『夜ヒット』に出たポール、生放送で歌った新曲|ビートルズのことを考えない日は一日もなかった Vol.45

前回触れたように、81年、85年に続いてオリジナルアルバムのリリースのなかった87年のポールだが、年末に『オール・ザ・ベスト』というベストアルバムがリリースされた。ポールにとっては78年の『ウイングス・グレイテスト』以来のベストだったが、これはタイトルのとおりウイングス名義のため(タイトルに反してソロやポール&リンダ名義の曲が収録されていた)、『オール・ザ・ベスト』はポール名義で初のベストアルバムということになる。

ポール名義初のベスト『オール・ザ・ベスト』

『オール・ザ・ベスト』の中面

70年代のポールは、ソロ、リンダ&ポール、ウイングス、ポール&ウイングスと作品によって名義を変えているので、多少のねじれ現象は仕方のないことではあるが、ビートルズ解散17年目にして初のソロ名義のベストということに関してはポールも多少の感慨があったのではないかと、今になって思う。それはジャケットからもうかがい知ることができる。

微妙だったデザイン(女神像をスイスのアルプスの雪山に持って行って撮影したというが)『ウイングス・グレイテスト』(封入されていたポスターはうれしかった)に比べると、『オール・ザ・ベスト』はデザインのこだわりを随所に感じさせ、なにより、ジャケットに本人が映っていることがうれしかった。短髪に黒のスーツを合わせた出で立ちが白黒写真とマッチしているほか、久々に登場したリッケンバッカー、ウイングス時代を象徴するベースの登場はたまらないものがあった。ポールのまわりに散っているイラストも気が利いていてかわいいものが多い。

と、ジャケをベタ褒めしたところで恐縮だが、当時のわたしは『オール・ザ・ベスト』の購入を見送っている。87年末の段階ではすでにCDが主流で、プレイヤーを持っていない者には肩身が狭く、お店に行っても疎外感が半端なかったというのがその理由。CDは1枚、アナログでは2枚組でリリースされたのだが、レコードはプレス枚数も少なかったのだろう、あれよあれよという間に、店頭で見かけることがなくなってしまった。

80年代のポールを代表する名バラード誕生

先行シングルだった「ワンス・アポン・ア・ロング・アゴー」

わたしが『オール・ザ・ベスト』を購入したのは、リリースからしばらく経ってからのこと。レコードは中古屋で日本盤のサンプル盤を、CDはプレイヤー購入後にアメリカ盤をタワーレコード渋谷で手に入れた。なぜアメリカ盤なのかというと、このベストはアメリカ盤とイギリス盤では一部収録曲が異なり、初CD化となった「カミング・アップ」のライブバージョンはアメリカ盤にしか入っていなかったからというのがその理由。

レコード・バージョン(シングル「カミング・アップ」のB面に収録)に比べると最後の歓声が早めにフェイドアウトされているのは不満点ではあったが(ポール・マッカートニーというチャントに応えるかたちでポールはケニー・ダルグリッシュと叫んでいるところが秀逸)、CDで聴けたことはうれしく、何度も繰り返し聴いていた。ちなみに日本盤はイギリス盤に準じたものである。

即買いしなかったもうひとつの理由は、アルバムに収録されていた唯一の新曲「ワンス・アポン・ア・ロング・アゴー」が先行シングルとしてリリースされていたこともある。このシングルは通常7インチに2種の12インチがリリースされており、この2枚を新宿アルタの5階にあった輸入盤専門店のシスコで購入している。

その前の2枚のシングル「スパイズ・ライク・アス」「プレス」がいずれもビート重視の曲だったに比べると、「ワンス・アポン・ア・ロング・アゴー」はポールらしい美しいバラードで、アレンジもドラマチックに仕上げており、80年代のポールを代表する名曲と断言できる。とくにロングバージョンの後半に聞こえるギターソロがお気に入りだった。それゆえ、既発曲ばかりの『オール・ザ・ベスト』に触手が伸びなかったというのが正直なところ。「ワンス・アポン」はビデオクリップも秀逸で、久々にポールのファンでよかったと心から思うのであった。少し経ってからこの曲を含む直近のクリップを集めた『ワンス・アポン・ア・ビデオ』というレーザーディスクシングルがリリースされている。

90年の来日につながった『夜ヒット』出演

ポールのファンクラブ会報『Club Sandwich』

それからしばらくして、ポールが『夜のヒットスタジオ』に出るという情報が駆け巡った。85年末に放送された『ベストヒットUSA』でのロングインタビュー以来の日本のテレビ番組への出演だが、今回は生放送で歌唱まであるという。史上初の快挙に、いやが上にも期待が高まった。

日時は11月18日。子どもの頃よく観ていた同番組は、毎週月曜10時からの放送だったはずだが、85年4月から水曜夜10時からの2時間番組に拡大され、司会も井上順から古舘伊知郎に交代、海外アーティストも毎回のように出演するようになっていた。すでにアルバイトやバンドの練習で毎週熱心に見ることはなくなっており、気になる放送は録画して観ていたにすぎなかった。この日も確か録画で観たのではなかったか。リアルタイム視聴したかったが、帰宅が間に合わず、録画したものを夜中に観た。

番組冒頭、ロンドンからの衛星仲間中継で映ったポールは全体的に白っぽい画質のためか、白髪交じりの短髪が目立つ印象的。そののせいか、妙に小顔に見える。司会の古舘伊知郎が、ポールファンの少年隊・東山紀之がどうしてもポールにサインをもらいたいと訴えるくだりはファンとしては無理があるなと思うも、人気歌番組ゆえそのようなつかみも仕方ないのだろうと納得。東は本当にポール・ファンだったのか、そしてあのサインはどうなるのか、だけはちょっと気になった。

さて本番。ポールの出番は番組スタートから1時間ちょっと経ったあたりだっただろうか。金のレスポールを抱えて「ワンス・アポン・ア・ロング・アゴー」を歌唱するシーンはたとえ口パクであっても感涙もので、これは本当なのか、夢じゃないのかとさえ思ったほどだった。ただ歌うだけで十分なのに、雪を振らすはずが、スタッフのミスで真夏になってしまうという、微妙な演出が用意されていたのには戸惑った。きっとポールのアイデアなんだろうなと苦笑いしつつ、ポールが楽しいならそれでいいかとあきらめるしかなかった。このときは知らなかったが、同じ演出を他の国のテレビ番組でもやっていたことを、後日ブートビデオで観て知った。

この頃はまさかポールが日本でコンサートをやるなんてことは思いもしなかったのだが、その3年後に来日公演がフジテレビ主催で実現したのは、この『夜ヒット』への出演が起点となっていたのだなとあとになって合点がいった。

この記事を書いた人
竹部吉晃
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竹部吉晃

ビートルデイズな編集長

昭和40年男編集長。1967年、東京・下町生まれ。ビートルズの研究とコレクションを40年以上続けるビートルマニア兼、マンチェスターユナイテッドサポーター歴30年のフットボールウィークエンダーのほか、諸々のサブカル全般に興味ありの原田真二原理主義者。WEBメディア『昭和MILD(https://showamild.com/)』もよろしくお願いします。
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