯誤を繰り返しながら一台一台のカスタムバイクを創作している。そんなモノ作りに没頭したシンプルなライフスタイルを送るなか、世間からは『走るアート』を作るアーティストと称されることが多いが、本人はアートを意識したカスタムビルドをしているつもりはないと言う。
乗る人が気に入ってくれるものを創り出す。
「カスタムバイクは確かにアーティスティックな頭も必要ですが、あくまでも半分はメカニックの頭でなければいけない。僕のバイクは走る、曲がる、止まるというバイクが当たり前に持つ性能が大前提にあって、その上でオーナーに合う僕の好きな形に作っているだけです。
例えば、’50年代とか’60年代頃のレーサーは僕にとってはアートに見えるけど、当時の人たちはアートを目指したわけではなく、スピードを追求した結果ですよね。アートと評価してもらえることは嬉しいですが自分ではそう思っていない。捉え方は見る人に任せています。
極端に言えば、僕のバイクはほとんどがお客さんに1対1で作っているから99人の人が嫌いでも乗る人が気に入ってくれればそれでイイ」
“ゼロスタイル”から変わらない木村さん独自のテイスト。
ゼロ時代から木村さんの作るバイクのスタイルは変わり続けながらも、常に変わらないのは、あくまでも木村さん独自のテイストであることだ。日本でもアメリカでも、今のストリートではオールドスクールなスタイルが流行しているが、木村さんが製作するバイクは過去の時代感で語ることができない独創的なものとなっている。
「昔のチョッパーやボバーの形ももちろん好きですが、それを作るのは僕の仕事じゃない。当時のビルダーたちはまだ見たことがない未来を見て作っていたのに、今それとそっくりなバイクを作るのは過去を見て作ることになる。結果として同じバイクができても考え方は180度違うし、作り手はまったく別の人種だと思うんです。僕のバイクは何かにカテゴライズされたくないし、自分の価値観で作りたいと思っています」
木村さんのアイデアは過去の偉人たちが築き上げた歴史や、世の中の流行に左右されることのない独自の創作活動の中でのみ生み出される。借り物のアイデアを昇華させるのではなく、ゼロからすべてを自分の頭の中で築き上げた自分の価値観の集合体が木村さんのスタイルとなっているのだ。いちバイク乗りの視点とカスタムビルダーとしての誠実さの中にこそ『走るアート』の真の姿がある。
「CHABOTT ENGINEERING」木村信也さんのヒストリー
1991年 愛知県名古屋市の山奥でリペアショップ・チャボを創業
1992年 愛知県岡崎市にてゼロ・エンジニアリングを創業
1993-1995年 ハーベストタイムにて来場者の人気投票によるキングオブカスタム・アワードを3年連続受賞
2004年 グランド・ナショナル・ロードスターショーでレストカスタム・アワード受賞
2004年 イージーライダーショーat ポモナでレストカスタム1st プライズ受賞
2004年 LA カレンダーショーでベストオブショー受賞
2006年 LA の近郊のアズサに移住し、チャボエンジニアリングを創業
2006年 初の個展となる”Shinya Kimura Exhibition Hispter’s Journey from Tokyo to LA” を原宿のヒップスタークラブで開催
2006年 カリフォルニアのリッツカールトンホテルで開催された、第一回”The Legend Of The Motorcycle 〜Concours d’Elegance” に招待さ車両展示
2007年 エルミラージュ、ボンネヴィルで開催されるランドスピードレースに初参戦。この年以来毎年参戦し続けている
2007年 カリフォルニアのリッツカールトンホテルで開催された、第二回”The Legend Of TheMotorcycle 〜Concours d’Elegance” 招待され車両展示
2008年 ポモナのNHRA モータースポーツミュージアムに車両を展示
2008年 カリフォルニアのリッツカールトンホテルで開催された、第三回”The Legend Of TheMotorcycle 〜Concours d’Elegance” に招待され車両展示
2008年 サンフランシスコのCraft + Design ミュージアムで開催され”New West Coast Design Exhibition”にて車両を展示
2008-2009年 “Art Of the Chopper” exhibition に車両展示
2009 “Art Of the Chopper” exhibition に車両展示
2010年 キャノンボールレースで1915年式のインディアンC3 でアメリカを横断。この年以来キャノンボールには毎回参戦している
2012年 パサデナのArt Center College of Design で開催された”Car Classic 2012″ に車両展示
2012年 カーメルの”Quail Motorcycle Gathering” というショーのモディファイクラスで優勝
▼まだまだいます、世界に誇る日本の先駆者たち。
(出典/「Lightning 2018年1月号 Vol.285」)
Text/Y.Kinpara 金原悠太 Photo/Larry Niehues ラリーニウス(Seven Bros.Pictures) T.Tawarayama 俵山忠(Seven Bros.Pictures) 取材協力/チャボエンジニアリング http://www.chabottengineering.com
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