誰かの心に平穏をもたらしたり、刺激を与える火種でありたい
──万華鏡を制作し、また世界中の人々に届ける上で、最も大切にされていることは何でしょうか。
何よりも“驚き”という名のギフトを提供し続けることです。筒を覗いた瞬間に、周囲の喧騒や日常の悩み、現代社会のスピード感といったものが一瞬で消え去り、自分だけの静謐な世界へ引き込まれる。その没入感を生むには、外装の意匠もさることながら、光学的な極限までの完成度が不可欠です。万華鏡は英語で「カレイドスコープ」と言いますが、これは古代ギリシャ語の「Kalos(美しく)」「Eidos(形)」「Skopeo(見る)」を組み合わせた言葉です。その語源が示す通り、見る人を幸せにするための道具、あるいは心を整えるための装置でありたい。私の作品が、手にした誰かの心に平穏をもたらしたり、クリエイティブな刺激を与える火種になったりすることができれば、表現者としてこれ以上の至福はありません。それは玩具からアートへと昇華した万華鏡が持つ、ある種の祈りに近い役割だと思っています。
──山見さんにとって「完璧な万華鏡」とはどのようなものですか。
作り手である私の意図を超えた映像が見えた瞬間かもしれません。もちろん計算はし尽くしますが、中を漂うオブジェクトが、偶然にも私が想像し得なかった神々しい幾何学模様を描き出すことがあります。その偶然と必然が交差する一点を探して、日々ミラーと遊び、ガラスを選んでいます。1994年に店を始めた時から変わらないのは、覗いた人が「おおっ」と声を上げてくれる、あの瞬間を見たいというシンプルな欲求です。そのためには、技術的な妥協はせず、緻密なデザインと遊び心の両立こそが、私の追い求め続ける万華鏡の姿です。
──これからの万華鏡シーン、そして山見さんご自身の展望についてお聞かせください。
現在は創作活動と並行して、後進の育成やワークショップの開催にも情熱を注いでいます。日本人の器用さと繊細な色彩感覚は、万華鏡制作において世界屈指の適性を持っています。実際、私の教え子たちを含め、素晴らしい感性を持った若手作家が次々と育っており、日本の万華鏡文化は今、世界からも熱い視線を浴びています。また、アメリカやヨーロッパの作家たちとの国際的な交流も、これまで以上に深めていきたいと考えています。万華鏡という文化は、言葉の壁を軽々と超え、人々の心を繋ぐユニバーサルな力を持っていますから。これからもここ東京を拠点に、世界に向けて万華鏡の無限の可能性を発信し続けていくつもりです。
GODZILLA(2021)

映像だけでなく外装にもこだわり抜く山見氏の代表作。特撮アイコンが持つ破壊の熱量を、万華鏡の静かな美しさへと昇華させた。世界が認めた独自技法が、覗き込むたびに新たな光を灯し、観る者を幻想の世界へ誘う。


WAVE(2023)


シリーズ化され、すでに複数の発展型が存在する。本体に備わった2つのホイールを回すことで、内部の映像が万華鏡特有の流転を見せ、無限の表情を映し出す。造形と映像が連動し、観るたびに新しい発見をもたらす動的な芸術作品である。
LOVE ME TENDER(2018)


2018年の世界大会で最優秀賞を獲得。エルヴィス・プレスリーへの敬意を込め、外装から内部映像に至るまで徹底したこだわりが貫かれている。代名詞であるギターやELVISの文字が、緻密なミラーシステムによって幻想的に浮かび上がる。
A SMALL TOWN ON THE RED ROCKS(2024)


アリゾナ州セドナエリアの象徴でもある赤い岩肌に抱かれた小さな街を想起させる2024年の意欲作。密集した街にはダイナーなどに加え、万華鏡工房までもが精緻に造り込まれている。細部にまで遊び心が投影された、物語性に満ちた逸品。
BREWSTER&LIGHTHOUSE(2016)


スコットランドの物理学者デヴィッド・ブリュースターが万華鏡の仕組みを発見した1816年から、ちょうど200年という記念すべき2016年に発表された本作。3つの覗き穴を備え、無限に広がる光の対称美にさらなる選択肢を持たせている。

万華鏡作家・山見浩司|1961年、東京都出身。米国のカレッジでアートを専攻し、帰国後ステンドグラス工房を経て独立。1994年に万華鏡をはじめとした輸入雑貨などを扱う店を奥様とゼロから手作りしオープン。万華鏡世界大会で通算10回の最優秀賞に輝くなど、世界的権威として知られる。精密なミラーシステムと造形美を両立させた作品は、玩具の枠を超えた現代アートとして高く評価され、後進の育成や海外でのワークショップにも注力している。
(出典/「
Photo/Kazuya Hayashi Text/Takehiro Hakusui
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