大陸の真ん中で、「観光」が「沈没」になった。【H-D偏愛主義】

上海から寝台車に乗って3日間かけて昆明にたどり着いた僕は、今度は長距離バスに乗り換えて『地球の歩き方』を見て気になった昆明から約400キロほどの場所にある「大理」という街を目指した。舗装されていない道を進み、10時間ほどかけて到着した大理は、バックパッカー風な日本人や欧米人がたくさん歩いていた。たしかに風景はいいし、日本人を受け入れてくれそうな宿も多いが、逆に旅行者が多すぎて、この街にそれほど魅力を感じなかった。

沼尾哲平|愛車のスポーツスターは、人生2台目のハーレー。いまは通勤と取材で乗るのがメインになってしまっているが、本当はひとりでロングツーリングに出かけたい

バックパッカーの多くが罹かる病

大理から200キロほど北上したところにある麗江が次の目的地。結果的にここで長い時間を過ごすことになるのだが、大理から移動するバスの中では、ただの中継地としか考えていなかった。

到着した麗江駅でバスを降りると旅行者目がけてゲストハウスや旅館の従業員がB5版ほどのアルバムを片手に客引きを始める。アルバムには宿の写真や日本語、英語、韓国語で「安くていい宿」なんて書いた紙が貼ってあり、気に入ったら宿まで案内してもらうというシステムだった。

その中にやたらと明るい女の子がいて、だいぶ押しが強いし、宿の雰囲気もよさそうだったので、そこに決めた。宿の名前は「古城香格韵客桟」。駅から20分ほど旧い路地を歩いたところにあるゲストハウスで、外国人旅行者が多い印象だった。まあ、それほど長居するつもりもないから、早々に次の旅先を探そうかと思っていたが、それから4カ月、さらに一旦チベットに行ってからまた戻ったので、通算5カ月ほど、ここに居続けてしまうことになる。

こうした旅行者がなかなかその場所から動けなくなってしまうことを「沈没」と呼ぶが、僕もまんまと麗江という場所に魅せられて沈没してしまった。ただ、何年もそこに居続けるという話も聞くので、僕はまだ軽症だったといえる。

どうしてそこまで長く居続けてしまったのか。とにかくそこが居心地がよかったからだ。宿は60代ぐらいの「パパ」、「ママ」と呼ばれていた夫婦と客引きをしていた女の子、もうひとりの女の子の4人で切り盛りしていた。とはいえパパはほとんど働いているところを見たことがなく、だいたい宿の門の前で近所のおっさん連中で麻雀をしていた。麗江に住むナシ族の男は基本働かないらしい。その分ママは働き者で、朝夕の食事を大量に作る。ときには近くで取れる松茸を豪快に炒めてくれたりもした。とにかくメシは絶品だった。しかも宿泊料は朝夕飯込で日本円で400円程度。長期間なら1週間で1000円ぐらいと、長く居ついてくれと言わんばかりの破格の価格設定だった。

さらに麗江の古城エリアは夜になると水路のほとりにある酒場の提灯に明かりが灯り、夜中酒を飲めるし、どこかしらの店から音楽が流れたり、パーティが始まったりと毎晩街へ繰り出しても飽きることもなく、風景もきれいなところだった。そこへ通っているうちになじみの店ができ、ウエイトレスが日本語が知りたいというので、簡単な会話を教えたりと、だんだん旅が日常になってしまっているうちに、身動きが取れなくなってしまったのだった。

2004年の旅で沈没を経験した中国雲南省の麗江。長期間宿泊した宿は、1泊朝夕飯付きで当時のレートで300円ほど。写真は宿のマスコット的な犬。名前はなんだったか。

宿で働いていた女の子。前に泊まっていた日本人に当時すでに死語だった「だっちゅーの」を日本で流行っているギャグだとして覚えさせられていた。

朝食、夕食は宿泊者、宿のパパ、ママ、従業員みんなで宿の中庭で食べる。泊まっているのは、日本人、欧米系、アジア系とさまざまで、いろいろな言葉が飛び交う。食事以外の時間はボーっとしたり昼寝したりできるくつろぎの場所だった。

麗江の街は中心部が石畳の路地と水路がきれいな古城エリア。そこから外れたところも旧い家が並んでいるが、より田舎な雰囲気。

麗江には少数民族、ナシ族が多く住んでいる。女性はツバ付きの帽子と民族衣装を着て働き者。男性はほとんど働かない(全員ではないが)。ちなみにナシ族はコミカルな象形文字トンパ文字を使う。

(出典/「CLUB HARLEY 2024年10月号」)

この記事を書いた人
チューバッカ沼尾
この記事を書いた人

チューバッカ沼尾

旅好き元バックパッカー

1981年式の元カメラマンでパックパッカー。バイクは2007年にクラブハーレー編集部に配属になってから興味を持ったクチなので、遅咲きといえば遅咲き。ただ、旅をするのにこの上ない乗り物と知りドハマり。現在に至る。愛車は1200ccボアアップの2011年式XL883。
SHARE:

Pick Up おすすめ記事

日本人に最適化された新作の“JAPAN LIMITED”に注目!「MOSCOT」現代に引き継がれるアメリカンクラシックのDNA

  • 2026.05.20

1915年にNYで創業し、アイウエアデザインの王道を形づくった「モスコット」。多様なデザインで溢れるいまこそ、伝統に裏打ちされたクラシックな佇まいに惹かれる。 新作の“JAPAN LIMITED”のラインナップを紹介! 2016年よりスタートした“JAPAN LIMITED”は、インラインにはないノ...

