「ネスがきっかけでスポーツスターの奥深さに惹かれました」
質実剛健、大排気アメリカのオートバイの象徴的なイメージから連想されるH-Dと言えばビッグツインが主流だが、その一方で軽快な操作性をアイデンティティとするスポーツスターは’50年代の登場以来名前を継続する、最もロングセラーなシリーズだ。小柄で比較的安価なことからビギナーモデル、プアマンズH-Dなどと揶揄されることもあるが、その実唯一ルーツをレースシーンに持つスポーツ性能に特化したモデルなのだ。
スポーツスターの歴史を遡れば、’52年に登場したKモデルに辿り着く。戦後英国車勢がアメリカのレースで大活躍を見せる中、H-Dが対抗馬として開発した新技術のエンジンがエンジン/ミッション一体のフラットヘッド4カムエンジンを搭載するKモデルであった。
そして、後継機としてさらにスポーツ性能を磨き上げ、4カムやユニット構造を受け継ぎOHV化されたショベルヘッドのスポーツスターが’57年にデビュー。ショベルヘッドのスポーツスターはヘッド鉄製であることから通称“アイアンスポーツ”と呼ばれる。サイドキャラクター的な立ち位置にありながらも、根強く支持されるアイアンスポーツの魅力とは?
そこで、自身がアイアンスポーツに乗り惚れ込んだ経験から専門店を営むスポーティガレージの横塚氏にその魅力を伺った。
「自分のアイアンスポーツの入り口はアーレン・ネスのカスタムなんです。コンパクトなシルエットの美しいカスタムに惚れ込んだのが始まりで、その後乗軽快な乗り味やレース由来の歴史を知り、深みにハマっていきました。ゆっくり走っても楽しいし、ぶん回して4カムらしい高回転域の加速を味わうのも気持ち良い。
また、オリジナルでも、スポーティなカスタムでもチョッパーでも、スポーツスター独自のスタイルがある。その個性的な存在感が最大の魅力かもしれないですね」
当時のレースパーツを使ってスポーツ性能を引き出す。
1965 H-D XLH
XLHのみに採用された亀の子タンクを備える’65年式。初代スポーツスターから継承する大ぶりなヘッドライトナセルも象徴的なディテールだ。この車体は貴重な純正の雰囲気を活かしながら’50~’60s頃の装飾パーツを用いてドレスアップされている。
フォグランプが左右三つずつ並ぶ特徴的なデザインのテールは当時のカスタムパーツ。
タンクはオリジナルのスパークリングレッドをイメージしたエイジングペイントが施されている。
1977 H-D XLCH
ワークスマシンに使用された軽量なクロモリのローボーイフレームにアルミのサンダーヘッドで出力を高めた1000㏄エンジンを搭載する1台。ワークスレーサーXR-TTレプリカのカウルやタンク、シートカウルを備えるストイックなスタイリングでストリートを軽快に駆る。
’70sのムーブメントを巻き起こしたベイエリアスタイル。
1975 BACC DIGGER
1970年代後半から1980年にかけて西海岸からチョッパーシーンに一大ムーブメントを巻き起こしたベイエリアカスタムサイクルズが製作した車体に、エングレイビングが描かれたマグナチャージャー付きのエンジンを搭載。エンジンは車体のテイストに合わせて横塚氏が組んだもので、当時のカスタムシーンの時代考証を踏まえた仕様が見所だ。
横塚氏が収集したパーツからテイストを合わせて組み上げたマグナチャージャーエンジン。アクセントとなる金メッキやカバーのエングレイビングがベイエリアの外装に見事にマッチ。
シャープなタンクやフリスコフェンダーなど当時のBA㏄の外装が見事に残る。
狼のグラフィックが描かれたカスタムペイントは’70sのレジェンドペインター、ホルストの仕事。
レイクさせたフォークによるロー&ロングなシルエットがディガーの特徴だが、ネスがナロースプリンガーを多用したのに対し、レッドウィングのテレスコピックフォークを採用したスタイルはBACCのお家芸。走りを意識したディガーである。
(出典/「CLUTCH2023年8月号 Vol.92」)
Text and Photo by Yuta Kinpara 金原悠太 取材協力/スポーティガレージ www.sportygarage.com
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