アメリカの不良文化がイギリスに伝わって誕生

1953年にアメリカで公開された映画『乱暴者(あばれもの)』は、異なるモーターサイクルクラブ同士によるケンカ騒ぎが、やがて街中を巻き込んだ大暴動へと発展した、47年にカリフォルニア州ホリスターで実際に起こった事件をモチーフにした作品。これをきっかけに愛車をカスタムし、主演のマーロン・ブランドのようなファッションに身を包んだ荒くれ者たちが全米で増殖し、社会現象となった問題作でもある。イギリスでは若者への影響を考慮し、10年間公開禁止とされていたのだが、映画のポスターなどを見たイギリスの不良たちの間で話題となり、ライダースジャケットを着てバイクに乗ることが、たちまち流行したのだった。


そんなバイク乗りたちは決まって小さなカフェに集まってコーヒーを飲みながら愛車を自慢し、その場のノリで〝レースごっこ〟を楽しんでいたため「COFFEE BAR COWBOYS」や「TON-UP BOYS※」、ひいては【カフェレーサー】と呼ばれるようになった。しかし、50年代半ばを過ぎたころから過激な輩が目立つようになる。それが【ROCKERS】〟だ。ファッションも自己主張が強くなり、レザージャケットに愛車のメーカー名を入れたり、無数のスタッズやピンズ、そしてワッペンで個性を主張した。これは当時のミュージシャンから取り入れたといわれ、これも「ROCKERS」たる由縁だ。
ロンドンで唯一24時間営業をしていた「エースカフェ」は、そんなロッカーズの聖地といわれる場所。カフェにあるジュークボックスにコインを入れると速攻で愛車にダッシュしエンジンをかけてスタート。カフェ前の「ノース サーキュラー ロー」を南に下ってロータリーの十字路をぐるっと回って戻るという、「ジュークボックスレース」が盛んに行われていたことでも有名だ。ロッカーズたちは、曲が終わる前に、いかに早くゴールできるかに命をかけていた。このレースを見るべく、または参戦しようとノース サーキュラー ロードの沿道がイギリス中からやって来たロッカーズで埋め尽くされたという。しかし、ヘルメットをかぶらずにレースに挑戦する者も少なくなく、重大な事故も日常茶飯事で、警察による取り締まりが厳しくなっていった―。
60年代後期になると、アメリカの「ヘルズエンジェルス」をモデルにした映画などに影響を受けた者たちがロッカーズから派生し、スタッズは丸いものから尖ったものへ、背中に入れたハンドペイントは愛車の名前ではなくスカルがモチーフになるなどファッションが攻撃的に、愛車もチョッパーのようなアップハンドルを付けた「グリーサーズ」が誕生するなど、時代に合わせて変化していったのである。
※TON-UP BOYS……時速100マイル以上で走るという意味のイギリスのスラング「DOING THE TON」を受けた呼び名で、時速100マイル以上で走る若者たちという意味をもつ
当時の定番スタイルから学ぶ【カフェレーサーの基本】


1950年代後半から60年代にかけて隆盛を極めた「COFFEE BAR COWBOYS」や「TON-UP BOYS」、そして後の「ROCKERS」と呼ばれたブリティッシュバイカーたちの愛車は、もちろん単なる移動手段ではなく、仲間同士でもいかにカッコよく、そしていかに高性能かを競い合い、時にはジュークボックスレースに興じ、街中をブッ飛ばして日常を忘れるためのものだった。故に、マン島レースで華々しく活躍していた「BSA」、「ノートン」、「トライアンフ」の最新モデルは、当時の彼らから人気があったものの、労働者階級の若者にとっては、おいそれと買えるものでもなかった。それでも速く走りたいと、当時のレーシングマシンを参考にして愛車を改造したのだ。
ノーマルの状態から可能な限り不要な物を取り外して軽量化し、またレーシングマシンのようなスリムかつ長いタンクや、ライダーの腰を支える形状のシングルシート、フロントフォークに直接クランプするセパレートハンドルで本物のレーシングマシンのようなライディングポジションを獲得。街中を走るのであれ空気抵抗を極限まで軽減し、車体をコントロールしやすい姿勢を確保した。同時にエンジンチューニングも施し、公道レースで勝てるマシンを目指した。また、ノートンのフレームにトライアンフエンジンを搭載した「トライトン」など、自ら考えたマシンを組み上げることも珍しくなかった。トライトンで知られるショップ「ドレスダ オート」のデイヴ・ディゲンズや、カスタムパーツで知られたメーカー「ダンストール」のポール・ダンストールもそんな若者のうちの一人。こうした改造バイクが、いつしか【カフェレーサー】と呼ばれるようになったのだ。
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低く構えたセパレートハンドルにシングルシートを備えた「カフェレーサー」と呼ばれるカスタムは、いつの時代も根強いファンに支えられてきた人気のスタイルです。しかしこのジャンル、「何だか意味はよく分からないけれど、カッコよさそう……」と、スマートな語感からオシャレなジャンルと捉えている人は多いかもしれません。もしかして“バイクに乗ってコーヒーを飲みに行くこと!?”。――スタイルが多様化している現代においてはそれも正解ですが、実際のところ、そのルーツはかなり野蛮で、1950~60年代にイギリスで、エネルギーを持て余したバイクに乗る不良たちが深夜営業のカフェに集まり、夜な夜な違法で危険な公道レースをしていたことに由来します。しかし時を経た現代では、カルチャーも発展し、メーカー各社からそれを模したバイクが発売され、高い人気を得ている他、人それぞれの解釈から実にさまざまなカフェレーサーが誕生しています。それ故にSNSでは“これはカフェレーサーじゃない”といった論争もたびたび巻き起こる、謎多きスタイルでもあるのです。そこで「そもそもカフェレーサーとは!?」という基本知識にはじまり、現在人気のスタイル、さらには販売されている新車まで詳しく解説。実際のオーナーや人気ショップの最新カスタムなどを通じて、さまざまな切り口で百花繚乱な“現代カフェレーサー”の魅力をひも解いていきます。カフェレーサー好きならずとも必見の永久保存版です!!購入はこちら!
文:雨宮 武 写真:増井貴光 イラスト:田中 斉
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