アメリカンクラシックの原点「ディグナ クラシック」の[ジミー]なら、カラバリ・仕様も豊富で自分好みの1本が見つかる!

  • 2026.05.21

50sアメリカンスタイルを踏襲した「ディグナ クラシック」の[ジミー]は、シンプルなデザインやクラシックな世界観から多くの人に愛される名作。その人気ゆえ、仕様やカラーのバリエーションが非常に豊富な[ジミー]の全容をいま一度おさらいする。 955E“Jimmy”とはどんなメガネ? 1950年代にアメリ...

ロンドン生まれのアイウエアブランド「CUBITTS」が日本に本格上陸! 人気の秘密に迫る。

  • 2026.05.19

英国・ロンドン生まれのアイウエアブランド「キュービッツ」。日本へ本格上陸したばかりでまだ多くを知られていない、その全容を紐解く。 ロンドン生まれ質実剛健な実力派 2013年にロンドンで創業、2025年に日本へ本格上陸を果たした「キュービッツ」。本国では、新鋭ながら圧倒的な知名度を誇り、ビスポークも手...

働くヒトとヴァーグウォッチ。【vol.01靴磨き職人/「Chett」店主・大平雄太さん】

  • 2026.05.21

「Time is Money」=「時は金なり」。自身の仕事に誇りを持ち、日々働く人々は有限な“時間”というものを重んじ、身につけるプロダクトにも徹底的にこだわる。アンティークウォッチの旧きよきディテールを備えながら、手軽かつデイリーに使うことのできるヴァーグウォッチはそんな彼らの心強い相棒となる。 ...

落語家たちが洋装に身を包む会、第4弾! 落語会「師匠お似合いですよ」の舞台裏で注目の落語家たちをSNAP!

  • 2026.05.18

アメカジを提案するファッションブランド「ゴールデンベア」が主催する落語会、その名も「師匠お似合いですよ」。弊誌も師匠方のスタイリングを担当。第4回目となる今回も大盛況でした。楽屋裏で撮影したみなさまの素敵な着こなしをお届けします! 落語家たちが洋装に身を包む会「師匠お似合いですよ」の舞台裏に潜入! ...

Pick Up おすすめ記事

日本人に最適化された新作の“JAPAN LIMITED”に注目!「MOSCOT」現代に引き継がれるアメリカンクラシックのDNA

  • 2026.05.20

1915年にNYで創業し、アイウエアデザインの王道を形づくった「モスコット」。多様なデザインで溢れるいまこそ、伝統に裏打ちされたクラシックな佇まいに惹かれる。 新作の“JAPAN LIMITED”のラインナップを紹介! 2016年よりスタートした“JAPAN LIMITED”は、インラインにはないノ...

磨き続けた伝統が、新たな定番を生み出していく。「アリゾナフリーダム」の新作に注目

  • 2026.06.03

長く愛される定番には理由がある。そして、その定番を更新し続ける覚悟があるからこそ、プロダクツは生き続ける。今回、紹介する新作は、奇をてらった変化ではなく、受け継がれてきた意匠や職人技を礎にしながら、細部にわたり静かな進化を重ねた美しい作品たち。変わらないために進化し続ける。そこには揺るぎないクラフト...

アメリカンクラシックの原点「ディグナ クラシック」の[ジミー]なら、カラバリ・仕様も豊富で自分好みの1本が見つかる!

  • 2026.05.21

50sアメリカンスタイルを踏襲した「ディグナ クラシック」の[ジミー]は、シンプルなデザインやクラシックな世界観から多くの人に愛される名作。その人気ゆえ、仕様やカラーのバリエーションが非常に豊富な[ジミー]の全容をいま一度おさらいする。 955E“Jimmy”とはどんなメガネ? 1950年代にアメリ...

働くヒトとヴァーグウォッチ。【vol.01靴磨き職人/「Chett」店主・大平雄太さん】

  • 2026.05.21

「Time is Money」=「時は金なり」。自身の仕事に誇りを持ち、日々働く人々は有限な“時間”というものを重んじ、身につけるプロダクトにも徹底的にこだわる。アンティークウォッチの旧きよきディテールを備えながら、手軽かつデイリーに使うことのできるヴァーグウォッチはそんな彼らの心強い相棒となる。 ...

革ジャン好きなら一度は通るべき! 「No,No,Yes!」の最上級オーダー“アルチザン”とは?

  • 2026.06.01

「世界にひとつだけの革ジャンを作る」。それは、レザーラバーの憧れだ。革好き注目のブランド「No,No,Yes!」が誇るオーダーメニューの中でも最上級に位置する「アルチザン」とはいったいなんなのか? その正体に迫る。 革ジャンの伝道師・モヒカン小川が実際に“アルチザン”を体験 これは単なる革ジャンの話...